『Adobe Firefly Camp みんなで学ぼう生成 AI と著作権!』ダイジェスト&参加者からの質問への回答
2024 年 3 月 25 日(月)に、オンラインイベント『Adobe Firefly 公開 1 周年記念 みんなで学ぼう生成 AI と著作権!』が開催されました。アドビの生成 AI モデルである Firefly の特徴や、生成 AI を扱う上で知っておきたい著作権についての話を法律の専門家をお招きしてお話を伺うことができましたので、その模様をダイジェストでお伝えします。詳しく知りたい方はぜひ下のイベント動画をご覧ください。またイベント内では答えきれなかった参加者からのご質問については、この記事の後半にまとめましたのでぜひ最後までご覧ください。
登壇者・参加者について
MC はアドビの Firefly 製品担当の轟啓介さんと、アクセンチュアのデザイナーである木村優子さん。ゲストにレクシア特許法律事務所の弁理士松井宏記さんをお迎えしました。
今回のイベントには 494 人の応募があり、事前アンケートで教えていただいた業種や年代は幅広く、さまざまな方に生成 AI が注目されていることが伺えます。また参加者の半分以上の方は Firefly の『生成塗りつぶし』や『テキストから画像生成』をすでに試したことがあり、仕事で ChatGPT を使っている人も多数いらっしゃいました。一方で、生成 AI を使用する中で不安に感じることとして『倫理・モラル』を挙げる方は多く、質問でも著作権についてやクライアントワークでの不安などが多数寄せられました。
Adobe Firefly とは?
イベントの前半では、ベータ版のリリースから 1 周年を迎えた Adobe Firefly の機能について改めて振り返りました。Firefly は商用利用の安全性を意識して作られた生成 AI で、学習元として以下のように著作権の問題をクリアした画像を使用しているのが特徴です。
Firefly の学習データセット
また Web アプリとして提供される機能だけでなく、アドビの各種アプリケーションにも生成 AI を活用した機能が取り入れられているため、日々のワークフローに手軽に取り入れやすくなっています。
轟さんからは、企業が持っているアセットを学習させることで、その企業らしい表現を行えるようにする予定があるなど、Firefly の今後の展開についてもお話がありました。
著作権の基本を知ろう
さて、クリエイティブワークの中に生成 AI を取り入れようとしたとき、気になることといえば著作権でしょう。AI によって生成された画像やデータは、本当に仕事の中で使っても問題はないのか?誰かに訴えられたりしないのか?そもそも AI が生成したものを、仕事として出してもいいものなのか?未知のジャンルだけに不安は尽きません。
これらの疑問に答えを得るためには、正しい知識と理解が必要です。弁理士である松井さんには、まず著作権について、基本的なところから解説していただきました。
著作権は知的財産権の一種で、申請等をしなくても作品を発表することで権利が発生します。美術や映画、写真などさまざまな表現が著作物として保護されますが、『思いつき』『アイディア』『風合い』といったものは対象にならないそうです。
著作権法が適用される「著作物」とその要件
また、著作権の侵害が成立するのは、『依拠性(わざとまねたこと)』、『類似性(創作的な表現部分が似ていること)』、そして法律で定められた『利用行為(複製、輸入、貸与、譲渡、頒布、使用など)』がすべて当てはまる場合です。
著作権侵害の要件。①②③のすべてがあてはまった場合に著作権侵害が成立する
生成 AI と著作権
生成 AI を利用した作品の流通はごく最近のできごとで、まだ事例があまりありません。生成 AI に関わる著作権については、現在まさに文化庁を始めとする各機関での議論が行われているところです。
現段階で、生成 AI に関する著作権は、大きく 2 つの行為に分けて考えられています。1 つは、既存の作品を生成 AI の学習に使用することです。これは主に生成 AI モデルを開発する側に関わりますが、この行為自体は法律で定められた『利用行為』に当てはまらないため、著作権法には触れないと考えられています。
生成 AI の学習段階では、著作物を使用しても著作権法には触れない
もう 1 つは、AI で画像生成を行いその制作物を使用・発表すること。つまり法律上の『利用行為』の部分です。現段階では AI を利用して作られた制作物も、従来の非 AI の制作物と同様に『依拠性』や『類似性』によって判断する、とされているそうです。
制作物を使用した場合は、それがAI生成かどうかに関わらず依拠性・類似性によって判断される
ユーザーが気をつけるべき点は?
