AIが映像制作の未来を変える!アドビのビデオ製品ロードマップとCreative Cloud最新アップデート< Inter BEE 2023「Adobe Day」レポート>
国際放送機器展 Inter BEE 2023において、アドビの製品・サービスやテクノロジーの最新情報を紹介するイベント「Adobe Day」が開催されました。当日は5つのセッションが行われ、そのトップバッターではAdobe Creative Cloudの最新アップデート情報とAIによって変わる映像制作の将来像についてのセッションが行われました。
すぐに利用できる便利なサービスや機能もご紹介していますので、ここでもう一度おさらいをして、日々の創作に役立てていただければと思います。また同日行われた他のセッションの中には、この記事で言及した製品やサービスの詳報も含まれていますので、気になる情報は本文のリンク先もご覧いただければと思います。
アドビのこれまでとこれから
セッション冒頭では、アドビの「過去」をざっくりと振り返りました。これまでアドビは映像製品Premiere ProとAfter Effectsを中心に、ワークフローを効率化するためのチューニングや新しい機能、共同編集がやりやすくなるフォーマットなどを提供してきました。そして現在では高速化・安定化を図りつつ、AIによるさらなる効率化や機能強化を実施しています。加えて映像制作に関わる3D領域においても、連携できる機能拡張も行っています。
そして今回はその「現在地点」と「これから」について、以下の4項目をご紹介しました。
①Premiere Pro 最新アップデート
②After Effects 最新アップデート
③コラボレーションツール「Frame.io」による効率化
④アドビの生成AI「Firefly」の未来
最新アップデートを紹介する前に
映像製品のアップデートに際して、アメリカ本社からは以下のトピックが発表されています。
①1,000人以上の映像編集者のご意見を開発チームがヒアリング
②ユーザーの要望が多かった20以上の機能を実現
③Premiere ProとFrame.ioが6つのアワードを受賞
2023年の映像作品に目を向けると、アカデミー賞で最多7部門を受賞した映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』では、Adobe Creative Cloudはもちろん、この記事の後半でご紹介するFrame.ioが使用され、アドビ製品がフル活用されました。
また、アメリカで行われている映画監督の登竜門「サンダンス映画祭」においても、アドビ製品を使って編集をしているムービーメーカーが過半数を超えているという状況がレポートされており、プロはもちろんこれからプロを目指していく方々にも熱い支持をいただいています。
そして、Premiere Proのベーシックな部分のアップデートも続いています。高速化については前バージョンと比べて5倍を実現。普段からよく使うトリミングやスクロール、ズームなど、タイムライン上で行う様々なアクションの動きがとてもスムーズになっています。内部コードの最適化と近代化を行うなど、信頼性の向上も図られました。
Premiere ProとAfter Effectsの最新アップデート情報
本セッション前日に行われた「Adobe MAX Japan 2023」、こちらで発表したばかりの新機能をご紹介しました。
Premiere Proの新機能は3点、After Effectsの新機能は2点が追加されています。
<Premiere Pro新機能①:スピーチを強調(Beta版)>
録音状況が悪い会話のノイズ除去機能をベータ版で提供しています。これまで音調整はかなり面倒な作業が必要でしたが、Premiere ProがAIを搭載したことで、ワンタッチでオーディオを解析して会話部分をプロスタジオ並みの音質に向上させることができるようになりました。
ワークスペースのパネル「オーディオ」の「エッセンシャルサウンド」、この中に「スピーチを強調」というメニューが今回追加されています。このメニューをチェックして「拡張」を押すだけで音質が大幅に改善します。セッション内でお見せした映像では、環境音が多く載っているサンプルを使って、埋もれてしまっている人の声を聞きやすくするデモを行いました。この「スピーチを強調」の設定値は調整できるので、環境音を演出的に残しておくこともできます。数値を最大にした場合には、ほとんど一切の背景音を排除することができました。
また、古いマラソンのデモ映像では、応援する人々の声とナレーターの声をしっかり識別している様子をご覧いただきました。これまで手間のかかっていた音の調整が、AIの判別によって非常に高い精度で処理できるようになっています。
<Premiere Pro新機能②:文字起こしベースの編集機能>
