Adobe MAX 2022: コンテンツ認証イニシアチブ(CAI)がニコンとの重要なパートナーシップを発表
アドビは、オンラインコンテンツの信頼性と透明性を高め、誤報や偽情報に対抗することを目的としたコンテンツ認証イニシアチブ(Content Authenticity Initiative=CAI)の設立を、3年前のAdobe MAXで発表しました。CAIのソリューションは来歴記録機能に基づくもので、クリエイターが作品に帰属情報を添付することを可能にし、デジタルコンテンツに含まれる様々な事実や帰属といった情報の透明性を提供します。今日、私たちはカメラのイノベーションや画像生成AI(ジェネラティブAI)によって生み出されるクリエイティビティの力を目の当たりにしていますが、同時に偽情報がもたらす悪影響に直面しています。私たちは、デジタル来歴証明をコンテンツ制作のライフサイクル全体を包括する基盤レイヤーと位置づけており、この基盤が大きく前進したことをAdobe MAX 2022で紹介します。
私たちは本日、業界をリードするカメラメーカーであるニコンとのパートナーシップを発表するとともに、来歴記録機能を搭載した新型ミラーレスカメラ「ニコン Z 9」を参考展示*します。デジタル写真に撮影時点で来歴情報と信頼性を付与するこのパートナーシップは、私たちの取り組みにおける記念となる出来事です。
同時にこのパートナーシップの実現は、コンテンツ制作のライフサイクル全体を包括した信頼と帰属の確立に向けた大きな一歩であり、セキュリティ保護された撮影テクノロジーが初めてクリエイティブコミュニティに提供されることを意味します。この技術により、フォトジャーナリストをはじめとするクリエイターは、著作権情報や、時間、場所、撮影方法といった重要な情報を、改ざん不可能な形でデジタル写真に添付し、デジタル写真を著作権的に保護するとともに、含まれる情報についての透明性の向上を図ることができます。
ニコンは、高度なイノベーションによってパワフルな瞬間を捉えることを可能にし、世界中の多くのクリエイターに何十年にもわたって愛用されている代表的なグローバルブランドです。カメラに搭載されたのはコンテンツ来歴および信頼性のための標準化団体「Coalition for Content Provenance and Authenticity(C2PA)」が策定した技術標準で、これはデジタル写真をはじめとするあらゆるコンテンツの信頼性の確立に向けて大きな一歩が踏み出されたことを意味します。今回Adobe Max 2022で展示するカメラがC2PA来歴標準のすべての機能が実装された初のケースとなります。このような有力企業とのパートナーシップや、それを支える無料のCAIオープンソースツールの訴求により、フォトジャーナリスト、ニュースプラットフォーム、プロのクリエイター、一般消費者、ソーシャルメディアインフルエンサー、アーティスト、イノベーターなどからのCAIへの支持は世界的な広がりを見せています。
ニコンのカメラへの来歴記録機能の実装
このパートナーシップは、世界中の多くのフォトグラファーが撮影時に写真に来歴情報を添付し、カメラからクラウドまでを包括した、途切れることのない信頼性の連鎖を構築するというCAIの取り組みを推進するものです。これは、オンラインで広がる、盗作、誤報、偽情報といった問題に信頼性で対抗していくための重要な取り組みです。
- 多くのニコンユーザーにリーチ:革新的なテクノロジーの最先端をいくニコンは、CAIならびにC2PAに加盟した初のカメラメーカーです。同社は、C2PA規格を参照してCAIと共同で開発した来歴記録機能を搭載した「ニコンZ 9*」をAdobe MAX 2022で展示*します。機能の実装にはCAIのオープンソースツールキットが使われましたが、これは同キットを広く開発者やパートナーに提供することで多様なワークフローやツールへの組み込みの促進を図るCAIにとって意義のある成果です。ニコンは、将来製品への搭載に向けて、C2PA規格に準拠した来歴記録機能の開発を進めています。
CAIと画像生成AIテクノロジー
近年、AIを活用することで画像を作成するクリエイティブ技術として、画像生成AIは実用性を高め、クリエイターにとってもアイデア出しやバリエーション検討の方法に変革を起こしました。同時に、この技術の初期の実装の事例においてクリエイティブ面や倫理面で、さらには法律面における懸念が指摘されています。信頼されるソリューションの提供によって企業価値を築いてきたアドビは、この課題の解決に貢献します。画像生成AIの普及が今後さらに進めば、アーティストは自分の作品が人間の行為の結果であり、プログラムだけに依存したものではないことを示し、証明することが必要になってくるでしょう。それがCAIを設立した理由です。
画像生成AIの台頭により高まった業界標準の必要性
オンラインコンテンツの信頼性と透明性を高めるというコミットメントに基づき、アドビは本日、クリエイターが自分のスタイルや作品を作者自身が管理できる、新しい研究への投資、CAI標準を採用した、クリエイター本位の画像生成AI製品を開発する計画を発表しました。私たちは、CAIパートナー、信頼できるアーティスト、コミュニティの主要な活動メンバー、ソートリーダーとともに、これらの取り組みを進め、クリエイターとその作品を尊重した、責任ある画像生成AIの開発と利用における標準を定義していきます。私たちはこのコラボレーションを通じ、デジタル上でのコンテンツ認証技術を活用し、画像生成AIツールの利用に透明性を持たせることを目指します。アーティストは誰でも自分のコンテンツ、スタイル、アーティスト名から正当な利益を得られるべきだと信じ、このオプションを画像生成AI技術の核に組み込む方法をリサーチしています。
Adobe Photoshop、Verify、オープンソースツールにおけるコンテンツクレデンシャル機能のアップデート
今回のAdobe MAXでは、アドビのユーザーである多くのクリエイターにベータ版として昨年提供を開始した、コンテンツクレデンシャル機能のアップデートも発表しています。このアップデートにより、クリエイターはデジタルコンテンツの出所と帰属情報を生成・評価する新しい方法を提供します。今回提供を開始するコンテンツ認証と来歴に関する新機能は以下の通りです。
