自治体向け実践講座「SNS × デザイン | まちの魅力を伝える情報発信と制作のコツ」 第 3 回 - 季節ごとの街を魅せる写真編集

「SNS x デザイン」をキーワードに、まちの魅力を伝える情報発信と制作のコツを自治体向けにお届けするオンラインセミナー「SNS × デザイン | まちの魅力を伝える情報発信と制作のコツ」の第 3 回が、2023 年 8 月 23 日に配信されました。サブテーマは「兵庫県川西市 季節ごとの街を魅せる写真編集」です。今回のゲストは兵庫県川西市 一般財団法人川西市まちづくり公社派遣 マネージャー・事務局次長の池田 次郎氏でした。

広報担当になったとき、写真撮影に関しては全くの初心者だったという池田氏は、仕事で一緒に出掛ける機会があった新聞記者や、周りの自治体の広報担当とのつながりを通じて カメラやレンズの使い方を学んだり Photoshop のレタッチを学んだりしたそうです。

兵庫県川西市 一般財団法人川西市まちづくり公社派遣 マネージャー・事務局次長 池田 次郎氏

広角レンズと望遠レンズの特徴を活かす

最初に紹介された作例は、広角レンズと望遠レンズそれぞれの特徴を活かして撮影された2枚の写真です。

広角レンズは、その名の通り画角が広いレンズで、フレーム内に多くのシーンを収めることができます。また、近いものはより大きく、遠いものはより小さく写るという特徴を持っています。

広角レンズで撮影した桃の花

上の写真は、池田氏が 10 - 20 cm くらいまで寄って撮影した桃の花の写真です。被写体に近づくことで遠近感がより強調されるという広角レンズの特徴を活かし、背景の桃畑をフレームに収めつつ、左上の主役を背景から際立たせた写真です。

望遠レンズは、遠くのものを大きく写せるレンズです。ピントの合った範囲以外がボケやすくて、深度が浅いために余計なものが写らないという特徴を持っています。下の写真は、紫色の花の前後のボケが幻想的な印象を演出し、背景には先ほどの桃園がうっすらとピンク色に見えています。主役であるムスカリの花以外ができるだけボケるように構図を考えて、池田氏が撮影した写真です。

望遠レンズで撮影したムスカリの花

「これは深度を稼ぐために、被写体から離れて撮りました。そして、背景もできるだけ遠いものを選んでいます。被写体から背景までの距離が十分にあると、背景が奇麗にぼけると思います。また、被写体から離れて撮ると、前方をぼかすことができます」と池田氏は説明しました。

ムスカリの花は、桃畑を広角レンズで撮りに行った現場で偶然見つけて撮影したものだそうです。取材に行くときは、どんな被写体に出会うか分からないため、狙っている画角以外のレンズも持っていくことを池田氏は推奨しました。

複数の写真を合成して賑やかな花火を演出する

次に紹介された作例は、夏の花火です。撮影に使用されたのは望遠レンズで、会場を俯瞰する構図が特徴的です。華やかさを演出するために複数の花火の写真が合成されていて、より印象的になるようにレタッチも施されています。

広報用の素材として制作された花火の写真

上の画像の背景は、2 枚の写真からつくられています。1 枚は、花火が上がる直前の僅かに太陽の光が残っている写真、もう 1 枚は、日が落ちて高速道路のオレンジ色の照明が写っている写真です。前者は空の色を表現するため、後者は夜の街並みを表現するために、時間をずらして 2 回に分けて撮影しました。この 2 枚の写真を組み合わせて、全体を少し明るくしたのが下の画像です。

空と街並みは別々の写真を使用

合成した背景に、仕掛け花火の写真を足した状態が下の画像です。煙が少し出てしまっているため、明るさを下げて煙の色を消したのがもう一つ下の画像です。

仕掛け花火を合成

明度を落として煙を隠す

さらに、花火のボリュームを上げるために、違うタイミングで打ち上げられた仕掛け花火を重ねたのが下の画像です。このように、使用したいパーツを一つずつ重ねて演出が行われています。

さらに仕掛け花火を追加

上の写真に、一番高く上がった打ち上げ花火を追加して完成したのが、最初に紹介した花火の画像です。このように複数の写真を重ねて一枚に仕上げる方法は、花火の明るさや街の灯りとのバランスなど、気になる点を個別に調整しやすくなることがメリットだと池田氏は話しました。

花火の撮影では、大体 5 - 6 秒ぐらいの露光で、打ち上げ一発分を撮影しているそうです。また、絞りは 11 程度で撮影しているそうです。ただし、花火の明るさがそれぞれ違うため、明るくなり過ぎる時もあることは念頭に置いて撮影に臨むべきだと池田氏は忠告しました。下は、露光しすぎて白くなってしまった花火の例です。

花火が白くなってしまうのはよくあること

また、花火の撮影における事前のロケハンの重要性を池田氏は指摘しました。「風向きによって煙が手前に来ると、煙が写り込みやすくなります。その時期にどの方角から風が吹きやすいかを考えておくといいと思います。南と北の両方とか、何カ所かに撮影担当者を分けると安心です」

今回の撮影場所を選択した理由については、「この写真は、遠くの山から望遠で撮っていますが、バックには伊丹空港が入っていますし、遠くに大阪も写っていて、どこでやっている花火かというのがとても分かりやすいと思います。海や山でやる花火大会との違いを出せていると思います」と語りました。

