FC教育グループが動画制作に着手し始めた当初は、それまで動画制作の経験が全くなかったため、撮影や編集においては外部に協力を求めていました。しかし、制作の本数が増えるにつれて、ある課題が見えてきたと、佐藤氏はいいます。
「第一に『スピード感』について課題意識がありました。事前の打ち合わせにしろ、撮影や編集のやり取りにしろ、とにかく時間がかかっていていました。例えば撮影中、プロのディレクターとカメラマンですから、影や色や向きなど非常に細かいところまでこだわります。これはプロとして当たり前なのですが、我々はそこまで気にしない、マニュアルとして分かれば良いわけです。そのこだわる時間を次のことに使いたい。反対に、こちら側がこだわりたいところ、例えば『手元や包丁を入れる角度の見せ方』など、そういったところが上手く伝わらず、理解してもらうまでにすごく時間がかかります」
そうした「スピード感」の課題を克服するために、同グループは内製化の可能性を探り始めます。とはいえ、動画制作の知識やノウハウが全くない中、何から手をつければ良いかわからない状況でした。そこで、動画内製化を支援するコンサルティング会社をいくつか検討し、その中で自分たちのニーズやこだわりを一番理解してくれると判断した「株式会社火燵(こたつ)」に支援を求めました。
まず初めに火燵は、FC教育グループからのヒアリングをもとに、機材の扱い方や照明のセッティング方法、動画編集時の基本フォーマットの策定などが網羅された動画内製化マニュアルを作成しました。撮影機材には、Sony Cinema Line FX3を選定。プロ仕様のカメラを初めて手に取ったときの感想を、FC教育グループ 安全教育チーム マネージャーの江波戸 里奈 氏は次のように話します。
「それまで撮影というと、フルオートのコンパクトカメラで写真を撮るくらいで、照明の当て方とか三脚の立て方とか全く無知の状態でやっていたので、こんなカメラ、本当に使いこなせるのだろうかと不安になりました。最初はマニュアルを見たり、レクチャーを受けたりしながら何とか扱ってみたものの、音が右からしか録れていないとか、そういったことがありましたね」
撮影からスタートした内製化ですが、動画編集については外部の制作会社に依頼し、カラー調整やテロップ入れなどのごく簡単な編集は以前購入したAdobe Premiere Elementsで行っていました。撮影から編集まで一気通貫で行う内製化を目指していた同グループは、次のステップとして、Adobe Premiere Proの導入を検討します。
「火燵さんに動画編集ソフトの相談をしたところ、答えはPremiere Proの一択でした。Premiere ProについてYouTubeやサイトを検索してみると、使い方や作り方のコンテンツがたくさん出てくるので、『こんなことやってみたい』と思ったときにすぐ調べられるのが便利だなと思いました」(佐藤氏)
2021年6月、FC教育グループはPremiere Pro グループ版 単体プランを導入しました。Premiere Proを使って動画編集を行っているFC教育グループ 安全教育チーム トレーナーの大塚 勇輝 氏もまた、以前は全く動画制作の経験はなかったと言います。
「最初は全くわかりませんでしたね。でも、私はどちらかというと、新しいことをはじめたら、『きっとできるようになる』って前向きに考えるタイプなので、まずはやってみようと。困ったらネットで調べたり、あとはもうとにかく火燵さんに相談してました。初めはカット編集のやり方から、次に音をどう入れるか、テロップをどこにつけるか、どういう色味にするか、順番に1つ1つ覚えていきました。他の仕事もしながらで、1ヶ月くらいでひと通りの操作ができるようになりましたね」
現在では、台本の作成から現場の仕切り、撮影、編集、公開まで、動画制作の一連の流れを主に佐藤氏、江波戸氏、大塚氏の3名で行っています。最近では、マニュアルや研修用の動画以外に、これから店長研修を受講する人に向けた14分の研修紹介動画を制作しました。
「動画制作を始めて、だんだんと自分たちの思いどおりのコンテンツができるようになると、『もっとこうしたい、今度はこんなものが作りたい』という欲が出てくるんですよね。店長研修紹介動画も、これまでのマニュアル動画のようにただわかりやすいものではなく、見ていてわくわくするようなものにしたかったんですね。色味にちょっとこだわって、BGMも入れて、映画風な仕上がりにしてみたらどうだろうって。シナリオをちゃんと作って、ロケハンにも行って、実際の店長研修の現場に入って撮影をしました。編集も今までやったことのないような演出を入れたりして、すごくいいものが作れたと思います」(佐藤氏)
店長研修紹介動画は人事グループの目にとまり、新卒採用のツールとしても活用されることになりました。
動画の完全内製化がほぼほぼ形になってきた現在、その効果は着実に見え始めています。店長研修への参加者の増加に加え、社内の動画マニュアルサイトの登録者数は年間1,000人以上、登録せずに視聴だけしている人を含めるとその倍以上にもなると言います。
コスト面では、これまで10分程度の動画を外注すると数十万円の費用が発生していましたが、撮影から編集までの完全内製化により外注費はゼロになりました。
また動画内製化は、人材教育や会社経営への貢献だけではなく、制作者自身の意識にも変化をもたらしているようです。
「初めは自分の仕事の範疇外としか思えなかった動画制作ですが、やっていくにつれて自分の知らない世界がどんどん広がっていくのを感じました。例えば、台本の作り方だとか、ロケハンの大事さだとか、どの順番でどのように撮っていくと効率的だとか、今までは考えもしなかったことを考えるようになり、それは作品の仕上がりにも如実に表れてきています。実際できた動画を見ると、紙のマニュアルよりもはるかにわかりやすい、伝わりやすい。『なぜもっと早くこれをやらなかったのか』と思えるくらいになりましたね」(江波戸氏)
以前はWindows標準の動画編集ソフトやPremiere Elementsを使っていた大塚氏ですが、Premiere Pro導入後、編集作業にどのような変化があったのでしょう。
「一番はキーボードのショートカットキーですね。これが使えるようになってからは作業効率が格段に上がりました。それまではパネルを行ったり来たりしていましたが、よく使うツールを登録しておけば、キーを押すだけで切り替わる。今では左手はずっとキーボードの上にありますね。
Premiere Proを使うようになってからは、以前は2時間くらいかかっていた作業が30分前後でできるようになりました」
動画内製化という一見容易と思えない取り組みを、撮影から編集まで一気通貫で実現したライドオンエクスプレス FC教育グループ。今後の取り込みについて、佐藤氏に伺いました。
「店舗で働いているクルーは若く、Z世代の比率が高くなっています。Z世代はデジタル・スマホ・SNSネイティブと言われていて、より動画で伝えることの重要性が高まっています。今まではじっくり丁寧に作業や手順を見せていましたが、飽きずに最後まで視聴してもらうために、YouTubeのように短いシーンを次々と切り替えて、全体の長さも今までより短くして伝えることを意識しています。またもっと短く、TiKTokのように1分以内でポイントだけしっかり伝える事が出来る様な動画編雄にも取り組んでいます」
最後に、動画内製化を検討している企業に向けてアドバイスをいただきました。
「内製化は最初から自走だけで進めることはハードルが高く、時間も、かえってコストもかかると思います。一緒に並走してくれるコンサルティングなどの業者を探し、専門的な指導を受けながら徐々に進めるほうが、より早く質の高い内製化を実現できると思います」