Adobe Expressで医療課題の解決策に取り組む〜アドビ×製薬会社×立命館大学の産学連携ワークショップを開催

アドビと立命館大学は、グローバル製薬会社である日本ベーリンガーインゲルハイム社の協力のもと、医療課題をテーマにした産学連携のワークショップを開催しました。異なる学部・研究科の学生の皆さんがグループごとに協力し、リアルな医療課題について議論。その後、Adobe Expressを使ったクリエイティブによる解決策を考案し、プレゼンテーションを行いました。2023年12月に行われたこのワークショップの様子をご紹介します。

異なる学部・研究科の学生が協力し、創造性と対応力を伸ばす重要性

2023年12月16日、立命館大学の茨木キャンパスで開催されたワークショップのテーマは、「SDGsの社会課題をクリエイティブシンキングで解決する力を身につける」。当日は12学部、4研究科から合計50名の学生が参加しました。今回は、グローバル製薬会社である日本べーリンガーインゲルハイム社の担当者が実際の医療課題を共有し、解決策を学生たちに提案してもらいます。参加した学生の皆さんはグループごとに協力して議論し、アイデアを具体化したアウトプットを作成してプレゼンする実践的なワークショップになりました。

2024年4月から同学で始まる新プログラムQULTIVA(カルティバ)を推進する、OIC総合研究機構 の三宅 雅人教授(以下、三宅教授)は、冒頭の挨拶で「現代社会の変化に対応するためには、個の知識や経験だけではなく異なる専門性の連携が不可欠です。カルティバはまさに、異なる学部・学科のバックグラウンドを持つ学生達が意見を出し協力することで、創造性を伸ばし、現実の課題に対処する力を養成するプログラムです」と述べ、今回のワークショップで積極的な発言と失敗を許容する環境での議論を促しました。

モニター画面に映るスーツ姿の男性 中程度の精度で自動的に生成された説明

今回のワークショップを企画した三宅先生による開会のご挨拶

Adobe Expressの生成AI機能「Firefly」を使った名刺で自己紹介

今回のワークショップの進行は、アドビのプロフェッショナルサービス事業本部 ビジネスコンサルティング本部 本部長の山田 智久(以下、山田)が務め、始めにこのワークショップがデザイン思考とクリエイティブツールの実践的な使い方を学ぶよい機会であることが伝えられました。

参加した学生は11グループに分かれ、最初にアイスブレイクを実施。自分の名前や趣味、最近のマイブームなどを、Adobe Expressに組み込まれた生成AI機能「Firefly」を使って画像化し、名刺にまとめて自己紹介をしました。

ノートパソコンで作業をしている人達 自動的に生成された説明

アドビのスタッフも学生の皆さんの議論に参加

グローバル製薬会社からペイシェントジャーニーを共有し身近な課題を深掘り

アイスブレイク後は、いよいよ本題に入ります。はじめに日本べーリンガーインゲルハイム社の医療政策本部 医療政策部 地域医療連携支援 西日本グループ マネージャーの瀬戸崎 修一氏から、事業内容についてご紹介いただきました。

同社はドイツのインゲルハイムに本拠地を置き、医療用医薬品や動物薬にも力を入れている世界的な製薬会社です。また日本国内には、神戸の医薬研究所や山形にある工場など重要な拠点があり、アジアのハブとして医薬品の輸出も行っていることにも言及されました。

テレビを見る人たち 中程度の精度で自動的に生成された説明

日本べーリンガーインゲルハイムの瀬戸崎氏による事業紹介

次に、医療政策本部 医療政策部 地域医療連携支援 西日本グループ マネージャーの手塚 淳氏から、日本ベーリンガーインゲルハイムのSDGsの施策として、「SD4Gs」という独自の取り組みを進めていることが紹介されました。このSD4Gsでは、「More Health - 人と動物の健康のために」、「More Potential - 社会と社員のために」、「More Green - 地球環境のために」の3つの柱に焦点を当てて、社会貢献活動を従業員一丸となって進めているとのこと。

今回のワークショップでも取り上げる「More Health」の日本での取り組みは、開発や製造・販売だけではなく、苦しむ患者さんと高校生が協力して行うワークショップや、他企業と協力して強皮症患者さんのケアサポート、希少疾患や糖尿病の啓発活動などにも注力していることにも触れられました。

コンピューターの前に立っている人たち 低い精度で自動的に生成された説明

日本べーリンガーインゲルハイムの手塚氏から同社の取り組みのご紹介

そして、いよいよ今回のワークショップで取り組んでもらう課題内容を発表。医療政策本部 医療政策部 医療政策情報グループ マネージャーの市原 大輔氏から、健康診断や病気と向き合う架空の家族の事象としてペイシェントジャーニー(患者が病気を認知し、医療サービスを受けることで経験するあらゆる接点の工程)が共有されました。

その内容は、

というものでした。

日本べーリンガーインゲルハイムの市原氏(左)からペイシェントジャーニーを共有
学生の皆さんと身近な医療課題について意見を交わした

この事象について、まず各グループで「なにが課題だったのか」のディスカッションを行いました。あるグループは、eGFRという数値が身近でないことが、積極的な健康認識を妨げていたと指摘。また50代の会社員は忙しく、健康診断に対する認識が変わらなかったことが今回の結果に影響した可能性も示唆しました。また別のグループは、eGFRに関する数値が理解しにくいことや、受け入れ再検査に対するハードルの高さが課題であると考え、さらに性別による差異や個々の知識と経験が情報の理解や受け入れに影響している可能性を取り上げました。

