『Molli and Max In The Future』の舞台裏:宇宙を舞台にしたラブコメの制作
Image source: Michael Litwak.
『Molli and Max In The Future』は、不条理な世界を舞台にしたSFロマンティックコメディーで、10億年後の未来から出発し、12年間の物語を通じて、対照的な二人の思いもよらないラブストーリーが展開されます。彼らは4つの惑星、3つの次元、そして1つの謎めいた宇宙カルトとの交流を経て、再び現代に戻ってきます。このジャンルを超えた映画の制作にあたっては、編集プロセスにおいて膨大な VFX(ビジュアルエフェクツ)カットを扱うための新たな挑戦を行う必要がありました。そこで、制作チームはAdobe Premiere Pro、Adobe After EffectsおよびFrame.ioを採用し、これらの最先端テクノロジーを駆使することで、彼らの未来的なビジョンを映画の中に再現に成功したのです。
監督のマイケル・ルック・リトワク氏と編集者のジョアンナ・ノーグル氏に、共同で行なったポストプロダクションプロセスと、Adobe Creative Cloudがその編集ワークフローでどのように重要な役割を果たしたかについて話を聞きました。この映画には900を超えるVFXカットがあったため、RAWファイルを編集して繰り返しレビューできる、合理的で効率的な手順を考える必要があったのです。
「最も時間を節約してくれたのは、間に何も挟まずにPremiere ProからAfter Effects にクリップをコピー&ペーストできることでした」とマイケル・ルック・リトワク監督は語ります。「Premiere ProはAfter Effectsとシームレスで効率的なので、このプロジェクトにふさわしい唯一の編集ソフトウェアでした」とこの作品の編集者であるジョアンナ・ノーグル氏が補足しました。
制作チームは、Premiere ProとAfter Effectsに加えて、ポストプロダクションでの共同作業と進捗共有のために、Frame.ioを重要なツールとして活用しました。Frame.ioの助けを借りて、編集者はDP(撮影監督)やVFXスーパーバイザーのザック・ストルツファスにVFXカットの異なるバージョンを送り、フィードバックを共有することで、リアルタイムで編集を行うことができました。ジョアンナ・ノーグル氏は「このプロジェクトで、Frame.ioは実質的にクラウドストレージとして機能し、私たち3人でメディアを共有し、整理し、バックアップする便利な場所となりました」と語りました。
『Molli and Max In The Future』は 2023年のSXSWでプレミア上映されました。制作チームがどのようにSFのビジョンを大画面に具現化したのか、その舞台裏をご覧ください。
どこでどのように編集を学んだのですか?
ノーグル: 編集に触れるきっかけは、子供の頃に兄弟と一緒に父のビデオカメラで作ったくだらないプロジェクトでした。それをiMovieで何時間もかけて繋いだりしていましたよ。その後、私はニューヨーク大学の学部の映画学部に進学。撮影した16mmフィルムをカットし、音声とフィルム編集機で同期させる「サイト&サウンドフィルム」というクラスを受講しているうちに、編集に夢中になりました。手で触れる形でプロセスを体験するということが、私にとって編集をさらに意義のあるものにしてくれたのです。それ以降、ポストプロダクションに関連するクラスしか取りませんでした。卒業後、ジョシュ・シニアと出会い、彼の会社でビデオの編集を始め、コメディ特番から始まり、『Ramy』や『The Bear』などのドラマシリーズの編集をすることになったのです。
このプロジェクトの始めにどんな準備をしましたか?
ノーグル: このプロジェクトは普段と違って、アシスタントエディターがいませんでした。同期された素材を受け取ると、それ以外の管理はすべて自分で行うのです。私はテレビの仕事で素晴らしいアシスタントエディターに頼って甘やかされてきたので、自分で細かな作業やクリップのラベルを付け直したりするのは大変でしたよ。この映画はもともと8章に分割して脚本が書かれていました。それをそのままリールにすればよかったため、映画全体を8つのPremiereプロジェクトに分割しました。
リトワク: わずか5週間でこの映画を完成させました。ジョアンナは、クルーが撮影している最中にシーンの編集を始め、撮影完了後わずか数日で、私と共有するための完全なラフカットができていたのです。普通ならそんなことは不可能なのですが、彼女は何年も脚本の草稿を読んでおり、私のスタイルや好みをよく知っていたので、驚くほど早く完成させることができました。(2012年から交際していて、昨年結婚したことも助けになりました!)
