日本一詳しい Substance 3D の最新情報が入手できる Substance 3D MEETUP vol.3 レポート
目次
- ゴールドウインの Substance 3D Sampler 活用事例
- Adobe Substance 3D 最新アップデート情報
- ソニーの B2B 向け空間再現ディスプレイの紹介
- Adobe Firefly とコンテンツ認証イニシアチブ(CAI)
Adobe Substance 3D ユーザーが交流できるリアルイベント Substance 3D MEETUP の 3 回目が、7 月 27 日に催されました。梅雨も明けて猛暑が続く中での開催になりましたが、会場となったアドビの会議室はほぼ満席になり、Substance 3D への関心の高さがうかがえた 2 時間余りのイベントでした。
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この日登壇したのは、登場順に、アドビ Technical Artist / Evangelist 福井 直人氏、ゴールドウイン 開発本部 テック・ラボ R&D グループ 梅本 実穂氏、ソニー メタバース事業開発部門 プロダクトマネジメント部 SR プロダクト アプリ&ソリューション担当部長 太田 佳之氏、アドビ デジタルメディア製品戦略部 部長 宇野 香織氏の 4 名です。
ゴールドウインの Substance 3D Sampler 活用事例
ゴールドウインの研究開発施設であるテック・ラボに所属する梅本氏は、アパレルの3D活用について研究開発を担当しており、その一環として、3D 仮想空間に服のフォルムや素材の質感を再現する「デジタルサンプル」の制作も行っています。デジタルサンプルの制作に使われているメインツールは、着装シミュレーションソフトの CLO で、素材の質感を再現するために、従来は Adobe Photoshop を併用していました。
これを Substance 3D Sampler を使った手法に置き換えた成果が、今回発表された内容です。下の画像を見ると、右の Sampler を使用した新しい手法の方が、よりリアルな素材感を再現していることが見て取れます。
従来の Photoshop を使った手法(左)と新しい Sampler を使った手法(右)の比較
従来の Photoshop を使った手法は、一般的な画像のスキャンに使われているスキャナを使用して生地の表面を画像に変換し、それを Photoshop で連続性のあるテクスチャに加工するというものです。新しい手法では、自作の撮影装置に生地と iPhone をセットし、8 つの異なる方向から光を当ててそれぞれの状態を撮影します。そして 8 枚の画像を Sampler に取り込みます。
社内の技術者が製作した撮影機材を紹介する梅本氏
撮影した 8 枚の画像を Sampler に取り込む
Sampler に画像を取り込んだ後は、見た目を調整するためにフィルターを使用します。よく使用するフィルターとして梅本氏が紹介したのは、画像のムラを改善するための Equalize、切り取る場所を決めるために使用する Crop、格子柄やボーダーに連続性を持たせたいときの Warp Transform、そして、つなぎ目を馴染ませるための Make it Tile です。
「本当にここはトライ&エラーで、試しながら使い分ける感じです。Crop フィルターでは、正方形ではなく長方形でクロップしたら、縦横比が変わり伸びてしまったという経験をしたことがあります」と梅本氏は失敗談を共有してくれました。
梅本氏が良く使うフィルターの例
Sampler での作業が終わったら、テクスチャのデータを書き出して、CLO に読み込みます。その際には、2 種類の渡し方を使い分けているそうです。
「SBSAR 形式で書き出すと、ファイルが 1 つだけ出力されて CLO に読み込むのが簡単です。一方、マップを書き出す場合は、ディフューズマップやノーマルマップなどが別々のファイルになるので、CLO にも別々に読み込むことになります。そうすると、読み込む手間は増えますが、後から CLO で色を微調整できるという利点があるため、状況に応じて使い分けています」と梅本氏は説明しました。
Smapler からの 2 種類のデータの書き出し方
梅本氏によると、Photoshop を使った従来の手法と比較した時の、新しい Sampler を採用した手法の利点には以下のようなものがあります。
- 情報量が増えたことによるテクスチャーのクオリティアップ
- やり直ししやすいことによる、全体的な時間の短縮
- 複数の画像をベースにテクスチャを生成するため、熟練度による品質のばらつきが減少
また、Sampler であれば、Substance 3D Designer のようにテクスチャを合成するのではなく、現実にある生地を気軽に取り込める点も、自分たちのワークフローに合っていると梅本氏は話しました。
Sampler で作成したデジタルサンプルは 141 CUSTOM のウェブページで見ることができます。自分の好きなサイズとカラーで、製品をカスタマイズできるサービスです。シーズンごとに変わるこのサイトのキービジュアルも 3D でつくられているそうです。
製品を好みのスタイルにカスタマイズできる 141 CUSTOM
Adobe Substance 3D 最新アップデート情報
6 月には、Substance 3D にたくさんの機能追加がありました。福井氏はその中から、いくつか主要な機能をピックアップして、デモと共に紹介してくれました。
Painter の 3D カーブ
