Trend & Illustrations #15/原口祥絵が描く「Powerfully Playful」

アドビではビジュアルのニーズを様々な角度から分析を行い、そのトレンド予測をトレンドレポートとして毎年発表しています。2022年のビジュアルトレンドをテーマに、東京イラストレーターズ・ソサエティ会員のイラストレーターが描きおろした作品のコンセプトやプロセスについてインタビューする連載企画「Trend & Illustrations」。
第15回目のテーマ「Powerfully Playful(パワフルでプレイフル)」を、ポスターや本の装画などで活躍する、素朴な世界観が人気の原口祥絵さんが制作。作品について伺いました。

原口祥絵 Sachie Haraguchi
高崎市出身。 高崎経済大学を卒業後、セツ・モードセミナーに2年間通った後、MJイラストレーションズ(9期生)入学。第10回、第11回TIS入選 、ギャラリーハウスMAYA装画コンペvol.17入選、 2018年ペーターズギャラリーコンペ峰岸達賞受賞。
https://www.tis-home.com/SACHIE-HARAGUCHI/

「静」と「動」、2つの「パワフル」

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トレンドレポートのテーマの中から、「Powerfully Playful(パワフルでプレイフル)」を選ばれた理由を教えてください。

コロナ規制が緩和され、自分自身が、コロナから解放されるような、気分が浮き立つような気持ちになりたかったので選びました。ちょっとアホになる ぐらいに明るい世の中を進んでいけたら良いなという気持ちを込めて描きました。


純粋に描きたいテーマだったんですね。

はい。気持ちを素直に出したのが、最初に描いた黄色い色面の作品です。パワフルさを全面に表現したいと思い、老若男女、動物や植物も元気な様子で、「アホになろう」というような気持ちで描きました。飛び散る噴水は躍動感、箱は閉鎖されていた日常から思いっきり飛び出そうというイメージです。真ん中の男性のTシャツはレインボーカラーではないんですが、ジェンダーレスという意味合いも込めてみました。

鳥や四葉のクローバーも平和の象徴的な感じですね。ダンスというより飛び出てきている感じ。

ダンスの画像も参考にしましたが、やはり解放、飛び出す、自由かなと。

ただ時間が経つと少し気持ちが変わり、もしかしたら自分が求められている表現ではないのかと。そこでもう1点描いてみましたが、少しパワーが減ってしまった感はあります。

1作目「解放だ~!」

「自分らしさ」を原口さんご自身ではどのように分析されているのでしょうか。

分析していませんでした。ただ、絵を描く友人たちからは私の画風の特徴で思い浮かべるのは「点々」のある風景だと。いわゆる点描ですね。それが1点目にはなかったので、入れた方が良いのではないかとアドバイスを受けたので描いたのが2点目です。2点目は悩みながら描いたところもあります。

どういう部分が悩みどころでしたか?

まとまりすぎているというか。もっとはっちゃけたかったんですが、それができなくて。構成力が足りないといえばそれまでですが。

この構図はどのようにして生まれていったんですか?

普段の制作ではPinterestなどでヒントを得ています。今回はニューヨークのセントラルパークやダンスをしている人、走っている人など、自分が描きたいイメージで検索しました。木や川は自分のテイストで描き、背景にビルを入れて都会的な雰囲気も加えたつもりです。都会がパワフルというわけではないですが、人の営みが活発な感じがするので。

主役になるような目立つ人物がいないのが原口さんの作品らしいと思いました。画面作りや構成という面で考えていることはありますか?

あまり深くは考えていないですが、1人1人に気持ちを込めて描いてます。

それぞれの人がいろんなスポーツをされている。

生活を楽しんでいるような雰囲気がでるかなと思ったので。

2作目ラフ

2作目「やっと出来るよ。」

2点目を描いて、これはうまくいったな、面白く「パワフルでプレイフル」を表現できたなと思うのはどういうところですか?

「パワフルさ」は1点目に比べて弱まった感はあります。そこで逆立ちしたり、1人1人の静かな動きが集まり、そしてそれが大きくなり「パワフル」に繋がればと願いながら描きました。

いろんな意味合いの「パワフル」がありそうですね。

ありがとうございます。木々が勢いよく成長するとか、鳥が飛んでいるということも「パワフル」につながれば良いなと願います。

この「点々」を描くのはどういう経緯で生まれてきたんですか?

元々はベタ塗りで描いていましたが、いろんな方の展示を見て影響を受けました。熊田千佳慕さんが特に衝撃を受けた人の一人です。細かい描写で昆虫や草花を表現されていて作品に深い愛を感じました。また銅版画家でTIS会員の水上多摩江さんの作品も大好きです。点描のスタイルはそこから始まったかなと思います。

ポスター : 高崎ターミナルビル/2022年

自由に描きたいものを

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テーマはどのように決めていくんですか?

テーマは決めません。自分で撮った写真を見返し、気になる景色や風景を感情にしたがって描いています。

気になった風景を日頃から写真で捉えて、それをベースにインスピレーションを膨らませて描くのですか。でも写真だと思うように撮れないこともあるのでは?

そうですね。ただ、写真で思うように撮れない時はPinterestを頼りにしています。あまり頼りすぎてもよくないですね。余談ですが、20年程前、短期間ですがカメラマンのアシスタント的な事をしていました。ただ機材が重く、指示が細かいので自分には向いてないなと思い早々に辞めました。

でも表現はしていきたい、と。

そうですね、喋るのが下手なので、今は絵で表現したいと思っています。

今はアクリルガッシュで制作されていますが、今後デジタルで描こうと思いますか?

ラフのやり直しはデジタルが早いので、覚えたいと思っています。アナログとデジタルを平行して描いていきたいですね。

イラストレーターとして仕事をするようになって、どうですか?

とても嬉しいです。しかし、デジタルに不慣れなので、ラフの段階で大きさや色を変えるとなるといちから描き直しになります。デジタルに慣れていれば仕事が早く進むと痛感しています。

先日は坂のある街のお仕事を頂きましたが、パースを追求したくて建築家の兄に助言をもらい、何とか描きあげました。デザイナーさんとのロケハンやラフのやりとりを何度もして完成した作品は感慨深かったです。客観的な意見の重要さ。自由に描くのと違い、依頼者の要望に応えなければいけないという使命感と醍醐味があり、自分の人生になくてはならないものだと思ったりしています。

ポスター : 小田急不動産/2022年

お仕事は装画が多いんですか?

最近はデパートのポスターとか不動産会社のパンフレット広告、ハンカチのデザインをやりました。

今回ストック作品として描いていただいて、どうでしたか? ストックの場合はイラストレーターに自由に描いていただけることを楽しんでもらえると嬉しいと思っています。

自由な気持ちで楽しく描くことができました。お題があって描くという普段の仕事は緊張感がありますが、ストック作品は自由なテーマで挑戦できるところがいいです。迷いながらですが、自分の表現を追求できますし、私には向いていると思います。

いかがでしたでしょうか?原口さんの優しくてほのぼのとした雰囲気の作品は「プレミアムコレクション」としてご利用いただけます。プレミアムコレクションをはじめとする写真やイラスト、ビデオ作品は、クレジットパックをご利用いただくことでお得にお求めいただけます。購入プランに関してはこちらを御確認ください。また、Adobe Stockでは皆様からの作品も受け付けております。コントリビュータープログラムの詳細はこちらを御覧ください。