日本一詳しい Substance 3D の最新情報が入手できる Substance 3D MEETUP vol.4 レポート
目次
- マツダが Substance 3D を導入する理由
- アシックスにおける Substance 3D の活用方法
- Adobe Substance 3D 最新アップデート情報
Adobe Substance 3D ユーザー同士が交流できるリアルイベント、Substance 3D MEETUP の 4 回目が 11 月 22 日に開催されました。2 名のゲストスピーカーが共に 10 月に米国ロサンゼルスで開催された Adobe MAX 2023 に参加して刺激を受けていたこともあり、3D を活用した業務の効率化や脱炭素化で先行する海外の企業に追いつきたいという意気込みの感じられるイベントになりました。
会場の様子
この日に登壇したのは、登場した順に、アドビ Technical Artist / Evangelist 福井 直人氏、マツダ デザイン本部 デザインモデリングスタジオ デジタルデザイングループ 天野 文昭氏、アシックス デジタル技術チーム 永田 慎太朗氏の 3 名です。
マツダが Substance 3D を導入する理由
「あれはマツダ車だ」と一目でわかるデザインの独自性やクオリティは、多くの人が認めるところです。そうしたデザインの礎とも言える考え方を端的に表した言葉として、「カラーも造形の一部である」を天野氏は紹介しました。色素材だけ、造形だけと個別に最適化をするのではなく、色素材と造形を不可分のものと捉えて、この色素材であればこの造形、この造形であればこの色素材と、相互的なアプローチによりマツダではデザインが行われているそうです。
マツダ デザイン本部 デザインモデリングスタジオ デジタルデザイングループ 天野 文昭氏
カラーも造形の一部として扱われている
さらに、現在、車には多くの機能が装備されるようになりました。それに伴い車開発は複雑になり、UI や UX がデザインの重要なファクターになっています。従来からの色素材や造形にこうした機能も含めて、車全体視点で創造と最適化を行うというのが、マツダのデザインに対するアプローチです。
そのアプローチを推進する上で、デジタル技術はマツダにとって欠かせないものになっていると天野氏は語りました。例えば、マツダ車の特徴であるリフレクションのつくり込みはクレイモデルだけでは難しいため、デジタルでビジュアライズして反射や映り込みを確認しながら、魅力ある造形に取り組んでいるそうです。
車全体視点からデザインするために 3D モデルや VR が活用されている
マツダにおけるビジュアライゼーションのプロセスは、スケッチや CMFデザイン を起点に、モデリングとテクスチャ生成を行って、最終的に VRED やゲームエンジンを使って視覚化するという流れです。そのプロセスにおいて、特に素材表現に関しては、「表現の幅が限られていること、凝るほどテクスチャーが複雑な構造になって、後調整が難しくなること、そしてアプリごとに色素材の調整が必要であること」が課題になっていると天野氏は言います。
その解決策として導入されたのが Adobe Substance 3D です。マツダでは、半年ほど前に Substance 3D を使ったトライアルを開始しました。天野氏によると、Substance 3D に期待されているのは、「塗装・金属・皮・布など幅広い素材を表現できること、拡大可能な精度の高いマテリアルを扱えること、複数のアプリで共通して使える汎用性を提供してくれること」です。
また、マツダ社内に蓄積された「魅力的な色」を分光測色器で取り込んでアセット化するなど、既存のデザイン資産が活用できることや、VR 用に環境も 3D 化しなければならないときに、全部自作するのではなく、オープンソースマテリアルを取り込んで利用できることもありがたいと天野氏は述べました。
下の画像は、天野氏のグループがトライアルで作成した素材の例です。これまでは難しかったスエード、ダイヤモンドカット、複合メッシュなどを、多くの手間をかけることなく作成できたそうです。「Subustance 3D は優秀なデザイン創造の武器になるなと、ここまで使ってきて感じています。これを使いこなして、マツダの独自性ある魅力的なデザイン創出を進めるための一つの武器として使っていきたいと思っています」と天野氏はプレゼンテーションを締めくくりました。
