作って放置にならないためのコンテンツ戦略はじめの一歩 | Design Leaders Collective
Design Leaders Collectiveは2022年4月から開催しているエンタープライズで働くデザイナー向けのマンスリーイベントです。スタートアップ、制作会社、代理店など組織体制や規模によって抱える課題は様々。本イベントでは、エンタープライズで働くデザイナーが直面する課題の情報共有とディスカッションを目的としています。
UIデザインやUXデザインの文脈で「コンテンツ」という言葉が出てくると、ラベルやマイクロコピーを指すことがあります。ユーザーの目的達成にとって重要な要素ですが、長期的な成長を見越してデジタルプロダクトデザインを計画する際には、場当たり的な対応では長続きしません。ステークホルダーとの戦略の整合性を考慮しながら、持続可能なコンテンツ作成と運用を計画しなければなりません。このような包括的なアプローチを「コンテンツ戦略」と呼びます。
Web でのコンテンツ戦略は、専門職であるコンテンツストラテジストによって培われた 10年以上続く分野です。今回は、日本でコンテンツストラテジストとして活躍している株式会社コンセントの小田恭子さんを特別ゲストに招き、コンテンツ制作と運用に関連する課題と対策を参加者と共有しました。
もくじ
- コンテンツ戦略にある四つの柱
- ステークホルダーとの認識を合わせる
- コンテンツインベントリからはじめよう
コンテンツ戦略にある四つの柱
戦略という言葉を聞くと意味が広すぎて何をすれば良いか分かり難い側面もあります。Brain Traffic’s Content Strategy Quad によると、コンテンツ戦略は4つの柱に分けられます。全てを実践しようとしないで、組織規模や責任範囲を考慮しながら、どの柱に取り組むか考えると戦略設計が始めやすくなります。
良いコンテンツを生み出すための設計(上部)と、コンテンツ配信のためのシステム設計(下部)に分類できます
- エディトリアル戦略:コンテンツのスタイルやトンマナを設定します。これにより、メッセージに一貫性が保たれ、ターゲットユーザーの好みとニーズに合わせることができます。
- エクスペリエンスデザイン:誰のためにどのような体験を提供すべきか。そして、カスタマージャーニーの文脈に合わせて適切なコンテンツフォーマットを検討します。
- コンテンツ構造:メタデータ、SEO、プラットフォーム全体でのスケーラビリティなど、コンテンツの技術的な側面に焦点を当てます。
- プロセスデザイン:コンテンツの作成、公開、更新、アーカイブといったコンテンツサイクルを支えるワークフロー設計と人材育成が含まれます。
ユーザーは、ソーシャルメディアや電子メール、モバイルアプリ、Webサイトなど、さまざまなチャンネルを通じてブランドと関わります。ただ、Webサイトに載せているコンテンツをそのまま他のチャンネルに使おうとしても、形式や文脈が合わないことがあります。それぞれのチャンネルに合ったコンテンツ形式で配信できるのが理想ですが、限られたリソースのなかで計画を立てるためにはコンテンツ戦略は欠かせない存在です。
ステークホルダーとの認識を合わせる
効果的なコンテンツ戦略には、ステークホルダーとの認識共有が不可欠です。株式会社コンセントの小田さんは、以下の4つの認識を合わせるために、ペルソナやカスタマージャーニーマップなどいくつかの手法を紹介していました。どの認識を合わせたいのか考えることで、手段も選びやすくなるでしょう。
- ビジネスゴール:すべてのコンテンツは、組織的な目的と整合性を持つようにすべきです。ユーザーのためだけでなく、事業全体の目的におけるデジタルコンテンツの位置付けを明確にする必要があります。
- ターゲットユーザーの理解:ターゲットの認識のズレが判断のズレにつながることがあります。コアターゲットは誰なのか、ニーズやタッチポイントは何か明らかにします。
- 優先順位付け:時間と予算が限られているため、時には厳しい選択を迫られることがあります。基本方針は何で、あえて今は優先順位を落とすことは何か合意をとります。
- 方針策定:タッチポイントを増やす方法や、特定チャネルでの情報量を増やす方法など、認知獲得だけでも進め方や作り方が方針によって変わってきます。
上層部からプロジェクトに関わる現場の社員まで、皆が同じ理解を共有できる状態になれば、長期計画の実現性が高まります。持続可能性と成長のために不可欠ですし、上記した認識を合わせることで、どのようなサポートやツールを用意すると実現するのか考えやすくなります。
出典:株式会社コンセント「企画の方針を決める基本のワーク」資料より
コンテンツインベントリからはじめよう
ステークホルダーとの期待値を合わせたコンテンツ戦略を立てる最初のステップとして、既存のコンテンツと現状を把握する必要があります。コンテンツインベントリは、Webサイト、またはアプリケーションに関連するさまざまなプラットフォームやチャネルで利用可能なコンテンツのカタログです。インベントリには通常、下記のような情報が含まれます。
- タイトル
- URL
- 見出し
- メタデータ
- ページビュー
- 更新日
こうした情報を表にまとめることで下記の分析がしやすくなります。
- 重複情報や古いコンテンツの識別
- 新しいコンテンツが必要な箇所や欠落部分の発見
- ターゲットユーザーのニーズとコンテンツのギャップ
- 文字数のブレやトンマナの違いなど運用上の課題の仮説立て
コンテンツインベントリの例
コンテンツが常に理想的な状態に保たれるとは限りません。時間が経つと人々も入れ替わり、方針も変わります。大規模なWebサイトでは、関係する部署や関係者が多く、それぞれが異なる目標を持つことがあります。それらをまとめないで放置しておくと、徐々にWebサイト内の活用されないコンテンツが増え続ける『箱』のような存在になってしまいます。
エディトリアル戦略、エクスペリエンスデザイン、コンテンツ構造、プロセスデザインを包括的に計画しなければ実現は簡単なことではありません。まずは、コンテンツインベントリを通してコンテンツ制作や運用でどのような症状があるか調査してみてください。なぜインベントリで示されているような状況を生み出しているのか原因追及するとき、エディトリアル、体験、コンテンツ構造、プロセスの観点から紐解けるはずです。 「なぜ今のような状態になっているのか?」という問いかけが、小さくても効果がある活動は何かヒントを見つけるキッカケになります。
コンテンツ戦略は、UI要素の領域を超えた、UXデザインにおいて不可欠な要素です。多チャネル化が進むコンテンツ配信とユーザーのニーズに適応するために、ステークホルダーとの認識を合わせた計画が不可欠です。複雑かつ長期戦ですが、ユーザーとステークホルダーの両方に深く共鳴する体験を作成するには避けては通れません。持続可能な仕組み作りも求めらているので、まずはコンテンツインベントリから始めてみてください。