現代の先住民族のストーリーを伝える人々:Tekpatl KuauhtzinとArya Amaya
クレジット:Adobe Stock / INDÍGENA
先住民族を歴史的に軽んじ、彼らに対してステレオタイプ的な見方をしてきた社会において、ビジュアルの表現は重要な意味を持ちます。写真をはじめとする視覚的なコンテンツは、先住民族の文化や暮らしに見られる微妙なニュアンスを描き出すことで、もっとありのままの姿に近い、新しいナラティブの形成を支えます。
映像作家、ストーリーテラー、写真家として活躍するナワ族のTekpatl Kuauhtzinさんは、ロサンゼルスで生まれ育ち、カリフォルニア大学ロサンゼルス校でアメリカインディアン学を専攻しました。Kuauhtzinさんにとって、ストーリー制作への情熱は内側から湧き上がってくるものだといいます。
「この世に生まれて産声を上げた瞬間から、自分はストーリーテラーだったのだと思っています」とKuauhtzinさんは言います。「僕がずっと願っているのは、森林を再生して、先住民族に土地を返すことです」
クレジット:(左) Adobe Stock / INDÍGENA、(右) Adobe Stock / INDÍGENA
ナラティブを取り戻そうと奮闘する現代の「tlacuilo」
Kuauhtzinさんは、自身のことを現代の「tlacuilo」と言い表します。「tlacuilo」とはナワトル語で、公証人や書記官、画家を意味する言葉です。
「日常の出来事から、文化的な祭式、身に着ける衣服のことまで、あらゆる物事を記録するのがtlacuiloの仕事です。現代を生きる僕は、動画と写真で、同じことをしようとしています」とKuauhtzinさんは話します。
最近、KuauhtzinさんはINDÍGENAとパートナーシップを結びました。INDÍGENAは2021年に創設されたクリエイター集団で、「結果よりもプロセスに重きを置きながら、先祖から代々受け継がれてきた知識とイノベーションを掛け合わせ、パワフルで意義のある意識的なクリエイティブ体験を生み出す」ことをミッションに掲げています。
「INDÍGENAは、植民地支配や歴史的なトラウマなど、さまざまな理由でこれまで光が当たってこなかったストーリーに目を向けます。先住民族もそうでない人も、先住民族にまつわるストーリーを語れる場として、現代の人々に開かれています」とKuauhtzinさんは語ります。
INDÍGENAの創設者であるJosué Rivasさんは、写真家として活動する一方、メキシコやオトミ族にルーツを持つ人々の権利を守る活動も行っており、Indigenous Photographの共同創設者でもあります。Adobe StockはRivasさんの力を借りて、先住民族の現代の姿を映し出すコンテンツがストック素材業界に不足している状況にどう対処すればよいか、また、より現状に即した視覚的なナラティブを促すために、先住民族のアーティストとどのように積極的に関わっていけばよいかを考えてきました。
RivasさんはAdobe Stockのインタビュー(英語)で次のように語っています。「先住民族の人々は、はるか昔から、コミュニケーションの手段として、また宇宙の中での自分たちの立ち位置を可視化する手段として、ビジュアルによるストーリーテリングを行ってきました。ですが、カメラが登場してからは、先住民族コミュニティに対するステレオタイプが悪用され、新たな固定観念を作り出して人々に植え付けるために写真が使われるようになりました。植民地時代も、先住民族の画像が独り歩きする今も、彼らのストーリーは部外者の視点で語られてきました」
Adobe Stockがこれからも先住民族のクリエイターに新たな仕事を依頼し、ストック素材を募集し続けることで、INDÍGENAなどのクリエイター集団や、KuauhtzinさんやRivasさんのようなアーティストは、先住民族の生活、しきたり、コミュニティ、歴史の多様な「今」をリアルに捉えた嘘偽りのないナラティブを創造していくことができます。
クレジット:(左) Adobe Stock / INDÍGENA、(右) Adobe Stock / INDÍGENA
若い世代の可能性を広げる
Kuauhtzinさんにとって、先住民族の人々や彼らと自身の結びつきは、インスピレーションの源です。また、自身と土地のつながり、Kuauhtzinさんが自分自身との間に持つ関係、自身と暮らしの結び付き、自分と似たコミュニティにルーツを持つ人々との関係からも、インスピレーションが湧いてくるそうです。先住民族コミュニティの姿を描き出すことは、ただ真実を記録するということではありません。未来に残る何かを保存するということでもあります。
