自治体向け実践講座「SNS × デザイン | まちの魅力を伝える情報発信と制作のコツ」第 2 回開催レポート
「SNS x デザイン」をキーワードに、まちの魅力を伝える情報発信と制作のコツを自治体向けにお届けするオンラインセミナー「SNS × デザイン | まちの魅力を伝える情報発信と制作のコツ」の第 2 回が、2023 年 7 月 19 日に配信されました。サブテーマは「静岡県三島市 自治体職員だからこそつくれる SNS 動画を」です。
今回のゲストは三島市 企画戦略部広報課 課長補佐の田神 浩二氏でした。田神氏は、自治体から広く発信できるようになった今こそ、動画を通じて「水の都」三島の魅力をより多くの人に伝えたいと、さまざまなプロモーションに取り組んでいます。
三島市 企画戦略部広報課 課長補佐 田神 浩二氏
市職員だからつくれる動画がある
田神氏が、初めて本格的な動画制作に関わったのは 20 年前です。広報課に配属されて、主に CATV 向けの動画制作を 5 年間担当しました。経験のない所から見よう見まねで撮影や編集を覚えたそうで、イベントの取材がある程度できるようになってからは、より注目される動画を目指して TV の特集番組のような企画を立て、脚本から撮影、そして編集まで手掛けるようになりました。
毎日のように動画をつくり続けて田神氏が学んだことは、「市職員だからつくれる動画がある」でした。田神氏は、自治体の動画には、町に対する想いが絶対に必要だと言います。日々動画制作に関わり続ける中て、田神氏は様々な気付きを得る機会に出会ったそうです。そのように培われた感性を映像として表現できるのは、市職員だけだというわけです。
「動画制作を委託することもありますが、想いやこだわりを伝えるのは本当に大変です。もちろん、業者さんは本当に一生懸命作ってくださるんですが、職員でなければ分からない感覚を映像として表現するのであれば、職員が自ら手掛けた方が良いものになると思います。技術的なところは劣るかもしれませんが、見た人に伝わるものは、その方が大きいんじゃないかなと思うんです」と田神氏は語りました。
田神氏が撮影した三島市の水辺の風景
市職員だから撮影できる映像がある
その後、街づくりや移住促進の仕事を経て、田神氏は再び広報課に戻ります。現在、田神氏が目指しているのは、市民が自分の町に誇りを持てる映像、他の町の人に自慢したくなるような映像です。三島の湧き水は富士山からの贈り物であると田神氏は語ります。その素晴らしさを映像で表すために、田神氏が欠かせないと感じているものが、三島から見える綺麗な富士山の映像です。例を挙げれば、雲一つなく晴れて、空気が澄んでいる瞬間の富士山です。
「地元に住んでいると、同じ富士山でも今日は特別にきれいだなと思う時間があります。そんな風景を、今すごく景色がいいからといって、すぐにその場に業者さんを呼ぶのは難しいと思います。天気予報を見て天候のよさそうな 2 日間撮影をするという条件で委託したことがありますが、出来上がった動画は、富士山に雲がかかった状態のものだけでした。結局、私が絶好の撮影日和に撮ったドローン映像を使用しました」
撮影に適した時間は限られます。その土地に暮らす市職員だから撮影できる映像があることを学んだと田神氏は語りました。「良い映像を撮りたいという少しの気持ちを持った職員であればできることだと、私は思います」
田神氏が撮影した富士山の映像
SNS で自治体から全国に発信できる時代
20 年前は、地元の CATV を通じてしか配信できなかったため、市外や県外へのプロモーションへの動画活用に限界を感じていたという田神氏ですが、2 回目の広報担当になって、広報の仕事が変わった、以前とは違うと思ったそうです。その理由は、SNS を用いた情報発信ができるようになったことです。
「首都圏の主要駅にポスターを張っても効果測定をすることはできません。しかし、SNS で配信すれば、何人が見て、何人が行動に移したかを明確に把握でき、次のプロモーションにつなげられます。これからの自治体において、動画を制作し、見ていただいて、効果測定する、すなわちデジタルマーケティングが重要な仕事であることは間違いないでしょう」
特に、短い時間で大量に情報を伝えられる動画は、ソーシャルメディアで効果的だと言われています。「三島市の公式 YouTube チャンネルでは、三島に行きたい、三島に戻りたい、三島に住みたいと思ってもらえる映像を公開して、より多くの人に届けるために、試行錯誤をしているところです」と田神氏は話しました。
三島市公式 YouTube チャンネル
動画制作のヒント
セミナーの後半では、田神氏が動画制作の際に配慮している点が 7 つ紹介されました。ここからは、スクリーンショット付きで、それぞれのポイントを紹介します。
1. ピンマイクを使う
音はすごく重要で、声が聞きとれないと見られない動画になってしまうと田神氏は言います。そのため、インタビューでは、ピンマイクを常に使って撮っているそうです。
取材相手の胸にピンマイクがついている
2. カメラは基本 2 台用意する
