【特別コラボ】元豊島区CISO高橋氏|申請手続きの100%電子化・安全に文書管理のデジタル化を実現するポイントとは?

もくじ

  • 自治体DXの鍵を握る文書管理業務、成功のポイントとは?
  • 文書デジタル化で1.2億円超のコスト削減とオンライン申請を可能に
  • デジタル文書を安全かつ視認性高く外部公開するテクノロジー
  • 行政手続きがMicrosoft Teamsで対話しながら、押印まで完結
  • 申請手続きの100%電子化は可能、今後の運用ルールの進化に期待

事業構想大学院大学とアドビが共同で展開している自治体DXをテーマにしたセミナー。今回は「デジタルでもセキュアで優しい住民コミュニケーションと公開ドキュメントのツボ」というテーマで、元豊島区CISOで現在はコンサルタントとして数々の自治体DX化を支援している合同会社KUコンサルティング 代表社員の髙橋邦夫氏とアドビの岩松健史が講演を行いました。

自治体DXの鍵を握る文書管理業務、成功のポイントとは?

国が主導して自治体のDX化が進められていますが、その取り組み方は各自治体によって温度差があります。「現在のやり方で業務が回っているので、わざわざコスト・工数をかけて変える必要はない」「セキュリティが不安」という意見や、「住民とのコミュニケーションが希薄にならないか」という懸念の声があり、進め方が難しいのは事実です。

この点について、かつて豊島区役所のCISOとして決裁業務を100%電子化した実績を持つ合同会社KUコンサルティング 代表社員の髙橋邦夫氏は自治体DXの必要性について次の2点を挙げています。

そもそも各市町村がなぜDXに取り組む必要があるのでしょうか。その理由として髙橋氏は次の2点を挙げます。1つは総務省が3年前に発表した自治体DX推進計画の達成に向け、各自治体の協力が不可欠であるということ。もう1つは、急激な少子高齢化により働き手の減少が叫ばれるなか「有事の際に人力に頼る」というこれまでのやり方が通用しなくなるからです。

スーツを着て座っている男性 自動的に生成された説明

元豊島区 CISO合同会社KUコンサルティング 代表社員 髙橋邦夫氏

文書デジタル化で1.2億円超のコスト削減とオンライン申請を可能に

自治体DX化の重要ポイントとして髙橋氏が挙げるのが行政手続きのオンライン化です。

「そのためにまず必要なのが、自治体業務の要である文書管理業務の見直しです。ここがデジタル化できると、ロボットやAIを併用して申請受付や審査業務をスピードアップできますし、職員は本来業務に注力できるようになります。実際豊中市では、2000以上ある手続きをすべてオンライン化する方向性を出して、現在実現に向けて取り組んでいます」(髙橋氏)

受付用の窓口業務をデジタルに移行すれば、住民は申請や申込のために窓口に行く必要はなくなります。職員も「来訪者を待つ」という業務がなくなり、自分の好きなタイミングで審査やチェックができるので、時間を有効活用できます。「年に数人しか来ない業務をデジタル化する必要はない』という意見がありますが、窓口受付をデジタルに移行したところ、利用者が増えたという実例もあります。こうした取り組みが後々新しい働き方につながっていくことを確信しています」と髙橋氏は話します。

豊中市サイト「行政手続きを100%オンライン化」
https://www.city.toyonaka.osaka.jp/kurashi/denshi/denshi_jichitai/denshi_topics/tetsuduki_online.html

髙橋氏もかつて豊島区役所勤務時代、統合文書管理システムを投入して決裁業務を電子化しました。そのきっかけはアスベスト問題だったそうです。文書管理がしっかりしていた自治体では設計図書を見直すだけで済んだのですが、豊島区では文書を有効活用できず、コストをかけて現場調査を行いました。

これをきっかけに決裁電子化を進めた髙橋氏ですが、ポイントは「運用ルールを変更したこと」でした。シングルサインオンにより文書管理と財務会計を連携し、電子上で「決裁箱」を配置して未承認文書を格納する仕組みを整え、電子起案を原則としました。また、髙橋氏がコンサルティングに当たっている結城市では文書管理規定を見直し、文書事務は文書管理システムで行うことを前提に文言の変更や規定を変えていったそうです。

これにより文書の検索性が上がり、探し物にかける時間が大幅に削減されたほか、紙の削減によりオフィスのレイアウトや働き方に柔軟性が生まれました。また紙の紛失・流出による情報漏えいのリスクも大幅に軽減されたそうです。「デジタルの活用により、これまでと違う働き方を実現して悩みを解決できるという視点で、全員で自治体のデジタル化に取り組むことが大切だと思っています」と髙橋氏は述べています。

デジタル文書を安全かつ視認性高く外部公開するテクノロジー

続いてアドビの岩松が「ドキュメントを外部に公開する際の最新テクノロジー」について説明を行いました。

スーツを着た男性 自動的に生成された説明

アドビ デジタルメディア事業統括本部 営業戦略部 ビジネスデベロップメントマネージャー 岩松健史氏

自治体を始め、ビジネスや教育の現場で標準デジタルドキュメントフォーマットとして利用されているのがPDFです。そんなPDFについてどう思っているのかアドビがアンケート調査したところ、「レイアウトが崩れない」「編集できない」「ファイル容量が軽くなる」「長期保存ができる」という声が聞かれました。

