りたお「Adobe Frescoなら手軽に水彩にチャレンジできる」Adobe Fresco Creative Relay 39

りたお|メインビジュアル

アドビでは毎月、Twitter上でAdobe Frescoを使ったイラストコンテストを実施しています。応募は簡単、Twitterで アドビ公式アカウント をフォローして、 #Frescoイラコン をつけてTwitterへ投稿するだけです。
6月のテーマは「梅雨」。雨、傘、あじさい、カタツムリ……季節を感じるイラストをAdobe Frescoで描き、#Frescoイラコン をつけて投稿しましょう。
そして、この企画に連動したAdobe Frescoクリエイターのインタビュー「Adobe Fresco Creative Relay」、第39回はイラストレーター・りたおさんに登場いただきました。

背景パターン 自動的に生成された説明
りたお|梅雨作品

紫陽花の色を纏う、レインコートの女の子

「“梅雨”というテーマは、雨、傘、紫陽花……とモチーフの幅が広いので、何をどう描こうか少し悩みましたが、キャラクターのデザインやファッションという自分の強みと、この季節のイメージをうまく組み合わせられたらいいなと思って描きました。透明感、光沢感があり、キラキラとしたレインコートでファッションのポイントを作りつつ、紫陽花を意識した配色で季節を表現しています。
Adobe Frescoを使ったのは今回がはじめてだったのですが、ライブブラシの水彩を使ったときのにじみ表現がおもしろくて、今回はほとんど水彩ブラシだけで描いています。自分のなかでもあまりない、仕上がりになったと思います。描いていて本当に楽しかったです」

美大の同級生に刺激を受け、必死に表現を研究

いまのファッション、カルチャーを巧みに取り入れ、幅広い層から支持を受けるイラストレーター・りたおさん。その画力からは長い経験と研鑽の積み重ねを感じさせますが、実は2023年春に大学を卒業したばかり。りたおさんはどのように絵に触れ、イラストレーターへの道を目指すに至ったのか。お話を伺いました。

「小さな頃から、紙とペンさえあればずっと絵を描いていました。
本のように折って重ねた紙に、架空のキャラクターをたくさん作り出しては、オリジナルのストーリーを描いていく。そんなことばかりしていました。ただ、ちゃんと本の最後まで描き切った記憶はなくて……全部、途中で終わっているんですけどね(笑)。
小学生のとき、一番影響を受けたのは雑誌『りぼん』に掲載されていた前川涼先生の『アニマル横町』です。5歳の女の子と3匹の動物が登場するコメディ漫画なんですが、夢中になって読んでいたせいか、この頃はかわいらしいキャラクターばかり描いていたと思います。
中学生になってからは、等身の高いイラストを描くようになったのですが、そのきっかけになったのは、『アニマル横丁』と同じ『りぼん』で連載されていた村田真優先生の漫画ですね。村田先生の作品もすごく好きで、今のイラストにつながる最初のきっかけと言ってもいいかもしれません」

りたお|漫画

学生時代に描いた絵、漫画

好きな漫画はあっても模写は苦手だったというりたおさん。かわいい目の描きかたや、自然な髪の描きかたなど、描画のエッセンスを取り入れながら、自分の絵に反映させることで、徐々にイラスト技術が向上します。こうして熱心に漫画を読み、絵の研究をする……その背景には、りたおさんが叶えたい、未来の姿がありました。

「小学生の頃から、将来の夢を書く欄には一貫して、“漫画家”と書いていました。思い返すと、あの頃は絵を描く仕事=漫画家くらいしか知らなかったんですよね。
つけペンや原稿用紙を使って、本格的に漫画を描くようになったのは中学二年のときです。Twitterを始めてみたら、自分と同じように漫画家を目指す中高生がたくさんいることを知り、刺激を受けたこともきっかけのひとつでした。それからは、描いた絵をTwitterにアップするようになりましたが、当時はたとえ一人でも、見てくれる人がいるだけでうれしかったですね」

