「金融業ドキュメントDXフォーラム2022」レポート〜
なぜ金融業界でドキュメントDXが必要なのか
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もくじ
- コロナ禍で進む金融業界のデジタル化、紙業務からの脱却が鍵
- 変わる金融サービス、カスタマージャーニーへの「組み込み」が加速
- 投信業界におけるデジタル文書推進のメリットとは
- 金融業界のドキュメントDXを後押しするアドビの戦略
コロナ禍を機にさまざまな業種・業態で進んでいる業務のデジタル化。その波は金融業界にも届いていますが、きわめて厳しいコンプライアンスと安全性が求められている金融業界において、いかに安全で生産性の高い文書業務プロセスをデジタル化していくかが大きな課題となっています。こうした金融業界の流れを受け、金融機関のデジタルトランスフォーメーション(DX)の現状と文書業務プロセスの改革事例を共有するオンラインセミナー「金融業ドキュメントDXフォーラム2022〜最新動向と金融業務の効率化〜」が2022年10月25日に開催されました。その模様をレポートします。
コロナ禍で進む金融業界のデジタル化、紙業務からの脱却が鍵
コロナ禍により多くの業種・業界で普及したテレワーク。アドビが実施した「未来の働き方に関するグローバル調査」によると「オフィス勤務よりテレワークのほうが仕事がはかどるか?」という質問で調査対象となった7カ国中最下位が日本だったそうです。
フォーラム開催のオープニング挨拶を努めたアドビ デジタルメディア事業統括本部 第一営業本部 執行役員 本部長の高橋享佐はこの理由について「日本は重要でないタスクにかける時間が最も長く、それが生産性低下の一因になっています」と説明します。
「重要ではないタスク」とは主に紙文書に関わる業務です。紙文書の作成確認作業やファイル管理・検索、署名、請求書・支払管理など「日本は他国に比べて圧倒的に紙業務に関する改善要求が高い」(高橋)といいます。
翻って金融業界を見てみると、コロナ禍でデジタルサービスを利用する生活者が増え、金融分野においてもデジタルサービスの利用が大幅増加しました。こうしたなか、金融業界においても安全かつスピーディに紙文書を処理する働き方改革が急務となっています。
アドビは1993年にデジタルドキュメントのフォーマットとしてPDFを開発しました。そしてPDFのプラットフォームはPCからモバイルへ、そしてクラウドへと拡充を続け、APIを通じて各種業務システムとの連携も実現、電子署名などの機能も備えるようになりました。そんなアドビが金融業界の有識者を招き、金融業界のドキュメントDXの現状について議論を深めました。
変わる金融サービス、カスタマージャーニーへの「組み込み」が加速
フォーラムでは2本の基調講演が行われました。まず壇上に上がったのは、株式会社NTTデータ経営研究所 金融政策コンサルティングユニットに所属するエグゼクティブスペシャリストの上野博氏です。
上野氏は昨今あらゆる業界で加速するDX化について「デジタルによってビジネスプロセス全体が作り替えられ、紙業務はもちろん場所や時間などのフィジカルな制約から解放されること」と説明し、さらに「これにより金融サービスそのものが現在とはまったく違うものに進化していきます」と指摘します。
これまでバンキング分野ではテクノロジーを「利便性向上の手段」と捉え、支店がATMに、ネットバンキングやモバイルバンキングへと進化させ、自分たちのサービスを生活者に近づけてきました。そして一層生活のデジタル化が加速するなか、「バンキングは、AIによる金融アドバイや消費行動を管理する『インテリジェント化』か、生活者のカスタマージャーニーのなかに組み込まれる『組み込み型』の2つの方向に進むと考えられています」と上野氏はいいます。
現在先んじているのが組み込み型で、BaaS(Banking as a Service)とも呼ばれる新しい金融サービスが登場しています。
図1 BaaS(Banking as a Service)とは何か
これは預金口座や決済、ローンなどのBaaSを提供している銀行と、実際に生活者に商品やサービスを提供している事業者がAPIで連携し、決済のほか融資やローンまで提供してモノやサービスの購入を円滑にする仕組みのこと。一般消費者向けのBtoBtoCモデル、あるいはBtoBtoBモデルのどちらにも適用できますが、金融機関にとっては大きな課題を抱えることになります。それは「完全に事業会社の裏の仕組みとなるので、顧客と直接つながることができないこと、そして複数のBaaS事業者間で差別化がしにくいこと」(上野氏)の2点です。
こうした進化に対し、シンガポールに本拠を置くメガバンクのDBS銀行(Development Bank of Singapore)は「顧客のカスタマージャーニーに自分たちの業務を組み込んでいく」という方向を明確に打ち出し、注目されています。銀行自らが顧客支援エコシステムを構築し、そのなかで非金融サービス事業者と連携して生活者の活動データを得ていくというビジネスモデルです。
上野氏によると、こうしたエコシステム構築に乗り出している銀行は日本にもあるそうです。それが石川県の北國銀行で、漆器の一大産地である旧山中町に「山中漆器コンソーシアム」を立ち上げました。生産工程をクラウドで管理し、銀行側がユーザーの行動データを基にプロセスがスムーズになるように提案することで生産性向上と産業活性化を実現する取り組みです。
「銀行のデジタル化も、顧客接点の部分だけでなく、その裏のバックエンドの部分まで踏み込んでリアルタイムに対応していく必要があります。こうして漆器生産者だけでなく銀行側もプロセスの変革が進むことで、コンソーシアム全員の収益化が加速し、それが新たな価値創出につながります」(上野氏)
最後に上野氏は「今後もビジネス環境の変化に合わせ、新しい金融サービスの機会が訪れると思います。社会にどのような変化があるのか、何がトレンドなのか、そして消費者の意識や行動や消費活動はどのように変化するのかを捉え、そうした変化に対して金融サービスは何を提案できるかを考えながら、トライアンドエラーを繰り返して新たな金融サービスの開発を進めていくことが大切です」とアドバイスしました。
