InDesign+オリジナル書体で常に最高の品質と効率を目指す精興社の伝統と革新

精興社 メインビジュアル

精興社は創業から100年を超える歴史を持つ印刷会社です。
質の高い組版と印刷で定評があり、特に書籍、絵本印刷の分野では、多くの出版社から厚い信頼を寄せられています。オリジナル書体を持つ、日本でも数少ない印刷会社のひとつでもあり、細身ながらもしっかりとした存在感を備えた明朝体「精興社書体」はいまなお根強い人気を誇ります。
精興社は長い歴史のなかで、文字、組版、印刷とどう向き合ってきたのか、まずはその歴史から紐解いてみましょう。

最良の印刷品質を求めて作られた精興社書体

精興社の歴史は、1913年、創業者の白井赫太郎さんが神田区美土代町(現在の東京都千代田区内神田)に活字活版印刷を手がける「東京活版所」を設立したことから始まります。
1925年には社名を「精興社」へと改名。命名にあたっては、白井さんがかつて勤めていた「精美堂」から一字を貰い受け、「興」の字は「同」の「口」を縦画に寄せることで一画減らし、易学上、好ましい画数としました。

精興社100周年記念モニュメント

精興社創業100周年を記念して設置されたモニュメント。創業からの経過時間を表示するとともに、精興社書体のベントン用のパターン、母型、活字が飾られている

そして、1927年、さらなる印刷品質向上を目指し、独自の活字書体の制作に着手します。昭和初期、活字活版印刷を手がける会社の多くは、築地活版所や秀英舎(現在の大日本印刷)から明朝体活字を購入していましたが、「購入した活字では他社の印刷と差別化ができない」と考えたのです。
目指した文字は、築地体とも秀英体とも異なる、読みやすさと力強さを備えた細い明朝体。この書体の作り手として選ばれたのは、当時まだ20代だった種字彫刻師・君塚樹石さんでした。
若くして名人と言われていた君塚さんのもと、3年の歳月をかけて完成した精興社書体の活字でしたが、白井さんはさらにもうひとつ、印刷品質を高める工夫をしました。それが「活字の一回使用」です。
当時、使用した活字を棚に戻し、二度、三度と繰り返し使用することが一般的なことでしたが、金属活字は何千、何万と印刷をする過程で少しずつ摩耗していき、文字の太り、カケが起きることがあります。こうした文字が混じっては真に美しい印刷にはならないという想いから、活字の使用を一度に制限したのです。
当時の活字活版印刷においては型破りとも言えるほどの品質へのこだわりは、自社書体の母型があり、社内で活字の鋳造ができたからこそ、実現することができたと言えます。

その後、時代は活版印刷からオフセット印刷へ、活字から写植、DTPへと移り変わっていきます。
そうした技術の変化のなかで、精興社はどのように書体を受け継ぎ、印刷品質を守っていったのか。
ここからは、精興社 取締役 小野克之さんのお話も交えながら、紹介していきます。

精興社 小野さん

株式会社精興社 取締役 営業・生産技術担当 小野克之さん

活字・写植・DTP…InDesignへと受け継がれる文字と伝統

小野さんが精興社に入社したのは2003年のこと。担当した業務は新しいワークフローの構築でした。精興社はこの後、3年をかけてAdobe InDesignを中心としたDTPへと制作環境を移していくことになります。

「精興社の活版印刷部門は1995年にすでに整理されていたため、私が入社した2003年当時は電算写植がメインでした。電算写植でも十分仕事はできましたが、その頃から制作データを印刷だけでなく、web等いろいろなメディアに活用する“ワンソース・マルチユース”が謳われるようになったのです。
当時使用していた電算写植システムには、たとえば一部の書体しかPDFにエンベッドできず、それ以外の書体はアウトライン化され、再利用が難しいという問題がありました。また、文字に対して従量制で料金がかかるというコスト面での課題も抱えていました。
専用システムのままでは、ワンソースマルチユースへの対応、コストダウンの実現が難しかったのです」

もうひとつ、DTP化を後押しするきっかけとなったのが精興社書体のフォント化です。

「精興社書体は電算写植でも使うことができました。ただ、当時は写植機に載せるためのフォントはメーカーに制作を依頼しなければならず、コストの問題から精興社書体のかなにイワタ書体の漢字を組み合わせた、擬似的なものにすぎませんでした。
一方、精興社としては“活字時代から受け継がれてきた精興社書体を後世に残したい”という気持ちがありましたから、社内でもフォント化を進めていました。1999年にはTrueType版が完成していましたが、OpenTypeフォントが主流になってきたことを受け、Adobe-Japan1-4までは対応させてOpenTypeフォントにしようと方針を決め、2006年には漢字を含むOpenType版・精興社書体が完成しました」

