日本一詳しい Substance 3D の最新情報が入手できる Substance 3D MEETUP vol.2 レポート

目次

  • Adobe Substance 3D 最新アップデート情報
  • Substance 3D 製品と 3D プリンタでつくるリアルモックアップ
  • e コマース関連の Substance 3D 最新トピック

Adobe Substance 3D ユーザー同士が交流できる場として昨年末に初開催された Substance 3D MEETUP ですが、早くもその 2 回目が、春分まであと一週間となった 3 月 14 日に催されました。会場は前回と同じアドビの会議室でしたが、変更されたばかりの新しいガイドラインに従って、マスク着用は任意になり、講師と参加者の間のアクリル板が撤去されるなど、前回以上に従来のリアルイベントが戻りつつあると感じられるセッティングになっていました(とはいえ、実際には全出席者がマスク着用という状況でした)。

会場の様子

最初に登壇したアドビ Technical Artist / Evangelist 福井氏からは、Substance 3D Collection 最新情報として、この 3 か月の間に公開された主要なアップデートがデモと共に紹介されました。仕様を読んだだけでは理解しづらい 3D デザインツールの機能を、解説付きで実際に使って見せてくれるのは、ユーザーとしては毎度うれしい限りです。

続けて、ストラタシス・ジャパン プロダクト&サービス部 シニアセールスアプリケーションエンジニア 木村氏より、先日のオンラインセミナーで紹介された「3D プリンタと Substance 3D が連携する製品プロトタイプ制作ワークフロー」の技術的な詳細を解説するセッションがありました。なかなか聞く機会のない 3D プリンタ関連のノウハウの数々は、導入や活用を検討している企業には貴重な情報だったのではないかと思います。

休憩をはさんで、来日中のアドビ 3D ビジネス開発部門の責任者であるフレッド氏から e コマースに関連する 3D のトピック 2 つとアドビが取り組んでいる新しいプロジェクトについてのお話があり、最後にアドビ製品戦略部 熊田氏から Substance 3D のインターオペラビリティについての説明がありました。

Adobe Substance 3D 最新アップデート情報

まずは福井氏から紹介のあった主要な 4 つの新機能です。関連する製品は Substance 3D SamplerSubstance 3D PainterSubstance 3D Stager です。

Substance 3D Sampler の新機能 3D キャプチャ

前回の Meetup では「まもなく皆様にもお使いいただけると思います」とデモされていた Sampler の 3D キャプチャが、ベータという位置づけながら利用可能になりました。様々なアングルから撮影した写真を元に 3D モデルを構築できるフォトグラメトリを、Substance 3D ユーザーも実際に試せるようになったわけです。

Substance 3D Samplerの新機能を紹介するアドビ福井氏

基本的な使い方は前回紹介済みということもあり、今回は、フォトグラメトリがどのくらい使えるものなのかを、福井氏が実際に検証した結果が紹介されました。結論としては、「まだまだ苦手な部分がある技術で、被写体を注意深く選ぶ必要がある」ということのようです。

下の画像は、ヒバチップを 225 枚撮影して作成された 3D モデルです。木材の容器に入れらたチップは、被写体の質感も含めて高い精度で再現されています。

木材の容器に入れられたチップと半透明の素材に包まれたチップ

一方、半透明の素材でラップされたチップをよく見ると、反射のある個所はうまく扱えていないことがわかります。

半透明の素材でラップされたチップ

そこで、さらに反射の強いマテリアルで確認しようと、金属製のシャワーヘッドを撮影したのが下の画像です。ご覧のように、不自然に歪み、メタリックを感じられないフォトグラメトリ出力になってしまいました。背景のタイルには穴が開いています。

シャワーヘッドのフォトグラメトリ

福井氏は、「反射・透明・白飛び・黒落ちの撮影に関して、フォトグラメトリにはまだ課題が残っている」と説明します。フォトグラメトリを使いこなしたい人は、3D キャプチャが正式な機能として公開されるその日に向けて、今からいろいろとノウハウの蓄積に取り組んでみてはいかがでしょうか。

