小井詰さちよ「手書き文字もすぐに素材に。絵+デザインに使えるAdobe Fresco」Adobe Fresco Creative Relay 43
アドビでは毎月、X(Twitter)上でAdobe Frescoを使ったイラストコンテストを実施しています。応募は簡単、X(Twitter)で アドビ公式アカウント をフォローして、 #Frescoイラコン をつけてポストするだけです。
10月のテーマは「旅」。山が色づきはじめるこの季節に紅葉や秋の花を求めて旅に出る人や、旬の食材、温泉を楽しむために旅行を計画する人は多いのではないでしょうか。そんな旅への期待や、今年の旅の思い出をAdobe Frescoで描き、#Frescoイラコン をつけて投稿しましょう。
そして、この企画に連動したAdobe Frescoクリエイターのインタビュー「Adobe Fresco Creative Relay」、第43回は旅の情報サイト・TABIPPOでデザイナーを務める、小井詰さちよさんに登場いただきました。
旅の楽しみはパッキングから始まる
「今年の夏、タイのタオ島という島に行ったのですが、そこの海がとてもきれいだったので、“旅”というテーマをいただいたとき、その思い出を描こうと思っていました。
でも、描きながら“旅の魅力ってなんだろう”とあらためて考えるうちに、旅そのものよりも、旅立つ前の様子を描くほうが、旅への期待や高揚感を表現できるんじゃないかと思い、今回のイラストを描きました。
個人的に旅行に持っていく荷物をまとめるパッキング作業がすごく好きなんです。旅をすると決まったときから、向こうではこういう服を着よう、これもあったら便利かな、このカメラを持っていこう……一ヶ月くらい前から準備をしています(笑)。わたしにとって旅の楽しみは、パッキングのときから始まっているんですよね」
自分のルーツに触れたい。その想いから日本の美大へ
さちよさんが所属するTABIPPOは、「あたらしい旅をつくる」をミッションに、旅行・観光情報を提供するだけでなく、旅を通して人生をより豊かなものに変えていくことを目的に活動をしている会社です。
さちよさんはここでデザイナーとして、webサイトのグラフィックからイベント関連のデザイン、ブランドデザインに至るまで、クリエイティブ全般を手がけています。
「TABIPPOに入ったのは、TABIPPOがまだ会社になる前に開催した学生向けのイベントにスタッフとして参加したことがきっかけです。
その後、TABIPPOが会社になるにあたって、旅が好きで、デザインができる人ということでお声がけをいただいて、それからデザイナーとして仕事をするようになりました」
TABIPPOでの仕事(上2段:書籍の企画・制作・PR/下2段:雑貨の企画・PR)
このイベントに参加したとき、さちよさんはまだ多摩美術大学に在学中。
学生時代から今に至るまで、旅、デザイン、コミュニケーションに変わることない情熱を注ぎ続けている原動力は、さちよさんがこれまでたどってきた人生、そのものにありました。
「親の仕事の関係で、一歳からずっとチリに住んでいたんです。
小学校の頃は現地にある日本人学校に、中学からはインターナショナルスクールに通うようになりました」
自宅と小学校では日本語を話し、中学校では英語、街中ではスペイン語を使う……さちよさんは18年のチリ在住期間中、3か国語を使いわけて生活をしていました。
しかし、すべての言語が初めから流暢に話せるはずもなく、コミュニケーションをとるのが難しいことも。しかし、そのときさちよさんと友人たちを結びつけたのが「絵」でした。
「小さい頃から絵を描くのは好きで、小学校六年生の頃には、Windowsに入っていたペイントアプリを使って、マウスでよく絵を描いていました。
わたしは結果的に18年間、チリに住んでいましたが、日本人の友だちのなかには日本に帰る人もいて。友だちにその絵をメールで送ったりしていました。漫画雑誌のカラー表紙を集めるのもすごく好きで、日本から送ってもらった雑誌をファイルにまとめたりもしていましたね。
中学に入った時点では、ほとんど英語が話せませんでしたが、絵と運動だけは得意だったので、言葉を使わないコミュニケーションを通して、少しずつ周りの環境に慣れていきました」
TABIPPOでの仕事(クラウドファンディング・お礼冊子のデザイン)
日本の美大を目指そうと思ったのは高校生のとき。
“自分のルーツでもある、日本のことをもっと知りたい”
そう思ったことがきっかけでした。
「チリのインターナショナルスクールは卒業が6月だったので、実際に受験したのは翌年。だから日本の学生と比べると、年齢はひとつ上ですね。
興味のある美大をネットで調べておいて、オープンキャンパスのタイミングで日本に向かって、大学を見て周りました。日本の美大に行くと決めてからは、日本に移り住み、美大の予備校に通って受験に備えました。
翌年、進学したのは多摩美術大学 情報デザイン学科です。
当時は“自分のなかにある気持ちを伝えたい”という想いがある一方で、“伝えたいことがあっても、ちゃんと伝わらないと意味がない”とも思っていて。このコースなら、グラフィックだけでなく、映像やプログラミングといった、いろいろな表現方法が学べると考えました」
Adobe Photoshop、Adobe Illustratorには、インターナショナルスクールで触れる機会のあったものの、本格的に使いかたを学んだのはこのときから。そのスキルはやがて、前述の学生イベントのパンフレット制作、ポスター制作へと活かされていくことになります。
