懐かしくも新しい『トップガン マーヴェリック』のモーショングラフィックス
Image source: Jayse Hansen.
『トップガン マーヴェリック』は、1986年の名作映画『トップガン』の待望の続編です。2022年5月に公開され、世界中のファンを興奮させました。この映画は、ピート・"マーヴェリック"・ミッチェルが戦闘機兵器学校トップガンに戻り、米海軍最後の任務として新卒生を緊急任務に向けて訓練する姿を描いています。戦闘機に戻るトム・クルーズの懐かしいシーンと、素晴らしい空撮、そしてマイルズ・テラーやグレン・パウエルとの象徴的なビーチフットボールのシーンが組み合わさり、『トップガン マーヴェリック』は見応えのあるエンターテイメント作品となっています。
作品の表示画面(スクリーン)UIデザインを手がけたジェイス・ハンセン氏が、本作『トップガン マーヴェリック』での制作過程について語ってくれました。彼はロッキード・マーティン社との共同作業で、リアルなヒーローイメージのデザインとアニメーションを作成し、緊迫感に満ちたドラマの演出に貢献しました。さらにAdobe Illustratorでデザインし、Adobe After Effectsでアニメーションさせた理由も教えてくれました。詳しくは、以下をお読みください。
FUIデザインとは何ですか?なぜこの専門分野に惹かれたのでしょう
FUIは「Futuristic or Film User Interface design(未来的または映画のユーザーインターフェースデザイン)」の略語です。これは映画の中で主人公や悪役が使用する、進んだコンピュータ表示画面、HUD(ヘッドアップディスプレイ)、ホログラムなどをデザインしてアニメーション化するVFX(ビジュアルエフェクツ)業界のニッチな分野です。映画、デザイン、未来の技術が大好きで、それらがもたらすアートとテクノロジーの無限の組み合わせに魅了されました。
Image source: Jayse Hansen.
『トップガン マーヴェリック』に参加したきっかけは?
『アイアンマン』や『アベンジャーズ』、『ハンガー・ゲーム』などの映画でHUDやホログラムのデザインを手がける中で、戦闘機のデザインに関する経験を積んでいたのです。そのおかげで、幸運にも同様の現実の次世代軍事プロジェクトに関わることができました。これが、ニコラス・ロパルドがある日突然私に電話をかけてきた理由だと思います。私たちは、このプロジェクトで夢の飛行中隊を結成しました。ビジュアルデザインディレクターのブラッドリー・”グムンク”・マンコウィッツ提督が僚機を編成し、チームのアニメーションを率いたデビッド・"ドゥルー”・ルワンドウスキー軍曹や、僚機のデザイナーであるニコラス・ロパルド、デザイナーのトロス・コセ、モーションデザイナーのジェームズ・ヘレディアなどが乗組員として集結しました。
ロッキード・マーティン社と一緒にデザインするのはどんな感じでしたか?
ロッキード・マーティン社のスカンクワークス(先進開発計画部門の通称)とほぼ毎日一緒に仕事をすることで、多くのことを学びました。彼らは、映画内でストーリーを伝えるための、ヒーローイメージのデザインとアニメーションの元ネタを提供してくれました。その中には、映画の冒頭のコックピットのHUD表示画面や、トム・クルーズが搭乗する次世代のステルス戦闘機X-72ダークスターのミッションコントロールなどが含まれています。また、訓練シーンや最終決戦のデザインとアニメーション化にも数か月を費やしました。
Image source: Jayse Hansen.
スカンクワークスのコラボレーションはどうやって形になったのでしょう?
ロッキード・マーティン社は、外観全体から本格的なコックピットに至るまで、ダークスターのハードウェア全体の設計をリードすることにとても熱心でした。私はコックピットディスプレイの開発を担当することになりましたが、早い段階でスカンクワークスのその道の専門家が割り当てられました。ノーマン・“スポック”・エリアセンは非常に頭の良い人で、私の質問に対してはニックネームにふさわしい知識を持っています。彼は、概略図であったり全てのシーンで警告やジェット機がどのように動作するかを説明するPDFやPowerPointを絶えず提供してくれました。撮影が行われるまでに、私たちはマーヴェリックの画期的なMach 10.4飛行の秒単位のリアルタイムアニメーションシーケンスを、数週間かけて作成しました。IllustratorでデザインしてAfter Effectsでアニメーションさせたのです。セットのコックピットでは、そのアニメーションがベゼルに組み込んだiPhoneやiPadの画面上で再生されました。ジョセフ・コシンスキー監督による映画の完成版では、私がデザインしたコックピットの表示画面と司令室の大型画面で速度を読み上げるところが観れて嬉しかったです。
Image source: Jayse Hansen.
