授業にクリエイティブな生成AIツールを取り入れて学生の成功のために活かす方法
21世紀の授業はダイナミックに進化を続けています。人工知能(AI)などの最先端技術が登場すると、私たちは、学生にはどのような学びが必要で、その学びが将来に役立つようにするにはどのように構成するのが最もよいのかを考え直す必要に迫られます。そうした興味深い進歩の最たるものが、わずかな指示でまったく新しいものをつくり出せる生成AIという技術です。
リアルな画像やアートの制作、作曲、執筆に至るまで、学生が根本的に新しい方法でクリエイティブな思考スキルを身につけ、発揮するために、生成AIの可能性はまさに圧倒的といえます。それだけではなく、学生が積極的に学ぶことが一層重要となっている昨今、クリエイティブなAIツールは学生主体のアクティブな学びを支えるパワフルな基盤となり、学生が個性やユニークな視点を発揮するモチベーションにもなります。
教育業界におけるどのような新技術にもいえることですが、期待の一方にはもちろん不確実なこともあります。ChatGPTなどの生成AIツールは盗用や評価の複雑化の要因にならないか?生成AIモデルがどのように作られトレーニングされているのか、学校が継続的にすべての情報を得るにはどうしたらよいのか?特に低学年向けに、安全とバイアス(偏見)対策はどのようになされているのか?
中でも教職員や教育行政関係者にとっても最も悩ましいのは、「学生の学業や卒業後の成功に役立つためには、こうした新しい技術をどのように教育カリキュラムに取り込むのが一番なのか?」ということでしょう。
そこで、学生の創造性と将来に役立つ力を育むために作られたユーザーフレンドリーなツールとともに、生成AIを責任をもって使うことについて、教育機関向けの5つのコツを紹介します。
1.創造性の重要性を理解する
創造性は芸術と結び付けられがちですが、どのような学問領域や分野にも欠かせないスキルです。なぜなら創造性は、これまでにない方法で問題解決をすること、アイデアをわかりやすく人に伝えること、探究心と好奇心を持って他人とコラボレーションすること、これらすべての源だからです。ISTE(International Society for Technology in Education)は先頃、創造性の教育がこれまで以上に重要な理由のなかで、創造性がいかに学ぶ意欲を高め、上位思考スキルに灯をともし、情緒的発達を加速させ、学びに課題がある子どもにもインスピレーションを与えるかを述べています。
65%の子どもたちは実際にやってみたりつくってみたりするほうが効果的に学べるというデータがあるにもかかわらず、そのような機会はきわめてまれです。小中高から大学までの教育体験を通じて、すべての児童生徒や学生が、すべての教科で、創造的思考を実践する方法を学んだらどうなるでしょうか。教育者がカリキュラム全体を通して、創造性と創造的問題解決能力を意図的に段階を追って育ることで、学生は重要な力を身につけ自信をもって人生を歩み、AIのような新しいテクノロジーも効果的に使いこなせるようになります。
創造性は学業にとどまらず、キャリアの成功にも欠かせません。世界経済フォーラムは、2027年までに雇用主が求めるスキルとして2位に創造的思考、続いて3位にAI活用スキルをあげています。
2.生成AIは人間の創造的思考を加速させるものと捉える
授業での計算機使用は、かつては議論となりましたが、今では当たり前の光景になっています。計算機は人間の計算力を奪うものではなく強化するものだとわかったからです。この成功の裏には、適切なタイミングに適切な目的で計算機を使わせるために、考え抜かれた戦略的な導入計画がありました。計算機を補助として、学生が思考プロセスのほうに強く意識を向けることができるようにしたのです。
このようなツールは、アイデア出しから改善、プレゼンテーションまで、教科を問わずクリエイティブな学びを後押しします。生成AIツールでどのようにアイデアがまとまり、様々なバリエーションを形にできたの振り返りを行えば、学生のメタ認知の向上にも役立ちます。
3.生成AI倫理もきちんとおさえる
生成AIはとてもすばらしい技術であると同時に、デジタル時代における倫理や責任という新たな問いも生んでいます。幸いなことに、学校では、この10年間、メディアリテラシーやデジタルシチズンシップスキルを新たにカリキュラムに取り入れ前進してきた実績があります。従って、責任のあるAI利用についても既存モジュールに追加する方法が考えられます。
