【特別コラボ】自治体CIO補佐官 森戸氏×アドビが語るDXの勘所| 自治体DXを推進するペーパーレス・脱ハンコ
もくじ
- 自治体の変革を促進するハイブリット イベントが開催
- 「古い慣習をやめない理由」ではなく、「やめることを決める」
- デジタルドキュメントで自治体業務をどう効率化するか
- LGWAN対応のクラウドサービスで自治体のIT導入を促進
- 「オープンで安全、事前検証が可能」であれば自治体もITに意欲的
コロナ禍を機に自治体のデジタルトランスフォーメーション(DX)への期待が高まっています。ただ自治体には特有のセキュリティ/システム要件があり、抜本的なDXに取り組んでいる自治体はまだ少ないのが現実です。2022年10月20日にオンライン・オフラインのハイブリッドで開催された「自治体DXセミナー 業務効率化とセキュリティ対策の今」では、福岡県直方市 CIO補佐官の森戸裕一氏、京都電子計算 竹内有一氏、アドビ 岩松健史が自治体DXを推進・成功するためのポイントについて鼎談を行いました。
自治体の変革を促進するハイブリット イベントが開催
事業構想大学院大学が主催する自治体を対象としたセミナー「自治体DXセミナー 業務効率化とセキュリティ対策の今」が2022年10月20日に開催されました。総務省デジタル統括アドバイザーの三木浩平氏による基調講演やトークセッションなどをオンライン配信すると共に、表参道の事業構想大学院大学内にイベントスペースを設けて自治体担当者の方をお招きするハイブリッド型のイベントとなりました。
講演を行う総務省 デジタル統括アドバイザーの三木浩平氏
三木氏の講演を聴講する自治体担当者の方々
今回は講演のなかから、福岡県直方市、アドビ、京都電子計算の3者による自治体DXへの取り組み方、そして電子契約やデジタル文書活用を進めるための“勘所”に関する鼎談の模様をお届けします。
「古い慣習をやめない理由」ではなく、「やめることを決める」
最初に登壇したのは、福岡県直方市のDX推進本部でCIO補佐官を務める森戸裕一氏です。森戸氏は同市のCIO補佐官のほか、一般社団法人 日本デジタルトランスフォーメーション推進協会 代表理事を務めており、地域情報化アドバイザーとしてこれまで数十の自治体のDXを支援してきた実績があります。
森戸氏は自治体DXが進んできた背景として「コロナ禍によるネットワーク環境の整備・活用が進んだこと」を挙げつつ、「これを機に行政手続きのオンライン化について真剣に取り組んでいくべき」という見解を示します。
「少子高齢化が進むいま、都市部でも地方でも生産人口が減少していく未来は同じです。こうしたなか、高齢化した地域をどのようにサポートしていくのかを考えると、行政手続きや窓口の手続きをオンライン化・簡素化してバックエンドの業務を減らし、そのぶんを住民サポートに振り分けるという考え方が大切になってくると考えています」(森戸氏)
福岡県直方市のDX推進本部でCIO補佐官を務める森戸裕一氏
そんな行政手続きのオンライン化の鍵となるのが「脱ハンコ」と「ペーパーレス」です。
行政手続きのオンライン化については総務省からも手順書が公開されているので、そうした資料を参考にしつつ、「オンライン化が地域住民の方にもメリットになるという点をしっかり伝えていきましょう」と森戸氏は話します。
ただしオンライン化に当たっては「書面・押印の廃止」「対面規制」を避けて通ることはできません。こうした時に必ずぶつかる以下のような“壁”があります。
「『現在困っていなければ変える必要はない』『変えると逆にトラブルになる』という意見があります。しかし社会のデジタル化が進むなか、『なぜオンラインでできないのか』と考える人や『オンライン化が必須だ』と思う人も一定数以上いるのは事実です。そしてその割合はどんどん高まるでしょう。『変化してほしい』という人の目線で業務を検証し、『この業務は本当に必要か』という視点でビジネスプロセスを変える必要があります」(森戸氏)