天野氏からは、ロサンゼルスの Adobe MAX の視察レポートのお話もありました。天野氏が個人的に興味をひかれた展示の一つとして紹介されたのは、Adobe Photoshop で描いたポンチ絵をきれいに仕上げてくれる AI 技術です。
仕上げられた絵を Photoshop に戻してさらに編集し、それをまた仕上げてもらうこともできます。
「通常 AI を使うには言葉でプロンプトに入力するわけですが、普段デザインの仕事をする時は、デザイナーがスケッチを描いて、やりとりしながらモデルやデータをつくっていきます。この AI の使い勝手はその感覚にかなり近くて、言葉に頼らず雰囲気でコミュニケーションできるのがいいなと感じました。いいアシスタントが常に隣に付いている様な感覚でデザイナーの仕事のやり方も変わるだろうなと思って見ていました」
アシックスにおける Substance 3D の活用方法
アシックスでは「VISION2030」という計画に基づいて、デジタル、サステナビリティ、パーソナル の 3 つを軸に業務が進められているそうです。永田氏からは、その中で 3D がどのように用いられているかというお話がありました。
アシックス デジタル技術チーム 永田 慎太朗氏
「VISION2030 には 3 つの軸があります。その中のデジタルの部分では、製品のデザインに 3D を使うことによって、製品価値の向上を図ります。サステナビリティの観点では、3D サンプルによる物理サンプルの削減やバーチャルフォトの活用によって CO2 排出やサンプルの廃棄を削減します。パーソナル に関しては、3D とジェネレーティブ AI を使った多種多様なデジタルアセットの作成と、3D ならではの顧客体験を実現したいと考えています」と永田氏は説明しました。
VISION2030 の 3 つの軸
アシックスにおけるデザインフローは以下のスライドの通りで、まず VIZOO の XTEX を使って実際の生地からデータを取得した後、Substance 3D Sampler に読み込んでデータのクオリティを高めてから SBSAR として出力します。そして、基本となる 3D 形状を CAD で作成し、Substance 3D Designer や Substance 3D Painter に持ち込んで、様々な意匠を検証しながらデザインを進めていきます。
アシックスにおける 3D デザインのワークフロー
永田氏は 3D デザインの利点として、コミュニケーションギャップを解消できること、それが特に海外とのやり取りで有効であること、プロシージャルにデザインできるため多くのバリエーションを素早く確認できることを挙げました。また、来シーズンの店頭モデルについてサンプルのデジタル化によるサステナブルな取り組みをしていること、インスタグラムの商品動画に 3D が活用されていること、アドビの Adobe Experience Manager 連携が進められていることなども紹介されました。
ところで、ロサンゼルスで開催された Adobe MAX には、永田氏も参加しています。Adobe Firefly 一色とも言える今年の MAX でしたが、Substance 3D にも注目して視察をしてきたと永田氏は語りました。
中でも目を引いたものとして紹介されたのは、Firefly をトレーニングしてカスタマイズできるようになるというアップデートです。カスタマイズには二種類あります。一つ目は、ある程度のデザインをインプットすると、与えられたスタイルをベースにしたデザインバリエーションを生成できるというものです。もう一つは主題のカスタマイズで、インプットされた画像から主役を判別して、その主役に様々な背景を組み合わせた画像を自動生成してくれるというものです。「マーケティングアセットの生成にすごく便利そうな内容で、今後のプロダクションのフローが変わってくるなと感じました」と永田氏は話しました。
Adobe Firefly をトレーニングしてカスタマイズできるようになる
また、3D 関連では Hugo Boss のセッションが印象的だったそうです。Hugo Boss では 2012 年から 3D プロジェクトを開始しており、現在は 400 名規模で 67% の 3D 化を実現、さらに 2025 年までに 600 名規模で 90% 以上 3D 化を実現する計画です。永田氏にとって、「この数字は衝撃的で、かなりの規模の違いを感じた」といいます。
