効率的な建築ビジュアライゼーションを実現! Autodesk Maya、Adobe Substance 3D Painter、NVIDIA Omniverse が連携するワークフロー

建築・土木・都市開発分野での 3DCG の活用方法を探る CGWORLD 主催の『3D Visualizer Forum for City & Buildings』が、2022 年 12 月 9 日にオンライン配信されました。この記事では、その中から、Autodesk Maya、Adobe Substance 3D Painter、NVIDIA Omniverse の連携による建築ビジュアライゼーションワークフローがいかに効率的であるかを紹介した、株式会社コロッサス 澤田 友明氏による講演の概要をご紹介します。

目次

  • USD をベースに 3D デザインワークフローを統合する NVIDIA Omniverse
  • リアルなテクスチャを手軽に 3D ペイントできる Substance 3D Painter
  • Substance 3D Painter と Omniverse Create の連携のデモ
  • 3D デザインワークフローの新時代

建築ビジュアライゼーションは、建築や都市開発プロジェクトのプレゼンテーションや販売の現場に必要とされる作業です。その目的を考えれば、最終的なビジュアルの品質が優先されるべきであるのは当然ですが、「以前は、最終的な見栄えになかなか手が回らないということがよくありました。ツール間のデータ連携であったり、必要な素材をつくり上げることに多くの時間を取られてしまっていたことがその主要な原因です」と澤田氏は講演の冒頭で指摘しました。

しかし今では、そうした問題の解決に役立つ新しいツールやサービスが利用できます。例えば、Maya 等の主要なモデリングツールを使い、Adobe Photoshop の代わりに Substance 3D Painter でテクスチャを作成し、アセットを統合するレンダリング環境として Omniverse を使用するワークフローです。澤田氏はこのワークフローを「最終的な見栄えを重要視しながら作業を進めていくことができるので、そこが従来と全然違う」と評価します。

Autodesk Maya, Adobe Substance 3D Painter, Nvidia Omniverse の連携による効率的な建築ビジュアライゼーションのワークフロー

USD をベースに 3D デザインワークフローを統合する NVIDIA Omniverse

3D デザインワークフローでは様々なツールやプラグインが使用されます。各ツールは独自のデータ形式を持つことが一般的で、データ互換性の欠如はコラボレーションにおける時間ロスの主要な発生原因になってきました。以前の状況を振り返って、「各自がばらばらのツールでつくったアセットを集約するのは本当に大変で、結局全部ポリゴン化してから 3ds MAX にまとめて、改めてそこからテクスチャをつくってレンダリングをすることもありました。誰が何のツールを使ったか?クライアントさんからいただくデータ形式は何か?ということに常に頭を悩ませていました」と澤田氏は語りました。

そうした障壁を取り除くべく、すべてのアプリケーションから利用可能な「3D 世界を記述する標準規格」として登場したのが Universal Scene Description (USD) です。澤田氏は USD について、「OBJ とか FBX とか、データを書き出す側と受け取る側が同じ形式に対応していれば、とりあえずデータは渡せるんですが、受け取ったデータを開くと壊れていたりして、修正をかけて対応しなければならないという事はよくありました。USD ではそれがなくなって、Maya や MAX から USD で書き出すと、そのままマテリアル込みで確認することが可能になっています」と証言します。

そして、この USD をベースに各ツールからのデータを集約するプラットフォームが Omniverse です。Omniverse のコアと各ツールとの連携に使われるコネクターは、既に 40 社以上のパートナーと 123 以上が開発されており、これらのツールを使用するデザイナーは、データの互換性を気にすることなく、他のデザイナー、プロジェクトチーム、さらにはクライアントとも、リアルタイムでコラボレーションできます。データは双方向の受け渡しが可能で、例えば「Maya から Omniverse に読み込んだメッシュデータを Painter に渡し、Painter でマテリアル編集して Omniverse に戻す」のように、データハブとして Omniverse を使えます。

