日本一詳しい Substance 3D の最新情報が入手できる Substance 3D MEETUP vol.1 レポート

目次

  • Adobe Substance 3D 最新アップデート情報
  • Adobe MAX 2022 現地からの報告
  • Adobe Creative Cloud のアップデート概要

年の瀬に入った 12 月 8 日、アドビのオフィスにて Substance 3D MEETUP が初開催されました。これは、3D が新しい分野であるにも関わらず情報交換の機会が少ないという声に応えるために設定された、Adobe Substance 3D Collection の企業ユーザー同士が交流できる場です。

米国ではロサンゼルスの会場で Adobe MAX 2022 が開催されていますが、日本では本当に久しぶりのリアルイベントとなりました。もちろん社会状況を鑑みて、人数を制限し、入館時には体温検査、会場入り口にはアルコール消毒、講師席の前にはアクリル板と、新型コロナウイルス感染拡大防止に向けた対策を徹底しての開催です。

受付のデスクの上にはアルコール消毒

当日は、まず Adobe MAX 2022 で発表された Adobe Creative Cloud 新機能の簡単な復習セッションから始まり、続けて実際にロサンゼルスを訪れ Adobe MAX 2022 に参加したミズノ株式会社 中村 敬氏からの、現地で体験した出来事の報告がありました。世界中から集まったクリエイターや様々な情報に直接触れて、モチベーションやインスピレーションを得てきたであろうことがストレートに伝わる中村氏のお話に、リアルイベントに参加することの意義を改めて感じた人も多かったことと思います。

最後のセッションは、アドビの Technical Artist / Evangelist 福井 直人氏からの Substance 3D 最新情報でした。福井氏の「すごく楽しいアップデートが満載だったため、イベント前日まで何を伝えようか悩んでいた」という言葉の通り、他では聞くことのない、Substance 3D ユーザーには耳寄りな情報が多数ありましたので、まずはこのパートについてのまとめからお伝えします。

Substance 3D Modler のデモをするアドビ福井氏

Adobe Substance 3D 最新アップデート情報

この日福井氏が紹介してくれたのは、バージョン 1 が公開されたばかりの期待の新製品 Substance 3D Modeler の基本機能と使い方、そして Substance 3D Sampler と Substance 3D Designer の新機能です。

新製品 Substance 3D Modeler

既報の通り Substance 3D Collection に 3D モデリングツール Substance 3D Modeler が正式に追加されました。一目で気づく Modeler の大きな特徴は、その本当にミニマルな UI です。「ZBrush などと比べ機能は限定されていますが、シンプルであるが故に、初めての人も短時間で慣れることができるのでは」と福井氏は期待しています。より手軽に 3D モデリングに取り組みたいと考えているクリエイターには嬉しいツールになりそうです。

もう一つの大きな特徴は、デスクトップと VR の両方の環境で 3D モデルを作成できるという点です。特に VR モードでは、ゴーグルを掛けることにより没入感が生まれ、本当に目の前にモデルがあるかのように感じながら、粘土をこねる感覚でモデルを仕上げていくことができます。UI のシンプルさと相まって、文字通りモデリングの世界に没入することができそうです。

福井氏は、ドラゴンのモデル制作の動画を再生しながら簡単な製品の使い方を紹介し、続けて、自ら 3D モデルの作成を実演しました。題材に選んだのは、福井氏が自宅で愛用しているというディフューザーです。ディフューザーを構成するパーツは、大きく瓶と枝の 2 種類に分けられますが、フォルムが比較的単純な瓶はデスクトップモードでキーボードとマウスを使って、細かな凹凸のある枝は VR モードで Meta Quest 2 を使って、それぞれ作成が行われました。

Modeler を使って作成されたディフューザー

Modeler の基本的な使い方は、用意されているプリミティブな形状(例:シリンダー)からイメージに近いものを選び、スペースキーを押してそれをシーン内に配置し、パラメータを調節したり、ツールを使用して変形や重ね書きしたり、カラーパレットで色を変更したりして目的の外観に近づけるというものです。作業時の解像度がデフォルトでは低めになっていますが、これはボクセルを描画する負荷に直接かかわる設定であるため、作業環境と作成するモデルの複雑さに応じて最適値を判断することになりそうです。

ここからは写真で、福井氏が瓶を作成する様子をご覧いただきます。

瓶の上部のパーツになるシリンダーをシーンに配置

中央に穴をあけて、大きさを調節

瓶の首の細い部分を追加

瓶の本体のパーツを作成

パーツ同士の大きさを揃える

この後、スムージングを掛けてエッジに柔らかさを追加するなどの仕上げをして瓶は完成です。

枝の作成は最初から VR モードでした。VR デバイスを装着すると自動的に VR モードに切り替わります。

VR モードで枝を削っているところ

スムージングをかけて枝にディテールを持たせる

重ね描き効果ツール等も使用して完成した枝のモデルを瓶に刺したところ

この日のデモで制作した枝のように、有機的なものをモデリングするとき、Modeler の VR モードが特に生きてくるのではないかと福井氏はコメントしていました。

Modeler で作成したモデルは、Substance 3D Painter で質感を調整してから、Substance 3D Stager でレンダリングすることでより本物らしい見た目にできます。枝や小石などのオブジェクトを Aero に取り込んで表示したものが下の画像です。写真では判別しにくかもしれませんが、AR 環境でも十分に質感が感じられる出来栄えです。