モーショングラフィックスのインスピレーションやデザインの狙いは?
これらのデザインがマーヴェリックが目標のマッハ10を達成するときなど、表示画面が頻繁に切り替わる演出の張り詰めたシーンで使用されることがわかっていました。「10」という数字は映画全体の他のシーンにも関連しているため、まず最初にそこでエモーショナルなインパクトを高めて印象的にしたいと考えました。
Image source: Jayse Hansen.
また、ストーリーのポイントを観客に明確に伝えるように努めています。たとえば、「目標達成までの時間」のカウントダウンによって、マーベリックとチームが試練に成功するか失敗するかをわかりやすくしました。このアイデアは、最終ミッションで再び使っています。
Image source: Jayse Hansen.
私は普段、デザインに正確であることを求めていますが、マーヴェリックではこれが新たな意味を持ちました。「ハリウッド風」を少しだけ加えつつも、この映画の重要なファン層である実際のパイロットに敬意を表したものになるよう、チーム全員が努力したと思います。
ジョセフ・コシンスキー監督との共同作業について聞かせてください
最初にジョーから言われたのは「コピックの使い方がうまいね」で、最終ミッションのラフスケッチに使ったマーカーのことでした。ジョー自身がデザイナーであり建築家でもあるため、プロセスや反復などのことをよく理解しています。彼はストーリーテリングのグラフィカルな部分に本当に興味を持っており、とても協力的で熱心だったので、素晴らしい共同作業ができました。
Image source: Jayse Hansen.
このプロジェクトのお気に入りなところを教えてください、それがどのように成功につながったのでしょう?
私のお気に入りは、スカンクワークスのスポックとの日々の会話や、F-18戦闘機の専門家であるデイブ "シュレプロック" ビッグスとのやり取りでした。「なぜF-18は山の頂上でフリップするの?」と尋ねると、デイブは「ああ、それはあれほど劇的な方向転換をする際にスピードを維持する唯一の方法なんだよ」と答えてくれるんです。この映画の成功は、ストーリーをシンプルにしていったことや登場人物の心の成長を明確化したことによると思っていますが、そのプロセスに関与した数ヶ月間が私の一番のお気に入りでした。
Image source: Jayse Hansen.
直面した具体的な課題はありましたか?どうやって解決したのでしょう
制作チーム全体が、観客を置いていかないような場面の流れを作ることに、とても気を遣っていました。これは素晴らしいことなのですが、残念なことに、大幅な脚本の書き直しが時々起きることも意味しています。例えば、パイロットがレーダーをかいくぐって超低空飛行することを学ぶ戦術講義室のシーンは、ほぼ3〜4日ごとに書き直されていました。脚本の書き直しごとに、デザインとアニメーションにかなりの変更が加えられることになります。訓練シーン用に新たに設定された赤、緑、金に色付けされた3つの異なるルートはその好例です。数週間にわたって脚本を詳細に分析し、各パイロットがそれぞれの瞬間にどこにいるのか、何が起こっているのか(高度制限を破ったり、電子光学追尾から逃れたり、敵のミサイルを受けたりなど)を把握しました。その後、3つの大きな表示画面すべてをデザインし直してアニメーション化しましたが、深夜作業も多かったです。。しかし結局のところ、観客に3つのルートを同時にたどるよう求めるには気が散りすぎることが判明しました。最終的には、彼らは単一のルートを飛ぶことになったのです。映画製作では、このようなやり直し作業は普通のことで、私が常にバージョン番号の先頭に2つのゼロを付けたファイル名にする理由はこのためです。
Image source: Jayse Hansen.
Image source: Jayse Hansen.
3Dワークはどうでしたか?
当初、コシンスキー監督は表示画面に非常にローファイで純粋な「2D」の見た目を求めていました。3Dは一切なしで、特にホログラムはNGだったのです。しかし、私は作戦中に誰がどこにいるのかを示す訓練画面用に、F-18と敵の第5世代戦闘機SU-57の概略図をデザインしました。これらはMaxon Cinema 4Dで作成し、After EffectsにElement 3Dプラグインを使って直接インポートしています。そして、ドゥルーと私は、訓練画面のルックデヴ(ルックデベロップメント)のプランニング、モデリング、アニメーション、初期のリギングもすべて行いました。
Image source: Jayse Hansen.
