UI/UXデザインのカリキュラムをアップデートせよ!HALとアドビのUI/UXデザイン教育への模索 (後篇)
UI/UX デザイン教育の未来を考えることを目的として2022年8月に3日間にわたる講師向けのUI/UX講座「XD Training for HAL」を専門学校HAL (東京・大阪・名古屋) で実施しました。トレーニングの様子をレポートするこちらの記事は【前篇】【後篇】の2部構成でお届けします。
後半もくじ
- 柔軟性のあるデザインの考え方を実際に体験する
- 批評や評価をどう行うべきか
後篇では先生方と実践を踏まえて行ったハンズオン・ワークショップの内容を簡単にご紹介いたします。
柔軟性のあるデザインの考え方を実際に体験する
ハンズオン・ワークショップのセッションの一つでは、前篇でも触れた「柔軟性を考慮したデザイン」の考え方を学ぶことを目的とした演習が行われました。先生方はHALの実際のウェブページの内容構成を参考に、Adobe XD上で簡単なページを作りながら、柔軟性のあるデザインを作るための基本的な考え方を体験学習していただきました。
この演習では長谷川恭久さんのガイダンスのもと、パディングやスタック、コンポーネントなどの機能を活用しながら、やり直しや変更等の可変性を考慮したレイアウトの作り方を体験していただきました。表示される文字の量、配置されるデザイン要素の間隔や順などの変更、さらにボタン等一つのデザイン要素が伴う異なるステートの表示など、いかに発生しうる変更を考慮し柔軟に制御しながら効率の良いワークフローを実現するかを演習形式で理解していただくことが目的でした。
スタックやパディングの活用方を使いながら学ぶ
この様なAdobe XDの複数の機能を組み合わせながら活用することで、デザインを模索する際に発生するやり直しや変更に対処しやすくなり、運用を前提に柔軟性を考慮したデザイン・ワークフローを実現することができます。
批評や評価をどう行うべきか
UI/UXデザインの様に、作った後に繰り返し改善を加えていくような場面が発生する開発環境において、成果物としてのデザイン自体の判断に加えて、なぜそのデザインを作ることになったのか、どういう経緯でその成果物が生まれたのかというプロセスを判断するということも重要です。
とりわけ、事業会社で実践される様なチームで連携して行うデザイン・ワークフローにおいては、デザインが生まれた経緯や背景に関する記録が不十分だと、作業の引き継ぎの場合や改善を議論したり模索する場合に、的確な判断が難しくなることもあります。この観点においてデザイナーは、成果物の背景に何の目的があり、その目的がどう捉えられて、そしてどの様な制約を考慮しながら作られているのか、ということもをきちんと明文化し共有できる能力も大切です。必然的に未来のデザイン業界を担う学生に対しても、感覚的な視覚表現能力に加えて、自分の考えを論理的に組み立て人に伝える能力を育てることを積極的に支援し、評価基準の項目に据えることもまた重要になるということが言えるかもしれません。
デザインの経緯や背景を明文化することの重要性
また、学生が制作したデザインに対して批評を行う際も、講師側も個人の専門知識や経験則に基づく直観的な判断に加えて、業界で用いられる「ユーザーの使い勝手」に関する共通の判断基準を用いてより客観的に評価・判断することも、デザインのユーザビリティーの観点において重要です。
この様なより客観的で共通な判断を促す手段の一つに、ヤコブ・ニールセンのユーザビリティ・ヒューリスティックスがあります。ユーザビリティ・ヒューリスティックスは20年以上インタラクション・デザイン業界で採用されている、「使い易さを判断するための10項目」を示したもので、「ユーザーが予測しやすいインタラクションになっているか」や「ユーザーの主導権や自由は担保されているか」など、デザインの使いやすさを判断する際に役立つ評価基準です。
ユーザビリティヒューリスティックス
セッションの中ではこの10項目に基づいて、先生方がHALの実際のウェブサイトのユーザビリティに対するレビューに挑戦しました。先生方は「留学生がHALで受講するため情報を十分に得た上で申し込みができるか、ヒューリスティックスの観点で評価してみて下さい」という視点に対して、各先生それぞれがエキスパートとして模擬レビューを行っていただきました。
HALのウェブサイトに関する模擬のエキスパートレビュー
このようにユーザビリティ・ヒューリスティックス評価基準を利用することで、エキスパートがデザインのどの様な要素に課題感を感じるかという判断をより具体的に、そしてより客観的にできるようになります。現場で用いられるデザインの評価基準を授業の評価基準として用いることで、学生のデザインのユーザビリティーに対する意識も高まり、同時にデザインがどうユーザーにとって使いやすいものかを客観的に評価できることにも繋がります。
模擬のエキスパートレビューの結果の共有
評価基準を用いたデザインの判断や、ユーザビリティテストといった手法を積極的にUI/UXデザイン教育に積極的に導入することで、学生のデザインする成果物に対して客観的判断等クリティカルな視点を取り入れることができます。また、学生自身も独りよがりにならないより多くの人に利用してもらえる持続可能なデザインを考える姿勢を養うことにも繋がります。
このようなUI/UXデザインに関する学生への直接的な指導に関わることから、より理論的な内容まで、今回のXD Training for HALでは様々なトピックスをカバーしながら、UI/UXデザインの教育の方向性を考えました。
進化に対応できるカリキュラムへ
3日間のトレーニングを受けた先生方からは「ツールのことだけじゃなくデザインの色々なことを考えるいい機会でした」「授業内容を考えるいいきっかけになりました」「現場で感じていたことを明らかにして整理できる時間でした」などの感想をいただきました。HALの先生方、XD Internationalのインストラクター、そしてアドビ社員の皆それぞれが知見を持ち寄りながら、業界の動向やデザイナーの働き方、デザインに対する学生のモチベーションの所在など、単純なデザインの知識やAdobe XDの操作方法だけに留まらない、UI/UXデザイン教育の未来のあり方を示唆する有意義な議論を行えた貴重な機会となりました。
セッションの中では、それぞれ専門分野は違っても、デザインやクリエーション、そして教育に対する先生方の情熱は一貫しているところがとても印象的でした。デザインを取り巻くあらゆる面において単純な正解がない混沌とした環境の中で、学生の創作活動を支援することは簡単なことではないと思います。
しかし混沌としている環境だからこそ活かせるチャンスもまたあるはずです。HALの先生方の持つプロフェッショナルとしての豊富な経験やデザイン教育に対する姿勢が、学生たちの創造性へ自信を与え、彼らの創作活動を後押しするのだろうなと感じることができました。熱意溢れる講師に囲まれて成長するHALの学生たちが、今後どのように活躍していくか今から楽しみです。
この記事の前篇はこちら: UI/UXデザインのカリキュラムをアップデートせよ!HALとアドビのUI/UXデザイン教育への模索 (前篇)