工業デザイナーの幅が広がるワークフローが紹介された「Adobe Substance 3D 最新活用術 自動車・製造業編」ウェビナー開催レポート
3D デザインに関わるテクノロジーは急速に進化を続け、デザインプロセスやデザイナーのアプローチを大きく変えつつあります。2023 年 9 月 27 日に配信された「デザインプロセスの進化!工業デザイナーのための Adobe Substance 3D 最新活用術 自動車・製造業編」では、株式会社日南 取締役 デザイン/エンジニアリング統括本部長 猿渡 義市氏から、工業デザイナーの表現の幅を広げる新しいワークフローが、具体的な事例を交えて紹介されました。
株式会社日南 取締役 デザイン/エンジニアリング統括本部長 猿渡 義市氏
一般的な CMF デザインのワークフローでは、デザイナーがスケッチを描いた後に、3D モデラー、ビジュアライザーと、複数の専門家が段階的に関わりながらアウトプットが作成されます。猿渡氏は、このワークフローの本質的な課題として、「分業であるために上手くコントロールできなくて、コラボレーションを経て、最終的なイメージが自分が最初に持っていたイメージと合っているかというと、なかなか違うことがしばしばあります」と語りました。
一般的な CMF ワークフロー
それに対し、今回のウェビナーで紹介されたワークフローでは、デザイナーが以前は手の届かなかった領域やスタイルの表現に挑戦できます。それを可能にするのが Substance 3D と AI の活用で、技術的な障壁が低くなるために、デザイナーが一人でコントロールできることが増えるというわけです。さらに、時間と労力を要していた作業が自動化されて、デザイナーは作業のクリエイティブな側面により集中できるという利点もあります。
Substance 3D Painter で 3D モデルに画像をマッピング
画像マッピングの流れ
今回のワークフローの主役である Substance 3D Painter は、3D モデルにテクスチャをペイントするツールです。上図のように、Painter を使うと、画像をマッピングしてテクスチャを作成することが可能です。従って、テクスチャ再現用の画像データを蓄積しておけば、様々なテクスチャを簡単に試せます。Painter で生成されたデータは、そのまま 3D プリントが可能です。
下の例は、ヘッドホンのパーツに大理石の画像をマッピングした結果です。使用する画像を変えるだけで、木調やカーボンなど様々な素材のバリエーションを増やせます。
ヘッドホンの CMF デザインの例
様々な画像おマッピングしてバリエーションを作成
また、画像のマッピングで凹凸をつくれることも、Painter の特徴です。テクスチャの一部として凹凸を作成できるため、モデリングツールを使用する必要はありません。
下の例は、波のグラフィックをテクスチャとしてボトルに適用したものです。最初の画像が、ボトルの中央部にねじれてマッピングされています。このように、有機的な形状やパラメトリックなパターンなど、モデルとして表現することが難しい造形も、画像を用意すれば容易に実現できます。
波のグラフィック
ボトルのレンダリング
「ポイントは一人のデザイナーがこれをできてしまうところです。ボトルのデザインはすごくプリミティブなので、皆さんできると思うんです。そこにこういったテクスチャを張り込むことができて、そのまま 3D プリントできますので、リアルなプロトタイピングまで一人で完結できる時代になってきました」と猿渡氏は語りました。
もっと複雑な形状のモデルの場合、UV の展開までは他の専門職との連携が必要だとしても、Painter に読み込んだ後は、デザイナーが自分だけでテクスチャの調整を行えます。猿渡氏は、これは本当に大切なことだと指摘しました。
「オペレーターとコラボしながらだと、色々なことを試してみたいとき、それをコミュニケーションしなければなりませんが、それなりに時間と気を使いますので、思うように作業が進まないと思うんです。自分一人でできれば、自分が表現したいことを自分のペースで思いきり追求できます」
AI を活用して素早くトライ&エラー
猿渡氏が紹介したワークフローでは AI も積極的に活用されています。下の画像は、実際に AI を使って作成されたもので、コーンをモチーフにしたアイスクリームのパッケージをデザインするプロジェクトのアイディエーションに使われました。アイデアを検討する際には多くの参照資料が欲しくなるものです。そんな場面で、イメージを短時間で次々に視覚化できるのは、AI 活用で得られるメリットの一つです。
AI を活用して作成された画像