一人で撮影しているため三脚で固定した状態ではありますが、田神氏は撮影場所にカメラを 2 台持ち込みます。これにより、ただ話しているだけの場面でも、カメラを切り替えて変化を演出することができます。
寄りのカメラの映像
引きのカメラの映像
3. シナリオを基に撮影する映像を決める
取材をするときは、事前に打ち合わせを重ねてシナリオを完成させ、それを基に、この箇所はこの場所でこういうカットでと決めて、それから撮影に臨んでいます。
4. テロップの活用
説明を見ている人にはテロップがあった方が分かりやすいという理由で、田神氏はテロップを使った演出を多く取り入れています。また、タイトルなども、場面や状況を説明する目的で活用されています。
テロップが付いた映像
5. イラストや写真の挿入
単に話しているだけの映像が続くとつまらないものになってしまうため、場面に合わせて、イラスト、写真、ショート動画などを、少し多いくらい差し込んでいるそうです。使用する素材は、田神氏が自分で撮影した写真や、他部門の資料から流用したデータなど、臨機応変です。
水道課のパンフレットから再利用したイラスト
6. ドローンやアクションカメラの活用
映像が単調にならないための対策として、ドローンやアクションカメラで撮影した映像も利用しています。カメラ側が動く映像を差し込むと、変化をつけたり分かりやすくしたりできて、少し入れるだけでも効果があるということです。
ドローンで空中から撮影した映像
アクションカメラで水中撮影した映像
7. 時期や天候を考えながら素材を録画
日常の風景を撮影するときは、いつ行けばより良い映像が撮れるかを判断して、その場にいた人と交渉しながら撮影します。そのため、インタビュー動画とは異なって、最初から完全な構成があるわけではなく、現地で素材を探しながら、最終的にどういう構成にするかを現場で組み立てています。
水辺で和む市民の姿を撮影させてもらう
Adobe Premire Pro の活用方法
田神氏が動画編集に使用しているのは Adobe Premire Pro です。セミナーの最後は、田神氏が Premire Pro を使った編集の課題に感じている点について、アドビ マーケティング本部 教育市場部 デザイナー 近藤 祐爾からのアドバイスでした。
1. 場面転換効果の使い方
田神氏は、テロップが徐々に消えるエフェクトや、意図的に暗転を長めに入れた場面切り替えを利用していました。後者は、撮影場所が変わる場面で、それを強調するために使ったそうです。
近藤は場面転換効果の使い方が難しいことを指摘した上で、「場面転換は多用しがちになりますが、本当にそこに場面転換効果が必要なのかを見極めることが大切です。『ここから後が違う』ということを伝えるしっかりとした意図があって暗転を入れるのは分かりますが、そうではないところでは注意しましょう。ここぞというところでしっかり使うのが大事だと思います」と述べました。
まず、映像が暗くなる(右側が再生中の動画)
次に画面が黒だけになる
次の場所が少し見え始める
2. 説明用テキストの配置とタイミング
次に近藤が指摘したのは、撮影場所を示すために、映像の右下のスペースに配置された説明用のテキストです。具体的には、位置が微妙に揃っていないことと、表示時間が短いことです。
「初めてこの場所を見た人が、ここはどこだろうと思った時に表示が消えていたら、その情報は分かりません。ですので、もっと見せていいと思います。それから、右側に配置するテキストは、右揃えになっていないと違和感が出てしまいます。そうしたレイアウトを意識すると、さらに演出が引き立つかなと思いました。テロップやタイトルは、表示されていると見てしまうものです。撮影の素材だけでなく、引き立て役のアイテムも、最終的には閲覧を決める大事な要素になることを意識して技術を磨くのがよいと思います」
右下のテキストと右端が近い
右下のテキストが右端から少し離れている
3. 複数メディアを意識した配置
田神氏の動画は、CATV と YouTube 両方への配信を意識して制作されています。そのため、YouTube で見たときに、画面が間延びして見える場面があることを近藤は指摘しました。CATV では隠されている左右の領域が YouTube では見えるため、それぞれの印象が異なるのです。
「撮影時、富士山や池がうまく映るように工夫されていますが、タイトルの場所の追い込み方にもうちょっと工夫がいると思います。その場その場で変わるものなので、一概に言えないものではありますけど、画角の異なるメディアに出すのであれば、あえてセンターを狙うとか、そういったことにも意識が向いていくと、より良いものになると思いました」
タイトルの右側に少し大きめのスペースができている
田神氏が使用している Premiere Pro を含めた Adobe Creative Cloud 製品と Adobe Acrobat には、官公庁及び自治体向けに、オフラインの環境でもご利用いただけるライセンスが用意されています。導入を検討されている方は、ぜひこちらのページを参考にしてください。
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