Adobe Substance 3D × ストラタシス 3D プリンタでプロダクトデザインを効率化!オンラインセミナーレポート
製品開発は時間も費用もかかるプロセスです。アドビとストラタシス・ジャパンにより共催されたオンラインセミナーでは、複雑な製品開発プロセスの改善策として、Adobe Substance 3D とストラタシス 3D プリンタを取り入れた効率的なワークフローのデモンストレーションが紹介されました。この記事では、その概要と主要なメリットをご紹介します。
3D プリンタを使って CG デザインをリアルに確認
今回の主役の一つはストラタシスのフルカラー 3D プリンタです。プリンタですので、印刷するために使うものではありますが、3D の造形を行えるため、立体物の表面の色はもちろん、細かな凹凸のような素材感も再現できる点がポイントです。すなわち、3D プリンタがあれば、多くの時間とコストをかけることなく、デザインが現実になった時にサーフェイスから受ける印象を評価することができます。株式会社ストラタシス・ジャパン プロダクト&サービス部 シニアセールスアプリケーションエンジニア 木村 佳央氏は「コンセプトモデルから CMF デザインまで確認できる」と説明しています。
ストラタシスの 3D プリンタを使って、コンセプトモデルから CMF デザインまで確認できる
もう一つの主役は Adobe Substance 3D Painter です。Painter は、3D モデルの表面にフォトリアルなテクスチャを手軽にペイントできるツールです。そして、Substance 3D Assets には豊富な種類のマテリアルが揃っています。そのため、CAD 等で作成した 3D モデルのサーフェイスを、本物のような見た目に仕上げることが簡単にできます。さらに Substance 3D Sampler や Substance 3D Designer を使えば、カスタムのマテリアルを作成することも可能です。
様々な種類のマテリアルが適用されたスピーカーの 3D モデル
この2つの主役はシームレスに連携します。つまり、「Painter でペイントしたテクスチャを 3D プリントするワークフロー」が今すぐ利用できるというわけです。これによりデザイナーは、CG データから CMF モデルを出力し、デジタル世界のデザインを実際に手に取って、現実世界でのサーフェイスの印象を確認できます。また、出力されたモデルは、エンジニアや他のステークホルダーと調整するための製品プロトタイプとしても利用できます。
下の図は、今回のセミナーのために実際に両社共同で実践したワークフローを表した図です。Painter から書き出した OBJ ファイルを GrabCAD Print に読み込んで 3D プリントに必要な調整を行い、その後 PolyJet 材料噴射方式の 3D プリンタを使用して実際の造形が行われました。
CG デザインとリアルとの乖離
実際にワークフローを体験したアドビ 3D アーティスト&ソリューションコンサルタント 福井 直人が CG デザイナーの立場から強調していたのは、「モニター内で Painter を使ってテクスチャリングしていたものと、3D プリントして出てくるものが結構違っている。これは実物にならないとわからないし、イメージに近いものを出力するには試行錯誤が欠かせないと感じた」という点でした。下の画像は今回 3D プリントしたマウスですが、指定した色やテクスチャが製品イメージ通りに反映されるまでには細かい確認作業が行われたということです。
3D プリントされたマウス。側面は革素材、中央部は立体的なクロス模様のプラスチック素材が設定されている
特にこだわった点の一つはホイールです。実際に回せるようにしたかったため、カットモデルを使って 3 パターン程クリアランスを試しています。カットモデルを使用したのは、マウス全体を造形すると時間がかかってしまうためです。
その他、マウス側面の皮素材のシボ感や、本体のグリッド模様の立体感も、想像していたものに近づけるために、ディスプレイスメントを変えたパターンを 3D プリントして確認しました。こちらも時間を節約するために、確認には 30 mm 角の正方形のタイルを使用しています。
ホイールの調整のために作られたカットモデル。手前に並ぶのはシボ感を確認するためのタイル
色の調整も細かく行われました。初期のデザインでは、側面に赤いラインが入っていましたが、実際に出力してみると、暗くて全く目立たないことがわかりました。そこで、タイルに色見本を出力し、それを並べてカラーマッチングを行ったそうです。
初期のモデルではマウス側面に赤い線が引かれているが目立たない
実際に色見本を並べて、使用する色の組み合わせを選択した