Premiere Proではスピーチ音声を文字で起こすという機能が搭載されていましたが、それがさらに進化して起こした文字による編集機能が搭載されました。例えば文字を削除すると映像がカットされたり、コピー&ペーストすると映像もコピー&ペーストできるなど、文字ベースの操作が映像にも反映されるというワープロ感覚で編集が行える機能です。この機能はハリウッドの業界団体、HPA(ハリウッド・プロフェッショナル・アソシエーション)アワード2023で技術賞を受賞しています。
Inter BEEのセッションではデモ映像もご覧いただきました。デモの中で、出演者の声にリンクした文字は再生中ハイライトで表示されています。そして動画の一部をカットしたいときには、文字起こしされたパネルを見ながら不要部分の文字を選択。このときタイムライン上では、選択した文字にリンクしたイン/アウトが自動選択され、文字を削除することでこの自動選択された動画部分も自動でカットされる仕組みです。まさにワープロと同じような感覚で操作が可能で、音を聞いて行っている作業が文字ベースで行えるようになり、目視によるラフ編集が簡単に行えるようになりました。
<Premiere Pro新機能③:「言い淀み」フィラーワード検出>
文字起こしベースの編集でもっとも要望が多かった機能が追加されました。話している言葉の中に出てくる「あのー」や「えー」などの「言い淀み(フィラーワード)」の検出機能です。とくに昨今のトレンドとも言えるテンポ感の速い映像に編集したい時には、言い淀みや息継ぎの部分をつまんで短くする場合が多いことから、使用頻度が高くなる機能ではないでしょうか。
文字起こしパネルのソートのアイコンから「語間」を選ぶと、該当するフィラーワードがオレンジや赤の表示で自動選択されます。このフィラーワードを選択する度合いは、語間の秒数で調整が可能。そして削除のボタンを押すと一括で削除され、タイムライン上でも同期していた選択箇所がすべてリップル処理されます。
<After Effects新機能①:AI搭載進化したロトブラシ>
「ロトスコープ」のための”ロトブラシ”が進化しました。今まではざっくりとした選択でかなり高い精度の切り抜きが行えましたが、さらにAIによってこれまで苦手としていた人の動作の重なりや髪の毛の細かい部分の切り抜きにおいて精度を向上。透明度のあるエレメントなど、高難度なロトスコーピングも改善しています。
セッション中のデモでは、旧バージョンとの比較をご覧いただき、新バージョンでは人が髪を梳かす動作でしっかり輪郭を認識して切り抜いているところをご覧いただきました。
<After Effects新機能②:モーショングラフィックス作成「True 3Dワークスペース」>
今までAfter Effectsでは、3Dデータはあくまで仮想3Dのような状態で読み込んでましたが、今回は3Dデータを真の3Dとして読み込んだ上で動きなどを付けることができるようになりました。
デモではボトル形状のプロダクトを読み込んだデータを使用し、立体的なモーションを付けるところをお見せしました。動きだけでなく、光源もHDRIデータを参照することが可能。ライトオプションのソースを変えることで、After Effectsのデータ上で3Dワークスペースの優位性を持ったまま質感表現の調整を行うことができます。
3Dに関しては、After Effectsとの連携も可能なアドビの3D制作ソフト「Substance 3D」を別の記事でも取り上げていますので、こちらもぜひご一読ください。
また、無料の「Adobe Substance 3D Assets」をCreative Cloudのライブラリー経由でご提供しています。完成された3Dのオブジェクトデータを無料でお使いいただけますので、新しい表現の1つとしてこちらもぜひお試しください。
Adobe Stockに映像テンプレートを追加
映像製品の最新アップグレード情報に付け加えて、実制作の中でお役立ていただけるトピックもご紹介しました。
Adobe Stockでは扱う映像テンプレートの形式を追加。従来のモーショングラフィックスの形式(MOGRTs)に加えて、今回初めてPremiere ProとAfter Effectsのプロジェクト形式(.prproj、.aep)のテンプレートをリリースしました。こちらは現在、約370種類のラインナップですが、今後数年で10倍以上に増やしていく予定です。
【 Adobe Stockのマルチメディアの制作に便利なビデオテンプレート】
長編エピソードのワークフローガイド
これまでテレビおよび映画編集者向けに、長編やエピソード編集のためのガイドブック「ポストプロダクション編集のベストプラクティスとワークフローガイド」を英語版でリリースしていましたが、2023年から日本語版の提供を始めました。
無料で一般公開しており、編集におけるハードウェアの設定やマルチカメラ編集、連携ソフトとのターンオーバーに至るまで、事細かい設定項目や実際のユースケースをご紹介しています。100ページ以上に及ぶ情報満載のドキュメントですので、こちらもぜひご一読ください。
