インターセックスコミュニティを描いた映画『Every Body(原題)』の編集に、Premiere ProとFrame.ioが選ばれた理由
Image source: Kelly Kendrick/ “Every Body”.
性別とアイデンティティについての一連の議論では、インターセックス(性分化疾患)の人々の実情が無視されがちです。ドキュメンタリー映画『Every Body』は、彼らの経験をより多くの人の目に留まることを目指しました。性別二元論(訳註:ジェンダーバイナリ、性別を二分すること)に固執した世界に生きる3人のインターセックスの人々に焦点を当て、その苦闘と克服の物語を描いています。また、インターセックス運動の歴史も探求し、NBCニュースのアーカイブからの貴重な映像を取り入れることで、現代における彼らの待遇への理解を深めました。
アカデミー賞にノミネートされ、エミー賞を受賞したジュリー・コーエン監督(『RBG 最強の85才』(2018)、『私の名はパウリ・マレー 』(2021))は、二つの性別の間や外に生きる人々を丁寧に描写していく中で、斬新で特別な作品を生み出しました。この複雑なストーリーを語るにあたり、編集者のケリー・ケンドリック氏が助けとなり、登場人物の生の声を伝えると同時に、インターセックスコミュニティの歴史的な経緯を描写しました。
ケンドリック氏にとって、Adobe Creative Cloudは、未加工の映像から最終カットに仕上げるまで、全ての過程で欠かせない存在でした。Adobe Premiere Proは、ショットの選択や順序をランダムに試したり、セリフと映像にポップスやロックのサウンドトラックを同期させることができます。Frame.io は ポストプロダクション過程で重要な役割を果たし、複数の場所にいる同僚との共同作業やフィードバックの共有を可能にしました。
トライベッカ映画祭でのプレミア上映を前に、ケンドリック氏の編集スタイルに影響与えた個人的なものごとや、長らく無視され誤解されてきたコミュニティの感動的な物語を形作るのに、アドビのツールがどのように役立ったのかについてお聞きしました。
Image source: Kelly Kendrick
どこでどのように編集を学んだのですか?
オクラホマ州のタルサ大学に通っていました。いくつかのバンドで演奏していたので、友人とライブを撮影して短いビデオを編集してみたんです。自分は音楽専攻でしたが、1~2年後に映画を学ぶプログラムが発表されると、すぐに編集に興味を持ちました。そのクラスの学生に、自分が代わりに編集課題をやらせてもらえないか頼んでみましたが、断られてしまいました(笑)
編集開始時にどんな準備を行いますか?
作品によりますね。取材が主体の場合は、映像のすべてのフレームを見て魔法のような瞬間を見つけ、それを基にシーンを組み立て始めます。インタビューが主体なら、すぐに文字起こしを作成してシーンのラジオカット(訳註:音声主導の編集)を行いますが、初めは映像を気にしません。音楽はすごく重要なので、大量の音楽やサウンドトラックをビン(フォルダ)に入れていろいろ試します。何であれ、まずは自分をワクワクさせ刺激を与える小さな要素を見つけ、編集を始め、作品のスタイルを見つけていきます。通常のやり方にこだわりすぎないようにしています。すべての作品は違いますし、自分のワークフローに無理に合わせようとするよりも、適応する方が良いですね。
Image source: Kelly Kendrick/ “Every Body”.
お気に入りのシーンと、なぜそれが特別なのか教えてください
オープニングタイトルシーケンスは本当に面白かったです。50時間もの性別お披露目パーティー映像から見つけた素晴らしいシーンを、音楽に合わせてモンタージュにしました。人って可笑しい!映画の終盤、主要な登場人物が参加する抗議活動のシーンがあり、最終的には世界中の抗議運動を含むように拡がっていきます。世界中の人々が一つの目的のために団結している姿は、本当に壮大で感動的です。
ポストプロダクションで直面した具体的な課題はありましたか?どうやって解決したのでしょう
監督は早い段階で、アマンダ・ヤマテによるオリジナル曲とともに、人気のあるポップスやロックの曲のジェンダーを入れ替えたカバーバージョンを使うことを決めました。ぴったりな曲を見つけることと、その歌詞がシーンに意味を持ち、重要なつながりを持つようにするのは大変でした。さらに、シーンが編集中に常に変化していく中で、実写と台詞を歌詞と調和させるのはもっと難しかったです。また、エンディングクレジットでは、スクリーン上でダンスの類をするように頼まれましたが、これは間違いなく最大の挑戦でした。誰もダンスだとは思わなかったでしょうけど。。
どのアドビ製品を使用しましたか? どうしてそれが最良の選択だったのでしょう
自分が使いたい編集ソフトを選ぶことができる初めて機会だったので、Premiere Proを選択しました。プロジェクトが進むにつれてタイムラインは整理されていきますが、シーンを最初に組み立てる際には、バラバラにしてみるのが好きです。ジグソーパズルのように要素をシャッフルしたり、順序やショットの選択をランダムに試したりして、予想外の発見をしようとします。Premiere Proではそれがとても簡単にできるし、とても効率的です。自分はたくさんのシーンを取捨選択するので、複数のタイムラインを開いて作業できるところも素晴らしいと思っています。
Image source: Kelly Kendrick/ “Every Body”.