他に使用したソフトウェアとその理由を教えてください
いつものように、Illustratorでデザインし、最終的なアニメーションはAfter Effectsで作成しました。ここ10年ほど、個人的にこれがメインのワークフローとなっています。アドビのツールはすべてが綿密に連携しているので、デザインからアニメーション、手戻り対応、最終的な合成まで、私たちのチームに最もスムーズなワークフローを提供してくれます。
Image source: Jayse Hansen.
After EffectsやAdobe Creative Cloudのお気に入りのワークフローやヒントはありますか?
膨大なライブラリから入手できるアドオンスクリプトの追加で、作業の速度と機能が向上するところがとても気に入っています。私の少し特殊な作業用に、必要なことを正確にすばやく実行できる、ちょっとしたオーダーメイドのプログラムを作成できるからです。Creative Cloudは、カラー、アイコン、アセットのカスタムライブラリを作ってチームで共有し、ほとんどのアドビのアプリで利用できることも気に入っています。
あなたにとって、クリエイティブな刺激を与えてくれる人は誰ですか?
幼少期から、最も愛するインスピレーションの源は、レオナルド・ダ・ヴィンチでした。彼は、有機的な要素と技術的な要素を美しく融合させる方法を知っていたのです。彼が何かを描くとき、外観と内部を同時に表現していることに感動します。これは、私がホログラムに感じている魅力と同じなのです。さらに、彼は同じ物体を異なる視点から描くことにも取り組みました。側面図、上面図、透視図などです。これは、After Effectsも含む現代のすべての3Dプログラムの基盤となっていると思います。
これまでのキャリアで直面した最も困難なことを、どうやって乗り越えましたか?
大変な仕事、巨大なクライアント、大きな期待。長い間、私は自分が怖いと思わないクライアントと、すでにやり方を知っている仕事だけを求めていました。しかし、すぐに気付きましたよ、私は要求の厳しいクライアントの、恐ろしく不快なプロジェクトでのみ成長することに。自分が成し遂げられるのかさえ、疑問に思えるような仕事です。しかし、最終的にはそうしたプロジェクトが最も充実したものになるのです。だから今では、私はそういったプロジェクトだけに取り組みたいと思っています。自分がワクワクするような仕事をしましょう。
映画やテレビのFUIデザインを仕事にしたい人にアドバイスをお願いします
この分野に飛び込むにはベストなタイミングでしょう。実践的に上手にこなせる人材よりも多くの仕事があります。最良のアドバイスは、自分がやりたいことを既にやっている人たちと仲良くなることでしょう。ほとんどの場合、私たちは皆とてもフレンドリーです。展示会や講演会などで出会うこともできますし、シンプルにInstagramを通じてもつながることができます。このような超ニッチな分野では、この仕事に興味を持つ人と出会うことはすごく嬉しいことなんです!
あなたの仕事場の写真を掲載します。一番気に入っているところはどこですか?
Image source: Jayse Hansen.
これは私の自宅のオフィスで、ダークスターのコックピットグラフィックスをアニメーションしているところです。何年も汚い部屋でひたすら仕事をしてきましたが、ようやく時間をかけて、お気に入り映画の小道具を集めた小さな博物館にできたところです。右側には私がデザインしてアニメーションをした映画、『エンダーのゲーム』で使われた本物のタブレットがあります。右奥には私がHUDとホログラムをデザインした、実物大のアイアンマン・マーク42が。そして、左奥には驚くほど正確な1:1スケールのゴーストバスターズのプロトンパックがあります。デザインには関与していませんが、それでも大好きなんです。この空間は、映画デザインの癒しと感謝に満ちています。ここに入るとわくわくするし、次の映画に取り組むのが待ちきれなくなります。
Image source: Jayse Hansen.
Image source: Jayse Hansen.
Image source: Jayse Hansen.
ジェイス・ハンセン氏についてさらに詳しく知りたい場合は、こちらをご覧ください
この記事は2022年09月22日(米国時間)に公開されたRevamped nostalgia in Top Gun: Maverickの抄訳です。