Premiere Pro、After Effects、Frame.ioでサラエボの紛争に光を注ぐ『Kiss the Future』

Still from the movie "Kiss the Future"

Image Source: Tribeca Film Festival

2023年のトライベッカ映画祭オープニングナイトでプレミア上映された映画『Kiss the Future』は、約4年に及ぶサラエボ包囲戦の中で創設、活動した地下コミュニティを追ったものです。ネナド・シシン=セイン監督のこの映画は、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争中のサラエボ市民の苦闘を描きました。中でも支援活動家ビル・カーターの決意がU2の関与につながり、危機への関心を集める役割を果たしたことを強調しました。映画の編集者であるエリック・バートン氏は、Adobe Premiere ProAdobe After EffectsFrame.ioを使用して、壊滅的な紛争を効果的に描写しつつヨーロッパの悲劇的な歴史の一場面を捉えています。

バートン氏は、複数拠点にまたがるチームでの作業に必要な、シームレスなコラボレーション機能を備えたAdobe Creative Cloudを選択しました。彼はPremiere Proで編集し、After Effectsを使用して魅力的なモーショングラフィックスとタイトルを作成しています。さらにチームは、Frame.ioでレビュー用のビデオリンクを共有、仮想的なライブ編集を行いました。

「Frame.ioは、2015年からずっと使っています。私のワークフローに欠かせないほどのメリットや、技術的に素晴らしいところがたくさんあります。最も恩恵があると思えるのが、タイムコードに紐づいたメモを作成できることですね。」とバートン氏は語りました。「プリプロダクションからピクチャーロック(オールラッシュ)まで、明けても暮れてもアドビ製品とつきっきりです。私は20年間アドビ製品を使ってきましたが、変える必要があると感じたことは一度もありませんでした。」

『Kiss the Future』は、6月7日に北米で公開されました。バートン氏の創造的かつ技術的なアプローチと、Creative Cloudを採用した映画の編集に、20 年間の経験をどのように応用したかについて詳しくお聞きしました。

映画製作者としての経験や、この業界に入ったきっかけを教えてください

初めて映画業界で働きたい思ったときのことを考えると、『グッドフェローズ』のレイ・リオッタの名言「物心ついたときから、私はいつもギャングスターになりたかった」を思い出します。 私の場合は「ギャングスター」ではなく「映画製作者」ですけどね。1980年代後半から90年代初頭の子供時代、友人と祖父母のショルダータイプのVHSビデオカメラを使って、有名なアクション映画の自作版を作ったりしてました。シカゴの大学で映画を学んだ後、小さなスタジオを持つドキュメンタリー映画製作者のグループに出会い、すぐに一緒にドキュメンタリーの制作を始めたのです。彼らと一緒に、ウィリアム・S・バロウズの人生についてのドキュメンタリー『A Man Within』を制作しました。これは友人のヨニー・レイサーが監督しています。また、1990年前後にロックバンドの伝記漫画を無許可で出版し、後に殺害されることとなった編集者についてのドキュメンタリー『Unauthorized and Proud of It』や、ナチス支配下のドイツから脱出し、連合国に参加して抑圧者に立ち向かったユダヤ系ドイツ人についてのドキュメンタリーを制作しました。10本のドキュメンタリー映画に携わり、広告代理店やリアリティ番組で働いた後、アーティスト、ロックンロール、戦争など、自分が経験のある分野に戻る機会を得られたのです。

どこでどのように編集を学んだのですか?

大学では、「ドキュメンタリー編集」という授業を受けました。ある演習では、ピグミー族を撮影した映像が詰まったディスクが与えられます。すべての音声は彼らの母国語なので、どのような言葉が話されているかを知らないままジェスチャーやイントネーションに基づいて編集を行い、視覚的にストーリーを伝えるというものでした。クラスでそれぞれの編集結果が上映された後に、実際の翻訳が明かされましたが、ほとんどの学生が筋の通った編集を行なっていました。それ以来、この種の視覚的なストーリーテリングが頭から離れません。

編集開始時にどんな準備/環境設定を行いますか?

