生徒主体の学びを実現。Adobe Expressの画像生成AIを使い被災ジャーナルにリアリティを創出 ~和光高等学校×Adobe Express

東京・町田市の和光学園和光高等学校では、毎年9月の防災月間に「近い将来やってくる大地震に備える」をテーマに、防災知識を深め必要な備えを考える授業を高校1年必修「情報Ⅰ」の授業で行っています。テーマ学習として10年近く実績を重ね迎えた今年は、ちょうど関東大震災から100年。同校の情報科教諭でAdobe Education Leader(AEL)としてもご活躍の小池則行先生は、新たな取り組みとしてAdobe Expressの画像生成AI機能を活用した「被災ジャーナル」を最終成果物に設定し、高校1年生全員が個人制作に取り組みました。

命の守り方を学ぶ防災教育、さらに目指した「自分ごと化」

もともと防災教育に力を入れてきた同校には、すでに練り上げられた授業プログラムがありました。具体的には、過去に発生した震災など事例を通して防災の基礎知識をインプットするとともに、各家庭で行っている備えについて話し合ったり、帰宅困難時の徒歩ルートをシミュレーションしたり、テクノロジーをフルに活用して災害を「自分ごと」として捉え考えていきます。

授業で取り扱う資料は、地震を事象として理解を深めるための科学的データから、震災が人々にもたらした影響がうかがい知れるドキュメンタリー動画まで幅広く、科学・感情の両面からアプローチできるものを提示。多角的に見られるように設計されています。

和光学園和光中学校・高等学校 小池則行先生プロフィール写真

和光学園和光中学校・高等学校 情報科教諭 小池 則行先生(Adobe Education Leader)

適切に状況判断できる力、身を守る術を身につける防災教育こそ、学校でしっかり学ぶべき。強い使命感を持って指導にあたる小池先生は、「個々に徒歩帰宅シミュレーションマップを作成する中で、もしもの時に『自分だったらどう行動するか?』と身近に引き寄せて考えることは十分できる。それでも、さらに一歩踏み込みたかった」と話します。

そこで2つ、新しいチャレンジを加えました。1つが、生徒主体の授業を目指し、防災に関する生徒からの発問を集約すること。もう1つが「被災ジャーナル」の作成でした。

Padletに集約した防災に関する生徒の発問リスト

「もしも大地震が起きた時、自分ならどうするか」を想定して生まれた疑問をPadletに集約。生徒たちが次に学びたいことを探る糸口に。

被災ジャーナルは、まだ起きていない未来の地震を、もう起きているものとして書き綴るもの。単なる記録ではなく、自分が災害に合うシーンをできるだけ具体的に想定し、その時の感情、思考を織り交ぜて書くことを通して被災の「自分ごと化」を目指します。地震学が専門で防災教育にも精力的に取り組んでいらっしゃる慶應義塾大学環境情報学部准教授の大木聖子教授の記事を偶然目にしたことが、小池先生が目指す防災教育のアップデートにつながりました。

手軽に扱える画像生成AIで、まだ見ぬ被災をリアルに演出

被災ジャーナルの制作にあたって、小池先生が設定した前提条件は、

というものでした。

グラフィカル ユーザー インターフェイス, テキスト, アプリケーション, メール 自動的に生成された説明

資料アップ・課題提出をGoogle Classroom上で一元化。「プロンプトのつくり方」では、ポイントとともに具体的なプロンプト例を提示。

ジャーナルの要となるストーリーづくりにChat GPTを利用すると、生成AIによる“作品”をそのまま丸写ししてしまうのではないか、といった懸念も湧き上がりますが、「Chat GPTができるのはストーリーの骨組みまで。リアルな心理描写など、人間の感情をストーリーに織り込むには自分で手直しする必要があると、生徒たちは実際に手を動かしてみることで理解できる」と小池先生。むしろ創造的な学びにおける生成AI活用の可能性に期待を寄せます。

Adobe Expressの画像生成AIも同様で、現実には起きていない大規模災害の被害を書き綴る被災ジャーナルに、生成画像によって視覚的な解説を加えることができ、リアリティある豊かな表現制作につながると考えます。その過程では、AIの扱い手である生徒自身がいかに情景をリアルに思い描けているか、それを的確にプロンプトに落とし込んで指示できるか、という創造性が問われます。

