アドビ 3D 製品の祭典が Adobe Substance として日本に初上陸!Adobe Substance Days Tokyo 2024 開催レポート

Substance Days は、アドビが提供する 3D デザインツール Adobe Substance 3D についての、様々な情報を学べるイベントです。2016 年のハリウッドにルーツを持つこのイベントが、2024 年には Adobe Substance として初めて日本でも開催の運びとなりました。

Substance 3D といえば、ゲームや映画などエンターテイメント業界で使われるアプリというイメージがあるかもしれません(昨年、アカデミー科学技術賞を受賞)。ですが近年は、アパレル、製造を含む広範な業界で活用されるようになっています。そうした状況を反映して、当日のステージには様々な分野からゲストが登壇し、多様な Substance 3D の活用方法が紹介されました。この記事では、アドビ社員による製品紹介セッションを含め、全登壇者による講演の概要をお伝えします。

目次

  • オープニングセッション:3D の体験価値と生成 AI の未来
  • Substance 3D のご紹介
  • Substance 3D アップデートのご紹介
  • ボーンデジタルが提供するサービスの紹介 - 株式会社ボーンデジタル
  • フィジカル CMF・デジタル CMF – 富士通株式会社
  • 「リアルを演出」する!~ Substance 3D Painter を用いたフォトリアルテクスチャリング術~ - 株式会社サイバーエージェント
  • 『3D を活用したシューズデザインとビジネス課題の解決』 – 株式会社アシックス
  • コンテンツで描く。コミュニケーションのかたち – キヤノン株式会社
  • 「白組の楽しくクオリティアップを目指す発想」- 株式会社白組

オープニングセッション:3D の体験価値と生成 AI の未来

アドビ エンタープライズセールスディレクター Frederic Kohler(フレドリック・コーラー)氏

イベントのオープニングに登壇したのは、アドビのエンタープライズセールスディレクターとしてヨーロッパ及びアジア地域の Substance 3D ビジネスを統括する Frederic Kohler 氏です。ステージに現れた Kohler 氏は、アドビにとって重要なマーケットである日本で、今年最初の Substance Days を開催できたことをとても嬉しく思うと話しました。

Kohler 氏は、20 年前はビデオゲームのみで使われていた Substance 3D が、今ではあらゆる業界で利用されていると指摘しました。そして、ミズノ、デカトロン、サロモン、コカ・コーラといった主要な企業が Substance 3D の活用により、デザイン性の向上やプロセスの効率化などに大きな成果を挙げていることを紹介しました。例えば、ミズノでは、製品デザインプロセスに Substance 3D を導入することにより、サンプル作成時間を週単位で短縮することに成功しています。

その他にも、Google、Meta、Epic Games、HP などの主要なテクノロジー企業及び各国の名門校との新しいパートナーシップ、そして Meet Mat 3 のようなユーザーコミュニティにより、Substance 3D のエコシステムがさらに拡大中であることが紹介されました。2024 年には現実世界のあらゆる要素のデジタル化が進むというビジョンを示した Kohler 氏は、Substance 3D と他のアドビ製品との連携、コンテンツ制作の大規模な自動化を実現するカスタムソリューションを紹介して、セッションを終えました。

Substance 3D のご紹介

アドビ 3D ストラテジックセールススペシャリスト 水谷 肇志氏

Substance 3D の利用シーンが拡大しつつある状況を反映して、会場には Substance 3D をこれから使い始めようとする来場者も少なからず参加していたようです。2 番目のセッションは、そうした人々に向けた、アドビの 3D ストラテジックセールススペシャリスト 水谷肇志氏よる、製品の基本情報の説明でした。まず水谷氏は、Substance 3D の活用により得られるメリットとして、クリエイティブな面では、ブランドの世界観を自由に表現したり、パーソナライズされた体験を提供できること、ビジネス面では、デジタルサンプルによるコスト削減や、分散して働くチームの生産性向上が可能であることなどを挙げました。