大学の卒業制作では、チリの都市・バルパライソの写真を立体的に組み合わせた作品を制作。照明の変化で昼夜を表現し、写真に立体感と時間軸を与えている。建物の裏には時折人物が潜み、都市の営みそのものも再現
さちよさんが大学時代に友人と開催した写真展。床に空を敷き詰め、会場には訪れた人がコメントを残せるゲストブックを設置し、旅を追体験できる構成に
アメリカで生まれ、幼少から18歳までをチリで過ごし、さまざまな言語、文化に触れながら、絵とデザインを学んださちよさんにとって、TABIPPOのデザイナーはまさに天職。これまで経験したすべてを力に変えられる場所と言えるのではないでしょうか。
現在は、TABIPPOのデザイナーとして活動しながら、個人のデザイナーとしても活動。
持ち前のデザイン力、コミュニケーション力を活かし、活躍の幅は広がり続けています。
個人での仕事(上:アフタヌーンティーバスツアー ブランドブック/下:シーシャバーのフリーペーパー)
個人での仕事(映画特集記事の挿絵イラスト)
手書き文字をパスとしてIllustratorに。デザインにも使えるAdobe Fresco
ふだんからiPadを使って絵を描いているというさちよさん。
Adobe Frescoとの出会いはどのようなものだったのでしょうか。
「3年くらい前、X(Twitter)でフォローしているイラストレーターのサタケシュンスケさんが紹介されていたことがきっかけで、Adobe Frescoのことを知りました。
サタケさんがAdobe Frescoで描く絵は、いつも描いているタッチとはまた違った質感でそれがとても素敵で……サタケさんが書かれた『iPadアプリ Adobe Frescoイラストテクニック』も買って、少しずつ触るようになりました」
メインツールはノートパソコン+iPad。どこでも作業可能なワークスタイル
旅好きなさちよさんにとって、iPadさえあればどこでも絵を描けるというのは大きな魅力でした。
「絵をラフな感じで仕上げたいときにはアナログで手描きすることもありますが、着色までするとなると、画材を用意する必要のないiPadのほうが便利ですよね。iPadとAdobe Frescoがあれば、鉛筆、マーカーだけでなく、リアルな水彩、油彩まで描けますから」
Adobe Frescoの多様なブラシは、今回のイラストにも存分に活かされています。
「今回のイラストは、アウトラインは鉛筆で描き、水彩やテクスチャのあるブラシで色を重ねていきました。色面は少しラフな感じにしたかったので、色をつけた後に消しゴムで削って仕上げています。
レイヤーを入れ替えることでモチーフの上下を調整したり、質感、タッチの異なる画材を自由に重ねたりできるのは、アナログにはない、デジタルツールのメリットですよね。いろいろなアプローチができるからこそ生まれる質感もあって、それが絵を描く楽しさにもつながっていると思います」
Adobe Frescoに感じているメリットは、絵を描くことだけに留まりません。さちよさんにはデザイナーならではのAdobe Fresco活用法がありました。
「手書きの文字をデザインで使うということはよくあるのですが、これまでは手書きで描いたものを取り込んで、Illustratorのライブトレースを使ってパスに変換していました。
でも、Adobe Frescoなら、ベクターデータとして手書きの文字が描けるし、デスクトップ版のIllustratorにすぐにデータを転送できる。これは本当に便利ですよね。
それまでは“手書きを取り込んでパスに変換する”というひと手間にかける時間がとれなくて、その表現を諦めることもありましたが、Adobe Fresco+Illustratorの組み合わせを知ってからは、手書き文字を今まで以上にデザインに取り入れやすくなりました」
あたらしい旅をつくる
さちよさんは今後、TABIPPOの社員として、デザイナーとして、ひとりの旅好きとして、どのような目標を持っているのでしょうか。最後に聞きました。
「TABIPPOのデザイナーとしては、『あたらしい旅をつくる』というあたらしいミッションをもとに、会社の魅力をより多くの方に伝えられるよう、ブランディングデザインに力を入れていきたいと思っています。
新型コロナウィルスの影響によって、いまはワーケーションや移住を考える方も増え、プライベートとビジネスの境界はあいまいなものになっています。
TABIPPOでは、旅行、観光の情報を伝えるだけでなく、旅をしたり、その土地に滞在して文化に触れたりすることが人生をより豊かなものに変えてくれること、“豊かさってなんだろう”と考えるきっかけをつくってくれるということを、webやイベントを通じて伝えていきたいと考えています。
旅を通して人生をアップデートする……それこそが、わたしたちにとっての『あたらしい旅をつくる』ということなんです。
プライベートでは、旅のすばらしさをもっと伝えられるものを書きたいとずっと思っていて。それは目覚めたときに感じる太陽の陽射しだったり、ふと目にした模様だったり……旅先で感じる、ちょっとした日常の魅力が伝えられたらいいですね」
小井詰さちよ
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