機密情報があるクライアントのプロジェクトでは、画像生成にローカル環境で使える Stable Diffusion を使用することが多いそうですが、上の画像の作成には Midjourney を使用しています。また、下の画像は、Adobe Firefly を使って生成したマッピング用の画像です。AI は日々進化しているため、情報をチェックしては場面に応じていろいろなものを使うようにしているそうです。
マッピング用に Firefly で制作された画像
猿渡氏は、Substance 3D や Photoshop のようなツールに AI が搭載されて、デザイナーの表現スピードが速くなることの意義を強調しました。「AI が出てくると、AI が勝手にデザインしてくれると思われがちなんですけれども、そういう話ではなくて、デザイナーが上手く AI を活用してトライ & エラーを今まで以上にできるようになると、自分の意思をとても高いクオリティーで表現できるようになります。これを本当に実感しています」
このプロジェクトでは、まず、エコパッケージのベースとなるプリミティブな形状のモデルを作成し、そこに Firefly が生成したパターン画像をマッピングして、テクスチャ作成が行われました。下の最初の画像は、ベースとして使われたモデルの 3D データで、2 番目の画像は、Substance 3D Painter を使って、モデルにパターンをマッピングしているところです。
パッケージの 3D データ
Substance 3D Painter でテクスチャを作成しているところ
「Painter のワークスペースに表示されるプレビューのおかげで、テクスチャを移動しながら、リアルタイムでマッピングの状態を確認できるのは本当に便利です」と猿渡氏は Painter の優れた点を挙げました。
下の画像は、3D プリントされたエコパッケージのプロトタイプです。蓋を開けたときのコーンを模したモナカもつくられました。
3D プリントされたパッケージのプロトタイプ
3D プリントされたパッケージを開いた状態のプロトタイプ
「コーンはよく見ていただくと乾燥したみたいにちょっとシワが寄っています。しかも、それに色が付いてるところがなかなか凄くて、これは今まで 3D では容易にはできなかったものです。エコパッケージの方は、卵のパックをイメージして、再生紙の風合いを再現しています。これが本当に一人のデザイナーで表現できてしまいます」
テクスチャを付けながらデザインの完成度を上げる
猿渡氏からはもう一つ、自動車の事例も紹介されました。下は、UV 展開された自動車のシートです。Painter を使用して画像をマッピングするには、このようにモデルの UV 展開を事前に行います。主に UV 展開に使用されているツールは RizomUV で、Blender や Maya も使用することがあるそうです。
UV 展開されたシートのモデル
UV 展開したデータは、Panter に読み込んで、テクスチャを貼り付けていきます。特にインテリアのパーツでは質感が重要であるため、こうしてテクスチャを付けながらデザインの完成度を上げていくプロセスは大切であると猿渡氏は話しました。
Painter に読み込んだシートのデータ
シートにファブリックを張ったところ
また、この作業は、コミュニケーションを円滑にするのに役立つそうです。「自分がデザインしたものは、色やファブリックも自分で決めたいっていうのが本当だと思うんです。各セクションのスペシャリストに自分の意図を伝える際には、Painter でつくった具体的なイメージで伝えるのも、コミュニケーションの一つの手段だと思います」
完成したデザインをレンダリングしたのが次の画像です。アプリは VRED が使われています。
レンダリングされたシート
猿渡氏は、「デザイナーの表現の幅は、テクノロジーによってどんどん広がってきています。ですので、新しいツールを積極的に試して、自分の表現の幅を広げていっていただきたい思います」と、プレゼンテーションを締めくくりました。
VRED と Substance 3D の連携
ウェビナーの後半は、アドビ Technical Artist / Evangelist 福井 直人による製品アップデート情報と、VRED - Substance 3D の連携の紹介でした。
下の画像は、Substance 3D Modeler で制作したハンドルのモデルに、Substance 3D Painter を使ってテクスチャを張り付けた後、Substance 3D Stager でレンダリングをした場面です。ハンドルを制作する過程に沿って、各製品の新機能の使い方が紹介されました。また、テクスチャとして使われているレザーを Substance 3D Designer で作成する過程も紹介されました。
