印刷の可能性を広げ、顧客とともにあらたな価値を生み出す、第一印刷所の技術開発×提案力
株式会社第一印刷所は、新潟県新潟市に本社・工場を持つ新潟県を代表する印刷会社です。
創業は1943年、2023年7月9日で創立80周年を迎えます。新潟県内にとどまらず北陸、東北を含めた地域で第一の印刷会社になることを目指して「第一印刷所」と名付けられました。
「朗らかに稼ごうや」「至誠守約」「和」を社是として、戦後から成長を続けるなかで、製版・DTP、製本、出版、配送、広告等の各分野を社として設立。2023年現在、関連企業7社を含む第一印刷所グループ「D’sNET」として、あらゆる顧客のニーズに対して、プランニングから応えるワンストップサービスを実現しています。
提供するのは「高品質」を超えた「高品位」と「高品格」な社員力によって作り出される「極み印刷」。顧客の期待を上回る価値を作り出し、スムーズな情報コミュニケーションのサポートを行なう姿勢には、県の内外を問わず、厚い信頼が寄せられています。
活版印刷所としてスタートした第一印刷所の本社には、そのルーツとも言える活字、母型、印刷機がいまなお残されている
本社通路には創業からの歴史がまとめられている。看板は1947年7月9日に法人登記した際に社に掲げられたもの
印刷の可能性を広げるさまざまな技術開発
第一印刷所はこれまでハードウェア、ソフトウェア両面で、常に新しい技術に取り組み続けてきました。設備においては世界初仕様の枚葉印刷機・HeidelbergスピードマスターXL106-8PDryStarLED、インクジェット印刷機・FUJIFILM Jet Press 750S、メタリックカラーの出力が可能なFUJI XEROX(現FUJIFILM)Iridesse Production Pressといった、その時代のニーズに即した先進的な設備をいち早く導入し、そこで生まれる付加価値を顧客に還元しているのです。
こうした技術への積極的な取り組みは、第一印刷所の伝統ともいえるもので、ハードやソフトでは補えない部分は自社による技術開発でその壁を乗り越えてきました。その範囲は多岐に渡りますが、ここではその一部を紹介します。
情報セキュリティ(いずれも実用新案登録)
- シークレット地紋(2004)
- 複写防止印刷技術各種(2005、2006、2011、2012)
- 情報保護用目隠しシール『Shieldし〜る』(2008)
- カクセルファイル(2009)
高付加価値印刷
- Heidelberg社・7色印刷技術「スーパーファインカラー」への対応(2008)
- Heidelberg社・広色域4色印刷技術「ワイドカラー」への対応(2008)
- オリジナル高精細・広色域印刷技術「ハイパーワイドカラー」開発(2009)
- ファインカラー+(プラス)開発(2012)
- 高精細AM230線の標準スクリーン化(2015)
このほか、枚葉オフセットインキのノンVOC化や2012年にはオフセット印刷に使われる湿し水廃水をゼロにする「廃水レス印刷システム」を開発するなど、印刷・加工設備の拡充と同時に環境対応とそのための技術開発も積極的に行なっています。
高付加価値印刷のパンフレット。「メタプリ」はメタリックカラーを使ったデジタル印刷のサービス。技術をより伝わりやすいかたちで提案している
確かな技術力+柔軟な提案力で顧客の商品展開をサポート
第一印刷所の持ち味はその技術力だけではありません。導入した新技術を自社内で徹底検証し、顧客が求める価値へと結びつける提案力が技術力をより一層引き立たせています。
ここからは、第一印刷所 製造本部 プロダクトD’sNET推進室 室長 南 清人さんと、企画開発本部 デジタルソリューション部 企画推進課 主任 伊藤美雪さんを交え、いま力を入れているレーザー加工について紹介します。
第一印刷所 南 清人さん(左)伊藤美雪さん(右)
「最初のレーザー加工機を導入したのは2017年12月のことです。
経営トップがレーザー加工機を目にしたとき、“これはおもしろい。どのようなものが作り出せるかは未知数だが、あたらしい提案とビジネスのきっかけになるはずだ”と導入を即断しました」(南)
印刷会社各社が通常の4色オフセット印刷に+αの価値を与える高付加価値印刷に力を入れるなか、言わば“トップの直感”でレーザー加工機「FLEXI800」の採用が決定。ここから企画開発部門、製造部門をはじめとした関連部門によるレーザー加工技術の研究がスタートしました。