こうした意見のなかで、特に岩松が指摘したのが次の点です。

「PDFは編集できる文書というのが前提となっています。編集できないと思い込んでそのままPDFを外部公開すると、ローカルにダウンロードされていろいろなところに複製が出回ってしまいますし、日付や金額、担当者や住所を改ざんされてしまうリスクがあります。そうした危険をはらんでいることをくれぐれも忘れないようにしてください」

では外部公開用のPDFを守るにはどうすれば良いのでしょうか。

アドビでは以前米国で大手銀行を対象にPDFドキュメントの運用実態調査・コンサルティングを行いました。具体的には「セキュリティ保護されているPDFが公開されているのか」「ドキュメントのプロパティに作成者などのID情報が入っていないか」「Web公開に当たりドキュメントサイズや参照性は適切なものになっているのか」「ISO規格に準拠したPDFになっているか」などの視点で、適切なセキュリティ対策を行ったPDFがリスクなく長期保存できる形で公開されているのか確認したのですが、対応不備なドキュメントも散見されたそうです。

ISO規格に準拠したPDFを作成し、パスワードなどのセキュリティ保護をかけるにはAdobe Acrobat Standard/Proが必要です。公開用PDFをそのままWebにアップロードするのではなく、ドキュメントのプロパティやパスワード保護などの対策を行ってから公開するようにプロセスを見直すことが大切です。

行政手続きがMicrosoft Teamsで対話しながら、押印まで完結

続いて岩松はPDFの3つの最新機能を紹介しました。

1つは「Liquid Mode」と呼ばれる機能で、現在モバイル用のAcrobat Reader(英語版のみ)で実装されています。Liquid Modeはドキュメントを閲覧しているデバイスに合わせて表示を最適化する機能で、スマートフォンの小さな画面でも表や小さい文字を見やすくします。これにより、自治体の公開情報に必要な閲覧性がより向上できます。日本語版では未対応なので、早急な実装が待たれます。

もう1つが電子サインを使った申請や手続きに関する業務フローの改善です。アドビでは電子サインソリューション「Acrobat Sign」とAcrobat Proに付属の電子サイン機能により、本人の証明性を行うと共に非改ざん証明を行ったPDFを出力できます。特に2022年8月からはAcrobat ProでWebフォームを通じて電子サインを使った申請が行えるようになり、利便性が上がりました。「自治体の方にはぜひご活用いただきたいです」と岩松は話します。

最後に紹介したのがMicrosoft TeamsとAcrobat Signの連携です。「アドビはマイクロソフト社と開発レベルで提携をおこなっており、現在Teams上でオンライン会談中にAcrobat Signを使って電子署名申請したり、押印したりする機能を提供していく予定です。日本語対応は2023年春を予定しており、申請業務や窓口業務のデジタル化を促進します」と岩松は語り、「検討中に疑問等があればぜひご相談ください」として講演を終えました。

申請手続きの100%電子化は可能、今後の運用ルールの進化に期待

最後に、髙橋氏と岩松によるトークセッションがありました。

まず岩松から髙橋氏に「自治体デジタル化は自治体だけで推進するケースと、外部要員を入れて進めるケースとどちらのほうがスムーズに行くのか」「公開ドキュメントのセキュリティについて自治体はどのように考えているのか」「申請手続きをすべてデジタル化することは可能か」という3つの質問を投げかけました。

これに対し髙橋氏は「私個人の意見も含まれますが」と前置きしたうえで、次のような見解を示しました。

「まずデジタル化に関しては、最終判断を行うのは自治体職員でなければなりません。ただ内部だけでは推進力が不足しがちで、意識改革も進まないので外部要員の力が必要になりますし、総務省も外部人材の活用を呼びかけています。そして私自身、かつての経験や外部要員として自治体を支援している視点でいえば、公開文書からの情報漏えいに関してはどの自治体も非常に危惧しています。特にデジタルドキュメントになると、見た目に墨消しがあっても解除されてしまう可能性もあるので、セキュリティを担保できるドキュメントツールを切望している状態です。以上を踏まえ、申請手続きのオンライン化を進める立場からすると、適切なドキュメントツールを活用して事務手続きをデジタル化すれば、AIやRPAの活用でデジタル業務を軽減させることができますし、そういう方向に進まないといけないと考えています」(髙橋氏)

続いて髙橋氏からアドビに対し「申請手続きをデジタル化しても、それに対して自治体が発行する許可証のようなものについては、確実に本物であるという証明が必要になると思うが、これを解決する良いアイディアを教えてほしい」という質問がありました。

岩松は「今後は文書の非改ざんを証明する『eシール』を実運用していくことで承認・許可証発行業務のデジタル化につながっていくと思います」と答え、今後の文書正当性保証について意見を交わし、セッションが終了しました。