Trend & Illustrations #14/嶽まいこが描く「The Centered Self(自分自身を中心に)」

アドビではビジュアルのニーズを様々な角度から分析を行い、そのトレンド予測をトレンドリポートとして毎年発表しています。2022年のビジュアルトレンドをテーマに、東京イラストレーターズ・ソサエティ会員のイラストレーターが描きおろした作品のコンセプトやプロセスについてインタビューする連載企画「Trend & Illustrations」。
第14回目のテーマ「The Centered Self(自分自身を中心に)」を、イラストレーションをはじめ、漫画作品も発表している嶽まいこさんが制作。作品について伺いました。

白いシャツを着ている女性 自動的に生成された説明

嶽まいこ Maiko Dake
1985年石川県生まれ。2008年金沢美術工芸大学視覚デザイン専攻卒業。リクルートのマーケティング局でアートディレクター、同社ギャラリーで企画・制作を経験。現在フリーランスのイラストレーター、漫画家として活動。“日常の中のふしぎなモノ・コト”をテーマに、個展やグループ展などでも作品を発表。

https://www.tis-home.com/dakemaiko/
http://dakemaiko.com

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自分自身の癒しを通して


2022年のビジュアルトレンド「Powerfully Playful(パワフルでプレイフル)」、「The Centered Self(自分自身を中心に)」、「Prioritize Our Planet(この地球を最優先に)」、「In the groove」の中から、「The Centered Self(自分自身を中心に)」を選んだ理由を教えてください。

自分の事として一番共感しやすく、絵にしやすいと思ったからです。以前は会社員でしたが、今はフリーランスのイラストレーターで、自宅が仕事場なので、家に長くこもって作業しがち。一人でいることは好きですが、孤独にならずに時間を過ごすのが日々の課題だったりもします。その中で自分が意識して快適に過ごそうとしているものがヒントになるだろうし、モチーフも探しやすいと思いました。コロナ禍でもあり、自分自身に目を向けるとか、自分を労わるというのを意識せざるを得なかったところがあります。

会社員の時はどういうお仕事をされていたのですか?

一般企業のマーケティング局でアートディレクターとして、社内の依頼をまとめたり外部にデザインを依頼したりしていました。チームで仕事をしていたので、ほとんどの時間を一人で仕事をすることになったのがフリーになって大きく違うところでした。昨年、東京から金沢に移住したので東京の友人に会うことも簡単ではなくなるし、すこし寂しくなるかなと思っていましたが、互いに行き来する際に声をかけあったりして、案外そこまで変わらない印象です。

制作環境としてはどうですか?

家で制作する点では東京と変わりませんが、近くに山が見えたり大きい公園があったり。のびのびできるし、自然環境が豊富なのは本当にいいですね。元々そういう場所が好きで戻りたいというのがあったので。

絵の話に戻ります。自分自身を見つめて癒す、快適にしようということで、緑が多い自然の中でゆったりと休憩する感じの絵ですね。この設定を考えられた経緯を教えていただけますか?

「The Centered Self(自分自身を中心に)」というテーマですから、自分を癒すということがすぐに伝わるのがいいだろうと考えました。私自身、自然がすごく好きなので、個人的な趣向も出したいということがあって、緑に囲まれるイメージが生まれました。森の中を歩いてるとか、花が降っているなど、全く違う構図も最初は考えたんですが、だんだんやさしい、見ていて癒されるくらいの感じがいいと思って最終形になりました。

画面いっぱいまで描こうとも考えたのですが、ストックイラストレーションということで、どういうふうに使われるのかが未定ですから、真ん中に人物を置いて、どこで切り取ってもデザインしやすいようにというのを念頭においてラフを描きながら決めていきました。


植物は実在のものをスケッチされていますか?

