Premiere Pro|リスキリングでファン拡大を目指す音楽之友社のメディア展開

音楽之友社|メインカット

クラシック音楽の総合出版社として知られる音楽之友社は、雑誌『音楽の友』『ステレオ』『バンドジャーナル』『ムジカノーヴァ』から、音楽理論書・事典をはじめとした専門書籍、楽譜、学習用教材、教科書まで取り扱う、日本の音楽業界、音楽教育の支柱とも言える存在です。
ルーツをたどれば、1916年(大正5年)に創刊された『音楽と文学』までさかのぼることができ、その歴史は100年をゆうに超え、1941年に音楽誌・三誌が統合するかたちで、現在の音楽之友社が誕生しました。
出版社として紙媒体を中心に活動をしてきた同社はいま、webメディアやYouTubeも活用し、音楽の魅力をより多くの人に伝えています。

歴史ある出版社のなかで、webや動画に力を入れるきっかけは何だったのか。そして、Adobe Premiere Proを使い、動画編集を内製化した理由はどこにあったのか。広告営業を経てwebメディア立ち上げに関わり、現在は『バンドジャーナル』編集長を務める和田響子さんに話を聞きました。

音楽之友社|和田さん

株式会社音楽之友社『バンドジャーナル』編集長 和田響子さん

音楽之友社|バンドジャーナル

吹奏楽の月刊誌『バンドジャーナル』(発行:音楽之友社)

音楽出版社の強みを活かすためにPremiere Proで映像制作を内製化

和田さんは2007年、音楽之友社に広告営業として入社しました。
Adobe Premiere Proを使った動画編集の内製化に取り組むようになったのは2015年。広告営業からwebメディア編集部門に異動になり、対外的に企画を提案するだけでなく、コンテンツを作って拡散する側へとシフトしたタイミングでした。

「雑誌掲載だけでは広告の受注が難しくなるなかで、広告営業を担当していた頃からwebや動画と連動した企画提案を行なっていたのですが、動画制作に関しては社内にノウハウがないために、外注に頼らざるを得ませんでした。
クラウドソーシングも検討しましたが、自分たちが伝えたいこと、表現したいことを正確に伝える準備に時間をかけるのなら、自分たちで動画を編集できないか。そう考えたのが内製化のきっかけでした」

音楽之友社|ONTOMO

Webマガジン「ONTOMO」 https://ontomo-mag.com/

ここから和田さんは仕事の合間を見つけながら、動画編集のスキルを習得していきます。
本職とは異なる分野のスキルをあらたに身につけ、次の仕事に活かす……現在、人材教育の分野で注目を集める「リスキリング」を早くから実践していたと言えるでしょう。

「最初はMacやスマホにインストールされている無料の動画編集ソフトを試してみたのですが、思ったように編集ができなくて。映像を手がける知人にオススメのソフトを聞いてみたものの、教えてもらった有料版ソフトは会社への購入申請が通るとは思えませんでした。
そのとき、“会社で契約しているAdobe Creative Cloudに動画編集ソフトを見かけたな”と調べて行き着いたのがAdobe Premiere Proでした」

音楽之友社は雑誌・書籍の制作のほぼすべてがAdobe InDesignで行なわれており、Adobe Photoshop、Adobe Illustrator、Adobe Acrobatなどの各アプリが全社的に使われています。
すべてのアプリとサービスが利用可能なAdobe Creative Cloud グループ版コンプリートプランの契約があったからこそ、スムーズに動画編集ソフトを導入することができたのです。

音楽之友社|Illustrator

媒体資料や自社広告制作などに活用されているIllustrator

「豊富な動画編集機能があること、多くの現場で使われている実績があることはもちろんですが、会社の契約の範囲内で、追加コストなしで動画編集を始められるという点が、Premiere Proを使う、一番のメリットでした。
ただ、実際にPremiere Proをインストールしてみたものの、最初はまったく使いかたがわからなくて(笑)。参考書を買って読み、わからないところはチュートリアルやYouTubeで調べながら、少しずつ学んでいきました。実際使えるようになってくると、それまで試していたソフトに比べて、クリップのトリミングもスムーズですし、動作も軽快。効率が大幅に上がるのが実感できました。
結局、低コストで効率を求めて無料のソフトを使ったとしても、機能差があるぶん、時間は余計に取られてしまうので、Premiere Proに切り替えて正解だったと思っています」

音楽之友社|YouTube

YouTubeチャンネル「ONTOMO」 https://www.youtube.com/@ontomo7760

動画編集スキルの獲得と並行して、担当部署で和田さんが進めたのはコンテンツを届けるための魅力的なメディア作り。たとえ、webや動画と連動した企画を打ち出したとしても、その受け皿となる自社メディアの魅力を高めていかなければ、クライアントにとって価値ある提案にはならないと考えたのです。

「2018年にそれまでのwebメディア、オンラインショップを『ONTOMO』の名前で統一し、webならではの動画や音源を使ったコンテンツ配信、紙媒体との効果的な連動等を組み合わせながら、より多くの人にクラシック音楽の魅力を届けるメディアへとリニューアルをしました」