セッションの後半では、さらに今後の拡張や強化を予定している新しいサービスを2つご紹介しました。
1つ目が新しいクラウドコラボレーションツール「Frame.io」。そしてもう1つがクリエイティビティの進化と題しまして、生成AI「Adobe Firefly」を紹介しました。
クラウドコラボレーションツール「Frame.io」
こちらは2021年にアドビのファミリーに加わった製品で、日本では今年から本格的にエンタープライズ向けにも提供が始まりました。
Frame.ioは映像制作におけるコラボレーションを全て詰め込んだ一元管理ツールです。Adobe Premiere ProとAfter Effectsに直接統合されていて、Premiere Proから動画をアップロードしたり、素材を取り込むことが可能。現在、グローバル企業を中心に海外で300万人以上の方にご利用いただいており、日本支社でも使用ケースが増え、お問い合わせも増加中です。
Frame.ioを通じて共同作業を効率化することで、レビューや素材のやりとり、ファイル管理のあれこれといった作業時間を合計31%短縮できるという評価をいただいており、クライアント企業の満足度も36%向上したというデータも出ています。
クリエイティブツールとシームレスな連携
現在すでに他社のツールとの連携も始まっています。Adobe Premiere ProとAfter Effectsの他に、Apple Final Cut Pro、DaVinci Resolveで利用することができます。これらの編集ソフトで作った動画を誰かにプレビューしてもらう時には、これまで書き出しの際に必要だったデスクトップへのファイル書き出しとストレージへのアップロードというプロセスは必要なくなり、Frame.ioの特定のディレクトリに直接書き出し(=同時にアップロード)が可能。大幅に時間を節約できます。
セッションのデモではブラウザ上のFrame.ioの画面で、実際にレビューするときの操作方法などを披露しました。
レビューするメンバーはそれぞれのアカウントでログインし、任意のタイムコードの箇所を指定してコメントを入れることができます。またコメントだけではなく手書きの矢印などを書き込むことも可能。これまでのプレビューにありがちだった、紙に書き込んだりスクリーンショットを撮ってPDFにまとめたりする煩雑なプロセスを省略することができます。
直接統合されている編集ソフト(Apple Final Cut Pro、DaVinci Resolveなど)では「Frame.io」というパネルが表示され、即座にコメントやレビュー内容を確認することができます。表示されたタイムコードを選択すると、シーケンス上の該当箇所にワンタッチで移動できるので、指定する秒数を間違えて修正箇所がわからないようなミスも防ぐことができます。
編集ソフトの中で確認しながら作業できるこのシステムは、編集者には待ちに待った機能ではないでしょうか。
iOSアプリも提供
Frame.ioはiOSのアプリでも提供しています。非常に動作も滑らかで、ブラウザ上のFrame.ioとほぼ同じことがアプリでもできるので、外出中のディレクターやプロデューサー、クライアント、エグゼクティブの方などにレビューをお願いすることも容易になります。
セキュリティもレベルの高い機能を提供しています。エンタープライズ版ではウォーターマークはもちろん、特徴的な部分としては画面上に名前・日付・IPアドレスの情報を透かしで焼き込むこともできるので、万が一の漏えいや事故が起こってしまった場合にも、原因特定を即座に行うことができます。
まったく新しいワークフロー「Camera to Cloud」
クラウドプロダクションというワードに相応しい新技術「Camera to Cloud(C2C)」もご紹介しました。
撮影素材を即座に共有する機能で、C2Cに対応したカメラをネットワークに接続して撮影すると、RECが終わった瞬間に収録したデータがFrame.ioのデータベースにアップロードされ、エディターが即座にアクセスできる仕組みです。
ワークフローの例としては、ハイレゾリューションとプロキシの動画データが同時に作成されるので、プロキシをFrame.ioのサーバーに撮影と同時にアップロード。編集者はそのプロキシでオフライン編集を行いつつ、同時にクライアント側も同じプロキシを使ってデータチェックが可能になります。フィニッシングの段階でPremiere Proの「ReLink(再リンク機能)」の機能を使ってプロキシとハイレゾリューションのデータを差し替えることで、即座に完パケに至るといったワークフローが実現できます。
このワークフローの実例は、同じInter BEE 2023のセッションで紹介されました。こちらも詳しい記事になっていますのでぜひご一読ください。