「弊社においては伊藤が所属する企画開発部門による、お客さまからの“こういうことはできませんか?”というニーズに応えるマーケットインのスタイルと、製造部門からの “この技術を使えばこういうものができますよ”と提案するプロダクトアウトのスタイル、両方のアプローチを採用しています。たとえば、長岡花火のLEDパネルはプロダクトアウトの代表例ですね」(南)
全国有数の花火大会「長岡花火」を再現したLEDパネル。時間の経過とともに次々と花火が打ち上がる
「このパネルは“レーザー加工機を使って、色とりどりの花火が順番に上がるようなパネルを作れないか?”というトップからのオーダーに応えてつくったものです。
レーザー加工機で削った導光板を重ね、導光板ごとに色の異なるLEDを組み合わせることで、時間の経過とともに打ち上がる花火とその色が変化するようにしました。LEDの点灯タイミングはプログラムを組んで調整しています」(伊藤)
こうした“宿題”がトップから降りてくる環境は、伊藤さんにとっても新たな企画、発想の源になっています。
「トップがものづくりが大好き、レーザー加工も大好きなので、常に“こういうことをやってみてほしい”という宿題が出されます。毎月、会社のディスプレイを変えるように言われたときは、次はこれをやろう、あれをやろうと、常に新しいことを考えている状態でしたが、そのときの経験があったからこそ、レーザー加工で何ができるのか、その可能性を探ることができたと思っています」(伊藤)
レーザー加工機導入後、案件としては片手に数えるほどの受注数だったころ、レーザー加工部門でターニングポイントとなる仕事の相談が届きます。それが切り絵作家・仲順れいさんによる兵庫県・猪名野山願成就寺 安楽院の切り絵御朱印でした。
「安楽院さんの切り絵御朱印は、お正月用の特別御朱印として、切り絵作家・仲順れいさんがデザインされたものです。切り絵で、しかもこれほど精巧なものになると、作家が100枚、200枚と量産することはできません。より多くの方に手に取ってもらうためにレーザー加工を検討されており、当社のガルバノタイプのレーザーでも加工可能かとご相談をいただきました。
私は“無理”、“できない”というのが嫌いなので、なんとかできないか……と挑戦を繰り返し、Adobe Illustratorのパスを細かく調整していくことで、仲順さんの精密な切り絵を再現することに成功しました。このとき、仲順さんが第一印刷所の名前を出して宣伝してくださったおかげで、ほかの寺社からも切り絵御朱印の相談をいただくことが増えました。ひとつの仕事がきっかけで、縁が大きく広がった案件でしたね」(伊藤)
左:兵庫県・猪名野山 安楽院 切り絵御朱印(デザイン:切り絵作家・仲順れい) 右:佐賀県・福母八幡宮 切り絵ご朱印紙
切り絵御朱印の加工精度はメーカーですら驚くほどのものだったそうですが、これがひとつの自信となって、次の仕事、次の提案へと結びついていきました。
2021年には地元美術館の企画展において、コシヒカリ紙を使った「切り絵アート」の会場限定グッズを商品企画するなど、新潟発のクリエイティブを世に発信しています。
「『くるくるフラワー』は、“母の日に子どもでも簡単に作れるペーパークラフトを作る”という会社のミッションから生まれた商品で、パーツを切り離して、ストローや割り箸に巻きつけるとお花のようになります。紙はおもに印刷のヤレ紙を使っているので、かかるコストは人件費と加工費だけ。価格を安く抑えることができ、SDGsの観点からも環境によい設計になっています」(伊藤)
「子どもでも簡単に、きれいに切り離せるように、外れないギリギリまでミシン目を調整しています。これまでの型抜き方法では、ここまで細かい加工は不可能でした。非常に精密なコントロールができるのはレーザー加工の強みですね」(南)
これこそ、レーザー加工の限界を知り尽くしているからこそできる商品企画。メーカーの想定を超え、独自のアイデアでそのポテンシャルを100%以上引き出していくところに、第一印刷所が、“第一”であり続ける理由の一端を垣間見ることができます。
第一印刷所がこうした自主企画、自社開発を積極的に行なうのは、その風土が根付いているからだと南さんは話します。
「導入した技術を、自社独自の技術として発展、昇華していくというのは当社の強みだと思います。