最初に紹介された新機能は Substance 3D Painter の 3D カーブです。これまではパスを描きたければペイントツールで慎重に線を引く操作が必要でしたが、この機能により、Adobe Illustrator のパスツールのように線を描いて調整できるようになりました。
下の画像は、福井氏が、ソールの側面にいくつかのポイントを置いた状態です。ポイントをつなぐ線は自動的に描かれます。
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ポイントに強さを指定すると、その周囲の線の太さを変えられます。下の画像は、両端のポイントの強さを 0 にした状態です。両端の線が細くなっていることがわかります。ポイントごとに、不透明度を指定することもできます。
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線を描いた後でも、ブラシを変更することが可能です。福井氏は、ブラシを月の形に変更して、興味深いパターンをソールの側部に作成しました。
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福井氏は、靴のアッパーにも 3D カーブを追加しました。パスに沿って、側面に幅の広いくぼみをつくってから、もう一つ 3D カーブを追加して、細い 3 本の線も描きました。これら 2 つの 3D カーブはどちらも同じレイヤーの中に含まれています。
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ペンツールには、3D カーブ用につくられた便利なプリセットが付属していて、ステッチを作成するのも簡単です。縫い目の形状を変えたり、下の画像のように 2 重ステッチにしたりすることもできます。
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Designer の新しいスプラインノードとパスノード
次に紹介されたのは、Substance 3D Designer に追加された新しいノードの使い方です。
最初に紹介されたパスノードは、グレースケールのパターンを正確な曲線に変換できるノードです。福井氏は、興味深い形状のマスクを作成した後、それをパスに変換するためにパスノードを用いました。下の画像のプレビューパネルを見ると、グレースケールの境界に沿ってパスが引かれていることがわかります。
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もう一つの新しいノードであるスプラインノードは、パスにディテールを追加するために使用できます。福井氏はこれを使用して、パス上に Disc のパターンを並べました。
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新しいノードの別の活用方法として、建築業界やゲーム業界の方に向けて作成したという、石畳のテクスチャも紹介されました。これには Spline Circle というスプラインノードが使用されています。
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ドットノードとポータル
新しく追加されたドットノードを使用すると、グラフ内の接続を簡素化できます。線を減らして見た目をすっきりさせることができますし、ポータルとして使えば、遠くに配置されているノードまでドラッグする必要がなくなるため、特に多くのノードが配置されているときには便利な機能になりそうです。
ポータルを使うには、ドットノードのペアを作成する必要があります。一方がポータルへの入力、他方がポータルからの出力となり、入力側につけた「名前」がポータルの識別子として使われます。下の画像は、入力として使用するドットノードを追加した場面です。このノードには名前を指定する必要があります。
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次に、もう一つドットノードを作成して、先ほど作成したドットノードの名前を「入力ポータル」に指定します。これでドットノードのペアができ上ります。
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すると出力側のドットノードの横に無線のようなアイコンと接続されているドットノードの名前が表示されます。ドットノード間に線が引かれてはいませんが、この状態で、線をドラッグして接続したときと同じようにノード同士が接続されていることが、プレビューパネルで確認できます。
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レザーの質感のつくり方
福井氏は、よく聞かれる質問への回答として、レザーの質感のつくり方を紹介しました。ポイントは、Triangle Grid を使うことだそうです。
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そこにブラーをかけて、ワープでゆがませ、ベベルを使って凹凸感を出して、Slope Blur Grayscale を使うと革っぽさが出てくるそうです。後は細かな要素を追加すれば、レザーの質感が出来上がります。下の画像は、作成したテクスチャを適用したソファをレンダリングしたものです。
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Modeler のレイトレーシングモード
Substance 3D Modeler からは、レイトレーシングが紹介されました。この機能を利用すると、影や光が与える影響がより正確に反映されたシーンを Modeler 内で見て確認できるようになります。現在のバージョンでは、レイトレーシングが利用できるのはキャプチャーモードのみです。環境設定の「一般」からレイトレーシングの有効/無効を切り替えられます。