水谷氏は、主にマテリアル制作向けのツールから始まった Substance 3D が、今ではモデリングからレンダリングまで 3D デザインプロセス全体をカバーする包括的なエコシステムになっていることを説明しました。続けて、Substance 3D の強みの一つであるマテリアルを取り上げ、フォトリアルな表現力、パラメーターで調整可能、テクスチャによるモデリング時間の短縮ができる、広範なツールによるサポート等の利点を持つこと、さらに、他社の 3D ツールと組み合わせて使用する際には、ツール間で見た目が維持されることを強調しました。

Substance 3D アップデートのご紹介

アドビ 3D アーティスト & ソリューションコンサルタント 福井 直人氏

アドビからの最後のプレゼンテーションは、3D アーティスト & ソリューションコンサルタントの福井直人氏による、3D アニメーション動画制作ワークフローの解説でした。アニメーションの素材として使われていたバックパックは、Substance 3D Sampler のフォトグラメトリ機能を使ってキャプチャした 3D モデルがベースです。福井氏は、Substance 3D Painter を使ってバックパックのバリエーションをつくる工程を披露しながら、マスクを使用してバッグをパーツごとに分ける(後の作業が楽になる)方法や、3D カーブによりステッチを表現する手順など、Painter の使い方のヒントを次々に紹介しました。

また、Adobe Illustrator から Aodbe Firefly を活用する方法も 2 つ紹介されました。一つは、Firefly で生成したベクターグラフィックを Sampler のフィルターを使って刺繍に変換し、それを Painter に送信してバックパックに貼り付けるという使い方。もう一つは、Firefly で生成したベクターグラフィックを SVG ファイルとして保存してから、そのファイルを Painter にドラッグ&ドロップして読み込む方法です。

福井氏からは、Painter から After Effects に送信した 3D データをコンポジションとして扱い、アニメーションを作成する様子もデモされました。

ボーンデジタルが提供するサービスの紹介 - 株式会社ボーンデジタル

株式会社ボーンデジタル テクニカルサポート 細見 龍一氏

第 2 部は、ゲストスピーカーによる講演でした。最初に登壇した株式会社ボーンデジタル テクニカルサポート 細見龍一氏からは、まず、自社サービスの紹介がありました。ボーンデジタルからは、オンラインチュートリアル、書籍、ハンズオントレーニングなど、Substance 3D の学習に役立つ様々なコンテンツやサービスが提供されています。

続けて、Substance 3D のベンチマークテスト結果が共有されました。テストに使われた PC は、デスクトップ PC(DAIV FX-I7G8S)とラップトップ PC(DAIV Z6-I760SR-A)の 2 種類です。テスト項目は、ベイク処理時間、ビューポート操作時のフレームレート、テクスチャセット操作のパフォーマンス、レイヤー操作時の処理時間、GPU レンダリング時間です。テストデータには、CG クリエイターますく氏が作成した Painter のシーンデータが使われました。細見氏による結論は、「ミドルレンジ機(ラップトップ)でも十分に満足いく結果だが、ハイエンド機(デスクトップ)はさらに満足度が高い」とのことです。やはり GPU の性能は大きなファクターになるようです。

フィジカル CMF・デジタル CMF – 富士通株式会社

富士通株式会社 デザインセンター エクスペリエンスデザイン部 益山 宜治氏

2 番目のゲストは、富士通株式会社 デザインセンター エクスペリエンスデザイン部 益山宜治氏です。益山氏からは、プロダクトデザインの現場における、Substance 3D を活用したデジタル CMF への取り組みが紹介されました。

従来からの物理 CMF デザインでは、「リサーチ、アイデアメイキング、サンプル、フィッティング」の順で作業が進みます。益山氏によると、この進め方には、物理的なサンプルがあるためにフィッティングの目途がつきやすいという利点がある一方、主に費用面からサンプルに進めるアイデアの数が制限されたり、サンプル制作に時間がかかったりという課題があるそうです。さらに、作成過程での検証の重要性を理解いただけない場合、無駄な 作業だと見られる懸念があると益山氏は話しました。

