日常を彩り、社会を支えるSCREENグラフィックソリューションズのヒラギノフォント|Adobe Fontsパートナー紹介14

SCREEN GA紹介|メインビジュアル

文字に豊かな表現力を与えるフォントは、クリエイティブには欠かせない道具のひとつです。アドビが展開する「Adobe Fonts」は、グラフィックデザインやweb、映像といったさまざまなフィールドでフォントを自由に使えるクラウドサービスで、2023年5月現在、25,000以上のフォントが提供されています。この記事では、Adobe Fontsに参加する170を超えるフォントメーカーのなかから、一社をピックアップし、歴史や特徴、Adobe Fontsで利用可能なフォントを紹介していきます。

製版・印刷の世界から文字の世界へ

今回紹介するフォントメーカーは、SCREENグラフィックソリューションズ(以降、SCREEN GA)です。たとえ、社名を聞いたことがなかったとしても、「ヒラギノフォントを作っている会社」といえば、多くの人がピン!とくるのではないでしょうか。
SCREEN GAの親会社にあたるSCREENホールディングスは、国内に7つの事業所、海外に32の法人を持ち、半導体や液晶、印刷関連の分野で世界に知られる、日本を代表する企業のひとつです。グラフィック・DTP分野では、ヒラギノフォントのほか、高速インクジェット印刷機、製版用RIP「EQUIOS」を中心としたワークフローシステム、CTPレコーダー等で大きなシェアを誇り、日本の印刷業界において欠かすことのできない存在となっています。
産業機器を中心に発展を続けてきたSCREENホールディングスのなかで、いかにヒラギノフォントが産まれることになったのでしょうか。その経緯を紐解きます。

SCREEN GA紹介|石田旭山印刷所

石田旭山印刷所(1934〜1943年頃)

SCREENホールディングスは、1868年(明治元年)、石田才次郎さんが石版印刷を生業とする「石田旭山印刷所」を興したことから、その歴史がはじまります。
時代はオフセット印刷が普及するより、はるか昔。あざやかなカラー印刷は石版印刷が主流だった頃の話です。印刷していたのはラベルやシール、カタログ、包装紙のようなものから、絵葉書、肖像画、茶袋等、非常に幅広く、タバコのパッケージでは、石田さん自らがデザインを手がけることもありました。
事業を展開するなかで才次郎さんは次男・敬三さんとともに研究・開発にも注力します。石版印刷に使われる転写紙の特許(1917年)や、フィルム版の特許(1918年)を次々と取得すると、その品質は国内外で高く評価されました。1934年には写真を印刷で表現するために必要なガラススクリーンの製造法で特許を取得し、これまで輸入に頼らざるを得なかったさまざまな印刷部材を改良するとともに、国産化に成功します。
1943年、ガラススクリーン製造部門・大日本スクリーン製造所を「大日本スクリーン製造所株式会社」として改組すると、製版機器の総合メーカーを目指し、製版カメラの開発にも着手していきました。
(大日本スクリーン製造は2014年にSCREENホールディングスへと称号変更。以降、SCREENと表記)

SCREEN GA紹介|過去の製品

上左:ガラススクリーン(1934)/上右:製版カメラ(1946)/下:製版カメラ「C-59」(1966)

高い技術開発力と精緻な加工技術により、ほかにはない、すぐれた製品を生み出す……SCREENの技術力は、日本の高度成長期とあいまって、製版分野以外へも広がっていきます。
1950〜60年代にはテレビカメラ向けターゲットメッシュやカラーブラウン管テレビ用シャドウマスク等で映像分野に、1970年代には半導体・プリント基板市場に参入し、画像・映像処理の分野で着実な成長を遂げていきました。
製版・印刷分野では、1966年に国産初のカラースキャナーを完成させると、1974年には原稿を読み取ると同時に製版処理(CMYK分解・網点化)を可能にしたダイレクトスキャナー「SG-701」を発売。さらに1980年代にはイメージプロセッシングシステムの開発により、版下作成をコンピュータ上で処理することを可能にしました。
DTPが台頭する1990年代には、アドビシステムズ(現・アドビ)とPostScriptソフトウェアのライセンス契約(1991年)を結ぶと、1993年にはPostScriptにも対応したCEPS「レナトス」を開発。来るべきパソコン時代、DTP時代を支える技術基盤を作り上げていきました。

SCREEN GA紹介|過去の製品

上:ダイレクトスキャナー「スキャナグラフSG-701」(1974) 下:レナトス・大河(1993)

ヒラギノフォントはこうした時代の流れを受けて、1990年に開発がスタートしました。
デザイン・制作のDTP化は、それまでの版下作成をパソコンでできるようにする画期的なシステムではありましたが、当時使用できる書体はいまとは比べものにならないほど少なく、書体=フォントをデータ制作者が用意する必要があるという点でも、書体選択の自由度は高いものではありませんでした。
デザイナーや製版・印刷会社から、誰もが自由に使える高品質な書体を求める声が上がるなかで、長年、「文字と画像の統合」に取り組んできたSCREENは書体開発を決断します。

目指した文字の姿は、ビジュアル雑誌に使われたときに、写真と文字が調和し、どちらも引き立つような文字。
「ほかのどこにもないクールで現代的なデザイン」「明るくクセのないベーシック書体」をコンセプトに、字游工房に制作を依頼し、1993年にヒラギノ明朝、1994年にはヒラギノ角ゴが完成しました。
未来に向けて、質の高い、新しい文字のかたちを提案する……それは創業以来、印刷・製版分野で革新的な技術開発を行ない、産業の発展を支え続けてきたSCREENだからこそ達成することができた偉業と言っても過言ではありません。