Frame.ioを使いましたか?その理由や活用法も教えてください
ほぼすべてがリモートで行われるようになった今、プロジェクトファイル全てではなく、タイムラインや作業中のシーンをFrame.io にアップロードすれば、簡単で迅速に共有できます。タイムコードとシンクしたメモを追加したり(訳註:コメント機能)、編集履歴をフォルダーに整理できる機能(訳註:バージョンスタック)により、迅速なフィードバックを得ることがとても簡単になりました。
Premiere Pro活用のヒントを何かひとつ教えてくれますか?
よく使う機能はキーボードショートカットを使いましょう、作業のスピードが格段に向上しますよ。私は、最小限のツールをできるだけ効率的に使用したいと思っています。例えば、キーボードの[ (クリップボリュームを下げる)、](クリップボリュームを上げる)を使うと、簡単にクイックな音量調整ができます。もう一つ、ショートカットのE(選択した編集点を再生ヘッドまで変更)もよく使います。オーディオを正確な位置に配置したり、フラッシュフレームを削除したり、ギャップを埋める作業を素早くシンプルで完璧に行なってくれます。あらゆる場面で使えますね!あ、複数のヒントになっちゃいました(笑)
あなたにとって、クリエイティブな刺激を与えてくれる人は誰ですか?
難しい質問ですね。。私は映画やドキュメンタリーをたくさん観ます。また、音楽を演奏したり、音楽を聴いたりするのに多くの時間を費やしています。自然と世界に興味を持ち、インスピレーションを積極的に求めることが私の作品に自然に反映されているのでしょう。言い逃れみたいですが、もし私がインスピレーションを挙げ始めたらキリがないですよ。オーケイ、もし可能なら、ジュリーの次の映画を編集したり、ポン・ジュノ監督の映画、あるいはライトセーバーが出てくる映画、あるいはアイアン・メイデンが登場する映画に携わってみたいですね。
これまでのキャリアで直面した最も困難なことを、どうやって乗り越えましたか? 意欲的な映画製作者やコンテンツクリエイターにアドバイスをお願いします
一番大変だったのは、家族や友人を置いてオクラホマからニューヨークに引っ越してきたことでした。ニューヨークにはたった一人しか知り合いがおらず、そこでどうやって始めればいいのか全く分からなかったんです。それは大きな恐れと信じる勇気を持っての一大決心でした。そんな私の一番のアドバイスは、編集ソフトウェアを学ぶのと同じように、映画製作のあらゆる側面、映画の技術やストーリーテリングについて学ぶことです。私は、好きな映画のメイキング映像を執拗に見ます。もちろん、編集ソフトウェアに堪能であることは大切ですが、映画制作者があなたを最終的に雇うのは、あなたの判断力と彼らが長年かけて作り上げてきた映像素材を意味のあるものにする能力です。経験を積んだら、人に遠慮せずに「これを編集してもいいですか?」と尋ねることを恐れないでください! 驚きの結果が待っていますよ。
あなたの仕事場の写真を掲載します。一番気に入っているところはどこですか?
Image source: Kelly Kendrick
シンプルさが気に入っています。スタンディングデスクの上にコンピューター、それだけ。集中できるように、デスクにはほとんど何も置きません。でも、休憩用のギターは近くに置いてあります。時々変える壁のアートも気に入っています。この写真には、妹が作った『羊たちの沈黙」モチーフの刺繍が写っていますね。
この記事は2023年6月9日(米国時間)に公開されたEditor Kelly Kendrick on why he chooses Adobe Premiere Pro and Frame.io to cut films like Tribeca’s “Every Body”, an uplifting story of the intersex communityの抄訳です。