Trend & Illustrations #19/IC4Designが描く「レトロアクティブ」Adobe Stockビジュアルトレンド2023
Adobeではビジュアルのニーズを様々な角度から分析を行い、そのトレンド予測をトレンドレポートとして毎年発表しています。
ビジュアルトレンドをテーマに、東京イラストレーターズ・ソサエティ会員のイラストレーターが描きおろした作品のコンセプトやプロセスについてインタビューする連載企画「Trend & Illustrations」。
密度が高くユニークな世界を作りだすIC4DESIGNが、2023年のビジュアルトレンドから「Retro Active(進化するレトロスタイル)」を担当。同社代表カミガキヒロフミさんに伺いました。
IC4DESIGN
(左から杉葉子さん、今村ありささん、代表のカミガキヒロフミさん、松原大介さん)
広島を拠点として、日本をはじめ、アメリカ、ヨーロッパ、中東など国内外を問わず活動。 密度が高く遊び心のあるイラストレーションを手がける。カンヌライオンズ、ONE SHOW、ドバイLynxなど、数多くを受賞している。代表作のひとつ、絵本『迷路探偵ピエール』は30言語に翻訳され、32カ国以上で出版されている。
https://www.ic4design.com
自分たちらしさが出るテーマを選んだ
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ビジュアルトレンドのテーマから「Retro Active(進化するレトロスタイル)」というテーマを選ばれた理由からお願いします。
IC4DESIGN 僕らの普段の制作内容に一番合いそうだったし、表現として面白いことができるだろうと思ったんです。ストックイラストレーションという、素材として登録しておくと、あとは自由にクライアントが使うというこのシステムの中で、一番使用頻度が高そうなテーマじゃないかとも考えました。
普段制作されている作品の延長線上で作れるということでもあったんですか。
IC4DESIGN そうですね。以前「キャプテン・マーベル」という映画のビジュアルをイギリスの映画館から依頼されて、90年代が舞台の映画なので、当時のカルチャーや車のディテールを描いたことがあったんです。それに僕(カミガキさん)自身、90年代が青春で、スケートボードしたり、女の子をナンパしたり、バンドやったりと遊びまくってたので、自分の思い出をパッケージングして、絵として表現するというのが他のテーマと比べても魅力的でした。
同時にIC4DESIGNとして、真面目にAdobe Stockに取り組んでいくきっかけになる仕事なので、どういうものにすればいいのかを考えました。僕らのイラストレーションの特徴はいろんな要素がたくさん入ってること。レゴで遊ぶような感覚があって、絵本にしても、すごく要素が多い。でも目は点々だけで表現したりと余白は作っているんですが。
Adobe Stockにいろんなパーツを登録してバラ売りするというのは、非常にレゴのスタイルに近いなと思って。使用する側は必要なパーツだけを個別に購入すればいいし、自由に組み合わせられる。それをどうやって面白くできるかと考えたときに、レトロ、90年代というのはいい味付けになると思いました。
レゴの世界というのはすごくよくわかります。
IC4DESIGN 今後はビジネスシーンだったり、道路工事のシーンだったり、別の具体的なテーマでも作ることができると思います。今回はゼロからの出発ではなくてテーマがあったから内容を膨らませることができましたし、ストック素材に対して新しいエッセンスを加えられたと思います。一般的なビジネスシーンを作るよりも、90年代っていう味付けをしたことが、結果的に良かった。クリエイティブって自分たちだけで生み出すだけのものじゃなくて、いろんなものが合わさるものだから。
パーツの組み合わせは無限大
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この背景がピンクのものが最終形と考えていいですか?
IC4DESIGN すべてのパーツが揃うとこれができるというものですね。他の画像は、単品で販売する場合の組み合わせ例でもあります。この方が使い勝手がいいだろうと。
<中心にあるのが完成の一例。周辺は構成パーツ>
完成形を想定して制作し、その後、それぞれのパーツに分けていくのでしょうか?
IC4DESIGN そうです。スケートパークみたいにキットとしてパーツをまとめることもできます。
完成形に近づけようと思ったらパーツがいっぱいあればいいし、パーツごとでも楽しめる。
IC4DESIGN ゆくゆくは別の絵になってもいいな、作ってもらえたらいいなと思っているくらいなんです。世界中の人が見てくれたら、そんなことも起こるかもしれない。
横長の作品も、パーツの組み合わせでできる実例ですね。
IC4DESIGN そうです。パーツ組み換えの一例です。メインの建物の土台にRetro Activeと入れているんですが、使用する際に、会社名にしてもいいし、スローガンにしてもいいし。そういうアレンジもしてもらえるように考えていました。
<パーツの組み合わせ例>
利用者目線があって、それを楽しんでいるのが伺えます。
IC4DESIGN Adobe Stockって、僕らにとってはすごく夢があるんです。10年以上前から海外のクライアントを開拓してきたんですけど、やりとりや契約書が煩雑で大変なんです。絵本を世界に売り出すとか、イラストレーターとしてアメリカと仕事するのって本当にハードルが高い。でもAdobe Stockを通せば、自動的にいろんな国の人が見てくれるわけでしょう。もちろんストック自体が大海原なんで、使用される確率は低いのかもしれないけど、スタートのハードルは低い。Behanceも同様ですけどね。
自分の作品がストックされて自由に使われることに対して積極的でないイラストレーターも多いでしょうが、Adobe Stockだったら、いきなり世界がマーケットになる。それもほぼ全世界。これは興味がわきますよね。
<様々なパーツ>
世界に向けた作品作り
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世界に向けてということで制作上、気をつけていることはありますか?