Substance 3D Painter の新機能 ① 新しいベイクモード

次は Painter の新機能です。メッシュマップの情報をテクスチャに転送するベイク処理に、専用のモードが追加されました。専用 UI だけあって、従来よりも使いやすくてわかりやすく、効率的にベイキングが行えるようになっています。モードを切り替えるには、コンテキストツールのクロワッサンの形のアイコンをクリックするか、モードメニューの「メッシュマップをベイク」を選択します。

福井氏からは、ハイポリのノーマルマップやハイトマップをローポリのモデルにベイクする様子がデモンストレーションされました。ちなみに、ローポリとハイポリのモデルは、どちらも Substance 3D Modeler でつくったものだそうです。

下は Painter に読み込まれた、ベイク処理前のローポリのモデルです。表面がつるっとした滑らかな状態であることが確認できます。

ベイク前の状態

ベイクモードに切り替えると、設定用パネルとビューポートが表示されます。ビューポートはベイク処理を可視化する役割を持っています。

ハイポリのメッシュは「メッシュマップ設定」パネルから指定します。読み込まれると、ローポリのモデルに重ねて表示されるため、ジオメトリがマッチしているかを簡単に確認できます。

新しいベイクモードにハイポリメッシュを読み込んだ

専用のケージファイルを使用しない場合、暗黙のケージがビューポートに表示されます。ケージの外にあるハイポリのメッシュは赤く表示されるため、ちょうどハイポリが収まるようにケージの大きさを調整することが容易です。

一致エラーが赤で示される

ビューポート左上の「ベイク処理の可視化」パネルを展開すると、可視化に関連するオプションを詳細に制御できます。ベイク処理を開始するには、ビューポート下部の「テクスチャをベイク」ボタンをクリックします。

ベイク処理中にメッシュを 360 度回転させながらベイクの状況を確認したり、途中で処理をキャンセルしたりできるなど、ベイクの完了を待たされなくなったのは嬉しい点です。

ベイク処理の可視化パネルを展開したところ

ベイクが完了すると、先ほどはつるっとしていたモデルのサーフェスにディテールが付きました。これでデータが軽い状態のまま、ペイントすることができます。

ベイク後の状態

Substance 3D Painter の新機能 ② USD 形式の読み込みと書き出しに対応

Painter のもうひとつの新機能として紹介されたのは、USD ファイルの読み込みと書き出しのサポートです。なお Stager も、1 月に公開されたバージョン 2.0 の新機能として USD 形式の書き出しに対応しています(もともと USD の読み込みには対応していました)。

ということもあって、福井氏はまず Stager から USD 形式でシーンを書きだすデモから説明を始めました。

Stager から USD 形式で書き出しできる

書き出した USD ファイルを Painter に読み込めば、Stager で見ていたシーンにペイントできます。今回は、ペイント済みのシーンが用意されていました。

Painter に読み込んだ USD データにペイント

Painter から Stager にも USD 形式で受け渡すことができます。ただし、Painter にはもともと 「Substance 3D Stager に送信」という機能があります。中間ファイルを作る必要がないため、最も効率的で、おすすめの手段だそうです。

Painter から Stager はコマンド一つ

Substance 3D Stager の新機能 ターンテーブルアニメーション

Stager の新機能としては、ターンテーブルアニメーションを作成できる機能が紹介されました。シーン内のオブジェクトに対して、オービットとスピンの 2 種類のアニメーションプリセットを適用するだけで、シンプルなターンテーブルアニメーションが自動的に生成されます。

デザインモードでは、アニメーションをプレビューするためのタイムラインパネルが、ビューポートの下に新しく追加されました。レンダリングモードでは、画像シーケンスを書き出すことが可能です。

