マリンメディアに特化したデジタルクリエイティブ基礎講座で発信力をつける〜北海道大学大学院水産科学院
北海道大学大学院水産科学院 では、大学院生が情報発信力をつける特別演習として、8月に4日間にわたるデジタルクリエイティブ基礎講座「マリンメディアをフル活用」を実施しました。アドビ製品の使い方と共に、水産科学関連の研究を発信するのに役立つ技術や視点を学べる非常に充実した内容で、受講者は自らの作品作りにも挑戦しました。この特別演習を企画した北海道大学大学院水産科学研究院 教授 澤辺智雄先生は、2年後に函館キャンパスに完成する図書館、博物館の複合新施設にデジタルコンテンツを展示する計画があることを受講生に紹介し、展示コンテンツを制作できるデジタルクリエイティブの力にも期待していることを伝えました。
初日はAdobe Expressでグラフィック制作
全4日の1日目は、8月8日(月)に実施。まずAdobe Expressで簡単な画像制作に挑戦するところからスタートしました。進行するのはアドビのエデュケーションエバンジェリスト井上リサと、同大水産科学院修士2年生の山野瞭太さん、修士1年生の宮崎晃伸さん。山野さんと宮崎さんもアドビツールの初心者でしたが、本講座に先立ってAdobe Expressの解説とデモンストレーションを任されました。ふたりは初めてとは思えない様子でわかりやすく操作手順を説明していきます。
使い方の解説が済んだところで早速、受講者もグラフィック制作に挑戦します。テーマは「海か自分の好きなもの」で、制作時間は30分です。皆Adobe Expressは初めてながらも、テンプレートを参考にしたり自由な発想でデザインしたりして短時間で素晴らしい作品がそろいました。
受講生たちの作品の一部。スマートフォンやPCの背景画像、SNSのプロフィール用画像などを想定
Adobe Expressで制作の感覚をつかんだところで、次回からいよいよPhotoshopとPremiere Proの講座に入ります。井上は受講者に、アドビ製品の使い方とデザインの基礎を学べる「デジタルクリエイティブ基礎講座オンライン版」を紹介。ここから複数の動画を指定して、次回の講座までに視聴しておくよう指示しました。ツールの基本的な使い方は自分で学ぶ習慣と力をつけ、実際の講座では専門家からより深い話を聞ける時間にするためです。
水中の写真をより魅力的に見せるPhotoshopでの加工術
2週間後の8月22日(月)にはPhotoshopによる画像編集、23日(火)にはPremiere Proによる動画編集の講座が実施されました。講師には、NHKの科学番組などの映像ディレクター経験が豊富な羽衣国際大学教授、北海道大学 CoSTEP客員教授 早岡英介先生を迎え、アドビ井上が進行。プロフェッショナルな制作の視点を学べる機会となりました。
Photoshopでの画像加工では、水中で撮影した写真をより魅力的に補正する方法を中心に解説。早岡先生は、実際の写真データを使いながらケーススタディ的に実演して見せていきました。対象となる生物を効率よく選択してマスクを使い、コントラストが弱く緑が強くなりがちな写真を補正していくと、みるみるうちにくっきりとして生物が際立ってきます。
Photoshopで写真の補正を実演する早岡先生(左が補正前で右が補正後)
実用的な補正手順を紹介。写真の左が補正前で右が補正後(早岡先生資料より)
実用的な手順を何通りもの例で学べた上、画像の引用など著作権に関しての解説も聞くことができました。
研究内容を伝える動画編集のポイントをPremiere Proで
続いて翌日はPremiere Proの講座です。早岡先生は限られた時間で、実用に即した機能にしぼって基本操作を概観しながら、動画編集に必要なポイントを解説していきます。特に、研究内容を知らない人にわかりやすく説明したり、見る人の心を惹き込んだりするのに重要な編集の原則は、なるほどと思うことばかり。実際の編集画面で実演を交えて行われる解説は、非常にわかりやすく説得力があります。
映像編集に重要名な視点(早岡先生資料より)
特に、文章で伝えることと映像で伝えることとの違いは、日頃文章で表現することが多い学生にとって、なかなか気づくことのできない重要な学びです。また、インタビュー動画を編集する際には、話している内容の関連シーンを撮影しておく必要があるということや、文字起こし機能で話している内容をデータ化しておくと効率よく編集できるということなど、現実的な情報も多く盛り込まれました。
実際の編集画面で音声からの文字起こしの機能を紹介