たとえば、7色印刷の『スーパーファインカラー』も7色までは必要ないけれど、4色よりもきれいに、あざやかに印刷したいという要望に対して、5色で広色域印刷に対応できる『ハイパーワイドカラー』、4色に1〜2色を加える『ファインカラー+』を開発しました。
“新しいもの好き”というと言葉は悪いかもしれませんが、新しい技術をいち早く導入し、“とにかくやってみろ”と言ってもらえるからこそ、社員がモチベーションを持ってこうした技術開発に取り組めるのだと思います。たとえ失敗したとしても、そこから学ぶことが大事であり、それも会社にとっての財産になります」(南)
切り絵御朱印のオーダーが増えたことでレーザー加工機を増設。現在、2台が稼働中
加工データのハブとして機能するIllustrator、高付加価値印刷に欠かせないPhotoshop
第一印刷所のデザイン・制作の現場では、Adobe Creative Cloudはどのように活用されているのでしょうか。そのメリットともに伺いました。
「ページ物のデザインをするときにはAdobe InDesign、素材としていただいた写真の加工にはAdobe Photoshop、一般的なデザインや作図、写真からイラストを起こすようなときにはAdobe Illustrator、と日々のデザイン・制作のなかでアドビアプリをフルに使っています。
加工用データも基本的にAdobe Illustratorでオリジナルデータを作り、各加工機の仕様に合わせてXDFなどのファイルに書き出すのですが、Illustratorは対応可能なファイル形式が多い、その互換性の高さもいいところですね」(伊藤)
レーザー加工用データはIllustratorで作成(色がついているのはデザイン工程のため)
数種類の広色域印刷やインクジェット印刷機を活用する第一印刷所にとっては、Photoshopも欠かせないツールのひとつになっています。
「特に広色域印刷のデータ確認では、Photoshopの色域外警告やカラープロファイルを使った色のシミュレーションはものすごく便利です。印刷画像のパフォーマンス評価にPhotoshopは最高ですね。我々のような印刷のプロのニーズにも応える機能をしっかり備えているのは、やはりアドビアプリが安心できるポイントだと思います」(南)
Photoshopの色域外警告は出力デバイスで表示できない色をグレーで表示する(左:JapanColor 2001 Coated/右:FUJIFILM JetPress・フルガモット)
レーザー加工のプロフェッショナルとして、日々、デザインと加工に向き合う伊藤さんは、デザインと加工の関係をどのように捉えているのでしょうか。
「この部署に来る前はデザイナーとして働いていたのですが、この部署に来てから、デザインとオペレーション(データ作り)はとても密接に関係していると実感しています。
デザインを知っているからこそ、出力に最適なデータを作ることができますし、データ作りがわかっているからこそ、いいデザインデータが作れる。レーザー加工も同じで、レーザーで何ができるかをわかっているから、それを活かせるデザインができると思っています。
私の仕事は、PhotoshopやIllustratorを使って印刷、加工に結びつけ、お客さまが望む品質以上の価値を提供すること。そう考えています」(伊藤)
アナログの原稿をIllustratorで加工用に変換。加工に最適な設定を見極めるのは伊藤さんの仕事でもある
「レーザー加工はこれまで紙やアクリルへの加工が中心でしたが、最近ではセルロースナノファイバーや工業的な素材への加工相談もいただくようになりました。
我々としては、そうした新しい取り組みをお客さまと協力し、共創ビジネスとして発展させていきたいと考えています。そのためにも、県内外の各拠点を通じて、お客さまとふれあい、声を聞き、そのお客さまにとって何が必要か、何ができるのかをともに考え、新しい価値を実現していきたい。
最高峰の印刷技術とそれをベースにしたさまざまなご提案でお客さまのビジネスを支えるパートナーになること。それこそが第一印刷所の使命だと考えています」(南)
株式会社第一印刷所
web |https://www.dip.co.jp/
こちら台東企画研究所|https://taitoplanlabo.amebaownd.com/
*「こちら台東企画研究所」は東京都台東区に拠点を構える株式会社第一印刷所 東京本部が運営する企画情報サイト