Substance 3D 製品と 3D プリンタでつくるリアルモックアップ

3 月 2 日のオンラインセミナーでは、3D プリンタと Substance 3D を使った製品モックアップ制作のワークフローが紹介されました。福井氏の後に登壇したストラタシス 木村氏からは、このセミナーのフォローとして、3D プリンタで制作する際の注意点や、Substance 3D で行うべき作業が具体的に紹介されました。

ここからは、木村氏にご紹介いただいた 3D プリンタを使う際のポイントをご紹介します。3DCG データから 3D プリンタでマウスを造形するまでのワークフロー概要は、オンラインセミナーのレポート記事をご覧ください。

3D プリンタを使う際の注意点を説明する木村氏

サーフェスとソリッドモデル

基本的に 3D プリントではソリッドモデルが使われていますが、フルカラープリントではサーフェスモデルも扱う場合があります。その場合は、完全にサーフェスが閉じたモデルを用意することが必要です。

また、法線の方向にも注意が必要です。これが間違っていると、テクスチャーの属性が逆の方向に作用する原因になります。

スケール、サイズ設定

3D プリントの出力が適正サイズかどうかは、必ず確認が必要になる項目です。そして、単位の指定にはミリを使用することが推奨されています。

実際にオンラインセミナーのためにデザインしたマウスでは、最初のデータの長さが 170mm 以上あったため、マウスのモックアップとしては大きすぎるという話になって、サイズ調整が行われたそうです。

OBJ

Painter でペイントした 3D モデルは OBJ ファイルとして書き出します。また、モデルのデータとテクスチャのデータをリンクさせるための MTL ファイルも必ず用意します。

複数のカラーバリエーションを出力したい場合は、画像テクスチャのファイルを各色用意する必要があります。テクスチャファイルの指定を変えるには、MTL ファイルをテキストエディタで開いて、画像ファイルの記述を変更します。テクスチャデータを一枚の画像ファイルにまとめる必要があるのはそのためです。

カラーマッチング

PC モニターを見て確認していた配色が、そのまま 3D プリンタから出力されるとは限りません。そのため、実際に色見本を出力してカラーマッチングを行うというステップが発生します。製品モックアップを出力して確認すると時間も費用も掛かってしまうため、チップに出して確認するのが一般的だということです。

ストラタシスが提供する GrabCAD Print には、指定した色に近い色をまとめてつくることができる色見本ツールが付いています。マウスの色指定をしたときも、これを使用して 30mm 角のチップに出力し、実際に目で見て欲しい色を選択するという作業が行われたそうです。

シボ、グリッド

シボやグリッドなどのパターンも、実際に出力してみなければ、模様の荒さや深さがわかりません。マウスをデザインした際も、いくつかのパターンがペイントされたチップを Painter で作成し、それをプリントして組み合わせのバランスを現物で確認したそうです。これも、モックアップをよりイメージしているものに近づけるための重要なステップです。

ディスプレイスメント

3D プリントでは、ディスプレイスメントを指定するためにメッシュに凹凸を反映する必要があります。その際、メッシュが荒すぎると凹凸が適切に表現できないため、十分にメッシュを細かくしてから反映することがポイントになります。

ただし、メッシュが細か過ぎると、今度は造形自体ができないという場合もあるため、形状とのバランスを考慮して、モデルごとにポリゴン数を調整する作業が必要です。

グロスとマット

今回の 3D プリントに使われたポリジェット方式には、グロスモードとマップモードがあります。下の支えになる部分は必ずマットになるため、グロスで出力すると上下で仕上がりの差が出ます。マウスホイールのように回転する球体では、見た目を均一にする必要があるため、マットを選ぶことになります。

以上のようなステップを積み重ねて出来上がったのが下の画像にあるマウスのモックアップです。シボやグリッドの凹凸が非常に綺麗に入っており、サイドに引かれたラインの発色も良い感じです。

