収録から編集〜完パケまで。TV番組制作を Adobe Premiere Pro ひとつで完結する東隆志さんの映像制作術
株式会社 BULL PASSION
TVディレクター・東隆志さん
TV番組制作をPremiere Proひとつで完結
昨年のAdobe MAXで、Adobe Stockの大喜利企画で話題になった吉本興業に所属する約6,000名の芸人から選ばれた、今もっともガッツのあるメンバーが、全国の企業を盛り上げるために、企業の商品・サービスを熱く、おもしろく紹介する企業バラエティ番組「ガッツ100%テレビ 〜笑いと愛が企業を救う〜」。BSよしもと株式会社が放送するこの番組は、収録から完パケ(完全パッケージ=そのまま放送に使える状態)まで、映像制作の全工程にわたって、Adobe Premiere Proが活用されています。
TV番組制作のなかで、Premiere Proを使うメリットはどこにあるのか。「ガッツ100%テレビ」の演出、編集、制作を行なう株式会社 BULL PASSION・東隆志さんが語ります。
“笑顔と感動を届けたい”。その願いを叶えるためにTV業界へ
-東さんが映像の仕事を始めたきっかけと現在のお仕事について教えてください。
「今はテレビ番組を中心にバラエティの映像制作をしていて、2023年で16年になります。
子供の頃からバラエティ番組が大好きで、何回も爆笑したり、感動したりするなかで、“人を笑顔にする、感動させる、幸せな気持ちにしてくれる仕事って、なんて素敵なんだろう“と思ったことがTV業界を選んだきっかけです。
『笑っていいとも!』(フジテレビ)のADとして5〜6年経験を積んだあと、ディレクターになったのですが、担当していたのが生放送だったこともあり、映像編集のことがほとんどわからないままディレクターになってしまったんですね。
この業界は教科書があるわけでも、先輩が手取り足取り教えてくれるわけでもありません。先輩のディレクターがオフラインしているところを何日も見て、編集の方法を学んだり、Premiere Proは何もわからないところから使いかたを覚えていったり。死に物狂いでスキルを身につけていきました。
いまは、BSよしもと、NHK、ABEMA、YouTubeで映像制作を担当しています。なかでも『ガッツ100%テレビ』は立ち上げ当初から携わっていて、企画、構成、すべてのディレクションについて、一番力を入れている番組です」
-『ガッツ100%テレビ』の見どころは?
「タイトルの通り、ガッツ100%で企業の商品やサービスと向き合う番組です。企業案件だからと言って、企業さんのいう通りにこなす、小手先でこなすというのは一切ナシ。なんでもガムシャラに、本気でやるメンバーを集めて、全力で紹介する。どんなことに対しても本気でやる姿は、きっと視聴者にも届く。そこを大事にしている番組ですね」
「ガッツ100%テレビ 〜笑いと愛が企業を救う〜」
Premiere ProひとつでTV番組の完パケまで制作
-「ガッツ100%テレビ」の制作はどのように進められているのでしょうか。
「企画に関しては、映像を撮影・編集するディレクターのほかに、アイデアを一緒に出してくれる構成作家、放送作家が考えます。
たとえば、企業さんがPRしたいものがあるとしたら、どうやったら一番よく見せられるか、おもしろくできるかを検討して、内容が決まったら撮影方法や撮影場所を細かく決めて、撮影、編集という流れですね。
演者の選定は企業さんや事務所の意向もあるので一概には言えませんが、『ガッツ100%テレビ』では、行儀よく、なんなくこなす人よりは、こちらが想定するベストを超えてくれる人、全力で挑んでくれる人を選んでいます。たとえうまくできなかったとしても、僕はそういう人が好きなんです」
-「ガッツ100%テレビ」の編集はどのように行なっているのでしょうか。
「オフラインから完パケデータまですべて、Premiere Proを使用しています。
一般的にTV番組ではオフラインしたデータを持って編集室に入り、画面加工をする、テロップを入れる、納品用データにするといった作業が行なわれますが、僕の場合、Premiere Proはこの数年でテロップやエフェクトのバリエーションが増え、編集のしやすさ、動画の処理スピードも格段に向上したことで、Premiere Proだけで仕上げられるようになりました。ノートパソコンとPremiere Proがあれば、TV番組制作のすべてが完結できる。めちゃくちゃ助かっています」
-チームで映像制作をするうえで、Premiere Proのメリットはありますか?
