小中学校の教育現場にAdobe Expressを取り入れるアイデア ~クリエイティブな学びの実現を

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Adobe Expressは、デザイン未経験でも魅力的なグラフィックや画像、動画、Webページを簡単に作成できるオールインワンのクリエイティブツール。直感的な操作で誰でもアイデアをカタチにすることが可能で、小中高校向けには無償提供されています。最近では生成AIをはじめとした新機能が次々と搭載され、ますます使いやすく便利になっています。

そうした中で、小・中学校の授業や様々な活動でのAdobe Expressの可能性に着目しているのが、香川大学 教育学部 学校教育教員養成課程 准教授の吉澤樹理先生です。学校教育におけるクリエイティブな学びの実現に向けてAdobe Expressがどんな役割を担えると考えているか、吉澤先生にお話をお聞きしました。

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スムーズにAdobe Expressを使いこなす大学の学生たち

吉澤先生のご専門は生活科教育や理科教育、サイエンスコミュニケーション。科学館での小中学生への理科指導や、立教大学でのサイエンスコミュニケーターといった勤務経験を経て、現在は大学で教鞭をとっています。大学では現在、「昆虫嫌いはなぜ起きるのか」というテーマで研究しながら、教員養成課程の学生たちの指導も広く担当しています。

吉澤先生はこれまでにも大学の授業に積極的にアドビ製品を取り入れ、活用してきた実績をお持ちです。とくにAdobe Expressというアプリはコミュニケーションのツールとしても非常に有効だと感じているということで、今年度は「コミュニケーション論」の授業で数多く使う機会があったとか。年度当初の授業の導入で、学生同士でのコミュニケーションを図るために「名刺づくり」に取り組んだところ、とても面白い授業ができたそうです。

学生たちが初対面でいきなり自己紹介をしあうより、いったん名刺を「つくる」という工程をはさむことで自分を深く掘り下げることにつながり、より個性の強い自己紹介に。つくった名刺にはそれぞれのアイデアや人となりが現れてくるので、聞く側も作品を通じてその人に興味を持つことができる、という好循環が生まれたことが感じられたといいます。

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学生たちが作成したショート動画風の名刺。それぞれに工夫を凝らして完成した名刺をスマートフォンに送り合うなど、学生同士の交流も深まったという

ほかにも、学生たちのポスターやチラシの制作、レポートの作成などにもAdobe Expressを活用。学生の多くがスマートフォンでの作成だったそうですが、Adobe Expressのテンプレートを利用することで、簡単かつ手軽に自身のアイデアを形にしていくことができたとのこと。Adobe Expressの場合、発表の際に各自の作品をスクリーンに映し出して全体で共有できるのも良かった、と吉澤先生は語ります。

教員はテンプレートを使って効率的におたよりやプリント作成が可能

それでは、小中学校の教育の現場では、Adobe Expressはどんな活用の仕方が期待できるでしょうか。吉澤先生は、「教員」と「子どもたち」という2つの方向性で考えられると話します。

まず1つ目は、教員による活動。Adobe Expressにより、教員の仕事の効率化・時間短縮につなげられると吉澤先生は考えています。

多くの学校で発行されている「学年だより」や「学級だより」、校内イベントの周知、各種のお知らせなどのおたより類や、授業で配布するプリント類はAdobe Expressなら既存のテンプレートを使うことで簡単に、見栄え良く作成することができます。最近は、メールやLINE、あるいはGoogle Classroom、 Microsoft Teamsなどを使っておたより類をデジタルで送信するようになっている学校もあります。その場合、Adobe Expressで作成してPDFにダウンロードすれば、カラーのおたよりも簡単に実現できます。

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(左)吉澤先生が実際にテンプレートを使って作ってみた授業プリント。作成時間はわずか3分ほど (右)既存のテンプレートを加工して作ったポスター

「勉強会や研修会、研究授業など先生方の発表の機会が年に何回かありますが、そういう時も、Adobe Expressでポスターを作ると時間短縮になると思います」と吉澤先生。「特に、写真を掲載したい場合はAdobe Expressであれば簡単に、かつ綺麗に見せることができます。一度使い方を覚えてしまえば、仕事のスピードは確実に速まります」とも。

児童・生徒は学習のまとめ・発表や課外活動のポスター作成などに

2つ目は、子どもたちによる授業や課外活動での幅広い活用です。

たとえば理科の授業で、水中の生き物(ゾウリムシ)を観察して記録するシーン。ノートに手書きではなく、Adobe Expressのグラフィック機能でまとめます。子どもたちがそれぞれの端末で撮影した写真も、背景削除の機能を使えばボタン1つでゾウリムシだけを綺麗に切り抜くことができるので、観察記録がわかりやすく仕上がります。

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Adobe Expressで作成する観察記録のイメージ。ゾウリムシのような非常に小さな生き物も、倍率100倍にして綺麗に切り抜けるので、伝えたいポイントを見やすくしたり、強調したりすることができる

また、近年、社会や理科を中心に多くなっている「調べ学習」や、夏休みの自由研究などでも活用が可能です。発表内容を模造紙に手書きで、という学校がまだまだ多いのが現状ですが、Adobe Expressでポスターを作成し、大きく印刷して発表するやり方でもよいのではないか、と吉澤先生は指摘します。「今や、中学生や高校生でも、学会などでポスター発表をすることがあります。将来を考えれば、小学生からAdobe Expressのようなツールをどんどん取り入れていくことで表現の幅を広げることができると思います」