生成AIツールを選定する際は、開発元、AIモデルのトレーニング手法、倫理的な透明性をよく吟味しましょう。どの画像生成ツールも同じというわけではありません。アドビの生成AIツールAdobe Fireflyは、Adobe Stockの画像、オープンライセンスのコンテンツ、著作権の切れた一般コンテンツでトレーニングされています。Fireflyは商用利用にも安全なように設計され、適切な使用を促すガードレールが設けられているため、授業での活用にも適しています。さらに、アドビは有害なステレオタイプを強化しないように、自社モデルを継続的にテストしています。
CAIの取り組みの1つとして、Fireflyのすべての生成物にはコンテンツ認証情報と呼ばれる安全なメタデータが適切に付与され、作成から公開に至るまでどのような編集加工がおこなわれてきたか、デジタルファイルの来歴や出所を表示できます。教育での利用にあたっては、このレベルの透明性と責任は、学生や教職員すべてにとって非常に重要です。
コンテンツ認証カリキュラムでは、変化の激しいデジタル情報界隈を上手に渡っていくために必要な、メディアリテラシーとビジュアルリテラシーを学ぶことができます。
4.インクルージョンの推進とバイアス(偏見)削減の観点を持つ
AIツールは、インクルーシブかつ多様な視点を反映したものでなければなりません。包摂性を担保し偏見を最小限にするために、授業で使うツールのトレーニングにどんなデータが使われているか理解しておくことが大切です。ツール選定の際は、教育利用に耐えうるツールの証として、改善要望を継続的に受付けていることを優先しましょう。
アドビでは、バイアス(偏見)を排除するために、多様なデータセットを用いてAIモデルを強化しています。また、FireflyやAdobe Expressなどのアドビの生成AI機能には、簡易的なフィードバックや詳細問い合わせ受付ける仕組みがあります。企業と業界団体が教育関係者と手を携え、すべての人にとって安心安全な生成AIの開発や改善に共同であたっていくことが何より重要なのです。
5.教員向け研修やカリキュラム、教員コミュニティを活用する
新しい技術や革新的な変化がどのようなものであれ、教員や学校関係者には多くの支援、インスピレーション、アイデアや情報交換ができる同志のコミュニティが必要です。授業で利用する生成AIツールを選定する際には、テクノロジー面だけではなく、継続的な教職員向け研修、カリキュラム、コミュニティなど、総合的なソリューションを検討しましょう。
学びの模索を共に進めていくにあたり、アドビは小中高校や高等教育機関の教員と協力して能力開発の機会を無料で開発しています。教員向け研修コース、対面やバーチャルでのイベント、Adobe Creative Educator(ACE)コミュニティグループなどがあり、いずれもクリエイティブな生成AIを授業に導入するという革新的な領域に重点を置いています。
アドビは、世界経済フォーラムの教育4.0アライアンスなどのグローバルかつ業界横断的な教育パートナーとともに、教育におけるAI利用の議論をリードしています。アドビはまた、ISTE、Code.org、Khan Academy、ETSが主導するTeachAIイニシアティブの諮問委員会のメンバーでもあります。こうした形でアドビは、グローバル規模の幅広いネットワークを活かして、児童生徒や学生の学びと成果を継続的に改善する目的で、教育関係者や政策決定者へアドバイスを行うとともに、アドビも学びを得ています。
授業に生成AIを導入する取り組みが始まるにあたり、我々が今、教育の大変革という断崖絶壁の上に立っていることが明らかです。
生成AIは、学生の創造性、積極性、重要なスキルを育てるうえで、計り知れない可能性を秘めています。生成AIの責任ある使用をめぐり解決課題やまだ明らかでないことは多々あれど、このパワフルなテクノロジーの活用を先送りさせるものではありません。むしろ、よく検討された戦略的なアプローチの導入を後押しするものです。
前進するにあたって、学校経営層、教職員、教育行政関係者の中で、創造性の価値が必須のスキルとしてすでに共通認識になっていることは非常に重要なことです。創造性は教科の垣根を超え、創造的思考や表現が高く評価される将来の労働市場で活躍するための力を育てます。業界標準の信頼できるツールと合わせて生成AIの導入すれば、変化しつづける世界で活躍するためにかせないスキルを学生に身につけさせることができます。このテクノロジーの持つポテンシャルを活かして、授業の場を創造性やイノベーション、将来のチャレンジに備えるためのハブに変革させていきましょう。
Brian Johnsrud博士は、アドビの教育学習および提言部門のグローバル責任者です。元初等中等教育教員、大学教員、研究者、教育技術のソートリーダーとして、次世代の若者が創造性を伸ばし、学校や将来のキャリアなどでの成功に欠かせないデジタルリテラシーとAIスキルを身に付けられるようにする支援に力を注いでいます。
※この記事は、EdSurgeに掲載された内容を2023年10月にアドビブログに再掲した原稿の日本語抄訳です。