ワークショップで共有されたペイシェントジャーニー
具体的にイメージできるように詳細な背景設定がなされた

これらの発言に対し市原氏は、再検査医療の情報不足や予防医療、医療の知識、食生活、運動習慣の重要性に触れ、これらが課題の一因となっている可能性を説明。また、再検査に対する会社の対応や医療者の理解が重要であると述べ、疾患への理解や早期対応、会社のサポートなどが課題となっていることを解説しました。

これを受けて次に、医療政策本部 マーケットアクセス部 マネージャーの八木 伸高氏から、以下の3つのテーマが提示され、学生グループはこの中から1つを選び、Adobe Expressを使いながらクリエイティブなアプローチで解決策の提案に挑みます。

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日本べーリンガーインゲルハイムの八木氏からテーマ発表

議論が中心のワークショップ。課題マップ、ペルソナ、How Might Weで情報を整理

クリエイティブ作成のワークは、まず日ごろから企業のコンサルティングに従事しているアドビの山田から、デザイン思考による情報のまとめ方を紹介することから始まりました。学生はグループごとにAdobe Expressで課題マップのテンプレートを共同編集しながら、課題を深掘りしてテーマを絞り、見えてきた課題に対しどのようなターゲットにアプローチするかというペルソナを設定していきます。

グループで共有された課題マップ(左)を使い、グループメンバーが同時に書き込みを行う

次に、ターゲットへのアプローチを検討するためにHow Might Weというテンプレートでアイデアを整理しました。これもグループごとにAdobe Expressで共同編集しながら議論を進めます。"How Might We"はデザイン思考の手法で、問題解決に焦点を当て、肯定的で創造的なアイデアを生み出すためのフレーズ。実際にプロダクト開発やサービスデザイン、チームブレインストーミングなど、さまざまなシーンで利用され、ユーザー中心の視点から問題を捉え、新しい視点やアプローチを促進する手法です。

How Might Weのシート(左)でアイデアを抽出
社会の実情など分からない点は、日本べーリンガーインゲルハイムの方に質問

これらの手法を用いて情報を整理した各グループは、いよいよAdobe Expressで提案するアイデアのアウトプット物を作成していきます。チラシやポスター、Webサイト、アプリ、SNSなど形式は自由。ここでも生成AIのFireflyやAdobe Expressに搭載されたデザイン素材やフォントなどをフル活用してビジュアル表現を工夫し、思い思いのアイデアでクリエイティブを作成していきました。

各グループが作成したクリエイティブの制作途中の様子
Fireflyを駆使してビジュアル要素を生成

11グループによるリアルなプレゼンテーションを実施

ワークタイム終了後は、いよいよ日本べーリンガーインゲルハイム社へのプレゼンテーションです。事前に各グループでリーダー、タイムキーパー、プレゼンターの役割を決め、5分の制限時間内で発表に挑みました。デザイン思考で段階を追って整理した課題分析と、解決アイデアのアウトプット物をプレゼンします。

各グループによるプレゼンテーションの様子
鋭い質問にもメンバーが協力して回答を進めた

発表後、選考を経て、いよいよ入賞グループの発表です。日本ベーリンガーインゲルハイム社からビジネス観点でのビジネスアワードと、アドビからクリエイティブ観点でのクリエイティブアワードが贈られました。ビジネスアワードには医療知識を楽しみながら学べるボードゲームを健康診断結果に同封する提案のグループが、クリエイティブアワードには家族の姿を思い起こさせることで再検査の必要性理解と必然性を高め、その場で予約まで完結させるチラシを高いクオリティで制作したグループが選ばれました。

人, 屋内, 立つ, グループ が含まれている画像 自動的に生成された説明

日本ベーリンガーインゲルハイム執行役員の西見泰浩氏からBusiness Awardを贈呈

人, 立つ, グループ, ポーズ が含まれている画像 自動的に生成された説明

Creative Awardは急遽駆けつけていただいた立命館大学 野口義文副学長から贈呈

学生の声:

“プレゼンテーションでのチーム協力や問題解決のアプローチがとても勉強になりました。自分たちのプロジェクトを進めるヒントがたくさんあり、最高の経験になりました”

“他のグループと同じテーマを扱っていても、発表内容や解決策などの答えが大きく異なった点が印象的でした。それぞれのチームで独自の解釈や特徴が生まれ、非常に興味深かったです”

アドビとの連携協定のもと、2024年から新プログラム「QULTIVA(カルティバ)」がスタート

最後に講評として三宅教授からは、ディスカッションへの積極的な参加や役割分担の良好さ、アイデアの具体性やターゲットの明確さが評価されました。また、短い時間で的確に伝えるスキルやフィードバックの重要性を強調し、今後もディスカッションを通じたスキル向上に期待を寄せました。

立命館大学は、「R2030」ビジョンで次世代研究大学と創発性人材養成を掲げており、2023年9月にはアドビとの連携協定を締結しました。今後もアドビは、2024年から始まる同学のQULTIVA(カルティバ)プログラムのカリキュラム支援をはじめ、アドビによる講座、テーマ別セミナーの開催などを通して教職員・学生のデジタルリテラシー育成をサポートします。

※記事中の所属・肩書は取材時点のものです。

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空港にいる人々 中程度の精度で自動的に生成された説明