音楽を周辺の美術やカルチャーと絡めながら紹介する/紙媒体の誌面にQRコードをつけ、取材動画をwebで見られるようにする/同じテーマでも誌面ではコア向けに、webでは入門向けに書き分けてもらう/『ステレオ』誌の付録を元に作られたオリジナルスピーカーキットをオンラインショップで販売しつつ、これを作り上げる様子をYouTubeコンテンツにする……音楽出版社としての強みを打ち出す工夫の積み重ねにより、認知度も徐々に向上。紙、web、映像という3つのメディアが生み出すシナジーは着実な成果へとつながっていきました。

「全員がPremiere Proを使えるわけではないので、すべての映像編集を内製化できているわけではありませんが、自分を含め、Premiere Proを使った動画編集に積極的な社員もいるので、わからないことがあれば積極的に教えて、ノウハウを共有するようにしています」

リスキリングにより獲得した動画編集スキルは自身の仕事の幅を広げ、さらに会社全体の成果へとつながっていきました。その波はいま、ほかの社員へも少しずつ広がっています。

音楽之友社|MacBookProで動画編集

編集業務にも役立つPremiere Proの文字起こし機能

音楽之友社|PremierePro画面

YouTubeで配信中の『飯田有抄の「物語るオーディオ」』より

和田さんのPremiere Pro使用歴は8年を超え、配信コンテンツを作るために必要な、映像編集の基本スキルは十分なレベルに到達しています。それまでの映像編集ソフトとは異なる、Premiere Proの魅力をどのような点に感じているのでしょうか。細かい機能について聞きました。

「インタビューの音声と演奏の音のボリュームがまったく違うようなとき、Premiere Proなら自動で調整できますよね。そうした細かい点を挙げるとキリがないのですが、最近、特に便利だと思ったのがPremiere Proの文字起こし機能です。
たとえば、座談会の映像から映像コンテンツと記事を作るとき、文字起こし機能でテロップを入れて動画を作り、そこから抜いたテキストをインタビュー記事にするというような展開が、格段にスムーズにできるようになりました。
映像とテロップを合わせるのもそれまではとても大変でしたが、Premiere Proの文字起こしはタイミングも正確。精度も高いので、動画編集せずに、文字起こしのために使うこともあるくらいです」

このほか、インタビューで撮影した動画をPremiere Proで文字起こしを行ない、非公開設定でYouTubeにアップしておくことで、自分だけでなくライターさんもその動画とテキストをいつでも確認できるようにするなど、Premiere Proのスキルは、いま担当する雑誌編集の業務効率化にも貢献しています。

音楽之友社|PremierePro画面

文字起こし機能で生成したテキストを、エッセンシャルグラフィックスでテロップに仕上げていく/YouTubeで配信中の『田中彩子の対談連載「明日へのレジリエンス」』より

和田さんが動画編集で特に力を入れているのがテロップです。
Premiere Proの文字起こし機能で抽出されたテキストを、エッセンシャルグラフィックスとAdobe Fontsを駆使して、見やすく、わかりやすいテロップへと変えています。

「新型コロナウィルス感染症の流行以降、通勤・通学中に動画を見る人が一層、増えましたよね。
そのとき、音を出せなくても、伝えたいことが正確に伝わるように、フォントや文字の入れかたは常に工夫をしています。
フォントはAdobe Fontsからセレクトしていて、ベーシックなゴシック体をベースに、その時々でイメージに合うフォントを使うようにしています。“こういうフォントはないかな”というとき、Adobe Fontsのwebページで探してアクティベートすれば、すぐにPremiere Proで使えるようになるのは本当に便利ですね」

音楽之友社|スタジオ

社内には収録・配信設備も整う。動画編集の内製化に取り組んだことをきっかけに、web・映像コンテンツ制作の自由度は大幅にあがった

カーテンの前にいる 中程度の精度で自動的に生成された説明
図書館でパソコンを使っている男性 低い精度で自動的に生成された説明

“できること”がわかればアイデアも広がる

和田さんはいま、個人でもAdobe CCに契約し、Premiere Proを使った動画編集だけでなく、Photoshop、Illustrator、InDesignも活用していると話します。自らがクリエイティブツールを触れること、あらたなスキルを獲得する「リスキリング」に、どのようなメリットを感じているのでしょうか。

「写真でも動画でもデザインでも、人と一緒になって何かを作ろうとするとき、その分野に関する知識があったほうが会話がスムーズですよね。ツールに関しても同じで、ソフトの知識があれば、“ここはあとでこうすれば対処できる”と判断ができますし、“もっとこういうことはできませんか”と相談もできるようになる。“なにができるのか”を知ることで、企画のアイデアをさらに膨らませたり、より柔軟なコンテンツ制作ができると思っています。
そのためにも、小さなことでもとにかくやってみて、トライアンドエラーを繰り返していくことが大切なんですよね。たとえ、いまうまくいかなくても、次の発想、挑戦につながることがありますから。
昨年から担当している『バンドジャーナル』は紙が主体ですが、楽器演奏者のための動画は求められてもいるので、さらに効率化して取材時のお宝映像をこまめにだせるよう、挑戦していきたいと思っています」

株式会社音楽之友社
web |https://www.ongakunotomo.co.jp/
Webマガジン「ONTOMO」|https://ontomo-mag.com/
オンラインショップ「ONTOMO Shop」|https://ontomo-shop.com/
ONTOMO YouTube|https://www.youtube.com/@ontomo7760

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