木村氏は、「このようなサンプルモデルとしてクオリティの高いものを素早く手に入れることができるため、すぐに出力して評価して、修正を入れてまた造形するという、非常にサイクルの早いワークフローがプロダクトデザインの中で可能になります。高品質のモックアップが必要な場面で活用していただければと思います」と語りました。

e コマース関連の Substance 3D 最新トピック

3 番目のセッションは、アドビ本社で 3D ビジネス開発部門を統括するフレッド氏の講演でした。「3D デザインの領域における日本の存在感は非常に大きい」と語るフレッド氏が、この日のために選んだ話題は、Substance 3D の成長が大きい e コマース分野に関連するトピック 2 つと開発中の新プロジェクトです。3D ビジネス推進に責任のある立場として、3D への投資による ROI の具体的な数字も紹介してくれました。

バーチャルフォト

最近では、EC サイトの商品画像が、実際に撮影した写真ではなく、3DCG 技術を使って制作されたバーチャルフォトであることは珍しくありません。バーチャルフォトの利点は、用意した 3D モデルをバーチャル空間で撮影するため、PC の中で作業が完結することです。標準的な写真撮影では何日もかかっていたことを、数時間で完了させることができる上に、製品のバリエーションを用意することも簡単です。

バーチャルフォトのワークフロー

フレッド氏は、「Substance 3D を使ったバーチャルフォトにより、時間を 50% 短縮し、コストを 75% 削減することができます。二酸化炭素の排出量については 98% の削減が可能です」と、バーチャルフォトの採用が広がっている背景を説明しました。大手小売業の Wayfair では、バーチャルフォトの採用によりコスト効率が 10 倍以上向上したというデータもあるそうです。

Substance 3D を使ったバーチャルフォトの ROI

フォトグラメトリ

バーチャルフォトに限らず、3D を活用するには、まず 3D モデルを作成する必要があります。モデリングツールを使用するスキルが無かったり、モデル構築に時間をかけたくない場面では 、この点が大きな問題になります。

そんなときに有効な技術がフォトグラメトリです。Substance 3D Sampler の新機能 3D キャプチャは、様々な角度から撮影した写真を使って 3D モデルを構築できます。つまり、スマホ 1 台と Sampler があれば、3D モデルを用意できるわけです。

より精密な撮影がしたければ、スマートフォンの代わりに、一眼カメラやターンテーブルを使うことができます。「どんな製品にも活用が可能です。例えば、フットウエアとか、アクセサリーとか、食べ物、または家具にも活用できます」とフレッド氏は話しています。

フォトグラメトリについて語るアドビのフレッド氏

Project Sunrise

フレッド氏からは、アドビによる全く新しい取り組みとして、Project Sunrise が紹介されました。これは、3D アセットからマーケティング等に必要なコンテンツを作成できるサービスで、クリエイターではない人も 3D アセットを扱える環境を提供することが狙いのようです。コラボレーション型のプラットフォームになっていて、担当者同士が連携を取りながら作成したコンテンツを検証したり、最終的に様々なメディアにパブリッシュしたりできます。アドビの他のアプリケーションとの連携も可能です。

フレッド氏は、3Dアセット制作パイプラインから、DAM と CMS の機能を持つ Adobe Experience Manager でのコンテンツサプライチェーンの構築まで提供できるのはアドビだけであるとして、 Project Sunrise が多くの製品を抱えるブランド向けのサービスであることを強調していました。

Project Sunrise の位置づけ

Project Sunrise には、製品を紹介するページを自動的に作成してくれる機能があります。サンプルとして紹介されたのは、複数のアングルの画像、ホットスポット付きの 3D ウェブビューア、それから AR を使って見てみたいという時のための QR コードが自動作成されたページです。

Project Sunrise の自動生成機能のサンプル

Meetup の最後には、アドビの熊田氏より Substance 3D が目指す方向性はインターオペラビリティ、すなわち相互運用性であるという説明がありました。既に、主要な 3D ツールの多くとの連携が実現されていて、現在は 3D パイプラインをつなぐ標準規格として USD の導入が進んでいる段階とのことです。

Substance 3D のインターオペラビリティ

USD でツール同士がつながる

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