お気に入りのシーンと、なぜそれが特別なのか教えてください
ノーグル: 一番楽しく編集したシーンは、第3章と第4章です。モーリとマックスが追いつき、過去にタイムスリップして過去数年間の人生を語るシーンです。両セクションは基本的には長いモンタージュで、ナレーションとともに素晴らしく作り込まれた世界観と電光石火のジョークがたくさん詰まっています。これらのセクションでは、私のお気に入りの脇役達も紹介されました。撮影現場では楽しいアドリブがたくさんあったので、最もおもしろい瞬間を選ぶのはとても楽しかったです。
リトワク: これらのセクションをちょうどいいペースに編集するのは、楽しいチャレンジでした。速い展開と刺激の中で、観客にモーリとマックスが思い出の中で感じた孤独と失望が、ハイライトされる瞬間を感じてほしかったからです。編集中に使用した仮BGMを気に入っていましたが、作曲家のアレックス・ウィンクラーが、それ以上に素晴らしい音楽を作ってくれたことも素晴らしかったです。
ポストプロダクションで直面した具体的な課題はありましたか?どうやって解決したのでしょう
ノーグル: 私にとって、これは最もVFX要素の多いプロジェクトでした。ほとんどのVFXカットの仮バージョンを、Premiere Proで合成しながら編集しました。グリーンバックでカラーキーを使ったり、VFX素材がどのように見えるかを把握するために、仮背景で別のVFX素材をオーバーレイしたり。編集中にそれを見ると笑ってしまうような、モビウス(触手を持つ浮遊する脳のようなキャラクター)のヘンテコな仮バージョンも作りました。しかし、ザックとマイケルが複雑なVFXカットをAfter Effectsで作り込む前に、ラフなバージョンで編集のタイミングを確認できたのでとても役に立ちました。
リトワク: この映画には、900 以上の VFXカットがあります。本番撮影で使用する背景LEDスクリーンに表示するシーンを、After Effectsで作成するのに1年半かかりました。LEDスクリーンに表示する映像の色空間と解像度、伝統的なリアプロジェクションに使用する映像、撮影後にグリーンバックと合成する映像など、技術的なロジスティクスを掌握するのは大変でした。そこで、すべてのVFXカットを含むGoogleスプレッドシートを作成し、できる限り整理された状態を保つように努め、定期的に再構築しました。
どのアドビ製品を使用しましたか? どうしてそれが最良の選択だったのでしょう
ノーグル: Premiere ProはAfter Effectsとの連携が非常に効率的でシームレスなので、このプロジェクトで使える唯一の編集ソフトウェアだったのです。マイケルが4KのRAWファイルでの編集を提案してきたときは懐疑的でしたが、仮合成のために複数のレイヤーを追加しても再生が途切れないことに驚きました。VFX工程は編集よりもはるかに時間がかかるため、作業前にプロキシとRAWファイルの切り替えという無駄な作業を避けることができたのは大きいです。RAWファイルで編集したことで、ピクチャーロック(オールラッシュ)後に、高解像度でのVFXカットにすぐに取り組むことができたのです。
リトワク: 間に何も挟まずにPremiere ProからAfter Effects にクリップをコピー&ペーストできるので、時間を大きく節約できました。VFXの細かい作業に入った時点で、実際にはPremiere Proで並べておいたものと少し異なるクリップが必要になった場合でも、簡単に入れ替えたり追加素材を見つけることができました。
Frame.ioを使いましたか?採用した理由や活用法も教えてください
ノーグル: Frame.ioは、私たちのワークフローのとても重要な要素でした。初期のカットを協力者と共有するために使用しましたが、タイムラインで直接メモを確認できてすごく便利でした。そして、VFXプロセス全体を通して、ザック・ストルツファス (撮影監督兼VFXスーパーバイザー) とマイケルは、VFXカットをやり取りしながら修正すべき特定の場面や詳細を指示することができました。Frame.ioは実質的にクラウドストレージとして機能し、私たち3人でメディアを共有し、整理し、バックアップするとても便利な場所となりました
リトワク: ドラフトを何度も見直して修正指示を出す際に、映像に直接書き込める機能だけでもとても便利です。1~2フレームにしか現れないグリッチ(ノイズ)が時折発生しますが、タイムコードを使用して簡単にアクセスできるため、タイムライン上で修正することが非常に容易になりました。
Premiere Pro活用のヒントを何かひとつ教えてくれますか?
