Adobe Substance 3D でデザインパイプラインのデジタル改革に成功したデカトロン事例

デカトロンは、世界 59 カ国に 1,700 以上の店舗を展開する世界最大規模のスポーツ用品リテーラーです。様々なスポーツを網羅するアパレルと用具を幅広く提供し、50 以上の異なるサブブランドを含む多様なポートフォリオを通じて、製品を成功裏に販売しています。それぞれのサブブランドは、異なるスポーツカテゴリーに向けたもので、独自の製品デザインパイプラインを持っています。約 850 人のエンジニアと 300 人のデザイナーが製品デザインに携わっています。

数年前、同社はデジタル改革に着手し、パイプラインの主要な部分に 3D デザインプロセスの力を活用し始めました。その主要な狙いは以下の通りです。

デカトロンは、デザインプロセスの断片化という課題に対処するため、個々のサブブランドがワークフローを好みに応じて調整できる柔軟さに配慮しつつ、アセットを一か所に集めたデジタルツインライブラリの作成に着手しました。これによりデザイナー達は、社内で一般的に使用されている物理的な布地や素材のデジタル化された複製である、大規模なマテリアルのライブラリにアクセスできるようになりました。

デカトロンのデジタル改革プロセスを成功に導くために、Substance 3D 製品群とアドビのエコシステムがどのように活用されたのかを、同社の 3D 改革の最前線で活躍するデザイナーの Cyrille Ancely、Arik Schwarz、Swarnim Verma に聞きました。ここからは、彼らの話を紹介します。

Cyrille Ancely: 私は、CREAPOLE ESDI で交通機関のデザインを学んだ後、フリーランスの工業デザイナー兼 3D モデラーとしてさまざまな自動車メーカーと働き始めました。そして 2019 年にデカトロン社から、デジタル改革プロセスの設計とその実装を定義するために入社する機会を提示されました。社内ではこのプロセスを「デジタルチェーン」と呼んでいます。

Arik Schwarz: 私は交通機関のデザイナーで、2010 年に ISD を卒業しました。新しいツールの探求は、効率を向上するために自分のワークフローをどう適応させればよいかを教えてくれるため、いつもとても大切にしてきました。現在は Solognac ブランドのために働いていて、寒くて湿った天候用(防水)の製品デザインに従事しています。

Swarnim Verma: 私はデジタル 3D デザイナーで、2022 年に ISD RUBIKA Valenciennes を卒業しました。2019 年に Adobe Substance 3D を使うインターンシップの機会を得て、その期間中は 3D マテリアルの世界に浸っていました。卒業後すぐにデカトロンで 3D デザイナーとして働き始め、CMF とアパレルデザインにおける 3D ツールの使用のさらなる推進に勤しんでいます。

デカトロンのデジタル改革

Cyrille: デジタルチェーンに着手したときの状況をご説明します。デカトロンはユニークな方法で運営されています。各ブランドはグループ内の独立した会社として活動しています(2021 年末の時点で 69 ブランド)。さらに、フットウェア、繊維、光学、電子機器など 33 の産業プロセスがあり、それぞれのスポーツ向けに特化したデザインオフィスがあります。

この構造のおかげで、スポーツ競技ごとに明確なニーズを特定し、それらに対する具体的な対応を迅速に提供することが可能です。しかし、すべての組織を、統一されたデジタル改革に向けて同じ方向を向かせたいと思った瞬間に、困難が生じる可能性があります。

そこで私たちは、フランス国内の 9 つのデザイン拠点を訪ね、いろんなスポーツやプロセスに関わる協力者に会いました。これにより、グループ全体としてデジタル化プロセスを展開するためのマスタープランを作成できました。もちろんそこには Substance 3D 製品の導入も含まれます。

デジタルチェーンの認知度を高めるため、2020 年 2 月には、さまざまなソフトウェアツールやデジタル改革の実践を目玉にした社内イベントを開催しました。また、さらに盛り上げるために、社内外のステークホルダー(例えば Adobe Substance 3D)との協議会も設立しました。

