周憂「リアルな表現でも絵にやわらかさを出せるAdobe Fresco」Adobe Fresco Creative Relay 28

周憂さん メインビジュアル

アドビではいま、Twitter上でAdobe Frescoを使ったイラストを募集しています。応募はかんたん、月ごとに変わるテーマをもとに、Adobe Frescoで描いたイラストやアートにハッシュタグをつけて投稿するだけです。
7月のテーマは「レインボー(虹)」。雨上がりの空にかかる虹は、夏の風物詩とも言えるものです。広大な風景にかかる虹そのものを描くのはもちろん、「レインボー」「虹」と聞いてイメージするものを思いのままに描くのもよいでしょう。Adobe Frescoで描いた絵を、 #AdobeFresco #レインボー をつけてTwitterに投稿してみましょう。
そして、この企画に連動したAdobe Frescoクリエイターのインタビュー「Adobe Fresco Creative Relay」、第28回は見る人の心を揺り動かす情景を緻密な描写で映し出す、周憂(しゅう)さんに登場いただきました。

夕暮れの太陽を包む虹色の輪

周憂さん 作品 レインボー

「これまで空のある絵はたくさん描いてきましたが、虹の絵は描いたことがありませんでした。せっかく描くのなら、なにか変わった虹を描いてみたいと思い、資料を探すなかで見つけたのが、上空から撮られた円に見える虹でした。そこに自分のアイデンティティでもある、“赤い入道雲”を組み合わせて描いたのがこの作品です。
“虹”には、“雨上がり”というイメージもありますから、キャラクターに傘を持たせ、水滴のように色を散りばめていて、構図としては夕陽と虹→赤い入道雲→キャラクターと、“Z”を描くように視線誘導をしています。
特に力を入れたポイントは、虹の色味と赤い入道雲のマッチングと、手前から奥へと続く街の明かりや雲の描き込みによる遠近感。空も夕日のオレンジに染めるのではなく、地平線に薄く青を残すことで神秘的なアクセントを作れたんじゃないかなと思います」

周憂さん 作品

左:「大炎刻」(2022) 右:「大星刻」(2022)

アニメ背景の仕事を通して磨いた描画力と技術力

スケール感のある絵を緻密な描写で作り上げる周憂さん。リアルと空想が入り混じるその世界観と描画力はどのようにして養われていったのでしょうか。これまでの絵との関わりについて話を聞きました。

「覚えているのは幼稚園か小学生に入ったくらいのころに、先生とよくポケモンのキャラクターを描いていたことです。小学校時代はサッカーと習字を習い、基本的にはほとんど外にいるような生活でしたが、キャラクターの模写のようなことは続けていて、小学校の彫刻の授業では、当時好きだったサッカーアニメ『イナズマイレブン』のキャラクターを彫ったりしていましたね(写真)。
中学校に入ってからもサッカーは続けていたのですが、中学2年生の夏、アニメ好きの友だちから、ある作品を勧められたんです。そのときは“興味ないからいいよ”と断っていたのですが、兄がそのアニメを録画して見ていたことを知って。ちょっと見てみたら、“めちゃくちゃおもしろいぞ……!”とすっかりハマってしまったんです」

その作品とは『ソードアート・オンライン』(SAO)。ライトノベルから始まりアニメやマンガ、ゲーム等、メディアを横断して展開する人気作品です。周憂さんはこの出会いをきっかけにアニメの世界にも興味を持つようになります。

「キャラクターの模写をしたり、アニメグッズを買い集めたり……いわゆるオタクになったところで中学が終わりました(笑)。高校では部活に入りませんでしたが、サッカー自体は好きだったので、友だちと遊びでサッカーをすることもありましたね。あとはゲーム好き、アニメ好きの友だちと作品を勧めあったり……基本的に高校3年まではのほほんと過ごしていました。
絵は高校生になってからも模写してばかりでしたが、進路を考える段階になって、“これを仕事にできたら楽しそうだな”と思い立って。そのために必要なことが学べる専門学校を調べて、オープンキャンパスや説明会に足を運ぶようになりました」

周憂さん 過去作品、模写

左上:小学校時代の彫刻 右:高校時代の模写 左下:専門学校時代のパース練習

“専門学校のコミックイラスト専攻コースに入ろう”
そう決意した周憂さんでしたが、スマホで見かけたイラストに目を奪われ、その進路を大きく変更することになります。

「イラストレーターのぽちさんが描いた『廃校の街』を見たとき、“風景ってすごいな”と一気に引き込まれてしまって。“自分でもこんな風景が描いてみたい”と思ったんです。そのときはコミックイラスト専攻に行くことを決めていましたが、調べてみると同じ学校内に背景アイテムデザイン科というぴったりなコースがあったので、すぐに見学に行きました。そうしたら、パースの取りかたとか具体的な描きかたをすごくわかりやすく教えてくれて……結局、このコースに変更して入学することになりました」
[参考]ぽち「質感の描きわけが直感的にできるAdobe Fresco Adobe Fresco Creative Relay 17