ノーグル: 私のやり方では、クリップの「有効」コマンドをシンプルなショートカットにすることがマストなので、キーボードの「Q」にアサインしています。VFXの置き換えを頻繁に行う上で、カットを比較するためにすぐにクリップを有効/無効にできることはすごく大切で、とても効率的になります。
リトワク: ジョアンナは私がこれを好むなんて気が狂っていると思っているかもしれませんが、何年も前にズームインとズームアウトのショートカットに「Q」と「W」を変更したエディターのもとで働いていました。今ではそれなしで作業するのが非常に困難になってしまいました。
ノーグル: Premiere Proでの「Q」のショートカットはどちらが良いかということは、私たちの間で最も長く続く論争の1つです。(冗談ではありません)
あなたに創造的な刺激を与えてくれる人は誰ですか?
ノーグル: ここ数年で最も優れた編集の映画の 1 つは、マーガレット・シクセルがカットした『マッドマックス 怒りのデス・ロード』だと思います。この映画は何度も観ていますが、何が起こるか分かっていても、いつもドキドキしっぱなしです。シクセルが悲痛な場面を犠牲にすることなく、物語をエキサイティングで驚きに満ちたものに保ち続けていることに、本当に感動しています。それはまさにストーリーテリングのマスタークラスであり、監督と編集者が夫婦チームであるという点にも個人的に惹かれます。
リトワク: この映画は『恋人たちの予感』からインスピレーションを受けています。この作品は非常にシンプルで優雅で、他の多くのロマンティックコメディとは異なり、時代を超えた感覚を持っています。一方で、その魅力はキャラクターが100%であり、プロットはほとんどありません。再視聴すると、今、私たちは非常にプロットの重い時代に生きていると思わずにはいられませんでした。コロナ、トランプ、ソーシャルメディアなど、私たちの日常生活や他の人々とのつながりに影響を与えるものが多く存在します。この映画が古典だと思う理由はたくさんありますが、最も重要なのは、2人のキャラクターが互いにふさわしい存在であり、本当に深く理解しあっていると信じられることです。
これまでのキャリアで直面した最も困難なことを、どうやって乗り越えましたか? 意欲的な映画製作者やコンテンツクリエイターにアドバイスをお願いします
ノーグル: テレビや映画で働きたいという多くのエディター志望者が、どこから始めればいいかを尋ねてきます。しかし、具体的なアドバイスをするのは難しいです。なぜなら、人ぞれぞれの歩みは大きく異なるから。しかしひとつ言えることは、この業界での仕事の99%は、口コミや個人的なつながりから得られるということです。だから、最初にやるべきことは、できるだけ多くの人と一緒に仕事をすることであり、コミュニケーションが取れて働き方が似ている協力者を見つけることです。自分のキャリアを振り返ると、特定のプロジェクトが他のプロジェクトに繋がっていったことを思い出します。また、Senior Post社の共同オーナーであることは、この業界で働く多くの人々と出会うのに役立ちました。仕事が小さくても、一緒に働く人が好きで協力関係が良好な場合、彼らはおそらくあなたを次のプロジェクトに呼んでくれます。それらのプロジェクトは次第に大きくなり、あなたの夢のプロジェクトにつながることでしょう。
リトワク: 映画やテレビ業界で働くことの難しいところは、何かを何百万通りもの選択肢から「正しい」方法でやらなければならないと考えて、時間とエネルギーを無駄にする可能性があることです。不要なものと一緒に大切なものを捨てたくないでしょう?再発明したり疑問視する必要のないことだらけなんです。結局のところ「誰も何も知らない!」というウィリアム・ゴールドマンのアドバイスは正しいと思います。他の人が好きだと思うものを作ろうと時間を無駄にせず、自分が好きなものを作ることにエネルギーを注ぎましょう。
あなたの仕事場の写真を掲載します。一番気に入っているところはどこですか?
Image Source: Joanna Naugle.
ノーグル: 『Molli and Max In The Futur』はすべて自宅で編集しましたが、スケジュールを簡単に調整できるので、好きなだけ早く始めたり、遅くまで続けたりしてとても楽しかったです。そして、精神的なサポートとして愛犬のメイプルがそばにいることは不可欠でしたね。彼女は編集室の素晴らしいプロダクションアシスタントでした。
この記事は2023年03月10日(米国時間)に公開されたBehind the Scenes of Molli and Max In The Future: Crafting an out of this world rom-comの抄訳です。