Substance 3D で作成した 3D オブジェクトを AR 環境に表示

Substance 3D Sampler の新機能  ① 3D キャプチャ

Substance 3D Sampler は、写真素材からマテリアルを生成できる AI を持つツールです。そこに、2023 年 1 月のアップデートで、「3D キャプチャ」と呼ばれるフォトグラメトリ機能が追加される予定です。いろいろな角度から被写体を撮影して Sampler に渡すと、AI が写真から得たデータを合成し、3DCG を作成してくれるというなかなか便利そうな機能です。これを使えば、高価な 3D スキャナを持っていなくても、EC サイトで 360 度回転できる 3D オブジェクトを生成できます。

下の 3 枚の画像は 3D キャプチャの使用イメージです。

様々な角度から撮影された靴の画像を読み込む

写真の撮影位置を AI が算出

合成された 3D オブジェクト

福井氏は、前日に撮影したという 79 枚の自分の帽子の写真を使い、その場で 3D キャプチャの詳細な使い方を解説しました。ちなみに、合成に使う写真を撮る際は、はっきりと色の違う背景の上に被写体を置くことが重要なのだそうです。

撮影した写真を Sampler に読み込んだ

すると自動的にオブジェクトと背景を区別するマスクが作成される

ディテールを保ったテクスチャ付きの 3D オブジェクトが生成された

この機能が公開される来年 1 月の時点では、Sampler からの出力が USD フォーマットだけになるようですが、今後 OBJ にも対応はするのではないかと福井氏は話していました。もしそうなれば、カメラで撮影した商品を After Effects に 3D オブジェクトとして取り込んでビデオ編集というワークフローが実現するかもしれません。いろいろと今後が楽しみな機能です。

Substance 3D Sampler の新機能  ② パラメータの外部化

Substance 3D Sampler に関しては、もう一つ地味なアップデートが紹介されました。Sampler から出力される SBSAR ファイルに、パラメータを含められるというものです。これにより、Unity のような SBSAR ファイル読み込めるツールから、公開されたパラメータを通したシーンの微調整が可能になります。シーンの作成時ではなく、シーンの使用時まで最終決定を延ばせるのは、演出担当者にとっては嬉しいことでしょう。

下の画像では右側のパネル中段に公開されたパラメータが並んでいます。水位を変えて岩の露出量を調整するパラメータ、敷き詰める小石の量を調整するパラメータ等が公開されています。もちろん、Painter 内でも、これらのパラメータは利用できます。

様々なパラメータが外部公開されている

After Effects 3D モデルの読み込み

次のバージョンの After Effects では 3D モデルを読み込めるという情報も紹介されました。具体的には、Painter から書き出したオブジェクトを Stager でレンダリングして、それを OBJ ファイルとして AE にインポートすることができます。また、Painter から直接 AE にインポートして、アニメーションをつくるといった使い方も可能になります。「ディテールのあるオブジェクトを使えれば、クライアントとクリエイターのイメージ共有が簡単になって、ブラッシュアップに時間をかけられます。これはワークフローを変える機能になるんじゃないかなと個人的に思っています」と福井氏は述べました。

AE に Painter から 3D オブジェクトを読み込める

Substance 3D Designer の新しいノード

Designer に関しては、いくつかの新しいノードの追加が紹介されました。不規則グリッドを素早く作成するのに便利な Tile Random 2、三角形でできたグリッドを生成する Triangle Gird、15 種類の新しいグランジマップ、そしてボロノイフラクタルを含む新しい 2D ノイズ 3D ノイズが利用可能になっています。

Tile Random 2 は角丸や面取りなどが不規則なタイルを生成できる

福井氏は、実際のデザインデータとして、ボロノイフラクタルを使用して作成された暖かそうなボア生地と、Triangle Gird でシボを表現した皮革の例を紹介しました。シンプルな構造でもそれなりのものを作成できることがポイントのようです。

3 つのノードでボアの基本表現ができている

Triangle Gird のアウトプットを Distance to Edge に変更してレザーの質感を表現

Adobe MAX 2022 現地からの報告

さて、2 つ目のセッションです。ミズノ株式会社の中村 敬氏は、昨年 MAX のセッション講師を務めたことが縁となり、今年は同僚の津野田 あゆり氏と共に、ロサンゼルスで開催された Adobe MAX 2022 に参加することになったそうです。この日はわざわざアドビオフィスの会場まで足を運び、現地での貴重な、そして楽しい体験を参加者に紹介してくれました。

ミズノ株式会社の中村氏(左)と津野田氏(右)