周憂さん 作品

「想造-弐-」(2022)

周憂さんはなぜそこまで強烈に風景絵に惹かれたのでしょうか。そこには周憂さんの絵に対する考えかたが関係しているのかもしれません。

「振り返ってみると、模写していたときの自分は、キャラクターが好きで模写をしている以上に、描きかたを理解して、完全にコピーできたことに対して達成感を抱いていたように思うんです。それに対して、ぽちさんの風景画を見たときに感じたのは“どうしたらこんな絵が描けるんだろう”という興味や、“こんな絵を描けるようになったら、絶対に気持ちいいだろうな”という期待、高揚感でした」

こうして専門学校へと進んだ周憂さんでしたが、3年のコースを1年で辞めることになります。それはなぜだったのでしょうか。

「大手ゲーム会社でも働いている、教えかたがわかりやすい先生がいたのですが、1年教わったところで学校を辞めてしまわれて。それで自分も学校を辞めて、個人的に教えを請いに行くことにしたんです。
そこには自分以外にも絵を学ぶ人がいたのですが、そうした人たちと話すなかで、自分の絵はアニメ背景に向いているんじゃないか、こういう絵は向いていないな、ということがいろいろ見えてきたんです。
中学時代からアニメは見てきましたし、自分でもゲームイラストよりはアニメ背景のほうに興味を持っていたので、それからはアニメ制作会社向けにポートフォリオを作るようになりました」

周憂さん 作品

「昼下がりの教室」(2018)

この絵はポートフォリオに入れた作品のうちのひとつ。教室を選んだのは“アニメによく出る風景だから”。こうして使われるシーンを想像しながら面接用に作品を作りあげていった結果、見事、アニメ制作会社への就職を掴み取ることができました。ここで周憂さんの絵は飛躍的な上達を遂げることになります。

「月に50枚、100枚という単位で描かなくてはいけないので、本当にひたすら描くという日々でした。描いたら美術監督にチェックを受けて修正する、というのが基本的な流れなのですが、それとは別に月に一度、美術監督が若手を集めてイラストの説明会を開いてくれて、描きかたがわからない表現があれば、そこで聞くと教えてもらえるんです。そうした場を通して、徐々に絵に対する解像度が高まっていきました。
現場によってはそこまで親身に教えてくれないこともあるようで、自分がその会社と出会えたのは本当に運がよかったと思いますし、ありがたかったですね」

絵の描きかたそのものだけでなく、Photoshopの使いかたもまた、現場での学びが大きかったと周憂さんは話します。

「専門学校では本当に基礎の基礎しか学ぶことができませんでしたが、アニメ背景の現場ではクオリティをキープしつつ、効率よく、枚数を上げなくてはいけません。そのためにもあらゆるツールを駆使して時間を短縮して描いています。
独学でもある程度、使いかたは学べると思いますが、この現場に入らなかったら、ここまでPhotoshopの知識が増えることはありませんでした。絵を描くためのPhotoshopの機能は、ほぼすべて、ここで学んだといってもいいくらいです」

周憂さん 参考資料

周憂さんが参考にしていた資料には読み込んだ形跡が残る

描画力、そして技術力。現場を通して多くの学びを得た周憂さんの絵は、日に日に進化。入社前に描かれた『田舎の風景練習』と、その1年後に描かれた『田舎雲』を見るとその差は歴然です。2枚の絵を見比べると、空気感や陰影の描画力が格段に向上し、情景がよりリアルに描き出されていることがわかります。

「入社前、ポートフォリオ用に作った絵をあらためて見るとめちゃくちゃヘタですね(笑)。
モノを見る力もないし、ブラシやツールに対する理解度も低かったと今ならわかります。単純に描く量も少なかったですし、圧倒的に経験が足りませんでした。
いま、“背景絵、風景画が上達するにはなにをすればいいか”と聞かれたら、アニメ制作会社への就職を勧めたいくらい、自分にとっては勉強になった現場でした」

周憂さん 作品

左:「田舎の風景練習」(2018) 右:「田舎雲」(2019)

自分だけの作風を見つけ、イラストレーターとして独立

周憂さんはアニメ制作会社での学びを活かし、個人で趣味絵も描くようになり、pixivだけでなく、Twitterへの投稿もスタート。その反響は忙しい仕事の合間に絵を描くなかで、大きなモチベーションにつながったと言います。

「最初は20いいね、200いいね、くらいでもうれしかったのですが、2020年4月に『橙の情景』をアップしたとき、はじめて2000いいねがついて。めちゃくちゃうれしかったですね。このころから自分の作風を意識するようになりました」

周憂さん 作品

「橙の情景」(2020)

