AIのニューウェーブがAdobe Creative Cloudに到来

「サンフランシスコ湾に浮かぶ海賊船」とタイプ入力すると、数秒後にドクロマークの帆を張ったガレオン船がゴールデンゲートブリッジの下を通過する画像が表示されます。このような技術は画像生成AI(ジェネレーティブAI)と呼ばれ、まるでユーザーの想像力がそのままコンピューターのスクリーンに映し出されたかのように機能します。

アドビは、他の多くのイノベーターと競うように画像生成AIを実験してきました。これは、アーティストにとってはブレーンストーミングや創造的な選択肢を探る方法を加速させる革新的なテクノロジーであると同時に、クリエイティビティにアクセスできる人口を数百万人単位で拡大させることにもなりました。

しかし、他の多くの新しいテクノロジーと同様に、画像生成AIについても正当な懸念点の数々が提起されています。例えば、AIモデルの学習においてクリエイターの著作物がどう扱われているのか、私たちが目にする作品を作ったのが人間かコンピューターかをどうやって判別するのかといった懸念です。

アドビは、Adobe Photoshopの発売から3Dの台頭まで、40年にわたりクリエイティブ業界の技術革新に貢献してきました。私たちは今回も、ユーザーの皆さんがこの新しい潮流をリードできるようにサポートします。決して人間の想像力や判断力に取って代わろうとしない方法で、アーティストには力を与え、これから登場する新しいタイプのクリエイターたちには彼らの創造性を解放するために、画像生成AIをツールに実装していきます。そして、画像生成AIが透明性を持って開発されるように、クリエイティブおよびテクノロジーコミュニティと協力しています。

Adobe MAXにおいて私たちは、今後登場するクリエイター中心の画像生成AIが、コンテンツ認証イニシアチブ(Content Authenticity Initiative、CAI)(リンク先は英語)を活用した開発アプローチをとることに加え、クリエイターが自分のスタイルと作品をコントロールすることをサポートするための研究に投資することを発表しました。

CAIはアドビが主導するイニシアチブで、800以上のパートナー企業・団体がオンラインコンテンツの信頼性を高めるために参加しています。CAIが提供するオープンソース技術は、クリエイターが作成したデジタルコンテンツへ帰属情報をセキュアに添付することを可能にし、クリエイターには自分の作品の帰属を証明するツールを、コンテンツを見る人にはその作品を誰がどのように作成・編集したのかということが理解できるようなサポートを提供します。

クリエイターの能力を拡大する画像生成AI

画像生成AIが登場してすぐに驚嘆すべき画像が作られるようになりましたが、その最初のモデルでは人間とのインタラクションが欠落しています。つまり、AIにプロンプト(指示文)を与えた結果としてプログラムがいくつかの画像を生成し、それが気に入らなければより希望に近いものが得られるまで手当たり次第にプロンプトを書き換え続けなければなりません。

私たちの研究開発およびプロダクトデザインチームがアドビのツールに組み込もうとしている画像生成AIのアプローチはこれと異なり、クリエイターのニーズを中心に据えたものになります。

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Adobe Photoshopに搭載を予定している画像生成AIでは、欲しいものを記述するだけで、画像に新しいオブジェクトを追加したり、既存の画像からバリエーションを作成したり、デザイン構成に新しいセクションを追加したりすることができます。

開発はまだ初期段階ですが、例えばAdobe Photoshopの中で、リッチで編集可能なPSDを生成するAIを想像してみてください。そのAIはアプローチの異なる十数種類の画像を生成し、クリエイターはその中から可能性を感じる2つか3つの結果を選んでさらに発展させることができます。さらにAdobe Photoshopの充実した通常ツールを使ってAIが生成した画像に対して操作を加え、自分のクリエイティブな意図を忠実に反映させた画像に到達することができるようになります。

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Adobe Expressに搭載される画期的なAIを使えば、「電線」や「蘭の花びら」などのヒントを指定することで、編集中の画像にマッチしたユニークなテキストエフェクトを作成することができます。

Adobe Expressに搭載を予定している画像生成AIは、経験の浅いクリエイターでも心に描いたイメージを画像として完成させるのを助けてくれるでしょう。例えば、すでに存在するテンプレートから選んでプロジェクトを始めるのではなく、テンプレート自体をプロンプトから生成し、そのシーンに画像生成AIを使ってオブジェクトを付け加えたり、プロンプトで生成したユニークなテキストエフェクトを追加したりすることができるようになります。さらに画像の編集、カラーの変更、フォントの追加などをAdobe Expressの豊富なツールを使っておこない、イメージ通りのチラシ、ポスター、SNSの投稿に仕上げることができるのです。

また、初期の画像生成AIは主に静止画像を扱っていましたが、この技術は動画、3Dデザイン、テクスチャ作成、ロゴデザインなど、あらゆるメディアで活躍するクリエイターに役立つと信じています。

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Adobe Lightroomに搭載予定の画像生成AIでは、昼間のシーンを夜に変えたり、シャドウなどのディテールを変えたり、撮影したシーンの領域外にまで写真を拡張したりすることができるようになります。

私たちは、画像生成AIを非常に優秀なクリエイティブアシスタントと捉えています。それは、新鮮なイメージの提示や代替アプローチの提案によってクリエイターの能力を何倍にも増幅してくれますが、アートを構成する最も重要な要素、つまり、人間の想像力、独自のスタイル、そして個人的なストーリーを置き換えるものではありません。クリエイティビティとは、究極的にはコミュニケーションの形態のひとつであり、私たちがアートに見出す価値とは、筆跡や色彩だけではなく、ストーリーとそのストーリーを語る人間の存在だからです。

責任あるAI

アドビは、責任あるAIの開発においてリーダーシップを発揮してきた歴史があります。私たちは数年かけて、責任あるAI開発のための基準を制定し、今年のAdobe MAXで発表したすべてのAI機能は、その基準を満たしていることを確認するための評価を受けています。2019年にはAIツールが現実を歪め、誤った情報を作り出すようなメディア操作に使われる可能性を見越して、コンテンツ認証イニシアチブ(CAI)を立ち上げました。

私たちは、クリエイティブツールにCAIの技術を搭載していくことにコミットしています。CAI規格により、クリエイターは、コンテンツの制作に画像生成AI技術が使用されたかどうか、またどのように使用されたかを開示できるようになります。画像生成AIがクリエイティブなプロセスの中でより大きな役割を担うようになれば、コンテンツを見る多くの人がその情報に極めて高い関心を持つようになると考えています。

また、クリエイターが自分のスタイルや作品をコントロールしたいと望んでいることも知っており、それをサポートするための新しい研究にも力を入れています。

アートには、クラフト、スタイル、判断力、眼力といった定義しがたい資質が常に混在しています。陶芸窯の開発、油絵具の発明、デジタル写真の登場など、芸術の歴史は技術革新の連続であり、これらはすべて工芸を加速させるものでした。技術的な制約が少なくなればなるほどクリエイターの役割、つまりビジョンやストーリー、想像力が重要視されるようになるのです。私たちは、画像生成AIでも同じことが言えると信じており、クリエイターの皆さんの個人的なビジョンの表現に役立つAIツールを開発する立場にいることを楽しみにしています。

この記事は2022年10月18日(米国時間)に公開された Bringing the next wave of Artificial Intelligence to Creative Cloud の抄訳です。