投信業界におけるデジタル文書推進のメリットとは
続く基調講演には三菱UFJ国際投信 商品ディスクロージャー部の堀口一郎氏にご登壇いただきました。
堀口氏の所属する商品ディスクロージャー部は、商品マーケティング部門内商品ラインに所属しており投信における法定開示書面や月報を作成している部門であり、年間約9300本以上の書面を作成しているそうです。
そんな堀口氏は、投信業界におけるドキュメントのデジタル化について「投信業界の移り変わり」「作成現場の現状」「印刷物のCO2排出」という3つの観点から意義を説いていきました。
まず投信業界の移り変わりについてです。投信が世間一般に広まるようになったここ4〜5年のことで、2018年にスタートした積み立てNISAをきっかけに20〜30代の若い世代の取引が半数近くとなりました。
これにより投信取引方法でインターネット取引も増加。さらに2017年以降にインターネット取引を開始した人の取引方法はスマートフォンが主体となり、デジタルサービスの利用が増えつつあるそうです。
そんな投信に必須の業務がディスクロージャー(情報開示)です。その開示ドキュメントの作成現場もコロナ禍をきっかけにデジタル化が進みました。
もともとディスクロージャーは投資家保護の観点から生まれたもので、ファンドを購入する投資家向けの「交付目論見書」と、ファンドを保有する投資家向けの「交付運用報告書」の2種類を必ず交付しなければなりません。
三菱UFJ国際投信が作成する書面は膨大なもので、現場ではその書面を毎日更新しているそうです。堀口氏は「実績値などのデータのチェックは自動化しやすいのですが、文章など文字情報の変更は基本目視で行なっており、その精度は経験が左右します」と打ち明けます。
そんな紙中心の業務フローも、現在はPDFを利用した書面作成/チェック業務に変わりました。在宅でも対応可能となり、年間24万枚のペーパーレスを実現、文書保存コストも大幅に削減できました。
図 2 法定文書作成現場の変化
ペーパーレス化により、CO2排出量削減にも貢献できました。堀口氏が印刷会社の協力の下で印刷工程におけるCO2排出量を試算したところ、ドキュメントに係る年間CO2排出量は目論見書で1185トン、運用報告書で499トンの合計約1700トンにおよぶことが判明したそうです。これだけのCO2排出権を購入するカーボン・オフセットにかかるコストや、印刷用紙や燃料費の高騰を考慮すると「交付書面のペーパーレス化は、CO2削減とコストセーブに大きく寄与すると考えています」と堀口氏は説明します。
このようにデジタルサービスの利用が増えつつある現在、開示ドキュメントのデジタル化はコスト削減と業務改善、CO2削減など多岐にわたってメリットがあります。現在、開示ドキュメントは原則紙面交付とされており、投資家本人の意思表示があればPDFなど電磁的方法による提供が可能となっています。金融審議会では原則電子交付へ向けて議論が進んでおり、電子化のさまざまなメリットを考慮して法令面での整備を進めているそうです。
そんなデジタル化される開示書面について高橋氏は「スマートフォンの小さい画面だと細かい字のPDFは見にくいので、各デバイスの画面に合わせて出力サイズや順序を可変できるレスポンシブ対応が必要です」と指摘します。なお同社では2021年8月から2本の月報についてHTML形式での提供を始めており、SNS経由での流入で閲覧数は当初の2倍に伸びたそうですが、HTMLの完全自動化が困難なこと、セキュリティ面で不安があることを挙げ、「アドビのPDFの進化に期待しています」(堀口氏)と話します。
「モバイルデバイスでのPDF閲覧を最適化するAcrobat Liquid Modeの日本語対応、そしてデジタル文書のチェックをより効率化するためAcrobat Proの機能アップなど、今後のアドビの対応を楽しみに待っています」と話し、基調講演を終えました。
金融業界のドキュメントDXを後押しするアドビの戦略
最後に登壇したのはアドビ デジタルメディア事業統括本部 ビジネスデベロップメントマネージャー岩松健史です。
岩松は銀行における顧客接点のデジタル化、デジタル経由での投資情報の収集、インターネットを経由してさまざまにやり取りされるデジタル文書の増大、オンライン商談の増加を背景に、ドキュメントDX化は進んでいることを指摘しました。この課題に対し「アドビはPDFを中心としたドキュメントソリューションで金融機関のドキュメントプロセスの自動化や安全性向上に貢献していきます」と岩松は話します。
鍵となるのはPDFのさまざまなAPIを活用すること。法定文書の作成についてPDF Services APIを使って既存ドキュメントや業務システムから必要なデータを収集して文書を自動生成できますし、業務システムと連携してPDFの電子署名機能であるAdobe Acrobat Signを追加すれば、普段の業務フローのなかで電子契約が実行できます。セミナーでは電子契約のデモや事例も紹介されました。
また三菱UFJ国際投信の堀口氏が期待を寄せるAcrobat Liquid Modeについても「日本語対応を計画中」と述べており、モバイルデバイスでのPDF体験向上に期待がかかります。
図 3 Acrobat Liquid Modeについて
そのほかWebサイトで公開中のPDFファイルの適正さや安全性を評価する「PDF Health Check」の紹介や、電子署名における最新の本人認証サービスなども紹介。セミナーの最後にはオープニングを務めた高橋が再び登場し、「歩みを止めることは後退することにほかなりません。アドビはDXを推進する企業に向けて全力でサポートします」と話し、セミナーは終了しました。
(終)
オンデマンドセミナーはこちら:
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金融業界におけるDocument Cloudの活用:
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