COVID-19 の流行は、デジタル改革を加速させる必要性を浮き彫りにしました。最初のロックダウンの後、私たちはデジタルチェーンのマスタープランの定義に熱心に取り組み、2021 年 1 月にその導入を順調に開始することができました。私たちのポリシーは、全従業員をデジタルデザインツールで支援することです。デカトロンのプロセスは、紙と鉛筆から Photoshop/Illustrator へと移行しましたが、次のステップは 3D 環境への移行でした。

この改革に期待されていた成果は以下の通りです。

そして、前述の目標を達成するために、いくつかの横断的な改善領域を定義しました。その主要な領域が以下の 2 つです。

デジタルアセットライブラリ

Cyrille: 私たちの一番の目標は、社内の変革の支援でした。協力者の多くは、3D ツールを使った製品開発の流れを理解し始めたばかりでしたので、もしそれに加えて、マテリアルのつくり方や、製品を演出するためのシーン等のつくり方も理解するように求めたら、多くの協力者を失うかもしれないと考えました。そのため、デザインにもプロジェクトレビューにも、さまざまなツールでそのまま利用できるアセットを、私たちの手で用意しようと決意しました。

これらのアセットは、CGI の専門家がワークフローで使用するのに十分なクオリティでなければなりません。私たちは手始めに、デバイス、バッグの収納、靴のシャフトに使われる、柔軟性のあるアセットやマテリアルから着手することにしました。私たちにはパートナーがいて、彼らは、Vizoo タイプのスキャナで各素材をデジタル化し、タイリング処理をして、物理的なサンプルとスキャンから作成したマップを送り返してくれます。

その後は、私たちのチームが後処理を行います。おおよそ 7 割の場合、受け取ったマップは Substance 3D Sampler で高品質なマテリアルを作成するのに十分です。ただし複数色の素材については、マスクの作成により色を個別に編集し、若干の再加工を行います。それ以外のケースでは後処理が大変になることもあって、スキャンしたベースにプロシージャル処理を加えたり、場合によっては Substance 3D Designer を使った完全にプロシージャルな再作成が必要になることもあります。

いずれのケースでも、SBSAR とマップを書き出したものを Keyshot に読み込んで、Keyshot 専用のマテリアルを作成します。

SBSAR に公開するパラメータの数は最小限に抑え、デザイナーが当社の提供しないマテリアルを作成することのないようにしています。例えば、現在公開されているのは色を変更するパラメータだけです。CMF については、異なるアプローチをとっています。

処理時間は、素材の複雑さ次第で非常に幅があり、数分で終わることもあれば、数日に及ぶこともあります。

現在までに、データベースには約 3,765 のアセットが登録されています。

デジタルツインライブラリーの利点

Cyrille: デジタルツインライブラリーの主な利点は、デザイナーが必要なアセットを探すときに、異なるユーザーの複数の共有フォルダを探索する必要がなく、単一の決められた場所で見つけられることです。

私たちが想定していなかったことは、デジタルツインを管理するために、継続的な更新が必要とされることでした。そこで、テクニカルアーティストを雇うことにしました。これにより、アセットの管理と作成を円滑に進められるオーダーメイドのツールを実装できました。実際、アセットデータの管理は、この施策の主要なポイントのひとつになりました。

アパレルのワークフロー

Arik: 私は、Substance フォーマットで入手可能なテクスチャを検索しては、それを CLO に統合しています。これにより、生地のドレープのリアルな視覚化が可能になります。その他には、私が探索している間に、同僚がカスタマイズ可能な Substance 3D マテリアルを用意してくれて、それを CLO で直接修正する場合もあります。このようにして、チームの他のメンバーに簡単に共有できる、質の高いビジュアライゼーションを提供しています。