AI を使用しないクリエイティブワークの場合、作品を意図してまねたり(依拠性)、著作権物に酷似したりする(類似性)ことは、無意識ではまず起きません。しかし AI を使用した場合は、知らないうちに著作権を侵害する可能性もなくはないでしょう(この場合は、依拠性なしとの反論も可能でしょう)、というのが松井さんのご意見でした。
では生成 AI を使用する場合、ユーザーはどのような点に気をつけたらいいのでしょう?まずは著作権のある画像や固有名詞を使用した生成を行わないことです。Firefly は学習段階に著作権のある素材を使用していませんが、ユーザー側も同様の意識を持って参照画像などを選ぶ必要があるでしょう。また、『依拠性』や『類似性』については、過去の判例を見ておくとそのボーダーラインがわかりやすくなります。イベントの中では松井さんが、実例とその中にある著作権の考え方について解説してくださっています。また生成された画像を画像検索して似たものがないかを確認する、といった方法も紹介されました。
過去の判例で著作権侵害の範囲をわかりやすく解説
アーカイブ動画でより詳しい知識を!
イベントの最後に MC のお二人は、「センシティブな内容でしたが、知識を持っておくのは大切だと思いました。今後はもっと勉強をして AI と共存していきたいと思います(木村さん)」、「生成 AI にはネガティブな印象を持っている方も多いですが、この流れは止まらないと思います。研究したり、著作権の知識を持っていることでよりうまく付き合っていけるのではないでしょうか(轟さん)」と締め括りました。日本では生成 AI の仕様に積極的なクリエイターは 3 割台と他国に比べて低いそうですが、実際に Firefly の特徴や著作権の基本的な考え方を知ったことで、イベント後のアンケートでは約 9 割の方が「業務にも利用できそうだ」と回答し、知識を持つことが不安の解消につながることがわかりました。
今回のまとめでは紹介しきれなかった Firefly の各機能の紹介やデモンストレーション、類似性についての理解しやすい判例紹介については、ぜひイベントのアーカイブ動画でご確認ください。
参加者からの質問への回答
まずは、番組中に出題されたクイズの回答です。出題されたのは以下のような問いでした。
「次のうち、許諾を得ずに行っても著作権侵害にならないのはどれでしょうか?」
- 無料の公開セミナーで使用されたスライド資料を SNS に投稿した。
- お気に入りのクリエイターの画風を真似して描いたイラストをブログで紹介した。
- 無断でアップロードされた著作物であると知っていたが、ダウンロードした。
- 有償講座の教材の一部に、他人の記事で使われていた図をそのまま引用した。
- ラジオで流れた曲の歌詞を書き留め、個人ブログに公開した。
- 多数の作家の著作物を大量に学習した AI を日本で開発した。
正答は、「お気に入りのクリエイターの画風を真似して描いたイラストをブログで紹介した。」です。著作権侵害は、他人の著作物(絵など)をそのまま公開した場合に該当しますが、画風を真似て、そこにご自身のテイストを十分に加えて新たなイラストを作成した場合には、著作権侵害にはなりません。但し、他人の著作物がまだそこに十分に残っている状態で画風を真似た場合には、他人の著作物と類似のものを複製したということで著作権侵害になる場合がありますので、ご注意ください。「多数の作家の著作物を大量に学習したAIを日本で開発した。」も、例外規定をあまり考えない趣旨であれば正答です。
続けて、番組に寄せられた Q&A です。法律関連の質問は松井さんからいただいたご回答を、製品関連の質問は轟さんからのご回答を紹介します。
Q: 生成したものを含むイラストはイラスト素材として販売出来ますか?
A: 他人の著作権を侵害するものでなければ、販売できると思います。また、生成 AI 提供者の規則もご確認ください。
Q: アドビの AI でロゴマーク作った場合、商標登録できるのでしょうか?
A: 商標出願は可能です。それが商標登録できるかどうかは特許庁の審査がありますので、その審査次第であります。
Q: 今日 SNS で話題になっていましたが、〝絵柄〟は作家個人の私物と呼べるのでしょうか?
A: 私物の定義によりますが、絵柄(画風でしょうか)は、誰のものでもないのが法律的な回答になります。
Q: 「有名」というのは、例えば SNS だとインプレッション数を見られるのでしょうか?
A: インプレッション数も判断要素の一つになります(その他の広告などの要素も含めて判断されます)
Q: 依拠性に関して、「たまたま」というのは裁判官はどうやって判断するのでしょうか?
A: あまりにも似ているときは依拠性ありとの判断になろうかと思います。
Q: 裁判官はデザインに精通している人が選出されますか?
A: そういうわけではないと思います。
Q: 先生の話の中で「元の作品の有名性」という話がありました。どういう基準で有名かどうか判断されるのでしょうか?
A: その著作物の露出の程度、画像へのアクセス機会、回数など総合判断になります。
Q: パブリックドメインの物、例えばフェルメールの絵を元に Photoshop などを利用して創作活動をした場合は著作権侵害になるのでしょうか?