ヒューゴボスの 3D への取り組みが紹介されたセッション
その他にも、30% ポートフォリオの削減を実現して廃棄や汚染を削減するなど、ヨーロッパではサステナビリティも進んでいることや、カラーバリエーション自動生成するなどの効率的なワークフローが採用されていることなど、ベンチマークとして非常に参考になるセッションだったようです。
現地でしか体験できないことが非常に多かったとして、「可能であれば毎年参加すべきであると思わせてくれるイベントでした」と永田氏は感想を述べました。
Adobe Substance 3D 最新アップデート情報
福井氏からは、Adobe MAX Japan で担当したセッションの内容が紹介されました。大型アップデートの直後だけに主要な機能に絞った内容でしたが、スポーツシューズ制作を題材に、様々な Substance 3D 製品の使い方が紹介されました。
アドビ Technical Artist / Evangelist 福井 直人氏
まず、Substance 3D Modeler に Adobe Illustrator で作成したスケッチを読み込んで、それをガイドとして使用しながらモデリングを行います。下の画像は Illustrator で描かれたシューズのイラストです。
これを Modeler に読み込んで、クレイで包みます。その後、クレイを削ったり滑らかにしたりして、シューズの形状に仕上げます。こうしたわかりやすい手順でイメージを形にできるのは Modeler の便利な点です。
形状ができたら、パーツごとに分割したり、靴紐を通すための穴をあけたりします。これらの作業にはブーリアン操作が使われています。このように分割しておくと、Painter に読み込んだ後、パーツごとにテクスチャ設定ができるため便利だとのことです。
靴紐を追加して、分割した面の微調整をします。完成したモデルは USD 形式で書き出します。
Painter の新機能
次は、USD データを Painter に読み込み、テクスチャを作成します。このステップでは、主に Painter の新機能の使い方が紹介されました。下の画像では、シューズの側面に 3D カーブを使って円が描かれています。
パスのポイントを選択するとハンドルが表示されます。これを操作すると、カーブの曲がり具合を操作することができます。
3D カーブで描いた領域をマスクとして使い、シューズの一部分に異なるテクスチャを設定すると下の画像のようになります。3D カーブはこんな使い方もできます。
続けて、Painter に直接ベクターを読み込む機能です。下は、Illustrator で作成したロゴ画像です。これを SVG として保存します。
保存したファイルをシューズの任意の場所にドラッグ&ドロップします。すると、ドロップしたパーツ上にベクター画像が配置されます。配置後、向きや大きさを自由に変更することが可能です。
直接配置するのではなく、塗りつぶしレイヤーマスクとして使用すると、ブラーなどの効果も使えます。
3D カーブを使って、ステッチと縫い目のしわがつくれることも紹介されました。
シューズのモデリングからレンダリングまで、すべてのステップが紹介されているチュートリアル動画もぜひご覧ください。
After Effects 連携
最新版の After Effects は、Substance 3D で作成した 3D データを直接読み込むことができます。現在サポートされている形式は、GLB、GLTF、OBJ の 3 つです。下の画像は、Substance 3D Stager から書き出した GLB ファイルを読み込んでいる場面です。
現時点では Substance 3D のデータからマテリアルやライティングを読み込むことができません。そのため、光源は After Effects 側で追加することになります。下は、写真を利用して環境光を設定しているところです。
時間の都合で福井氏がセッションに含められなかったトピックについては、懇親会の時間に紹介されていた模様です。Substance 3D の最新トピックにご興味のある方はぜひミートアップに参加して福井氏から直接話を聞いてみてはいかがでしょうか?来年も引き続き Substance 3D MEETUP は開催される予定とのことですので、発表を楽しみにお待ちください。