私にとって Substance は、申し分ないクオリティの布地の製品を実現するために欠かせないツールです。 Substance の素晴らしいビジュアルとテクスチャリング機能は、私のクリエイティブな仕事の質を向上させ、クリエイティブな 3D ファイルと生産の間にある溝を埋めてくれます。以前は、Photoshop や Illustrator でビジュアルを作成して、CLO に読み込んでいました。これはいくつかのアイデアを追及するために役立ってきましたが、フォーマットに柔軟性がなく、リアルさではかなり劣っていました。今なら、布地の制作を製品開発と同じレベルに置いた、アパレルデザインのワークフローにおける大きな革命についてご紹介できます。

CMF のワークフロー

Swarnim: Substance 3D Designer を使うと、コンポーネントデザイナーは、マテリアルのさまざまなモチーフ、パターン、仕上げ(マット、光沢など)、色についてのアイデアを視覚化できます。

CLO のようなアパレル及びファッションデザイン用の 3D ソフトウェアと組み合わせることで、Substance 3D Designer はさらに強力なツールになります。衣服のデジタルプロトタイプに対するさまざまな修正を、より迅速に視覚化できるからです。そのためコンポーネントデザイナーは、複数のデジタルプロトタイプを作成することが可能になり、物理的なプロトタイプを作成する前に行う判断に対して、より自信を持つことができます。

https://blog.adobe.com/media_1dc1dcca06c652eede0bb44d2fc98e66cca1201e7.mp4

Substance 3D Sampler でマテリアルを作成

https://blog.adobe.com/media_110e2b890e71d1c22ec8e5e5ac865a44895a7641a.mp4

CLO からメッシュを書き出して Blender へ

https://blog.adobe.com/media_190ad41334f5b705f564dfe7a2e378d20891acbeb.mp4

Substance 3D Painter におけるテクスチャリングのワークフロー

Substance 3D Stager でクローズアップのレンダリング

Painter から書き出し、Blender でシーンを設定

Blender で最終レンダリング

スキーウェアのモデリング: Audrey Mathelet & Maxime Devauchelle、
CMF、テクスチャ、レンダリング: Swarnim Verma & Timothée Ryckeghem

Cyrille: 私たちは現在、これらのツールが CMF に与える影響の評価と、先に述べたアパレルやフットウェアなどと同じように、布地素材のデザインをどのように 3D デザインワークフローに変えることができるかという課題に取り組んでいます。 私たちは、布地素材を描く従来の方法と比較して、同じ期間に 10 倍から 60 倍の反復修正を行えるようになるだろうと見積もっています。

全体的なまとめ

Cyrille: 制作プロセスと産業化プロセスへの Substance 3D の統合により、よりコントロールできる項目が増え、製品の品質が向上し、その結果として顧客やユーザーの満足度を高めることができました。

私たちは、3 つの改善領域を確認しました。

デカトロンにおける 3D の未来

Cyrille: 私たちは、グローバルな取り組みとして、デカトロンのさまざまなチームにおける改革に関わっています。主な項目は以下の 2 点です。

インタビューは以上です。デカトロンは、デザインプロセスのデジタル化を進める際に、断片的な組織構造から、ワークフローやビジュアルの不整合、そして環境への懸念に至るまで、さまざまな課題に直面しました。しかし、デジタルチェーン戦略の中核として Substance 3D を統合することにより、同社はアセット管理を合理化し、デザインプロセス全体のリアルさと一貫性を高め、製品の市場投入までの時間を増やすことなく、クリエイティブな作業の反復に多くの時間を費やすことを可能にしました。

デザインプロセス及びデジタルチェーンのアプローチが持つ利点を垣間見る機会を提供してくれたデカトロンのチームに感謝の意を表明します。

Adobe Substance 3D は、製品デザインプロセス全体を通して、フォトリアルなマテリアルの作成、管理、適用に利用できる包括的で統合されたツールセットです。Adobe Substance 3D がどのように働き方改革に役立つかについては、こちらのページもご覧ください。

この記事は Decathlon successfully transforms its digital creation pipeline with Substance 3D (著者: Pierre Bosset )の抄訳です