資料や実物を見て描いたということはありません。なんとなくこういう形の植物があるなというイメージで描いています。椰子っぽい感じの植物があるのは、陽気さみたいなものを伝えたかったんです。

周りの植物と比べると、人間が小さいので、スモールライトで小さくなったような雰囲気がちょっと感じられます。

確かにそうですね。小さいはずのものが大きかったり、その逆だったり非現実な縮尺で描くのが好きなので、植物がわっさーと生い茂っている中に人間がちょこんといると、楽しい感じが出るかなと思いました。縮尺率の違いのちょっとした違和感みたいなのを汲んでもらえるといいなと。

人物が小さいと、何か安心感がありますよね。包まれているというか。

確かに覆われていたり囲われていることで安心感で出てるかもしれないですね。

最初のラフスケッチはもっと緑色が濃く、完成した作品は色が明るく、輪郭がやわらかく曖昧になっています。

最初は白い服を着た人物を濃い緑の中に配置したのですが、そうすると人物がちょっと目立たないというか地味な印象になったので、服を赤にして目立たせ、それに合うように考えて明るい緑になっていきました。緑は癒しの象徴ですね。鳥や小さな生き物は仲間というか友だちのようなものですが、入れることで世界観が広がると思いました。裸足にしたのも、心地よさが少しでも伝わるといいなと思ったからです。

完成作品「植物にかこまれて休憩する女性」

お茶を飲んでいるというのもキーポイントですね。

はい。お茶の時間、一休みしてまったりしている時間が自分にとっても心地よい時間なので。

モチーフのこの女性はご本人ですか?

自分がモチーフではないのですが、自分の気持ちよさを投影していますから、象徴していると言えなくもない。同じように気持ちよさを感じてくれる人はいるだろうと考えました。

ストックイラストレーションということで他に何か考えられたことはありますか。

タイトルは、検索に引っかかりやすいようにいろんなキーワード入れないといけないんだろうなと思い、抽象的なイメージというより具体的なモチーフを盛り込むことを意識して「植物にかこまれて休憩する女性」にしました。 作品をアップロードする際に自動的に画像解析されてキーワードが提案されるのですが、その中には自分では思いつかなかった言葉もあり、とても助けられました。

仕事では具体的なテーマで依頼されることが多いと思いますが、その点で違うことはありますか?

特に意識はしなかったです。普段イラストレーションの仕事ではわかりやすくゴールを提示されるのですが、今回は個展の作品のような感じ。お題があってそこから深く自分で考える部分がありました。植物を描こうと決めてから自然に自分が描きたいものが出てきました。どんな人が見ても気持ちいいようにという感覚的なところだけを特化させたような気もします。

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アイディアは歩いている時に生まれる

普段の制作についてお伺いします。規則正しい生活ですか?

夜はちゃんと寝る方で、徹夜はできませんね。寝ないと仕事にならないので。午前中、10時頃から仕事を始めてキリがいいところまでやります。12時くらいまでやる時もありますし、夕方までで終わったり。夜はその時々の仕事の状況によって違います。

リフレッシュしたり、気分転換をする場合は?

近所に散歩に行ったり、お茶したり。この絵と同じく緑のあるところに行くとリフレッシュされます。

Google/2021年

インスピレーションの源、発想のきっかけにするものはありますか。

これまで描いた漫画は会社勤めしていた時の人間関係がヒントになっていたりします。今はそれがないので、自分自身のことから種を得るしかないんですが。何も思いつかないときは、散歩ばかりしてます。何か思いつくまで歩く。アイディア出るのが歩いてる時が多くて。ほんとに何も出ない時は、近所をぐるぐるぐるぐる歩き続けることもあります。イラストレーションの場合は、写真集や画集や、ネットで資料を集めながら考えます。

集英社/2019年

今のご自身の制作を形づくってきたような、好きなものはありますか?

これ、というのがなくて、逆にそれがコンプレックスであるような気もします。いつも何かしら探していて、蓄積していく感じ。オタク気質な友だちがいるのですが、彼らの好きなものへの熱量にふれるといつも羨ましくなります。ただ、あえてあげるなら古いものが好きでしょうか。昔から蚤の市を目当てに旅に出たり、ネットを眺めたりしています。そういう気質は少なからず作品に影響しているかもしれません。

いかがでしたでしょうか?使う人のことを考えた構図と優しい色合いが素敵な嶽さんの作品は「プレミアムコレクション」としてご利用いただけます。プレミアムコレクションをはじめとする写真やイラスト、ビデオ作品は、クレジットパックをご利用いただくことでお得にお求めいただけます。購入プランに関してはこちらを御確認ください。また、Adobe Stockでは皆様からの作品も受け付けております。コントリビュータープログラムの詳細はこちらを御覧ください。