「そのあと少しの間、うまく描けない時期が続いたのですが、イラスト講座で描きかたを見直したり、SNSでの反応を上げるにはどうしたらいいかを調べた結果、ひとつのシリーズとしてイラストを描いてみることにしたんです。
その1枚目が『炎刻』という絵なのですが、この作品はそれまでで一番、SNSで“いいね”をもらうことができました。『炎刻』は自分でも代表作、ターニングポイントとなった作品のひとつで、それ以来、“赤い入道雲”は自分にとって、一種のアイデンティティのようになっています。
『刻』シリーズとして、『炎刻』に続いてアップした『淡刻』『悔刻』もたくさんの反応をいただき、自分のなかでもより方向性が固まっていきました」

周憂さん 作品

「炎刻」(2021)

周憂さん 作品

左:「淡刻」(2021) 右:「悔刻」(2021)

描いてはSNSにアップして反応を確かめる。そうして自分だけのスタイルを模索するなかで、周憂さんはちょっとしたしかけを施したイラストをアップします。そしてその一連の作品は、周憂さんがイラストレーターになるきっかけを生み出すことになります。

「『大海を知る』というイラストを描いているとき、なんとなく電光掲示板を描きたくなったんですね。“そこに何を表示させようか”と考えるなかで、ふと思い浮かんだのが次に描くイラストのタイトルを入れて、連作のように見せることでした。イラストも静止画ではなく、ちょっとした動きをつけて、GIFでアップしたところ、6000を超える“いいね”をいただきました。
次に描いたのが電光掲示板でタイトル予告をした『大炎刻街』です。『炎刻』で描いた赤い入道雲が生まれる街という設定で描いたこの作品には、はじめて3万を超える“いいね”がついて、Twitterのフォロワーも急速に増えていきました」

周憂さん 作品

「大海を知る」(2021)GIF版

周憂さん 作品

「大炎刻街」(2021)GIF版

周憂さんの絵が多くの人に知られるようになると、SNS経由で仕事が来るようになります。しかし、アニメ制作会社に勤めている以上、イラストレーターとして仕事を引き受けすることはできませんでした。

「『大炎刻街』がきっかけでたくさんの人に自分の絵を見ていただけるようにはなったものの、このときはまだ会社を辞めてフリーランスになろうなんて微塵も思っていませんでした。
ただそれでも、依頼をいただく機会が増えてきて、“周憂さんの絵は音楽とマッチする絵が多いですよね”という声もいただくうちに、自分の絵には思ってもいなかったような需要があるのかもしれない、イラストレーターとしてやっていけるかもしれない、と思うようになって。それからはより自分の個性を磨いたり、コンテストにも応募したり……独立のための準備を進めるようになりました」

そして、2021年9月、周憂さんはイラストレーターとして独立。いまではフリーランスのイラストレーターとして、装画、MVイラスト、配信用背景等、幅広く活躍しています。

周憂さん 装画担当作品

左:『ひまわりは恋の形』著:宇山佳佑/発行:小学館(2022)

Adobe Frescoはデフォルメにも使いやすいツール

今回、iPad+Adobe Frescoではじめてイラストを描いたという周憂さん。その印象はどのようなものだったのでしょうか。

「まず感じたのは操作画面のレイアウトがすごく見やすいということでした。今回のイラストでは使えなかったのですが、水彩、油彩のライブブラシにも驚かされました。特に水彩は描いた色がじわーっとリアルに広がっていきます。
普段描いているのがリアルテイストの絵柄なのですが、オブジェクトによってはデザインをデフォルメして絵にやわらかさを出すという描きかたをします。Adobe Frescoはこういうときに使いやすいと思いますし、今後も使ってみたいと思いました」

周憂さん Fresco作業画面

もうひとつ、周憂さんがプッシュするのが、描画の経過を収録するタイムラプス機能です。

「Adobe Frescoはタイムラプスも使いやすいですよね。
タイムラプスのデータがイラスト自体についているから、描き始めから最後まで、描き直しも含めて記録してくれますし、アプリを閉じても、タイムラプス撮影は継続される。メイキングを残したいときには便利な機能だと思います」

周憂さん 制作環境

メイン環境はWindows+ペンタブレット

アニメ背景で培った描画力、技術力を活かし、活躍のフィールドを広げていく周憂さんがこの先、目指すものは何なのでしょうか。最後に聞きました。

「MVイラストのほかに、MVそのものをご依頼いただくこともあります。いまはリリックビデオのように、GIFアニメーションにAfter Effectsで歌詞を入れているだけで、表現力も技術力も足りないものばかりですが、今後はこうした映像にも力を入れていきたいと思っています。
最近はEveさん、ヨルシカさん、ずっと真夜中でいいのに。さんのように、MVをアニメーションで作られるアーティストの方が増えていますよね。自分もいつか、そうしたひとたちのMVをフルアニメーションで作ってみたい。それがいまの目標ですね」

https://youtu.be/E6GimcGTCvk

獅子志司「半透明 / 初音ミク MV」(2021)ではイラストに加えて映像制作も担当

周憂さん アイコン画像

周憂
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