Modeler でハンドルのモデルを作成
Painter でテクスチャを作成
Stager でレンダリング
Substance 3D の機能紹介の後は、VRED と Substance 3D Designer の連携方法が紹介されました。Designer で作成したクリアコートのマテリアルを、VRED に読み込む手順です。
まずは、クリアコートの内側のマテリアルを sbsar ファイルとして書き出します。このマテリアルは、Triangle Grid Grayscale ノードの Color Output を Per Triangle に変更した後、Normal Color ノードと共に、Normal Vector Rotaion ノードに接続し、Normal Color の Slope Angle や Normal Vector Rotaion の Rotation Angle を調整してつくられたものです。
sbsar を出力するには、Explorer パネルから書き出したいマテリアルを指定して、コンテキストメニューから Publish sbsar を選択します。
コンテキストメニューから sbsar を書き出す
コート用のマスクはビットマップとして書き出します。コートは、Perlin Noise を Normal に接続しただけの単純な構造です。書き出し方は、Explorer のマテリアルを右クリックして、コンテキストメニューの Export outputs as bitmaps を選択します。
コンテキストメニューからビットマップを書き出す
すると書き出す内容を確認するダイアログが表示されます。コートの項目が選択されていることを確認して、Export Outputs をクリックします。
出力する内容を確認するダイアログ
書き出しが完了したら、次は VRED にマテリアルを読み込みます。
sbsar ファイルを読み込むには、Create Material から Substance を選択します。作成されたマテリアルに sbsar ファイルを指定すると、Designer で設定した内容が読み込まれます。パラメーターを調整することも可能です。
メニューから Substance を選択してマテリアルを作成
コートのマテリアルを読み込むには、Create Material から Glass を選択してマテリアルを作成します。
メニューから Glass を選択してマテリアルを作成
こちらは、それぞれの属性に対して、先ほど書き出したビットマップをドラッグ & ドロップして情報を読み込みます。デモでは、Roughness、Normal、Opacity の 3 枚のビットマップが使われました。
ビットマップをパネル内の該当する属性にドラッグ&ドロップ
作成した 2 つのマテリアルを重ねるために、もう一つマテリアルを作成します。Create Material から Layered を選択します。
メニューから Layered を選択してマテリアルを作成
Materials パネル内で、Layered マテリアルに Glass を、続けて Substance をドラグ & ドロップします。これで、半透明のコートの下にメタリックな素材が透けて見えるマテリアルの出来上がりです。
Layered マテリアルに 2 つのマテリアルを追加
読み込んだマテリアルは、プレビューで確認しながら、パラメーターを変更して、さらに見た目を調整できます。
VRED で読み込んだマテリアルを調整
ウェビナーの最後には、Substance 3D の学習リソースや、関連するイベント情報が紹介されました。動画のチュートリアルは以下のリンクからご覧になれます。
Adobe Substance 3D チュートリアル(初級編)
Adobe Substance 3D チュートリアル(初級編)
グラフィックデザイナーのための初めての 3D デザイン
- https://blog.adobe.com/jp/publish/2023/05/31/cc-immersive-tsumiki-industrial-vr-painter
- https://blog.adobe.com/jp/publish/2023/08/29/cc-immersive-substance-3d-meetup-vol3
- https://blog.adobe.com/jp/publish/2023/07/05/cc-immersive-wpp-designs-innovative-experiences-emerging-media-substance-3d-collection