中村氏は、自身がどのように Substance 3D を使用しているかというお話からセッションを始めました。シューズデザイナーとして中村氏が欠かせないツールとして挙げたのが Painter です。シューズのバーチャルサンプルはかっちり作りすぎると CG 感が出て嘘っぽくなってしまうため、アナログ感が大事であるというのが中村氏の考えで、例えばミッドソールのシワのようなアナログなディテールを Painter を使って書き込む事で、簡単によりリアルなバーチャルサンプルを生み出せるとのことです。

また、中村氏はシューズのデザインにも Painter を使用しています。シューズの基本の形の上に物を重ねていく作業において、Painter は手軽にレイヤーを積み重ねられるため、多くのアイデアを素早く展開できる点が非常に便利だといいます。

Painter はシューズデザインに重宝するツールと語る中村氏

Painter のアナログ感とは反対に、アルゴリズムを組んで意匠を設計できる Designer のプロシージャルなアプローチもシューズデザインに活用されています。

例えば、シューズのソールには、多くの線が複雑に引かれているのが一般的です。ちょっとした修正でも全部の線を描き直さなければならないため、「いろんなプロダクト見回してもシューズのソールが一番線引き量が多い」と中村氏は感じている程です。ところが Designer を使い、アルゴリズムを組んでソールの凹凸をつくっておくと、後からパラメータを調節するだけで、線を太くしたり細くしたり、あるいは傾斜を大きくすることもできます。線を一つひとつ描き直す必要がないわけですから、圧倒的に効率的です。

その他、シューズのアッパーのメッシュ形状をシミュレーションする目的に Designer が使用されている例も紹介されました。

Designer はプロシージャルな意匠の設計に使われている

そして中村氏は写真を交えながら、Adobe MAX 2022 の体験について話を始めました。「イベントとして本当に楽しい」というのが一番の感想とのことで、単純に面白おかしいだけではなく、ツールを使う楽しさとかクリエイティブなことの楽しさが強く前面に出されているイベントであることを強く感じたそうです。

中村氏の大好きなゲーム Bloodborne にある「つまらないものはそれだけで良い武器ではあり得ない」という武器の説明文は、自身のデザイン対象であるシューズ、そしてデザインに使うデザインツールに関しても真理ではないかと思っているとのことで、「つまらないものはどんなに機能がいいって言われても、やっぱりいいものではあり得ない。クリエイターが使ってて楽しいツールはみんな使うようになるし、それ故にそのツール特有の表現方法が市場に多く登場し、デザイン的なトレンドが生まれるもの」と指摘しました。

従って「ツールを使うこと自体の楽しさや、ツールを使うクリエイティブなスタイルの楽しさを、ツールを生み出す企業が伝えることは非常に重要で、Adobe MAX はそれを示してくれた。これは Youtube とかで動画を見てても伝わらない部分だと思うんですね。本当に皆さんも機会があれば、ぜひ参加してみられてはと思います」という言葉で Adobe MAX の報告は締めくくられました。

NIKE、バーバリーなど同業のセッションに参加

2 日目のキーノートはクリエイティブかつ面白い話がたくさん聞けて、本当にクリエイティブの祭典だと感じられたとのこと

アドビのブースでは Painter を使ってプロジェクションマッピングされている銅像に絵を描くというインスタレーションを体験

開発中の新機能のプレゼンテーションを楽しんだ Sneaks

2 日目夜の MAX BASH では DJ のスティーヴ・アオキによる路上ライブイベントで盛り上がった

中村氏による Adobe MAX 2022 感想のまとめ

Adobe Creative Cloud のアップデート概要

ミートアップの最初に紹介された Adobe Creative Cloud のアップデート情報については、11 月末に配信されたエンタープライズセッションのレポート記事に詳しく書かれていますので、そちらをぜひご覧ください。

エンタープライズセッションで紹介されなかった情報としては、Adobe Creative Cloud Web がありました。Photoshop などのデザインツールの基本機能をブラウザ内で利用できるようにするべく開発が進められており、プロジェクト関係者へのデザインの共有、レビュー、そして簡単な編集がブラウザだけで可能になります。現在は、Adobe Photoshop Web 版のベータが公開されています。Adobe Illustrator Web 版はプライベートベータとなっており、将来的にベータ版が公開される予定です。

共有、レビュー、そして簡単な編集がブラウザだけで可能になる Creative Cloud Web

3D & AR はアドビが特に注力している分野の一つであり、関連する製品の更新が頻繁に行われています。そこに、最新情報をキャッチアップしたり、他のユーザーの話を聞く機会ができたことは、Substance 3D を使うすべてのユーザーにとってとても意味のあることでしょう。アドビとしては開催を継続する考えとのことなので、次回の Substance 3D MEETUP が今から楽しみです。

Substance/Substance Meetup情報等ご希望のかたは、お気軽にご相談ください。
詳細は以下よりご確認いただき、ご希望あれば登録をお願いします。

https://www.adobe.com/jp/products/substance/meetup-contact.html

会場に飾られていたクッション