2日かけてPhotoshopとPremiere Proを学んだあとは、いよいよ最終課題です。受講者が取り組むのは、「自分の研究内容やフィールドワークで発見したことを魅力的に伝える画像、または動画を作成する」という課題。自身の研究に関する素材を使用しても、課題用の提供素材を使用しても構いません。
最終課題の作品講評会に力作が集まる
1週間後の8月29日(月)が、いよいよ最終課題の提出と講評です。1週間と限られた時間で集まった力作の数々。最終課題を提出できた受講者は、早岡先生からの講評を直接受けることができました。いくつかの作品を紹介しましょう。
ナマコの動画を作成したのは、1日目に講師役で登場した山野さん。山野さん自身はナマコと共生する細菌について研究しているそうですが、一般にもっとナマコを知ってもらうために、ナマコが成長過程で形を変えていくことを紹介する動画を作成しました。動画編集の講座で学んだ「ロング→アップ」の原則や、「場所の紹介をいれてから人や研究内容の紹介へ」という手法などを早速取り入れています。また、印象的なタイトル画像はAdobe Expressで作りました。
山野さんの動画作品より。自作の画像、自分で撮影した動画と写真、提供素材写真などを素材に編集
早岡先生は、「知らない情報がいっぱい入っていてとても楽しかったです。幼生段階でものすごく形が変わるっていうことが面白く、動画向きの素材だと思います」とコメントし、幼生の形が変わるステップにあわせて周りのデザインを変化させるなどすると、ストーリー性が出てくるのではないかとアドバイスしました。山野さんは簡単なストーリーボードを作成してから編集したそうですが、「動画編集は思ったより時間がかかりました」と明け方まで編集作業をしていたことを明かしました。
学部生として参加した3年生の大野舞子さんは、北極の氷が溶けたら生物にどのような影響を与えるのかを研究したいと考えていて、その思いをポスターに使えそうな画像にしました。大野さんは、「ホッキョクグマを切り抜くのがとても大変でした」と、Photoshopで苦戦しながらも、講座資料や動画を見直して頑張ったことを報告しました。
大野さんの作品。砂時計は気候変動のタイムリミットのイメージ
早岡先生は「黄色は警告色のようでいいですね。 “climate change”が一番伝えたいことだったら、それをもっと大きくするといいかもしれません。コンセプトがはっきりしているのでここからもっとよくしていけると思います」とコメントしました。
自身の研究を伝える動画や画像を制作した受講者もいました。早岡先生は気をつけるべきポイントとして、自分の研究は自分ではわかっているので説明を省略しがちになってしまうと指摘。一般の人にどうしたらわかりやすく伝えられるかということを工夫するようアドバイスしました。具体例として、動画で最後にコンパクトにおさらいする内容を入れたり、強調したいことをテロップで大きく出したりするというアイデアを紹介しました。伝えたい内容は同じでも、動画の構成や画像のデザインの工夫ひとつで、一般の人の興味を惹きつけられる見せ方ができることがわかります。
クリエイティブな発信力が身近なものに
4日間の講座を終えた受講生からは、「自分の頭の中で思い描いたものが形になるのは、すごくやりがいがありました。大変だけれど楽しかったです」、「動画を作るのはすごく楽しかったです。授業時間外でも講習用の動画で自分の好きなときに見られるのがよかったです」、「自分がどんどんできることが増えていくのがすごく楽しかったです。特にAdobe Expressで気軽にこんなに短時間でおしゃれな作品ができあがるのがすごく面白かったです」などの感想があがりました。クリエイティブの楽しさを実感しながら課題制作に取り組んだ様子が伝わってきます。
また、「普段の講義では学べないことが学べたので、とても有意義な時間が過ごせたと思います。授業でなかなか発表する機会がなく、自分の資料をまとめる機会がレポートくらいなので、このような内容を学部の間に学べたらいいのにと思いました」という声も。研究を発信する力をつけることの大切さを、学生の皆さんが自ら感じとる機会になったようです。
初回講座で講師をした山野さんは当初、「クリエイティブなんて自分に縁のないことかなと思っていたんですが……」と話していましたが、Adobe Expressで簡単にオリジナル作品が作れることを実感し、Premiere Proでの動画制作までできるようになりました。他の受講生の皆さんも、初心者からのスタートでそれぞれ短期間で素晴らしい作品を制作することができました。
デジタルツールを使ったクリエイティブな活動は一歩足を踏み入れれば、非常に身近なものになり自分の発信手段が格段に広がります。これからもアドビでは、多くの学生や研究者の皆さんが分かりやすく伝える発信力をつけるきっかけを届けていきたいと思います。