Adobe Expressに搭載されたAI生成画像例

新たに搭載されたAdobe ExpressにAIによる画像生成機能。作成したい画像の説明を具体的に入力(プロンプト作成)すると自動的に画像が生成される。

実際、授業中には、各自Adobe Expressで「テキストから画像生成」を入力して、リアルな画像が自動生成されて「おお!」と感嘆の声が上がれば、思いがけない結果に「え〜?」と戸惑うような声も。AIによる生成画像は、さらにAdobe Photoshopでの再編集や複数画像の組み合わせも可能。生徒たちは終始夢中で、プロンプトの記述を変えたり、具体的な描写を付け加えたり、友達と見せ合ってヒントを得たりと、ストーリーに合う画像が描き出せるよう何度も試行錯誤する姿が見られました。

テキスト 中程度の精度で自動的に生成された説明

テクノロジーを自在に使いこなす前に、必須のリテラシーを習得

生成AIの活用が“創造的な学び”に役立つかは、「やってみないとわからない。それを判断するのは生徒たち」と実験的な側面を認めつつ、可能性を見出し積極的に推進する小池先生。それと並行して、最新のテクノロジーを適切に扱うために不可欠なデジタルシチズンシップ教育にも力を入れています。

画像生成に取り組んだ授業では、Adobe Expressでの実作業に先立ち、フェイクニュースの事例を挙げて、不用意なSNS発信のリスクや情報の真偽を見極めることの重要性に言及。生成AIという便利な道具で思わぬミスを犯さないように、前もって注意すべきポイントを頭に入れることで、不必要に恐れることなく創造性の発揮にフォーカスできます。

病室にいる人々 低い精度で自動的に生成された説明

SNSで拡散されたフェイク画像やその影響などを紹介。生徒はみな真剣な眼差しで聞き入る。

前学期の習得をもとに、より実践的な学びを展開できた

今年から防災に関する発問、被災ジャーナル制作が加わったことで、計11回分の授業プログラムに発展。前学期までにAdobe ExpressやChat GPTの基本操作を習得しており、大きく間を空けず実践的な学びにつなげられたことも功を奏しました。

防災教育プログラムの全体像

結果的に、情報科単体の授業ながら、総合的な探究学習のように様々な知識やスキルを総動員するプログラムとなりました。データを読み解く理科や数学のスキル、地理や地域の防災を考える社会の知識、そしてジャーナルのストーリーを組み立てる国語力。

何より、生成AIを使いこなして思い通りの結果(返答・画像)を得るには「高い言語化能力が必要」と小池先生。「実社会で活きるスキルセットを目指すと、自ずと教科横断的な学びになる」と付け加えます。

真に子どもたちの役に立つ授業をしたい、という想いを受け取るかのように、一連の防災授業に対する反応は上々。授業外で自発的にブラッシュアップを進める生徒も多く、「全体としていつも以上に集中力高く取り組めていた」と、生徒たちの様子から確かな手応えを感じています。

授業後アンケートには、「自分で物語を作るというのは楽しみながらできるし、とても考え深いことを学べるのでとても良かった」「いち早く取り入れて、(Chat GPTなど)マイナスな点も授業でしっかり教えてくれる先生に感謝。そして自分の将来に役立つであろう能力を高めてくれるのも嬉しい!」といった声も寄せられました。

AIを上手に使い、生徒の創造性を引き出す学びの実現へ

日進月歩の進化を続ける生成AIを授業に取り入れた事例はまだ日本には数少なく、生徒の反応や学習効果が予測できない部分もあります。それでも、テクノロジーの進化を知り、使いこなす力をつけるために「情報科こそ積極的に授業に取り入れてみるべき」と小池先生は言います。まずはやってみた上で、できた・できなかったことを分析して改善していけばいい。「どうやったらうまく使えるか、一緒に考えていきたい」とも呼びかけます。

まずは「教員自ら進んで使ってみること、ワクワクしながら最新のテクノロジーを知っておくことが大切」と強調。目の前の先生が「すごい!」「面白い!」と純粋に興味を持って使う姿に刺激を受け、生徒たちも自然と巻き込まれていくそうです。

和光高校での取り組みをヒントに新しい学びの輪が広がり、子どもたちの創造性が豊かに花開いていくことが楽しみです。