りたお|近作

りたおさん近作 (左:2023/右:2022)

中学・高校時代は、所属していた吹奏楽部の活動が忙しかったこともあり、まとまった創作時間が取れなかったと話します。
しかし、そのなかでも漫画家を目指す人たちと合同誌を作り、即売会に参加することもあったというエピソードからは、りたおさんが絵にかける情熱が窺い知れます。

「イラストや漫画を描くのは好きだったので、つらいと思うことはなくて。ただ単純に、“描きたいから描く”という感じでした。
ただ、漫画を描くとなると、一枚の絵を描くのとは違ってストーリーを考えて、同じキャラクターをポーズや視点を変えて、何度も何度も描かないといけませんよね。それがしんどいと感じることはあって、気づいたらいつの間にか、漫画ではなく、一枚絵で女の子の絵ばかりを描くようになってしまったんです」

りたお|高校時代の絵

りたおさんの高校時代の絵。中央はデジタルツール導入初期のもの

漫画を描く難しさに直面していたりたおさんでしたが、この頃から少しずつ、進む道に変化が訪れます。進路を考え始めた高校三年のとき、美術の先生に美大への進学を薦められたのです。

「その時点では将来何になろうとか考えていたわけではありませんが、絵を描き続けられるのならと、美大受験を目指して予備校に通い始めました。
それまで美術の授業のなかでしか絵の描きかたを学んだ記憶はなかったこともあり、予備校に入ってみるとみんな、絵もデッサンもすごく上手で。びっくりしましたね」

りたお|イラスト作品

no title(2020)

その後、りたおさんは多摩美術大学・グラフィックデザイン学科へと進学。さらに周囲から刺激を受けることになります。

「予備校でしっかり学び、自分は同級生の中でも結構うまいほうなんじゃないかなと思って入ってみたら、美大には絵がうまい人だけでなく、センスもある人がゴロゴロいて……完全に井の中の蛙でしたね。ただ、そのぶん“がんばらないといけない!”と思えるようになりました。
選んだのはグラフィックデザインの学科でしたが、在学中、デザイナーになろうと思ったことは一度もありません。ずっと絵を描きづけたい、それができる仕事に就きたいと考えていました」

りたお|近作

左:無題(2020) 右:Galaxy!(2020)

しかし大学在学中、不足の事態がりたおさんを襲います。新型コロナウィルスの蔓延により、授業がリモートに切り替わってしまったのです。

「家にいる時間が増えたことで、大学の絵のうまい子たちがSNSにこれまで以上に絵を上げるになったんです。すごく伸びている絵や、誰々さんのアイコンを描きました、何々の絵を描きましたという報告を見て、正直、うらやましくなって。それから、どうしたらもっと人に見てもらえる絵になるだろうかと真剣に考えるようになりました」

表現方法や構図、絵としての見せかたなど、試行錯誤を繰り返しながらSNSにアップする日々。
いいね!がついても多くて三桁。それ以上はなかなか伸びずに思い悩むなかで、2020年11月、大学二年生の秋に描いた一枚の絵が、大きな反響を呼ぶことになります。そして、それはりたおさんの将来を決定づけるものになりました。

「2020年の初めに“自分はまだまだ全然ダメだ、ヘタクソだ”と思ってから、とにかくいろいろな絵を見る、いい表現があれば試してみるという模索を必死に繰り返していました。いま思えば、悩みに悩んだ時間がちゃんと結果に結びついてよかったなと思っています」

この絵をきっかけにTwitterでもフォロワーが増え、仕事としての依頼が舞い込むようになります。
漠然と好きな絵を描くのではなく、いまの時代に受け入れられるものを描く。それはまさにプロとしての姿勢であり、イラストレーター・りたおさんが誕生した瞬間だったのかもしれません。

「ただ、この絵柄がバズったからと言って、この表現を自分のスタイルとして固定しようとも考えていないんです。最近ではどういう絵がSNSでは伸びるかという感触はつかめてはいますが、SNSの反応=イラストの評価というわけでもありません。SNSを過度に意識しないようにしています」