そのほかにも、クラブの部員募集ポスターなど課外活動での活用も十分に考えられます。手描きの良さももちろんありますが、「Adobe Expressを使えば、簡単に、格好良いポスターができるとなると、子どもたちもより楽しく取り組めるのでは」と吉澤先生は推測します。

「『綺麗=良いポスター』というわけではありませんが、見栄えを綺麗にすることによって人をひきつけることができます。そしてそれは、子どもたちが能動的に活動できる1つのきっかけになるのでは、と思うのです。ポスターでも写真でも、綺麗に作ることで、なんか格好良いなあ、自分もやってみたいなあ、と意識が変わってくるはずです」

写真の背景削除や豊富なテンプレート。生成AIも加わったAdobe Expressの便利な機能

ご自身でも、普段からよくAdobe Expressを使っているという吉澤先生。小中学校での活用で生きてくると思われるAdobe Expressの良い点を、いくつか挙げていただきました。

◆ポスターやチラシなどグラフィック作成のためのテンプレートがあること

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色やデザインのバリエーションに富んだテンプレートから好みのものを選んでカスタマイズできる

Adobe Expressには様々な用途に合わせた多くのテンプレートが用意されており、文字や写真を入れ替えるだけで見栄えの良い作品が出来上がります。「既存のテンプレートがあると作業が格段に楽になります。自分では思いつかないような外国風の配色のものなどもあり、使いやすく便利です」

テンプレートは小学校低学年の授業にも適している、と吉澤先生は指摘します。「0から新しいものを生み出すことは、低学年の子どもにはなかなか難しい場合もあります。初めから好きに作らせるより、選択肢を提示して児童自身が選ぶ進め方の方がスムーズなので、使えるテンプレートがいくつもあるのは良いこと」。また、そうした場合は選択肢が多すぎても難しくなるので、先生がある程度テンプレートを絞り、その中から好きなものを選んでもらうやり方にすると良いのでは、ともアドバイスします。

◆写真の背景削除(切り抜き加工)が簡単にできること

モニター画面に映るウェブサイトのスクリーンショット 中程度の精度で自動的に生成された説明

画像を選択し、「背景を削除」ボタンをクリックするだけで被写体を切り抜くことが可能

観察や実験で撮影する写真にはどうしても背景に不要なものが映りこみがちですが、Adobe Expressであれば背景削除機能により、写真・動画の切り抜きがボタン1つで可能に。うまく背景が削除しきれなかった部分は消しゴム機能でさっと消して、対象物が綺麗に見える写真があっという間に完成します。作業の時間短縮、授業の効率化につながる、と吉澤先生は話します。「大学の学生たちには、『生物学』のレポート作成時にAdobe Expressを使ってもらいました。他の文書作成ソフトより、自分で撮影した写真を綺麗に貼り付けることができるので非常に有効でした」

◆生成AIで写真やイラストなど必要な素材が簡単に作れること

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吉澤先生が生成AIで作ってみた画像。 (左)「学校 校庭」 (中)「蝶 花」 (右)「花の蜜 虫」でそれぞれ作成

学校の配布物や学会などの発表ポスターを作成する場合、「著作権フリーとして提供されている無料イラストを使うことが多いので、他の人とかぶったり、どこから持ってきた素材なのかすぐにわかったりしてしまうのが悩みの種」と吉澤先生。生成AIによって、新しいオリジナルの画像を作成して使えるのは、非常に魅力的だといいます。自分のイメージに近いものを生成するには、適切なキーワードの選択などに慣れるまで少し練習が必要な気がするそうですが、使ってみた感想は「生成AIのFireflyはすごく楽しい」とのこと。

また、「やってみないとわからないですが」と前置きをしつつも、「子どもはこれまでに習ったことや、知っている言葉の中で簡単に説明しようとします。大人が難しく考えてプロンプトを入力するよりも、慣れれば、子どもの方がうまく生成AIを使いこなすのかも」とも語ります。

「アドビの生成AIであれば図工などでも使えそう。『総合的な学習の時間』などで、成果物として何かモノをつくるとかまとめるというときに、生成AIでつくったイラストや写真を使っていくこともできそうです」と活用イメージは膨らみます。

これからの日本の教育に必要なのは「クリエイティブ」な活動

「これからの時代で日本が生き残るには、クリエイティブなことに、もっと取り組んでいかなければいけないと思うんです」と言葉に力を込める吉澤先生。

日本でも注目されてきているSTEAM教育ですが、海外ではすでに活発に行われており、とくにアメリカでは今、「ハイテク・ハイ(High Tech High)」と呼ばれる新しい学校が注目を集めています。このハイテク・ハイの授業の中心はPBL(課題解決型)学習。生徒たちは作品をつくり、発表し、批評しあいながら学びを深めていきます。吉澤先生は、日本もこれからは何かモノをつくりながら、主要科目とされてきた国語、算数、理科、社会を学んでいく体制に変わってくるのではないかと見ており、そのために必要になるのが「クリエイティブ」だと考えています。

こうした手法や考え方の根本は、たとえば吉澤先生が大学の授業で行った「名刺づくり」にも共通している部分があるといえるでしょう。「つくる」ことを通して自ら学び、相互に高め合うという、有益な学びのプロセスが生まれていくのです。

「モノをつくるといっても、どうやってつくるのかを知らなければ、モノづくりはなかなか難しい。でも、その解決策の1つとなりうるのがAdobe Expressではないでしょうか」。今後もAdobe Expressを使った取り組みを発信していきたい、と柔らかくも力強く語る吉澤先生。日本全国の小・中学校でAdobe Expressを活用したクリエイティブな学びが展開される日が来るのが楽しみです。