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福井氏が紹介しきれなかった分も含め 6 月のアップデート情報については、こちらの記事とこちらの記事も合わせてご覧ください。
ソニーの B2B 向け空間再現ディスプレイの紹介
2 人目のゲストとして登壇したソニーの太田氏は、裸眼で 3D を立体視できる空間再現ディスプレイを紹介しました。センサーで視聴者の目をトラッキングしてリアルタイムでレンダリングするため、従来の 3D テレビとは異なり、いろいろな角度から 3D 映像を確認できるというディスプレイです。
空間再現ディスプレイの紹介をするソニーの太田氏
基本的には、インダストリアルデザイン、建築、医療研修、ショールームの展示などの B2B 向けの商品です。もちろん、エンターテインメント用途にも使われています。
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実例として VR コンテンツとして有名な Unity-chan live を移植した例や、医療研修用のコンテンツが紹介されました。医療研修では、様々な方向から人体を見て確認できることが、より良い学習に役立っているとのことです。
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また、実写コンテンツを 3D 映像に変換する例も紹介されました。たくさんのカメラが設置された撮影スタジオで撮影した人物を、モデリングしてからレンダリングして、背景と合成します。この機能は CM や TV 放送で使われていて、ライブ配信にも対応しているそうです。
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コンテンツの開発には、Unreal Engine や Unity を利用します。アプリ開発はちょっと敷居が高いという人のために、手元の 3DCG データを再生できる空間再現ディスプレイプレーヤーもリリースされています。
さらに、DCC ツールから直接立体視を可能にする技術も開発が進められているそうです。現在 Substance 3D には直接対応していませんが、データ経由であれば可能とのことで、会場に持ち込まれていたデモ機では、福井氏が Substance 3D で作成したシューズデザインのプレビューを体験することができました。
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Adobe Firefly とコンテンツ認証イニシアチブ(CAI)
ミートアップの最後は、アドビ 宇野氏による Adobe Firefly とコンテンツ認証イニシアチブ(CAI)への取り組みについてのお話しでした。宇野氏によると、アドビのクリエイティブなジェネレーティブ AI モデル Firefly は、アドビ史上最も成功したベータプログラムで、公開からわずか 1 カ月の間に 7,000 万の画像が生成され、4 カ月ほど経過した時点で 10 億を超えたそうです。
Firefly の大きな特徴の一つは、商業利用を前提として開発されている点です。Firefly のトレーニングに使われているデータは、クリエイターの同意を得た Adobe Stock の素材、そしてオープンライセンスあるいは著作権が失効しているパブリックドメインの画像のみです。そのため、著作権に関する心配をすることなく利用できることが強みであると宇野氏は話しました。
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また、企業向けのサービスとして、企業が所有してるアセットを使って Firefly のカスタムトレーニングを行うことにより、ブランディングに沿ったコンテンツ生成ができるようになる機能のリサーチが進められているというお話もありました。3D 向けの機能としては、3D オブジェクトの新しいスタイルやバリエーションを簡単に生成できるようになるだろうと宇野氏は予告しました。
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続けて宇野氏は、アドビが力を入れているコンテンツ認証イニシアチブ(CAI)の意義を説明しました。CAI は、拡散される偽りの情報に対抗することを目的に 2019 年に始まった取り組みで、現在までに 1500 を超える企業、NGO、学者などが参加しています。
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オンラインコンテンツの信頼性と透明性を確保するために CAI が注力している 3 つの分野は、来歴、教育、ポリシーです。ここでの「来歴」は、デジタルコンテンツの起源、途中で行われた編集、これらすべてを改ざん不可能な形で記録することです。コンテンツの作成から公開までのプロセスの透明性が確保できれば、情報の信頼性を担保できるという考えです。
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宇野氏は、すでにこの機能をベータ版として利用できる Photoshop を使い、3 つの画像を組み合わせて新たな画像を作成し、コンテンツ認証情報を付加して書き出すデモを披露しました。「最終的には SNS やウェブサイトで来歴が確認できるワークフローを実現したいと考えています」と宇野氏は語りました。
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