「ひと昔前はデータを受け渡して編集作業をするというのが難しかったのですが、いまは同じ素材が手元にあればプロジェクトファイルを受け渡すだけで編集が続けられる。これは本当にありがたいですね。
『ガッツ100%テレビ』の場合、編集チームが2つあって、1週間ごとに交互に制作を担当しているのですが、会って確認しなくても、メールでプロジェクトと素材を送ってもらえばどこにいても映像編集ができる。システマティックに、スピーディに進められるのは大きなメリットだと思います」
『ガッツ100%テレビ』の映像作りを支えるPremiere Proの機能
-巧みなテロップ使いも『ガッツ100%テレビ』の特徴だと思いますが、日本のテレビ番組でテロップやワイプが独自の進化を遂げたのはなぜだと思いますか?
「あくまで僕の主観ですが、いまの日本のテレビ番組、特にバラエティでは新しい企画は生まれにくくなっていると思っています。ある程度似たような切り口になってしまうなかで、視聴者を飽きさせず、新しいおもしろさを提供する方法を突き詰めるなかで、テロップや画面加工が進化してきたのではないでしょうか。同じような企画でも、テロップの入れかた、画面の見せかた次第で、映像の見えかたは一変しますから。
時代時代で流行りも取り入れながら工夫を繰り返し、企画だけでなくそれ以外のところでも唯一無二の映像を作ろうと、もがいて、がんばって、試行錯誤をしてきた結果じゃないかと思います」
-『ガッツ100%テレビ』ではテロップをどのように入れているのでしょうか?
「テロップ入れにはPremiere Proのエッセンシャルグラフィックスを使っています。これを使うと、いままではできなかったデザイン処理が簡単にできるんですよね。
フォント変更、サイズ変更だけでなく、エフェクトを加える、背景を敷く、エッジやシャドウを足す……昔ならそれこそポスプロでお願いしていたことが、一瞬でできてしまいます」
「『ガッツ100%テレビ』では視聴者がわかりやすいように、話者ごとにテロップの色を変えているのですが、一度ベースを作ったらあとはコピーしていくだけで済みますし、出しかたを変えたいときは適宜、Premiere Pro上でアレンジを加えていく。それだけで番組の基本テロップは完成させることができます。
画像を入れ込んだり、デザイン的な作り込みが必要な場合には、Adobe Photoshopを組み合わせてテロップを作ることもあります。そうしたケースでも、ダイナミックリンクでPremiere ProからすぐにPhotoshopに飛んで、データを編集することができるのは便利ですね」
「フォント、サイズ、色、デザインのほかに、映像制作で僕たちがこだわるのが“テロップの出しかた”です。出しかたひとつで、見えかたは大きく変わります。
ルール説明にしてもいきなりバン!と出るよりは、スライドインにしたほうが目に留まりますし、ちょっとしたエフェクトを加えるだけでそこを見てもらえるようになったりする。セリフにしても、“ワーッ!”と叫んだときには、あえて画面に飛び込んでくるように入れたほうが、より感情は伝わりますよね。そうしたことを踏まえながら、カット割も考えています」
「テロップを字幕のように統一したかたちでいれるのではなく、あえて顔の横に出したり、文字を揺らして怒りを表現したりするのは、日本の漫画文化の影響もあるんじゃないかと思っています。
漫画の文字の入れかたもフォント、サイズ、加工……いろいろなバリエーションがありますよね。シーンをどう伝えるかに対して、文字を加工することで伝わりやすくなる、おもしろく伝わることもあれば、逆に文字がなく絵だけで伝えられることもある。漫画の文字には、作品をより魅力的に見せるためのこだわりを感じます。
日本で映像のテロップが進化した背景には、こうした文字の感覚が日本人に染みついているところもあるのかな、と勝手に思っています」
「テロップ関連の機能では、音声をテキスト化してくれる自動文字起こしは本当に便利ですね。
これまでは一度聞いて、全部文字起こしをしてからテロップにする……という作業をしていたのですが、Premiere Proなら動画から文字を起こした上にテロップにしてくれる。インタビューやトークのテロップ入れがめちゃくちゃ早くなりますし、そこで短縮した時間で別の作業ができるようになりました。業界でもそのすごさは話題になりましたが、本当に革新的な技術だと思います」
-テロップ以外に、映像制作で大切にしていることは何ですか?