ドキュメンタリーではあらゆる種類のソースからの大量のメディアを扱う必要があるため、私にとってのベストプラクティス(最適な方法)は、Premeire Proのプロダクション機能です。私、アシスタントエディター、プロデューサーなどのチームでそれぞれがプロジェクトを作成しますが、特殊効果、モーショングラフィックス、音楽、アーカイブ素材(アーカイブ内はさらにビデオ、オーディオ、静止画に分類)を共有できるので、プロジェクトの肥大化を防ぎ、大量のビン(フォルダ)をひたすらスクロールする必要もなくなります。

お気に入りのシーンと、なぜそれが特別なのか教えてください

数多くの印象的なシーンがありますが、一つだけ選ぶとしたら、クリントン大統領がデイトン和平協定の締結を通じて空爆を許可した瞬間でしょう。映画開始からそこまでの約1時間、話のテンポ、音楽、音響、編集は躍動的な勢いを持っていました。しかしついにNATOの介入が認可されると、それらがすべて減退します。控えめな音響、長引くショット、暗転。本当に何かが変わった瞬間だと感じられるシーンです。そしてこの場面を特別なものにしているのは、U2のボノが平和協定の現実を「蛍光灯の下で腐りかけのチーズサンドイッチを食べながら(*訳註:情緒に欠け、活力がない状態の比喩)交渉している取引だ」と説明するところです。ほろ苦いですね。

ポストプロダクションで直面した具体的な課題はありましたか?どうやって解決したのでしょう

ポストプロダクションでの最大の課題は、実際のところ撮影時の課題でした。早い段階で、監督のネナドとチームは、どのようにストーリーを伝えていくかを表現するのに「集合的記憶」という言葉を作り出しました。再現しようとしているストーリーや瞬間に対する、本物の反応を捉えたかったのです。その解決策として、メインカメラの下に大画面テレビを配置し、選りすぐりの編集映像を再生することにしました。私はいくつかの編集済みのアーカイブ映像(スロボダン・ミロシェヴィッチのプロパガンダ映像、U2とサラエボの衛星中継のモンタージュ、U2サラエボ公演から選りすぐった曲の編集)を用意し、インタビュー中に適切な場面で表示することにしました。参加者の多くはこれらの映像を以前に見たことがなかったため、驚くほど自然な反応を捉えることができました。

どのアドビ製品を使用しましたか? どうしてそれが最良の選択だったのでしょう

この映画はまさにCreative Cloudで制作されました。Premiere Proで編集、モーショングラフィックスやタイトルはAfter Effectsで作成、写真はAdobe Photoshopで修正、レビューと配布のための書き出しは全てFrame.ioで行いました。私は20年間アドビの製品を使用してきましたが、変更する理由はありませんね。

Frame.ioを使いましたか?採用した理由や活用法も教えてください

Frame.ioは、2015年からずっと使っています。私のワークフローに欠かせないほどのメリットや、技術的に素晴らしいところがたくさんあります。最も恩恵があると思えるのが、タイムコードに紐づいたメモを作成できることですね。

Premiere Pro活用のヒントを何かひとつ教えてくれますか?

パンケーキ編集!強くおすすめします。2つのタイムラインパネルを積み重ねて配置すると、そのひとつから別のタイムラインにクリップをまとめてドラッグ&ドロップできるため、ワークフローが飛躍的にスピードアップします。私はまずクリップを選択して並べ、音声をもとに調整し、さらにシーケンスで編集するのですが、タイムラインを重ねて配置すればバッチリです。非破壊型アッセンブル編集ですね。

あなたにとって、クリエイティブな刺激を与えてくれる人は誰ですか?

レス・ブランク(*訳註:ドキュメンタリー映画制作者)とアラン・ローマックス(*訳註:民族音楽の録音・蒐集家)のことは言うまでもありません。彼らはともに(レスはカメラ、アランは録音機器を持ち込んで)、音楽と文化を外部から干渉せずに記録するやり方を提示しました。ある瞬間を捉えるための、最も純粋な方法です。『Kiss the Future』では、ナレーションも改ざんもありません。語られるストーリーが、ピュアなものであることを目指しました。

これまでのキャリアで直面した最も困難なことを、どうやって乗り越えましたか? 意欲的な映画製作者やコンテンツクリエイターにアドバイスをお願いします

「心地悪さを心地よく感じよう」が私ができるアドバイスです。この映画のために以前の職を辞めることは、私のキャリアで最も難しい決断でした。何年もの間、安定した収入を得られるポジションでリアリティ番組の編集スーパーバイザーとして働き、LAからオクラホマシティに引っ越して、パンデミック中でも問題なくリモートで働いていたのです。しかし、この映画の機会が訪れたとき、安定した職を捨てて有限な仕事に就くことを選びました。私はチャンスをつかみましたが、こうしたリスクこそが成長し続け、上に進むのに役立つものであると言えます。

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この記事は2023年06月07日(米国時間)に公開された“Kiss the Future” uses Premiere Pro, After Effects and Frame.io to Shine a Light on Sarajevo’s Strugglesの抄訳です。