まずは「この申請書は本当に必要か」「押印は本人確認の方法として適切なのか」などを見据えつつ、業務の棚卸しを行い、住民にとってどのようなサービスが必要なのかを見きわめること。そのうえで「残すところは残して改善を続けていくことで、より使いやすく利便性の高い自治体サービスが実現できます」と森戸氏は語ります。そして、先端的な自治体の取り組みを外部発信することで研修や見学が増えた北海道北見市の事例を紹介し、「デジタル化の取り組み自体が地域の活性化につながる例もあります」と示します。「自治体DXは、まず『何をやめるか』を決めることが非常に大切です」と強調し、講演を終えました。
出典:北見市役所の窓口サービス改善の取り組み経過について
http://www.city.kitami.lg.jp/docs/2013070500019/
デジタルドキュメントで自治体業務をどう効率化するか
続いて「デジタルドキュメント活用による自治体業務を効率化」というテーマで登壇したのは、アドビでソリューションセールススペシャリストを務める岩松健史です。
アドビはPDFの生みの親であり、PDFを活用したデジタルドキュメントソリューションを提供しています。岩松によると、そんなアドビが「自治体における紙の業務のデジタル化」に関して提案を行う際、大きく次の3つのパターンに分けられるそうです。
(1)GtoB:自治体と地場の事業者との業務契約締結のデジタル化
(2)申請手続き:住民もしくは地場企業からの申請手続きのデジタル化
(3)認可証発行:自治体が認可を行った事業者に対して発行する証跡や証明を付与したデジタル文書の実現
いずれの場合も、申請者や自治体側にしっかりした本人確認性が問われるもので、単純にWeb化しただけで解決できる業務プロセスではありません。これに対してアドビが提案しているのが、電子署名/電子契約ソリューションの「Adobe Acrobat Sign」です。
Adobe Acrobat Signによる認可・認定書類のデジタル化イメージ
Acrobat Signは民間調査会社でも「従業員1000人以上の大手企業での利用率1位」を獲得したソリューションで、実際に導入した民間企業を例にとると、「1週間〜2週間かかっていた契約業務が2日で完了」「印紙代や書面の郵送代が減少したことによるコスト削減効果」など、業務効率やコスト抑制面で大きな効果が出ています。GtoBの契約プロセスにこのAcrobat Signを組み込めば、これまでの契約業務プロセスよりも速く低コストで契約を締結できるのです。
またAcrobat SignはWebフォームの作成機能を備えており、簡単な操作で申請フォームを作成できます。フォームでは申請書の署名時に簡単な本人証明を行うほか、マイナンバーカードや免許証など本人確認書類の添付の要請や、入力メールアドレスへの本人確認などで認証を取ることができ、安心・安全な申請手続きをWeb化することができます。
最後の認可証発行に関しては、自治体側のフロントの申請システムとAcrobat Signを連携することで対応可能です。申請システムから呼び出されたAcrobat SignがLGPKI(地方公共団体における組織認証基盤)の証明書を発行し、認可証ドキュメントに付与して申請者に返すことで、認可証や処分通知に利用できます。このAcrobat Signは日本のデータセンターで運用されており、セキュリティ要件に厳しい自治体でも安心して利用できるのが特徴です。また京都電子計算が運営する自治体・学校・民間業者のDX化を支援するクラウドサービス「Cloud Park」でも提供を予定しており、「自治体の電子契約・電子署名によるペーパーレス化の課題にしっかり応えられます」と岩松は話しました。
アドビでソリューションセールススペシャリストを務める岩松健史
LGWAN対応のクラウドサービスで自治体のIT導入を促進
岩松に続いて登壇したのは、Cloud Parkを運営する京都電子計算 企画営業本部 営業部 竹内有一氏です。