Adobe Photoshop
- Adobe Creative Cloudを契約しているすべてのユーザーが、Adobe Photoshopでコンテンツクレデンシャル機能を利用できるようになりました。Adobe Photoshopの環境設定でこの機能をオンにすれば、帰属情報と来歴情報を添付して作品を書き出せるようになります。
- Adobe Photoshopのコンテンツクレデンシャル機能がマルチユーザーおよびマルチデバイスのワークフローに対応しました。ユーザーはアカウントやチームを超えて、ワークフロー全体を包括したコンテンツクレデンシャル情報を作成できます。
- 新たにクラウドでのコンテンツクレデンシャル機能を発表しました。この環境を利用して来歴情報を公開することで、コンテンツファイルを安全に管理でき、ファイルサイズを節約することができます。クラウドへの公開により、悪意を持って、または誤って来歴情報が削除された場合でも、情報の検索と復元を通じてオーディエンスがオリジナルの情報を確認できるようになります。クリエイターが作品の来歴情報をクラウドに公開すると、作品は公開インデックスに登録され、書き換えられたとしてもその記録が残るため、作品の帰属情報の管理が強化されます。
- Adobe Photoshopの環境設定のグローバル設定が強化され、来歴情報をいつ、どのように使用するかについて、より柔軟にコントロールできるようになりました。常にオンにしておきたい場合でも、ドキュメントごとに決定したい場合でも、グローバル設定によってコンテンツクレデンシャル機能を簡単に使用できるようになります。
- より多くのAdobe Photoshopアクションがコンテンツクレデンシャル機能でサポートされ、クリエイターは通常のワークフローで頻繁に使われるスマートオブジェクトの操作なども認証情報に含められるようになりました。
- 上記以外の新機能もAdobe Photoshopに搭載されています。
Verify
- webベースの確認ツールVerifyが、クラウドに書き出された来歴情報から作品の来歴情報と帰属情報を検索・復元できるようにアップデートされました。これは、コンテンツクレデンシャル機能によってファイルに添付された来歴情報が失われても、コンテンツと永久に関連付けられるようにする画期的な機能です。
オープンソースツール
- アドビのコンテンツクレデンシャルチームは、C2PA標準を実装するためのオープンソースツールとして、アドビアプリへの組み込み以外にも3つの選択肢を提供しています。これには、webサイトやアプリで来歴情報を取得するための軽量なJavaScriptと、完全なカスタマイズを可能にするフルセットのSDKツールまで、さまざまなオプションが含まれます。
- 今年前半に提供を開始したオープンソースツールの最初のバージョンがアップデートされ、ドキュメントの更新と併せて開発者にとって役立つ、ファイル処理時間の短縮を実現しました。
- コンテンツ来歴情報の証明を新しいメディアに拡張する取り組みの一環として、特定の動画および音声フォーマットとモバイル開発のサポートを行います。
3年間の歩みと今後
CAIは設立以来、800以上の企業・団体会員を擁し、主要メディアやIT企業、非政府団体、学術機関などと協力して誤報を訂正する一方でこの技術の導入を推進しています。最近加盟した会員の中には、Wall Street Journal、AP、ロイター、AFP、BBC、El Pais、Getty Imagesなどが含まれます。
今年の夏、私たちはC2PA仕様に基づくオープンソースの開発者向けツール群の提供を開始し、より多くの開発者がweb、デスクトップ、モバイルのプロジェクトにコンテンツ来歴情報の証明を無料で統合できるようにしました。私たちは、より安全かつ透明性の高いデジタルエコシステムの構築に向けて、多くのクリエイターや開発者に必要なツールを届けると同時に、ユーザーがオンラインで見るコンテンツについてより良く知ることができる情報を提供しています。
本日の発表は、デジタルコンテンツの信頼性と透明性の向上といった、重要かつ壮大な新しいアイデアが、テクノロジー、コミュニティ、オープンソースを結集した取り組みによって実現化できることを示しました。私は、クリエイティブツール開発の現場で次々と生まれる驚くべきイノベーションと課題解決に貢献するコラボレーションの力のすばらしさにつき動かされています。ニコンが私たちと共にこの取り組みを牽引してくれることに感激しています。コンテンツ認証イニシアチブの詳細あるいはメンバー登録の申込みについては、こちら(英語)をご覧ください。
この記事は2022年10月18日(米国時間)に公開されたThe Content Authenticity Initiative announces major partnerships with Leica and Nikon at MAX 2022の抄訳です。
*本展示は開発中の機能の発表を目的としています。「ニコンZ 9」への本機能の搭載は予定しておりません。
- https://blog.adobe.com/jp/publish/2022/10/18/cc-boost-your-creative-career-with-behance
- https://blog.adobe.com/jp/publish/2022/10/18/cc-updated-creative-cloud-helps-you-create-with-precision-speed-collaborate-seamlessly
- https://blog.adobe.com/jp/publish/2022/10/18/cc-design-photoshop-releases-major-update-selections-hole-filling-adds-share-for-review-collaboration-much-more