色相、彩度、明度を割り振りしてカラーバリエーションを増やし、最終的に 4 色のマウスがデザインされました。ちなみに、高さで 20 mm くらいのミニサイズのマウス 4 つの造形に約 2 時間、大きい方には約 9 時間かかったそうです。こうしたノウハウを積んで 3D プリントを使いこなすことで、非常にクオリティの高い CMF モデルを素早く手軽に手に入れることができるようになります。
ミニマウスのカラーバリエーション
3D モデル作成から 3D プリントまでのデモンストレーション
ここからは、セミナーで紹介された、マウスのモデリングからプリンティングまでの一連の作業をかいつまんで紹介します。より詳細なツールの使い方については、記事の最後をご覧ください。
工程 1: 3D モデルの作成
まずは、Substance 3D Modeler を使って、マウスの 3D モデル作成が行われました。最初に、基本となる形状を配置します。
削ったり、滑らかにしたり、分割したりしながらマウスらしい形状に近づけます。
ホイールを配置して、中央に切れ目をいれます。
指を置く場所のくぼみなど、詳細を整えます。これでマウスの 3D モデルの完成です。
工程 2: 3D モデルのテクスチャリング
次はモデルにテクスチャを設定します。そのために Modeler で作成したモデルを Painter に読み込みます。
側面に革素材のマテリアルを適用します。左右が対象になるよう指定をすると、片側で作業するだけで反対側にも同じテクスチャが設定されます。
皮の上にアクセントとして黄色のラインを引きます。
本体には立体的なグリッドのプラスチック素材を適用します。
ホイールにも別のプラスチック素材を適用します。
本体のプラスチックにポルカドット柄の模様を追加します。これでテクスチャの指定は完了です。
工程 3: 3D ペイントの準備
3D モデルを造形するための準備を行います。この作業には GrabCAD Print を使用します。下は Painter から出力された OBJ ファイルを GrabCAD Print に読み込んだところです。
トレーの設定を行います。効率的に造形できるように自動配置を行うと下のようになります。
エラーチェック機能を使うと、モデルのエラーを見つけて自動修復することが可能です。
テクスチャカラーを変更してモデルを読み込みます。今回は 4 色展開です。
工程 4: 3D ペイントの実行
データを 3D プリンタに送信して、プリントを開始します。今回使用するのは、J55 Prime というフルカラー対応の PolyJet 式 3D プリンタです。
スタートするとトレーが回転を始めます。最初にカーペットと呼ばれる土台の造形が行われます。
その上にマウスがの形状が徐々に積み上げられます。下の画像はホイールの形状が完成したあたりです。
造形が終了すると、トレーが下がり、ドアのロックが解除されて開けられる状態になります。
工程 5: 仕上げ
造形されたマウスの表面はサポート材で覆われています。
ウォータージェットを使い、水圧により表面のサポート材を剥がしていきます。この大きさで 5 分程度かかるそうです。
最後にエアブローして水滴を飛ばします。これで手に取れる状態になります。
実際にはこの工程が何回も繰り返されています。調整を重ねることで、最終的に 3D レンダリングでイメージしていたものに近いマウスをプリントすることができました。
Adobe Substance 3D のエコシステム
現在 Adobe Substance 3D Collection には 5 つのツールとアセットライブラリが含まれています。まず、今回のデモではマウスのモデル制作に使われたモデリングツールの Modeler と、マウスのサーフェイス表現に使われた 3D テクスチャペイントツールの Painter。さらに、カスタムマテリアル作成ツールの Sampler と Designer、レンダリングツールの Substance 3D Stager を使用すれば 3D 制作パイプラインを最初から最後までカバーできます。
モデリングからレンダリングまでカバーする Substance 3D Collection の製品群
Substance 3D で制作された 3D オブジェクトは、画像として書き出したり、あるいは AR/VR 環境に持ち込むこともできますが、今回のセミナーのように、ストラタシスのフルカラー 3D プリンタに出力すれば、製品プロトタイプに変換することもできます。
Modeler を使ったマウスのつくり方については、福井氏による詳しい解説動画が公開されていますのでそちらを是非ご覧ください。また、Substance 3D とストラタシス 3D プリンタの連携に関する技術的な詳細が Substance 3D Meetup 02 で木村氏より紹介されました。こちらもレポート記事を公開する予定です。
ストラタシス木村氏(右)とアドビ福井(左)