精興社書体見本

OpenType版・精興社書体。文字の輪郭がシャープに出るCTP時代の印刷に合わせ、活字、写植時代から比べると縦線をわずかに太らせている(『活字の世紀 白井赫太郎と精興社の百年』田澤拓也/発行:精興社ブックサービス より)

データの二次利用、三次利用ができること、コストを抑えやすいオープンなシステムであること、精興社書体のデジタルフォントが使えること。こうした条件から導き出したひとつの答えがAdobe InDesignの導入でした。

「DTP化を検討するにあたっては当時利用可能なソフトをひと通りテストしました。
もっとも重視したのは書籍の組版機能です。精興社では当時、月におよそ75,000ページが動いていたので、その品質を担保できるものを見極める必要がありましたが、組版品質、レイアウト性能からCTP出力の正確さまで検証を重ねるなかで、現場から出てきたのが“InDesignならこれまでとかなり近い感覚で作業ができる”という声でした。
文字サイズの単位に、Q(級)とpt(ポイント)両方が使えるというのもInDesignの魅力的な点でした。当時のシステムは一方はQだけ、もう一方はptだけでしたし、お客さまによって指定がQのときもあれば、ptのときもあったからです。
素材の加工にはAdobe Photoshop、Adobe Illustratorを、最終出力にはPDFを使うこともあり、アドビ製品同士で相性がよかったというのも決め手のひとつになりました」

一般書籍だけでなく、辞書、全集、技術書、専門書等さまざまな組版を行なう精興社では、InDesignを導入した後も、その機能をさらに拡張することで仕事の効率化を図りました。

「InDesign導入直後はなかば力技の手組みで作業する部分もありましたが、“どうしたら現場の負担を減らせるのか”を検討するなかで、正規表現やスクリプトを少しずつ取り入れていきました。あわせて、スクリプト勉強会の開催、プログラマーの採用等によって、より効率的かつ正確に作業できる環境を整え、オペレーターが直面した課題と解決方法をファイリングすることで、ノウハウを蓄積・共有できるしくみを作りました」

InDesignユーザーが増えたことで、サードパーティ製のプラグインやエクステンションが増えたことも、制作の現場にとってはメリットになっていると小野さんは話します。

「漢文や古文書、化学式……本当にいろいろな組版の仕事をいただくので、常に内容にあわせた制作環境を構築できるようにしています。お客さまから“こんなのできる?”と聞かれたら、必ず断らずに一度持ち帰り、技術的な検討を行ないます。
現在、精興社の制作環境は9割以上がInDesignになりましたが、会社としてはプログラマーを採用したことは大きかったですね。InDesignだけではできない部分をプログラムで拡張し、そのノウハウがまた次の仕事につながる。InDesignとスクリプトを組み合わせることで、仕事自体を拡張することができるのです」

InDesign上の精興社書体

活字、写植と受け継がれ、現在ではパソコン上で精興社書体の利用が可能に(精興社書体は精興社で組版・印刷をするものに限って指定可能)

少部数でもプロ品質で。個人印刷にも全力で取り組む

精興社の仕事はBtoBだけではありません。個人出版、自費出版もまた精興社の強みのひとつです。
書店に並ぶ出版物とまったく同じクオリティのものを、個人が相談して作ることができます。

「個人だから、少部数だからという理由でクオリティを落とすということは一切ありません。たとえ300部でもオフセット印刷でプロと同じクオリティで作ります。
ご自身の短歌集を作る、亡くなった方の遺構を本としてまとめる、プロのライターにインタビューをしてもらって本にする……本ごとに作るものも作りかたも変わりますが、どの場合でも、中に入れる文字、写真、イラストから装丁に至るまで、ひとつひとつ相談しながら作っています。相手は本を作ったことがない人たちが多いですから、校正の入れかたもお伝えして、時代考証のために校閲を入れることもあります。
制作から印刷・製本まですべてプロクオリティでやる以上、高くなってしまうのですが、できあがりを見て喜んでいただけるのは、やはりうれしいですね」

書店で売られている本の奥付を見て、相談に来るケースもあるというエピソードは、精興社が多くの印刷会社のなかでも際立った品質で本を世に送り出していることの証左と言えるでしょう。

精興社webサイト

精興社のwebサイトにある「個人印刷」のページ https://www.seikosha-p.co.jp/

出版印刷、商業印刷から個人印刷まで。常に最高の品質を目指し、全身全霊で取り組み続ける精興社は、歴史に縛られることなく、常に伝統を更新しながら前に進み続けています。

「まもなく創業から110年を迎える歴史と伝統のなかで、守るべきものは守り、後世に伝える。新しい時代の流れのなかで取り入れるべきものは取り入れ、変えるべきものは変えていく。これが精興社の基本スタンスです。
印刷は活版からオフセットに変わり、組版は活字から写植、DTPに変わりました。技術にどのような変化が訪れても、お客さまに喜んでいただける印刷物を作る。これまでもこれからも、その想いは変わることはありません」

株式会社精興社 web |https://www.seikosha-p.co.jp/