『ロード・オブ・ザ・リング : 力の指輪』と『ホワイト・ロータス 』のメインタイトルは、Adobe Premiere ProとAfter Effectsを駆使して創り出されました

Still image from "The White Lotus".

Image source: Plains of Yonder, “The White Lotus” season two, main title designers.

テレビ番組のメインタイトルは、各エピソードの冒頭で雰囲気を作り出すのに重要な役割を果たしています。魅惑的な音楽や巧妙な編集がストーリーやキャラクターについての興味を引き立て、視聴を続けたいという気持ちを高めます。Plains of Yonder 社の共同創設者でその道の達人であるカトリーナ・クロフォード氏とマーク・バショア氏は、2023 年度エミー賞優秀メインタイトルデザイン部門にノミネートされた 2 つの作品、『ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪』(以下『力の指輪』)と『ホワイト・ロータス/諸事情だらけのリゾートホテル 』シーズン2(以下『ホワイト・ロータス』)のメインタイトルを制作しました。

作風の異なる2作品のメインタイトルを作成するにあたり、両氏はAdobe Premiere ProAdobe After EffectsといったAdobe Creative Cloudのツールを使用して、番組内の登場人物やイベントを再現する短いビジュアルストーリーを作成しました。

『ホワイト・ロータス 』のメインタイトルはバイラル的にTikTokで人気が高まり、世界的に有名なアムステルダム国立美術館も模倣した作風の動画で所蔵品を紹介しました。一方、『力の指輪』では、音楽、振動、砂の模様の変化を効果的に使用し、J.R.R.トールキンのファンタジー世界の神話的なシンボルを現出させています。

Still image from "Plains of Yonder".

Image source: Plains of Yonder, “The Lord of the Rings: The Rings of Power”, main title designers.

今年のエミー賞授賞式を前に、特徴的なメインタイトルのインスピレーションとなったものと、Premiere ProとAfter Effectsをどのように活用して2つの大作の舞台を創出したのかについて伺いました。

タイトルデザインを始めたきっかけは?

気づいたらはまっていました。メインタイトルのデザインは不思議で愛すべきニッチな分野で、私たちにとても合っています。視覚的に楽しいだけでなく本質的に感情を揺さぶる映像制作を目指してきましたが、中でもメインタイトルは他に類を見ないほどクリエイティブな概念的パズルです。視聴者に映像と同じくらい背後にあるアイデアに夢中になってもらい、繰り返し鑑賞することで新しい発見ができるようにしたいのです。それは、ショーの心理学とロジックを独創的な方法で捉えた、オリジナルの短編アートフィルムを作成するようなものです。まぎれもなくパズルなのですが、それを解くことが大好きなんです。

メインタイトルの発想の元は何でしたか?

『力の指輪』では、私たちの目標は時間と空間の奥深さを感じさせ、深い寓意的な象徴を持つメインタイトルを作成することでした。J.R.R.トールキンのアイヌール(美しい音楽を奏でて世界を創造した不死の天使)からインスピレーションを得て、音の世界から構築されたメインタイトルのシーケンスを考案しています。これを実現するために、さまざまな周波数の音の振動によって小さな粒子がパターンを形成する、サイマティクスと呼ばれるプロセスを使用しました。ここでは砂を使用して、中つ国の神話に関連するリングや他のシンボルの形状を出現させています。

『ホワイト・ロータス 』では、シーズン2のイタリアのロケ地からインスピレーションを得ました。ここでは、聖なるものと世俗的なものとが心地よく共存しています。ロマンス、孤独、肉欲、暴力、そして潜在的な破滅といったテーマを美しい絵画で語る、というアイデアに魅了されました。

制作プロセスと連携についても教えてください

『力の指輪』では、最初にサイマティクスの装置を作りました。カトリーナは、ザトウクジラの鳴き声からグレゴリオ聖歌にいたる様々な音が、砂、小麦粉、胡椒やその他の素材に与える影響を実験したのです。カメラを回すと、美しくも制御不能な何かを撮影することができました。実のところこのプロジェクトは、物理学とCGの大規模な科学実験のようでした。正しい答えを見つけるために、結果的にはCGと実写で数千の画像とモーションサンプルを作成しています。本編チームとは視覚化するシンボルを決定する上で協力しあい、またあらゆる瞬間の動きが音楽と結びつくよう、ハワード・ショアの劇伴とも密接に連携しました。

『ホワイト・ロータス 』では、まったく異なるアプローチをとっています。脚本・監督・製作総指揮のマイク・ホワイトが、番組のエピソードを撮影する予定のパレルモ近郊の別荘の映像を携帯電話から送ってくれました。壁に描かれただまし絵のフレスコ画が、シーズン1で用いたハワイの壁紙のテーマと明らかなつながりがあったのです。カトリーナはカメラマンとともにその別荘に赴き、その後の作業のベースとなった高解像度の写真を2日間にわたって撮影しました。

お気に入りの部分と、その理由を教えてください

『力の指輪』のベストパートは、イメージがテーブル上の物理法則を離れて空間に重なっていく天空のセクションです。スピリチュアルでまったく理にかなわないものになりました。始まりのリングのショットのように、イメージが形成されつつ崩壊するシーンも大好きです。そこには悲しみと深い比喩があります。永続するものは何もなく、人生のすべては形成されては崩れていく絶え間ない状態にあるのです。

『ホワイト・ロータス 』で気に入っているのは、脚本をアートワークに落とし込んだというところです。登場人物の特徴や物語のテーマをとりあげたり、バイクをロバにするなど実際のシーンを置き換えて描いたりしました。各キャラクターのビジュアルを創り出し、その個性がエピソードでどのように展開されるかを、観客に楽しんでもらえるよう努力しました。