2023年3月、多摩美術大学を卒業したりたおさんは、クリエイティブスタジオ・THINKRに所属し、イラストレーターとしての活動を開始。表現をいまなおアップデートしながら、音楽のフィールドを中心にますます活躍の場を広げています。

りたお|クライアントワーク

左:ZONe ENERGYコラボレーションイラスト(2021) 右:花譜×可不「流線形メーデー」アートワーク/MVイラスト(2022) (c)KAMITSUBAKI STUDIO(2022) https://www.youtube.com/watch?v=Kua1N1PJD6k

質感が自然とついてくるAdobe Fresco

りたおさんの普段の制作環境はMacBook Pro+液晶タブレット。色の調整のためにAdobe Photoshopも併用しながら、絵を描いています。
iPadも使っているものの、イラストをiPadだけで仕上げたのは今回がはじめての経験だったそうです。

「Adobe Frescoはまずそのブラシの多さに驚かされました。本格的に描き始める前に、一通りのブラシを試してみたのですが、鉛筆、油彩、水彩、どれも質感がすごくリアル。ほかのツールと比べても、忠実にアナログ画材を再現している印象を受けました」

りたお|制作環境

りたおさんの制作環境

りたおさんは今回、Adobe Frescoならではの質感を活かし、いつもとは異なるタッチのイラストに挑戦しています。

「最初は普段と同じように描こうかと思っていたのですが、ライブブラシの水彩を使ったとき、そのにじみ表現が本当におもしろくて。今回は水彩メインで進めることにしました。
ブラシは線画には『水彩ラウンド 細筆』、ハイライトには『ハーフトーン4大』を使っているのですが、水彩の細筆は水に沿って色が流れていく様子も忠実に再現されるので、線のなかにも自然な濃淡がつくところがとてもよかったです。ハーフトーンのブラシは筆圧に合わせて、丸の大きさが変わってくれるのがすごくいい。オススメのブラシですね。
アナログでは失敗すると直すのが大変ですが、デジタルなら思うようにいかなかったときにいつでもやり直せます。その点でも、Adobe Frescoは手軽に水彩にチャレンジできるツールだと思いますね」

りたお|Fresco作業画面

イラストレーターにとって重要な線と塗りの質感。りたおさんはAdobe Frescoならではの魅力をどのように感じているのでしょうか。

「Adobe Frescoはブラシの質感が強いので、色を塗っていくだけで自然と質感がついてきます。いかにもデジタル絵というような、のっぺりした仕上がりにならないところがいいですよね。
新しいことにはどんどん取り組みたいと思っていますし、イラストの幅を狭めたくないとも考えているので、今回、Adobe Frescoの水彩ブラシでいままでにない表現に取り組めたのは、自分にとってもいい経験になりました。これを機に、iPadでイラストを描くときには、Adobe Frescoも使っていきたいと思っています」

りたお|のんふぃく!イラスト

のんふぃく!『FICTIONAL WORLD〜嘘にまみれたこの世界でこの愛だけは真実だ〜』キービジュアル/CL:imaginate(2022)

りたおさんはこの先、イラストレーターとして、アーティストとして、どのような道を目指すのでしょうか。今後の目標を聞きました。

「2022年にのんふぃく!さんとのお仕事で、描いたイラストを実際に衣装として再現してくださったことがあって、それがすごくうれしかったんです。ファッションと音楽、どっちも興味のある分野なので、服のデザインが実物になるような仕事があれば、ぜひまたやってみたいですね。
イラストでは、背景をめちゃくちゃ描き込んだものとか、ファッションにこだわったキャラクターデザインとか……これまでに描いたことのないものにもチャレンジしたいと思っています。
そのほかにも、いま力を入れているアニメーションにAdobe AfterEffectsを活用できないかとも考えていて……とにかくやりたいことがたくさんあるんです(笑)」

りたお|近作

no title(2021)

りたお
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