「カット割とテンポです。カット割というのはシーンに対してどのカメラの映像を使うか、ということですね。
『ガッツ100%テレビ』では、有人3台、無人6台の合計9台のカメラで撮影をしています。なぜ9台も使うかというと、演者さんの決定的瞬間を取り逃がしたくないからです。時間をかけて考えたおもしろい企画に対して、演者さんも全力で応えてくれる。自分の想像以上のことをやってくれたときに、“撮れていませんでした”なんてことは、僕の中では絶対に許せないし、あり得ません」
「9台ものカメラで撮影した映像は編集も大変ですが、このとき役に立つのが、Premiere Proの複数クリップの同期機能とマルチカメラ編集機能です。
9台のカメラで撮影したクリップを同期機能を使ってタイムライン上に配置すれば、9分割の画面すべてを同じ時間軸の映像として編集することができます。
僕がまだADだったころ、ディレクターに“カット割っていうのは演者さんへの愛情表現”と言われたことがありました。いまはその気持ちがすごくよくわかりますね。演者さんの一番いいところを、ベストな状態で見せてあげたい。それが僕たちの誠意であり、愛情表現なんです」
-映像編集機能以外でPremiere Proが便利だと思うところは?
「映像の素材として、スマホで撮ったものやGoProのようなアクションカメラで撮ったものを使うこともあります。撮影条件、設定が異なる映像素材でも、Premiere Proはスムーズに読み込めるのは便利なポイントですね。
ショートカットを細かくカスタマイズできるのもありがたい点で、よく使うエフェクトや操作をボタンひとつに割り当てて作業しています。使えば使うほど作業も早くなりますし、設定を書き出しておけば別のパソコンでも同じキーボードレイアウトで作業できるのは助かりますね」
-東さんならではのPremiere Proの活用法があれば教えてください。
「収録のとき、演者さんが気持ちよく、最高の状態でいられるように準備をする、というのは大切にしているポイントなのですが、その空気感を作るためにPremiere Proを活用しています。
たとえば、映像を見てもらったり、クイズを出したりするとき、モニターにただ動画ファイルを再生するだけでもいいのですが、ちょっとしたタイムラグや不具合が発生することがあります。
“最初の映像はこちら!”と言ってから、間が空いてしまうと、演者さんの気持ちも途切れてしまうかもしれない。僕はそれは絶対にしたくないんです。確実に、正確に映像をコントロールできるPremiere Proならそうしたミスは起こりません。絶対にうまくいきます。Premiere Proは収録をスムーズに進めるためにも重要なツールなんです」
クオリティと効率を両立するPremiere Pro
-東さんにとって「ガッツ100%テレビ」とPremiere Proはどのような存在ですか?
「『ガッツ100%テレビ』は内容的にもすごく充実していて、もはや“自分の生きがい”と言ってもいい作品です。ふつうのTV番組に比べれば予算もスタッフも少ない中での制作ですが、それでもPremiere Proをうまく使うことで、映像のクオリティを高めながら、完パケまで作ることができる。本当にすばらしいツールだと思います。
この番組のをこの先10年、20年続けていくというのが僕にとっては、やりがいがあることですし、これだけスムーズに、効率的に番組を作れるPremiere Proを活かし、同じスタイルでさらにもうひとつ、ふたつと作品を作っていきたいですね」
東隆志
株式会社 BULL PASSION 代表
web|https://bullpassion777.com/
BSよしもと「ガッツ100%テレビ」
web|https://bsy.co.jp/programs/by0000016152
YouTube |https://m.youtube.com/channel/UCzwQQ29BvpJPkgP_fV8KuNA