IC4DESIGN もちろんあります。それほど細かくケアしているわけではないんですが、例えば肌の色とか。僕ら何気なくベージュ色を肌色って言いますよね、子供の頃から。人間の肌を塗るときって、例えばCMYKでいうとマゼンダ20のイエロー30の前後と決めたらダーッて人物を一気に塗っていたんですけど、海外の仕事をやり始めたときに、これじゃいけないって。クライアントによってはマイノリティを前に出して欲しいとか、肌の色は20種類以上使えとか言われることもあるんです。車の通行が左右どちらかとか、お酒、タバコを入れないとか。日本の仕事以上にケアしなきゃいけないことはあるかもしれませんね。
「UN WOMEN」広告、記事、ポスター、WEB
UN WOMEN/2017年
海外の仕事を経験されてきたからこそのお話ですね。逆に積極的に加えてこうというものはあるのですか?
IC4DESIGN それはないんですが、「ごちゃごちゃさせる」っていうのがうちのスタイルなんで、できるだけ盛りだくさんにしてあげようというのは基本姿勢としてあります。家系ラーメンの全部のせみたいな。
そうするとどんな人にとってもどこかに好きになるポイントが出てくるものでしょうか?
IC4DESIGN それはないと思います。絵柄で好きか嫌いかがわかれちゃうから。本筋から離れるかもしれないんですけど、海外に進出しようとしたときに、ニューヨークを目指すとすると、既にそこにはいろんな人材が集まっていて少しぐらいの個性では仕事をとることはできない。どうやったら仕事がとれるかを考えたら、人一倍苦労するというのが僕たちの答えだったんです。それがわかりやすい形で出たのが他のイラストレーターの10倍密度を上げるということだった。そこからスタートしたので、その呪縛から抜けきれてないんです。そんなことやってたら時間がかかるんで、結局儲からないですけどね。
ただ絵本の場合はマーケットが大きくなって、発行部数が増えるほど、時間をかけても元が取れる。今『迷路探偵ピエール』シリーズは全世界累計で96万部ぐらいなので、もうすぐミリオンミリオンセラーになるかもしれません。
『迷路探偵ピエール 水の街の秘宝を追え! 』各国版 日本版(永岡書店)は2020年
各国版に合わせて表紙も少し異なる。
作品を拝見すると、仕事ごとに一つの新しい世界を作っていると感じます。
IC4DESIGN ありがとうございます。実際大変なんです。家を何十軒か描くとして、一軒ずつデザインしなきゃいけない。そこを考えるのが毎回しんどい。だからこそ、Adobe Stockで僕らの絵が認知されて最終的にブランドになっていければ、同じパーツや絵がいろんなクライアントで組み合わされて使われても平気になるでしょう。世界観を売っているということになれば理想だと思ってます。
その足がかりとしてAdobe Stockが当てはまったんですね。
IC4DESIGN 本当にビッグプロジェクトなんです。将来を見据える意味でも。現実的な話ですが、今会社の収入は絵本の印税の割合が大きいんです。コツコツ頑張ってやっと10年目で回り始めたんですけど。新規の仕事ばかりでその収入を確保するのはしんどい。絵本の収入があるから今後の自分たちの制作の計画も立てやすい。そういった収入の柱にAdobe Stockも加わるのが理想なんです。Adobe Stockに作品をどんどん投入していけばクライアントワークの質を上げて、描く量を減らすことが可能になってくる。将来的には、絵本とAdobe Stockのロイヤリティが収入の2本柱になれば。全然売れないかもしれないけど、やってみないとわかりませんからね。甘くないのは承知してますが、続けていくことが大事だと思ってます。日常の仕事で描いたパーツを、あ、これAdobe Stock載せれるよね、じゃあちょっと加工して載せようっていう状況を作っていきたいですね。
今までのお話を聞いているとビジュアルトレンドとしてテーマがあるのは、制作のいいきっかけになっているようですね。(Adobe担当者)
IC4DESIGN 最初はもっと好きなもの、ビジネスに直結するだろうものを描きたいと思ったんですが、縛りがある方が実際はやりやすいです。ビジュアルトレンドには日本人には馴染みのないようなテーマもありますが、世界のマーケットに出るっていうのは、そういうところにアジャストして、さらに日本人的にフィルターを通して、ワールドワイドで理解してもらうということ。それができればビジネスチャンスにつながる。
僕らが細々小さく描くのは90年代の日本のもの作りに共通するところだったりもします。ソニーが目指したのがとにかく小さいものを作ることでしょう。なんでもコンパクトにしていく。そういうことがジャポニズムというか。で、その根本だけが日本で、ほかのことは意識しないんですよ。むしろ欧米寄りなものを描きたい。「ちっちゃい」っていうコンセプトはすごく大事にしています。
いかがでしたでしょうか? Adobe Stockのご利用に関して動画も使えるサブスクリプションプランまたはクレジットパックがおすすめです。購入プランに関してはこちらを御確認ください。また、Adobe Stockでは皆様からの作品も受け付けております。コントリビュータープログラムの詳細はこちらを御覧ください。