【Frame.ioのCamera to Cloud を使った次世代のチーム編集ワークフロー】
なお、Frame.ioはこちらの画像にある各種カメラ機材および周辺機器にすでに対応しています。今後もパートナーを増やしていく予定ですので、ぜひご期待ください。
世界中の全てのクリエイターに力を
「Frame.io」は映像だけではなく全てのクリエイターをエンパワーできるように対応する形式を拡張しています。
すでにその第1弾としてグラフィックが対応しました。スチール写真のRAW画像データのほか、Photoshop、Illustrator、InDesignのファイルにも対応。そのデータをアップロードすると前述した映像の場合と同じようにレビューコメントしたり、手書き入力をすることができます。PDFにも対応しているので、映像に関わるあらゆる素材をこの中でコラボレーションすることも可能です。
さらにスチールについては「Capture One」というファイル転送・画像編集ソフトもインテグレーションされています。フォトグラファーと現場を共にする制作では、Frame.ioの中で制作物を一元管理してみんなでコラボレーションすることができます。
Creative Cloudユーザー向け無償プラン
Frame.ioはCreative Cloudユーザー向けの無償プランを提供しています。Creative CloudのコンプリートプランもしくはPremiere Pro/After Effectsをご利用いただいている方は、一部機能の制限はありますが、100GBストレージが付いたFrame.ioをお試しいただけます。
そしてこのセッション最後の話題は生成AI「Firefly」についてでした。2023年のビッグニュースであった生成AIは、ChatGPTやStable Diffusionしかり、AIによるクリエイティブ制作は大きな社会問題にもなっています。
アドビのスタンスとして「生成AIはテクノロジーの次の変革の波を導いているのは間違いない」と捉えていますが、アドビの会長兼CEOであるシャンタヌ・ナラヤンは「生成AIは人々の仕事を奪うものではなくて、人々の能力を拡張していくための副操縦士であるべきだ」と表現しています。
それを踏まえた上で、Fireflyがほかの製品と差別化できるポイントを4つご紹介しました。
①安全な商用利用のための設計
FireflyではアドビのストックフォトサービスであるAdobe Stockで許諾の取れた画像やオープンライセンス画像、パブリックドメイン画像など一般的に使われても問題がないものだけを学習素材として使用。商用利用することを前提に許諾がとれたデータのみを使っています。
②アドビツールに密接に統合
皆さんが使用しているCreative Cloud、Document Cloud、Experience Cloudなどに含まれるアプリを横断して搭載する構想のため、既存のワークフローを崩さずに拡張することが可能です。
現在は、
・ウェブブラウザ
・PhotoshopやIllustratorなどのCreative Cloudのアプリケーション内
・Adobe Express
・Adobe Stock
などからFireflyの機能をご利用頂けます
※2023年11月17日時点
③企業向けのサービス設計
企業が持つアセットに沿って、モデルをカスタマイズする方法の提供も計画しています
④コンテンツ認証情報のサポート
クリエイターがコンテンツに帰属情報を添付することを可能にし、来歴によって情報の真正性と透明性を担保する仕組みもアドビが牽引して取り組んでいます
Fireflyの概要とAIにまつわるアドビの取り組み、そしてFireflyのクリエイター事例については、同じくInter BEE 2023の別のセッションでもご紹介させていただきました。こちらも記事になっていますので、ぜひ御覧ください。
Fireflyの進化と映像製品への期待
セッションでは代表的な機能のご紹介として、Photoshopにおける「生成塗りつぶし」が紹介されたほか、先般発表されたばかりのベクターデータによる出力モデルも紹介しました。
Illustratorに「 テキストからベクター生成」が搭載され、すでに利用が可能です。そしていよいよ映像製品での対応に期待が高まりますが、現時点では映像についてのコンセプトムービーが発表されています。
セッションでも上映されたこのムービーでは、プロンプトの指示によって映像編集の色味の調整や音の調整を行ったり、Bロールやテロップの提案、ストーリーボードを脚本から提案するといった機能を見ることができます。またAdobe MAX Japanでは研究開発途中の最新デモの中で、映像における「生成塗りつぶし」も発表されています。
このセッションでは過去・現在・未来へと進化し続けるアドビ製品をご紹介しました。最後に触れた映像製品における生成AIの機能など、今後も注目のアップデートが続いていきますので、ぜひご期待ください。