「僕にとってこれは、未来世代に受け継ぐために、事実を記録するということと、ストーリーを残すということ、両方の意味を持つのです」とKuauhtzinさんは語ります。
一方、未来世代に残されるのは、先祖の知識と伝統だけではありません。Kuauhtzinさんのようなクリエイターは、先住民族をテーマにしたストック素材の幅を広げることで、自分の将来像を世界から探し出そうとする若者の想像力も広げているのです。
KuauhtzinさんはよくパートナーのArya Amayaさんと協力し、先住民族の文化をマクロとミクロの両面から微妙なニュアンスで伝えるストーリーの制作に取り組んでいます。
植物学者として種子の保存に取り組むかたわら、自身の一族が代々受け継いできた伝統的な薬学の担い手としての顔も持つArya Amayaさんは、こう語ります。「西洋の科学知識と先住民族の伝統的な知識体系の両方を取り入れた科学カリキュラムの開発を助けることが、私の仕事です。こうしたナラティブに先住民族を登場させれば、科学者やストーリーテラーになりたいという若者が増えるはずです」
「彼女は、植物のほんの些細な特徴に目を向けるのが好きなんです」とKuauhtzinさんは言います。「僕が見落としてしまうような、些細なことです。一緒に歩いている時、僕は気付かずにスルーするのですが、彼女が『ちょっと待って、これ、写真撮りたい』と言うんです。ナワ族には、2つのエネルギー、あるいは2つの二元性が合わさって1つのものを生み出すという思想がありますが、僕たちはまさにそうやって、一緒に美しい作品を作り上げているのです」
「私たちは本当によく一緒に仕事をします」とAmayaさん。「とても熱心で、何事もコミュニティ第一で考えて、私たちの慣習をどう取り入れるべきかを知っている人がいるというのは、とても大事なことです」
クレジット:(左) Adobe Stock / INDÍGENA、(右) Adobe Stock / INDÍGENA
私たちは単一民族社会ではない
独自の文化、言語、慣習を持つとして米国政府が認めている部族の数は574とされています。しかしその他にも、政府が認識していない先住民族コミュニティは数多く存在します。2020年の米国勢調査では、970万人が自分はネイティブアメリカンまたはアラスカ先住民族であると答え、過去数年で85%増加しています。ところが、インターネットで「ネイティブアメリカン」と検索して出てくる画像の95%は、現代の姿を映したものではなく、(歴史的偏見に満ちた)古めかしいものです。自分たちの主権を守るため、先住民族の人々はいくつもの闘いを重ねてきました。それでも彼らの文化は、栄え進化し続ける文化ではなく、「消滅した」ものとして扱われる傾向が今もまだ根強いのです。
「特にストック写真のサイトでは、『ネイティブアメリカン』や『先住民族』と検索すると、大抵は誤った結果ばかり出てきます。ネイティブアメリカンも科学と無縁ではないということ、ハイキングだってするのだということを伝えたいです」とKuauhtzinさんは話します。
Amayaさんも、こう語ります。「星のことだったり、土地や水のことだったり、生徒たちが持つ伝統的な知識体系が失われないように、代々語り継がれてきたストーリーが誰にも奪われないように、意識しています」
KuauhtzinさんやAmayaさんのようなアーティストたちは、個人としても、また同志とともにあっても、自分たちの伝統に対する愛と、その伝統を脚色なく、誰かに勇気を与えるような形で未来に受け継いでいきたいという願いを持ち、それに突き動かされています。
Kuauhtzinさんはこう語ります。「安全、感謝、先住民のストーリーの記録という同じ願いを持つ仲間と一緒に仕事をするときに感じる幸福感が好きです。Adobe Stockは、このようなコンテンツを制作し、それを世界に発信するための場を提供してくれます」
Adobe StockでTekpatlさんとINDÍGENAの作品を是非ご覧ください。インスピレーションが湧いてきたなら、画像やビデオ素材、イラストなど、ご自身の作品をAdobe Stockに是非投稿してください。 Adobe Stockをまだご利用でない方は、初月10点無料でお試しいただけます。日々のクリエイティブ制作にご活用ください。
この記事は2022年11月2日(米国時間)に公開されたKeepers of the story: Modern indigeneity with Tekpatl Kuauhtzin and Arya Amayaの抄訳です。