ヤナギリュータ「メカの質感もスムーズに描けるAdobe Fresco」Adobe Fresco Creative Relay 40
アドビでは毎月、Twitter上でAdobe Frescoを使ったイラストコンテストを実施しています。応募は簡単、Twitterで アドビ公式アカウント をフォローして、 #Frescoイラコン をつけてTwitterへ投稿するだけです。
7月のテーマは「初夏」。夏を感じさせるイラストをAdobe Frescoで描き、#Frescoイラコン をつけて投稿しましょう。そして、この企画に連動したAdobe Frescoクリエイターのインタビュー「Adobe Fresco Creative Relay」、第40回はイラストレーター・デザイナーとして活躍し、アニメ・エンタメの専門校 代々木アニメーション学院でも教鞭を執る、ヤナギリュータさんに登場いただきました。
「Machine Mermaid」(2023)
夏の砂浜に降り立つ鋼鉄のマーメイド
「わたしは普段から“なにをどう描いたらいいか”と悩まないタイプで、とにかく手を動かしながら連想ゲームのように思いついたものを描いていくのですが、今回も“夏といえば海”と決め、自身らしいモチーフとしてロボットの要素を取り入れようというふうに構成要素を考えていきました。
今回の作品『Machine Mermaid』は、水中にいた機械の生命体が、半分人体を得て陸に上がったものの、水中よりも温度が高いために排熱が大変でスカートの一部が赤熱している……という設定で描いたものです。入道雲は言わばテーマをわかりやすく伝えるための“季語”のようなもので、海に突き刺さしたオブジェクトは、現実とは異なる世界観をひと目で伝えるために配置しました」
イラストレーター、デザイナー、講師……3つの顔で活躍
義手、義足をつけた女性ではなく、ヒトの身体を得た機械生命体だった……今回のイラストに込められた設定の意外性は、見る人に予想外の驚きを与えると同時に、絵としての魅力にもつながっています。膨大な情報を詰め込み、近未来のSF的世界観で描かれたこの一枚からは、画力だけでは説明ができない、力強い説得力を感じることができます。
こうした絵の描きかた、考えかたをヤナギさんはどのようにして身につけたのでしょうか。その経歴から紐解きます。
「仕事で絵を描くときは、“わかりやすいものをちゃんと置いて、そこに要素をプラスしていくこと”が基本と考えていて、配置する要素それぞれに説明可能な理由を持たせるようにしています。
イラストにしてもデザインにしても、仕事では依頼主に対して自分のアイデアをプレゼンテーションをする必要がありますが、説得力のある説明ができないと企画は通りません。ごまかしも効きませんから、何を聞かれても理由を説明できるようにしておく必要があるんです。そうした経験が絵の構成や作画をするうえで活かされているのだと思います」
現在はおもにイラストのフィールドで活動をするヤナギさんですが、もともと目指していたのはマンガの世界でした。
「わたしは京都精華大学・ストーリーマンガコースを卒業をしたあと、マンガ業界で仕事を始めたのですが、続けるうちに、マンガの制作工程の中でも作画の部分が特に好きであることを再認識して作画をメインにしたいと考えるようになったんです。
そのタイミングで上京をしたのですが、すぐにイラストレーターとして活動を始められたわけではありません。最初はデザイナーのアシスタントとしておもちゃやプラモデルの仕事に関わり、そこでデザインやメカを描くノウハウを身につけながら、SNSを通してイラストを発表しているうちに、少しずつ、イラストの仕事もいただけるようになりました」
結果、ロボットやメカの造形力・表現力はヤナギさんにとって大きな強みとなり、カードゲームイラストやゲーム・アニメ等の武器や機械のデザイン、背景等を手がけるようになります。
ヤナギさんを特徴づける、このメカニカルな表現は、学生時代からなかば戦略的に取り組んできたテーマとも言えるものでした。
「大学に入ってすぐの頃は、ほかの学生と同じように人物キャラクターの絵ばかり描いていたのですが、ふと周りを見渡すと、ロボットを描いている人はいませんでした。この先、絵を仕事にするのなら、みんなが描いていないジャンルのほうが依頼に結びつきやすいのではないかと思って。それからロボットを描くようになったんです」
ヤナギさんが代々木アニメーション学院の授業のために描いたイラスト。各講師が得意分野を教えるイラストテクニックの授業で、メカの塗りかたをレクチャーした
ヤナギさんにはイラストレーターともデザイナーとも異なる、もうひとつの顔があります。
それが代々木アニメーション学院 クリエイター学部 イラスト科の講師としての存在です。数々の卒業生がヤナギさんの教えを受け、アニメーションやゲームの現場へと旅立っています。
「週に5日は代々木アニメーション学院で働き、帰宅後の可処分時間と残りの2日をイラストやデザインの仕事に充てています。学校で教えながらも個人の仕事を続けているのは、仕事を受けることが自身の画力向上にもつながりますし、イラスト・デザインの現場で活動を続けることが、学生の信頼にもつながると考えているからです」
ヤナギさんが代々木アニメーション学院の授業内でモニタに写し出しながら描いたお手本イラスト
ヤナギさんはすでにプロとして活躍しているにもかかわらず、画力向上やトレンドの把握には余念がなく、オンラインで海外でのイラストの描きかたを学ぶこともあるそうです。この尽きない向上心こそが、時代によって移り変わる“いま”の現場に受け入れられる絵を指導できる秘訣なのかもしれません。