SCREEN GA紹介|フォント製品

フォント製品は「千都フォントライブラリー」として発売された(現在はヒラギノフォント)

京都市北区にある「柊野」から命名された「ヒラギノフォント」。
その誕生は、フォントメーカーとしてのSCREENの出発点でもありました。
開発開始から10年が経った2000年には、AppleがMacOSのシステムフォントとしてヒラギノフォントを採用。「Hiragino」の名は世界に知られることになり、以降、20年以上に渡り、Apple製品の日本語表示にはヒラギノフォントが使われ続けています。たとえMacユーザーでなくとも、iPhoneやiPadを通して、または印刷物を通して、私たちは日々、ヒラギノフォントに触れているのです。

さらに10年後の2010年には、NEXCO東日本・中日本・西日本が設置する高速道路の案内標識への採用が決まり、モリサワのフォントサブスクリプションサービス「MORISAWA PASSPORT」(現・Morisawa Fonts)を通じたフォント提供も決定。ヒラギノフォントの活躍の場は、さらに広がっていきました。

SCREEN GA紹介|高速道路の標識

ヒラギノフォントが使われた高速道路の案内標識

ヒラギノフォントは1993年の登場以降、時代に要請に合わせて拡張を続け、現在は明朝、ゴシック、行書のほか、丸ゴシック、UD書体、中国語書体等、数多くのバリエーションがあります。「ヒラギノ」の名を冠する書体だけでもその数は70以上にもなります。

[明朝体]*( )の数字はウェイト数

[角ゴシック体]

[丸ゴシック体]

[筆書体]

[中国語]

このほか、游築五号仮名(7)、游築36ポ仮名(7)、こぶりなゴシック(4)、築地体を復刻した「日本の活字書体名作精選」9書体など、SCREEN GAはこれまで、非常に多くのフォントを世に送り出しています。そのいずれもがデザイナーから高い評価を受けると同時に、私たちの生活、社会のさまざまなところに根付いています。

1993年に作られたヒラギノ明朝、1994年に作られたヒラギノ角ゴシック……いずれもリリースからおよそ30年が経ち、デジタルフォントとしては決して“新しい”とは言えないほどの歴史を重ねてきました。
しかし、web、スマホ、SNSが普及し、あらゆるところでスクリーンメディアを通して文字を目にするいまなお、幅広いユーザーに支持されていることは、ヒラギノフォントが時代に左右されない、普遍性を備えていることの証左と言えるでしょう。

SCREEN GA紹介|Adobe Fontsページ

SCREEN GA https://fonts.adobe.com/foundries/screen-ga

Adobe Fontsではこのヒラギノフォントシリーズのうち、ヒラギノ明朝とヒラギノ角ゴ、各2ウェイトを使用することができます。
なお、ヒラギノフォントには、製品版(ダウンロード販売・Morisawa Fontsなど)とmacOSバンドル版があり、濁点・半濁点のサイズ等、一部に違いがあります。Adobe Fontsで利用できるヒラギノフォントは製品版と同一のものとなっています。

[macOSに搭載されているヒラギノフォント]

*互換性に関する情報 https://www.screen.co.jp/ga_product/sento/support/otf_macOS_font.html

Adobe Fontsで使えるヒラギノフォント

Adobe Fontsで使えるヒラギノフォントは、2023年5月現在、以下の4書体です。

いずれもクセのない、モダンなデザインが特徴で、紙媒体からスクリーンメディアまでどのようなシチュエーションにもフィットします。読ませるテキストに使いやすいW3、見出しやタイトルのようにインパクトを出したいときに使えるW6と必要十分なウェイト構成で、ヒラギノの魅力に触れるには最適なセットとなっています。

SCREEN GA紹介|ヒラギノ見本

Adobe Fontsで利用できるのはW3/W6の各2ウェイトですが、製品版ではヒラギノ明朝は7ウェイト(W2〜W8)、ヒラギノ角ゴは10ウェイト(W0〜W9)と、より多くのウェイトでヒラギノフォントを活用することができます。ウェイトに不足を感じたら、製品版の導入も検討してみましょう。

Windowsでも使える!ヒラギノフォントパック

Adobe Fontsで使用可能な多くのフォントのなかから、イメージや目的にあわせて厳選して提供する「フォントパック」に、「モダン&クールなヒラギノフォントパック」が追加されました。
印刷物やweb、動画テロップ、SNSバナー等、さまざまなデザインに活用できるほか、macOSには標準で搭載されているヒラギノ明朝 W3/W6、ヒラギノ角ゴ W3/W6がWindowsでも使えるようになることで、異なるOS間でもイメージの統一がしやすくなるはずです。

Adobe Fontsでフォントパック「モダン&クールなヒラギノフォントパック」を見る
https://fonts.adobe.com/collections/hiragino-pack

SCREEN GA紹介|フォントパック見本

Adobe Fontsを無料で試してみる
https://fonts.adobe.com/

Adobe FontsでSCREEN GAのフォントを見るhttps://fonts.adobe.com/foundries/screen-ga

SCREEN GA
web|https://www.screen.co.jp/ga/
ヒラギノフォント|https://www.screen-hiragino.jp/