直面した具体的な課題はありましたか?どうやって解決したのでしょう

『力の指輪』のタイトルのほとんどのショットは、CGと実写の組み合わせです。CGは通常あまりにも完璧で滑らかすぎて、危険さが感じられないことがあります。実写はその逆で、野生的で制御できないものです。実写をコントロールし、CGを"壊す"ことが、それらを組み合わせる鍵でした。

『ホワイト・ロータス 』のメインタイトルは、すべて写真とデジタルペイントから構築されていて、動きのある実写映像は含まれていません。静止画から感情、動き、ドラマを創り出すアイデアは、難しい課題でありながらとてもやりがいのあるものでした。最初の頃、「ああ、スライドショーを売り込んでしまったのか」と思ったことがありました。編集していく中で、視聴者を描かれたイメージの世界を動き廻らせる、というアイデアを思いつきます。カメラが絵の上を移動し、別の絵にフォーカスする魔法のような瞬間を創り出しました。視聴者が個々の絵を見ているのではなく、絵の世界が押し寄せてくるように感じる、より抽象的なイメージを求めたのです。

どのアドビ製品を使用しましたか? どうしてそれが最良の選択だったのでしょう

『力の指輪』では、オリジナルのスタイルフレーム(訳註:静止画のモックアップ)にはAdobe Photoshop、編集にはPremiere Pro、タイトルアニメーションと合成にはAfter Effectsを使用しました。『ホワイト・ロータス 』では、Photoshopで元の絵を変えたり組み合わせたりしながら、オリジナルの絵を作成しています。編集にはPremiere Proを使用し、カメラの動きのシミュレートなども行いました。After Effectsは、合成とテキストアニメーションに使用しています。

Premiere Pro 活用のヒントを何かひとつ教えてくれますか?

音楽に合わせて映像を編集する際、実際の音楽の切れ目、ビート、アクセントの少なくとも2フレーム前に編集点を入れることがよくあります。こうすると、完全に同期させた編集とは異なるエネルギーが心の中に生まれます。『力の指輪』にも、音楽の編集点より早い時点で映像の編集点が入り、映像と音楽の変化にはっきりと時差がある場面がいくつかあります。これを行うには、タイムライン上のオーディオ波形を使って音楽のポイントを見つけ、左矢印を2回押すだけ。編集の時間がもっと好きになることをお約束します。

また、あなたとPremiere Proとの対話を深めるショートカットを作成することをお勧めします。私たちはプロジェクトビン内の重要なクリップのラベルをマンゴー色にするのが好きなので、キーボードショートカットのMに設定しています。マンゴー色のラベルは、他のクリップよりも優れたショットであり「映画に入れて」という意味を持ちます。これは私たちとソフトウェアの間の楽しいおかしなゲームのようなものです。グレーのワークスペースでも目立ちますしね。プロジェクト内に少なくとも15 個のマンゴーショットが含まれていない場合は、巧みな編集で補う必要があるということになります。

あなたにとって、クリエイティブな刺激を与えてくれる人は誰ですか?

クロフォード:博識な人々。問題を無数の角度から見つめ、常に好奇心を持っている人々です。

バショア:マイケル・ムーア、アイ・ウェイウェイ、そして今日はシネイド・オコナー(訳註:2023年7月26日に他界)。彼らの映画、芸術、音楽それぞれの分野での、不穏な反抗的なアプローチを尊敬しています。

これまでのキャリアで直面した最も困難なことを、どうやって乗り越えましたか? モーションデザイナーを目指す人にアドバイスをお願いします

バショア:恐れです。他の職業で生計を立て、その後何年も映画とデザインのキャリアを積むまで、私はこの道を進む自信がありませんでした。「あなたならできるよ」と言ってくれた何人かの大切な人々のおかげです。

この道を志す人々へのアドバイスとして、自分自身の世界観を仕事に取り入れることをお勧めします。ほとんどの作品で、ある程度それを実現することができるはずです。各作品のコアとなる悲しみ、怒り、喪失、笑い、いたずら心といった感情を見出し、自信が持つそれらの感覚を反映させるようにしてください。そうすることで、単にデザインしているのではなく、視聴者が感じる何かを心から創造していることになります。

クロフォード:芸術は甘いものという考えを捨てました。ビジュアルアートはキャリアに値しないとする家族の中で育ったので、それを覆すために科学の学位を3つ取得しました。アートには独自の視野は不可欠です、すべての作品に独自の視点を取り入れて制作してください。

仕事場の写真を掲載します。一番気に入っているところはどこですか?

Image of two laptops.

Image source: Mark Bashore.

バショア:洗練されておらず、プロ向け編集スタジオとは逆のものである自分の編集環境が気に入っています。紙やアートなど、物理的なものがコンピューターの隣にあるのが好きですね。松の板の一部と、長時間の編集作業に肘を支えるための頑丈なC型クランプを置いています。

Image of a workspace.

Image source: Katrina Crawford.

クロフォード:私の仕事場は、光がたくさん入ってきてとても素敵です。他の形式のアート制作にも使っていて、さまざまな形で多くのアイデアやプロジェクトを活発に行っています。

この記事は2023年9月29日(米国時間)に公開されたAdobe Premiere Pro and After Effects used to create main titles for two 2023 Emmy-nominated series, “The Lord of the Rings: The Rings of Power” and “The White Lotus”の抄訳です。