「代々木アニメーション学院には早いうちからプロレベルの実力を身につける学生もいます。そういった学生の成長を見ていて、わたし自身、イラストレーターとして刺激を受けるんですよね。
授業でも先生と生徒という教える側、教えられる側という関係ではなく、同じイラストレーターとして接していて、“みんながまだ知らないことを知っているだけで、えらいわけじゃない。対等だよ”という話をしています。
ただ、“夏休みにどんな練習をすればいいですか?”と聞かれたとき、“わたしの経験上、500枚くらい描いたらもっとうまくなると思うよ”と言ってしまったこともあって。口調は厳しくしないようにしていても、話す内容の難易度は高いかもしれませんね(笑)」
代々木アニメーション学院卒業生・申惠潾さんが「初夏」をテーマにAdobe Frescoで描いた作品
代々木アニメーション学院を2023年に卒業し、ゲーム会社に2Dデザイナーとして就職した申惠潾(シンヘリン)さんは、ヤナギさんの指導を受けたひとりです。代々木アニメーション学院高等部で三年間学んだのちに企業への就職を目指すこのコースは、ゲーム・アニメ業界で仕事をするための最速ルートと言っても過言ではありません。
「イラスト科を出た学生の進む先はアニメーション会社、ゲーム会社等さまざまですが、とにかく一度、現場に入って経験を積むことが大事ということは伝えていて、授業でもそのために必要なポートフォリオ制作やプレゼンテーションの方法を指導しています。
申さんは入学時点では突出した絵の技術を持っていたわけではないですが、授業以外にも友人同士でノートを回して絵を描きあったり、切磋琢磨するなかでどんどん上達していきました」
申惠潾さんが一年次、入学後に描いた作品
申惠潾さんが卒業間近に描いた作品
入学後と卒業前、申さんが描いたそれぞれの絵を見比べてみても、代々木アニメーション学院での学びは画力の向上だけでなく、構図の決めかた、世界観の作りかたまで、多岐に及ぶことがわかります。
申さんにとって、代々木アニメーション学院での学びはどのようなものだったのでしょうか。印象に残っていることを聞きました。
「学生時代に一番印象に残っているのは、授業中や放課後に先生にいつでもイラストの相談に乗ってもらえたことです。
どうしていいかわからなくなってしまったとき、自分だけで悩んでいても解決しません。代々木アニメーション学院には、プロのイラストレーターの先生がいて、いつでも相談に乗ってもらえます。これはとてもありがたかったですし、うれしかったですね」(申)
意外性とランダム性があるAdobe Frescoのアナログ表現
ヤナギさん、申さんともに、Adobe Frescoを使うのは今回がはじめての経験。
普段とは違うツールにどのような印象を持ったのでしょうか。
「Adobe Frescoはリリースされたときからチェックをしていましたが、今回、あらためて使って感じた一番の特徴はやはり“アナログ感”です。
デジタルツールは“このツールを使えばこういう結果になる”ということがはっきりしていますが、Adobe Frescoはたとえばレイヤーが乾いているかどうかで描く結果が変わったり、水彩が予期せぬ色合いに変わることがあります。
『Machine Mermaid』では雲の部分にはライブブラシの水彩を使っているのですが、ランダム性のないデジタル的なにじみではなく、自然に色がぼけていくことで予想外の結果になっていくのがおもしろかったですね」(ヤナギ)
「Adobe FrescoはシンプルなUIでわかりやすいと感じました。
ペンの種類の多さにもびっくりしましたが、カスタマイズも自由にできて自分の描きやすいペンを作れるのはとてもいいですね。いつも使っているアプリにはない、水彩・油彩の色が混ざりあうときのリアルさにも感動しました。いろいろなペンで描きここちを試すのが楽しかったです」(申)
「最初から最後まで録画でき、軽快なタイムラプスも非常によかったです。
ツールによってはタイムラプス録画中は動作が重くなったり、アプリが落ちてしまったりすることがありますが、Adobe Frescoでは動作に影響なく、最後まで描くことができました」(ヤナギ)
ヤナギさんの制作環境。iPad Pro 12.9inchがぴったりと埋め込まれている。出先ではiPad miniと使い分け、イラストの仕事はほぼすべてiPadで完結
Adobe Frescoは今後、ふたりの創作にどのように活用されていくのでしょうか。
「Adobe Frescoは水分量を調節することでソフトな印象のイラストを描くこともできるので、今後、やわらかいタッチのイラストを描くとき、アナログっぽく描きたいときには、Adobe Frecoを活用したいと思っています」(申)
「デジタルツールは自分が思った通りに表現できるメリットがある一方、意外性を出すことはできません。予想外のものを作ろうとしたとき、Adobe Frescoのアナログ表現にあるランダム性は効果を発揮するのではないかと思っています。
完全にデジタルネイティブで絵の具すら使ったことない、でも絵の具を買って試すのも大変……そんな学生がいたら、ぜひAdobe Frescoを薦めたいですね」(ヤナギ)
ヤナギリュータ
web|https://www.ry99.space/
Twitter|https://twitter.com/yryuta99
代々木アニメーション学院|https://www.yoani.co.jp/