リアルなテクスチャを手軽に 3D ペイントできる Substance 3D Painter

「リアル感のある見た目をつくり出すために Photoshop は欠かせないツールで、実際、長年お世話になってきました。しかし、Photoshop はスペシャリストがいないとなかなかうまく描けない。つまり、テクニックや絵心がないと扱い切ることが難しいツールです。一方、Substance 3d Painter を使うと、現実にあるような汚れとか経年劣化とかが簡単に、ツールを当てるだけでほぼリアルに再現できてしまいます。細部まで時間をかけて描き込む必要がなくなって、テクスチャに関わる作業がとても楽になりました」と澤田氏は Painter を評価しています。かすかに積もるホコリなどの汚れや、磨耗や損傷による風合いの経年劣化のようなディテールをごく簡単につくれる機能を指して「魔法のようなツール」と澤田氏は表現します。

Painter は、まるで現実世界の物体に塗装しているかのように、3D オブジェクトにペイントできるツールです。UV のつなぎ目を意識することなくペイントすると、建築物や家具の 3D モデルの表面に、歪みのないフォトリアルなテクスチャを、しかもリアルタイムでペイントできます。

また、Painter には非破壊編集が可能という特徴もあります。作成済みのマテリアルに対して、パラメーターを調整することにより後から質感やディテールを変更できるため、試行錯誤しながら表現を詰めたり、いくつかのバリエーションを作成したり、クライアントからのフィードバックに応じて修正を加えたりといった作業を、ごく簡単に行えます。

一つのマテリアルからさまざまなバリエーションを作成できる

これらの Painter の利点については、MAX セッション「メタバースコンテンツにおける Substance Painter 活用」で具体的な例と共にわかりやすく解説されていますので、ご興味のある方は是非ご覧ください。建築ではなく、メタバース向け衣装のテクスチャ作成手順を解説するコンテンツですが、Painter の特徴や、使い方の基礎が 20 分にまとめられているおすすめの動画です。

Substance 3D Painter と Omniverse Create の連携のデモ

澤田氏の講演では、ツール連携の設定方法やパフォーマンスなど、様々なノウハウが紹介されましたが、この記事では、講演中に披露されたワークフローの一部をご紹介します。Painter からシーンを Create に共有した後に、Painter でテクスチャを変更して Create で確認を行うという流れです。このデモは Omniverse の Live-Link という機能が有効にされた状態で行われ、Painter 内の変更が、ほぼリアルタイムで自動的に Create 内に反映される様子も紹介されました。

まず、フードトラックのシーンを Painter で開き、次にコネクターを設定して Painter と Omniverse を Live-Link で接続します。そして、Painter からメッシュを書き出すと、自動的に Create の画面にフードトラックが読み込まれます。

上の画像は、左側が Painter、右側が Create の画面です。全く同じ見た目にはなっていませんが、これはレンダラーが異なることと、ライティングの違いによるものです(カメラの位置も異なります)。この状態から Painter でトラック後部の荷台のマテリアルの色を青に変更したのが下の図です。

色を変えると、かなり汚れの目立つトラックであることがわかります。この変更は自動的に Create 側に反映されます。コラボレーションという観点からは、以下の 2 点が、効率的なコミュニケーションに大きく貢献してくれそうです。

続けてトラック前部の色を赤に変更します。すると、再び Create 内のフードトラックに変更が反映されます。

こうしたマテリアルの調整は、 Painter であればごく簡単な操作だけで行えてしまうため、デザイナーとプロジェクトリーダーがオンラインでチャットしながら、リアルタイムでテクスチャを仕上げるという使い方もできそうです。

3D デザインワークフローの新時代

実際には Omniverse を使わなくても、Maya から Painter に直接 FBX 形式のデータを受け渡して作業することはできますし、レンダリング環境も、様々なツールやプラグインから目的に合わせて利用することが可能です。とはいえ、メタバースのような新しい需要が生まれ、使用するツールが増え、チーム規模が大きくなって、デザインプロセスが複雑化するにつれて、効率的なワークフローの構築はより困難になります。そこに新しい基盤の姿を提案しようとしているのが Omniverse だと言えるでしょう。Omniverse は以下のような特徴を持つために、3D デザインワークフローを、モジュールを組み合わせるように構築できます。

大規模な 3D デザインプロジェクトであるほど、こうした、ツール、プロセス、場所、組織に依存しない、オープンなプラットフォームの恩恵は大きいものになりそうです。建築業界に限らず、3D デザインに関わる業務改善の新しい方向性を感じられる本当に中身の詰まった講演でした。

Omniverse Create を使ってレンダリングされたアニメーションのワンシーン