Cloud Parkの特徴は、地方公共団体情報システム機構(J-LIS)が運営する総合行政ネットワーク「LGWAN」に対応し、LGWAN経由で最新のクラウドサービスを自治体が安心・安全に利用できるASPサービスであること。竹内氏によると、現在Cloud ParkではAI手書き文字認識サービスなど6サービスを提供しており、近々Acrobat Signも本格提供が開始されるそうです。これにより、αモデルの環境で業務に利用しているLGWAN端末から、Webブラウザで電子書類のやり取りや電子契約が可能になります。
LGWAN内でも利用が可能なAdobe Acrobat Sign
「DXのポイントは、アナログデータのデジタイゼーションから業務プロセスをデジタル化するデジタライゼーションへと進め、最終的に組織全体のビジネスモデルやサービスモデルをデジタル化するDXへとつなげることです。この一連の流れをLGWAN環境でスムーズに実施できるよう、Cloud Parkではサービスの拡充を進めています」(竹内氏)
たとえば契約業務における契約書の回覧や、オンライン申請に当たっては、Cloud Parkで提供されているRPAやローコード/ノーコードのサービスと組み合わせた自動化を支援するなど、「自治体の要件に応じて使いやすく、活用しやすいDXを支援します」と竹内氏は説明しました。
京都電子計算 企画営業本部 営業部 竹内有一氏
「オープンで安全、事前検証が可能」であれば自治体もITに意欲的
こうした各人の講演を受け、最後は森戸氏、竹内氏、そして岩松の3者による鼎談が行われました。
まず森戸氏からは、導入に当たっての必要期間や、予算獲得のための試用版についての質問がありました。
これに対してアドビの岩松は「Acrobat Sign単体なら早くて1週間ほどですが、紙の業務を電子化するに当たっての事務処理規定や電子化の範囲策定などが入ると、1カ月以上はかかる可能性があります。またバックエンドシステムとの連携が入った事例では、システム構築に約2カ月かかりました」と説明。導入コストや予算獲得に関しても、ライセンス制限なしのAcrobat Signのデベロッパー版の提供と開発支援を行いつつ、規模拡大の際に具体的な要件の決定やパートナーを紹介して本格導入に進む準備があることを話しました。
またCloud Parkを運営する京都電子計算の竹内氏も「Acrobat Signの利用に関してはやはり最短で1週間ほどです。また事前の試用期間を設けて本契約に至る流れになっています」と説明し、自治体のIT導入における準備や予算編成に十分に対応できることを示しました。
次にアドビの岩松から「電子証明書の認証局に関し、LGPKIや民間の認証局をどのように使い分けているのか、各自治体ではどのように考えているのか」と森戸氏に質問がありました。
これに対し森戸氏は「前提として、電子契約における電子証明書は必須」としながら、自身の見解を次のように示します。「正直にいうとそこはケースバイケースで、自治体によって考え方が異なるところだと思います。できればLGWANのなかに認証局があって、そこで完結すれば議論にならないのですが、実際にはLGWANにどのようなアプリを入れるのか慎重になっている部分もありますし、切り分けで考えているのが現状です」と回答。電子署名や認証の分野において解決すべき課題は未だある状態です。
一方竹内氏は「今後のLGWANの方向性について」という大きなテーマで森戸氏に見解を求めました。森戸氏は「LGWAN内における3層分離の考え方でいくと、ロボットチャットのようなコミュニケーション機能であればセグメントを分けずに活用できるという点でニーズは高いと思う」と話しつつ、「とはいえ、実際にLGWAN内にいろいろなアプリをどんどん入れていくことに関しては、情報システム部門が慎重になっているのではないか」という意見を示します。
そして最後に「自治体としては、内部統制も含めてセキュアな環境を作るということをしっかり社外に示し、検証過程もオープンにしていただければ、われわれも安心ですし、Cloud Parkのような取り組みは自治体の大きな希望になると思います」(森戸氏)と話し、自治体DXへの取り組みを支援する事業者に期待していることを明らかにしました。
(終)