記憶に合わせて紅葉の風景をレタッチ

次の作例は、奥行きを持った紅葉と灯篭が、秋の風景を幻想的に演出している写真です。これは、1 枚の写真をレタッチして、記憶していた絵に近づけるように仕上げた作例です。

レタッチして記憶に近づくように演出された写真

下の画像が、実際に撮影された写真です。「記憶ではもっと赤かったはずだが、全体的に黄色みがかかったあっさりした色合いになった」と池田氏は感じたそうです。

実際に撮影された写真

全体の彩度を少し上げた後に、見せたいところ以外の明度を落としたのが下の画像です。効果をかける部分を指定するために、Photoshop のレイヤーマスク機能が使われています。レイヤーマスクを使うと、マスクの白い所だけに効果をかけることができます。

レイヤーマスクを使ってコントラストを調整

マスクの白い部分だけに効果をかけることができる

上の画像のように、ブラシでレイヤーマスクをかけたい箇所を指定すると、木はこんなに見えてなかったと思ったら、その部分だけ暗くできます。地面は一面紅葉の絨毯だったと思ったら、手前を暗くして紅葉に覆われていない場所を隠せます。もっと明るかったと思う部分があれば、その個所の明度を上げることもできます。こうした補正作業を繰り返して、池田氏は写真を自分の持っていた印象に近づけました。

最終的に、コントラストと彩度を整えたものが下の写真です。かなり幻想的な雰囲気になっています。さらに、赤のフィルターを全体にかけたものが、最初の紅葉の写真です。比べてみると、派手になり過ぎないように、柔らかくかけられていることがわかります。

さらにコントラストと彩度を調整した

「この写真撮影のポイントの一つは、紅葉の絨毯ができるタイミングを狙って撮影に行っていることです。紅葉の時期だからというだけで、これほど印象的な風景に出会えるわけではありません。この瞬間を待ち続けられるのは、地元ならではです」と池田氏は話しました。

ドラマチックに滝の写真を演出

最後の作例は滝の写真です。水の反射を強調するために、カメラをできるだけ低くて構えて、わざと逆光で撮っています。また、滝の糸のような質感を出すために、長時間露光による撮影をして、明るくなり過ぎないように ND フィルターを使用しています。

池田氏はこの写真を撮るために、朝日が出るタイミングを見計らって撮影場所に出かけたそうです。「朝日とか夕日の時が 1 日で一番コントラストが高い状態なので、水のような被写体には透き通った明るめの色が出て、陰の部分はより暗くなります。そういう時間帯を狙いました」

朝日が出る時間帯を狙って滝を撮影

この滝の写真も、合成とレタッチにより仕上げられられたものです。ベースになっているのは、朝日が出たばかりの空が写っている写真と、空が明るくなって滝がはっきりと写っている写真の 2 枚です。この 2 枚を、レイヤーマスクを使って合成して、狙ったイメージをつくり出しています。

朝日が出たばかりの空の写真

滝がはっきり見えるくらい明るくなった頃の写真

上の2枚の合成写真

合成した画像を見ると、太陽が少し暗すぎて、水面は少し明るすぎるようです。これをカバーするために、池田氏はレイヤーマスクとブラシを使って明るさの調整を行いました。滝の質感にも、ブラシで細かく明るさの調整が行われています。

明るさをパーツごとに細かく調整

記憶では空はこんなにくすんでいなかったということで、青みを加えるためのブルーフィルターを追加したのが下の画像です。ここでもレイヤーマスク使って、空だけにかかるよう工夫されています。

空に青みを加える

最後に、朝日が出ている印象を強めるために、太陽の反射の色のオレンジ色のフィルターを水面にかけています。そうして完成したのが最初の滝の写真です。

この滝を流れているのは、実際には茶色がかった水です。それをどう撮ったら綺麗に見えるか、時間はいつがいいか、レンズは何がいいかを事前取材して確認すること、さらに、レタッチの技術が少しあるだけで、全然違う写真になると池田氏は語ります。「写真の魅力でもあると思うんですけれど、光の入れ方、場所、時間帯、そういう条件によって、同じ被写体でも全然印象の違うものが撮れます。しっかり撮るのも大事ですが、撮影とレタッチとのバランスがすごく大事だと思っています」

別の場所から別の時間帯に撮影した同じ滝の写真

写真撮影とレタッチの学習コンテンツ

周囲の自治体の担当者とのつながりで写真の技術やレタッチの技術を学んだ池田氏は、横のつながりを大切にしています。昨年 9 月には、全国の自治体で広報担当をしている仲間たちと「自治体広報 LAB」という Facebook グループを始めました。写真の撮り方、広報紙面のつくり方、SNS 発信のコツなどが毎週投稿されるグループです。

また、池田氏が個人的に撮影やレタッチの方法を動画で解説している YouTube チャンネルもあります。「Photo&Design(フォトアンドデザイン)で一度検索してご覧いただければ」と池田氏は話しました。

池田氏からは Photoshop を使ったレタッチ方法を紹介していただきましたが、昨年配信した「広報誌 + SNS 活用のための写真術」というセミナーでは、Lightroom を使った写真活用の事例が紹介されています。それぞれのアプリに異なるメリットがありますので、ご興味のある方は、オンデマンド視聴をお申し込みください。

Photoshop や Lightroom を含む Adobe Creative Cloud 製品と Adobe Acrobat には、官公庁及び自治体向けに、オフラインの環境でもご利用いただけるライセンスが用意されています。導入を検討されている方は、ぜひこちらのページを参考にしてください。