A: 著作権の存続期間は切れているので、そのままの複製は著作権侵害にはならないと思います。しかし、「その著作物の著作者が存しなくなつた後においても、著作者が存しているとしたならばその著作者人格権の侵害となるべき行為をしてはならない。ただし、その行為の性質及び程度、社会的事情の変動その他によりその行為が当該著作者の意を害しないと認められる場合は、この限りでない。」との規定が著作権法60条にありますので、改変は同一性保持権との関係で行うべきでないと思います。
Q: 自分の絵だけを元に生成 AI で作成した絵であることが証明できれば、生成 AI で作成しても自分の著作権となるのか?を教えてください。
A: 生成 AI でできた成果物の中に、自分の絵がどれほど残っているかによります。
Q: Firefly は生成画像が権利問題をクリアしていますが、例えば chatGPT や Midjourney など権利問題が学習段階でグレーの生成 AI を使用して複数枚の画像を使用して作品を作った場合は、使用した一部分の著作権に抵触する場合はあるのでしょうか?
A: 可能性としてはあると思います。
Q: 生成物や、その生成物を加工したものが、自分の著作物として保護されるのか。
A: 基本的に保護されないと思います。生成 AI を道具として(Photoshop の Firefly 機能を使うなどして)使用した場合は認められる可能性があります。
Q: クライアントに対して AI を使用して制作した素材であるとことを提示する必要があるのか。
A: 特にないと思います。
Q: 生成 AI のデータセットの透明性。問題が起きた時、データセットの開示義務とオプトアウト請求権はあるのか。
A: ご自身の抗弁としては証拠として残しておくことをお勧めします。
Q: Adobe firefly の学習元に、生成 AI による AI 生成画像が含まれているのではないか、という懸念があるようです。学習元のデータに AI 生成物は入っていますか?また、最初に学習元として発表されたデータの内容は全ての学習データでしょうか、または事前学習分は別にあり、追加学習分だけ権利クリアなのでしょうか。
A: Adobe Stock 内のキュレーションされた生成 AI 画像が含まれています。また、著作権の問題がある学習データが発見された場合でも、Firefly は定期的に問題データを排除した再学習を定期的に実施しています。
Q: Adobe stock の中には、他者の無断転載なども含まれ、生成 AI タグのない AI 生成物が紛れているという話もあります。不適切な画像を具体的に除外する対策や、学習を望まない人がオプトアウトするシステムなどは構築されているのでしょうか。
A: 著作権の問題がある学習データが発見されたとしても、問題となったデータを排除し再学習を定期的に実施しています。また、Adobe Stock に不適切なコンテンツが認められた場合、コンテンツの削除などの対応をしております。Adobe Stock で販売する作品はコントリビューターの利用規約に則り、アドビ製品開発に使用することを前提にお預かりしています。現時点ではオプトアウトの仕組みはないため、問題ないと判断いただいた作品のみを投稿いただけるようお願いします。
Q: Adobe Stock に登録したイラストを、AI 学習の対象にしないとオプトアウトすることはできますか?
A: 検討中ですが、現時点ではオプトアウトする仕組みはございません。
Q: 納品された画像が生成AIであるか判別する方法はありますか?AI が普及することにより、AI である事実を隠されることを依頼側としては懸念しております。
A: コンテンツ認証イニシアチブ(CAI)が推進するコンテンツクレデンシャル(デジタルデータに権利所在や編集履歴などの情報を埋め込むことができる機能)を納品データに付与する旨を制作会社に依頼することで、生成 AI が含まれているかの判断材料になります。Photoshop、Firefly などのアドビ製品はコンテンツクレデンシャルに対応しています。
Q: 画像の AI 学習オプトアウト技術である「Do not train タグ」は Adobe の技術であったと思いますが、実際の運用は現在どうなっているでしょうか。
A: 「Do Not Train タグ」に埋め込まれた情報から判断して学習の対象から外す仕組みにはなっておりません。オプトアウトの機能がないため、学習用データの対象として問題ない作品だけを投稿いただけるようおねがいします。」
Q: 実際に使用に踏み切った企業があるかの実態実例
A: 国内ではウルトラセブン、株式会社アドバンの事例や海外では IBM の事例などがAdobe Blog に掲載されています。
Q: Firefly の使用に向いているパソコンのスペックを教えてください!(Photoshop の生成塗りつぶしを使ったらパソコンが落ちてしまいました)
A: Photoshop の推奨スペックをご確認ください。
- https://blog.adobe.com/jp/publish/2024/03/04/cc-firefly-understanding-copyright-to-utilize-fireflty-what-and-how-rights-are-protected
- https://blog.adobe.com/jp/publish/2024/03/27/cc-firefly-one-enhancing-experimentation-ideation-exploration-creators-all-levels
- https://blog.adobe.com/jp/publish/2024/03/27/cc-adobe-brings-more-creative-control-all-structure-reference-firefly