これに対してデジタル CMF では、サンプル作成費用を気にすることなく CG 上で確認するため、アイディアを大量に形にすることができ、3D モックアップによる提案まで迅速に進めます。そうした理由から、Substance 3D を活用したデジタル CMF への移行検証が始められたと益山氏は話しました。この取り組みの一環として行われているのは、既存の定番サンプルのデジタルマテリアル化や、次世代マテリアルの収集です。また、先行開発のデジタル化も進められており、デジタル表現したマテリアルを用いて、サステイナブルをテーマにしたマテリアルの受容性調査も行われました。今後は、現実世界では再現できない仮想空間のみで存在できるマテリアルにも、取り組んでいきたいそうです。

「リアルを演出」する!~ Substance 3D Painter を用いたフォトリアルテクスチャリング術~ - 株式会社サイバーエージェント

株式会社サイバーエージェント ゲーム事業部 アプリボット リードエンバイロメントアーティスト 香取 政人氏

次のゲストは、自主制作ではプリレンダリング想定の作品をつくることが多いという株式会社サイバーエージェント ゲーム事業部 アプリボット リードエンバイロメントアーティスト 香取政人氏でした。香取氏からは、リファレンスを観察してテクスチャリングを行うことの重要性を伝える事例紹介に続いて、フォトリアルなテクスチャ作成をするための 6 つのポイントが、Substance 3D を使用した作例を参照しながら解説されました。以下はその 6 つのポイントです。

  1. 再現と表現の違い
    表現するには、伝えたいことに重きを置いて、ストーリー性の付加などを意識する。
  2. サーフェイスを理解する
    実際のレイヤー(例:傷・汚れ、メタリック塗装、下地塗装、材質)を把握して、それに Painter のレイヤー構造を合わせる。傷の深さも要注意。
  3. 人、環境について考える
    人のアクションにより塗装がはがれやすい箇所、使用環境による汚れ方などの影響を意識する。
  4. ユニークな表現
    ハンドペイントで独特なディテールを入れる。ステンシルを汚れのディテール表現などに応用する。
  5. 「完全」はない
    現実世界に完全な平面はなく、歪みがある。色も、100%の黒や白は存在しない。完全な単色はなく、色むらがある。
  6. 時には嘘をつく
    見栄えが良ければ現実にないものでも表現を入れる。

最後に香取氏は、上記のポイントの説明に使用されていたサンプルファイルを Painter で開き、テクスチャを構成するレイヤー構造を実際に紹介しながら、個々のポイントがどのように実現されているのかを具体的に解説しました。

『3D を活用したシューズデザインとビジネス課題の解決』 – 株式会社アシックス

株式会社アシックス フットウエア生産統括部 技術部 デジタル技術チーム 永田 慎太朗氏

株式会社アシックス フットウエア生産統括部 技術部 デジタル技術チーム 永田慎太朗氏は、アシックスが取り組んでいるビジネス課題の解決に対する Substance 3D の活用方法を紹介しました。

最初に紹介されたシューズデザインのプロセスでは、特に役に立っている Substance 3D の機能として、Sampler で画像からマテリアルを作成する際にファブリックを指定できるオプション、及び生地の伸びが発生する部分の表現に応用可能なペイントワープ、そして CAD では難しい詳細な意匠に効率的な Painter のパス機能を挙げました。

次に永田氏は、主要なビジネス課題として、サステナブルなサプライチェーン構築について話しました。この課題の解決に必要な要素は、物理サンプルの削減と、サンプルの代替となるデータの質の向上及び量への対応です。特に数が多いという営業用のセールスマンサンプルに関しては、Sampler のフォトグラメトリで実際のシューズの形状をキャプチャし、ローポリに変換してデータ量を縮小したり UV を調整したりしてから、Painter で様々なカラバリを作成することで、効率的にデジタルサンプルを作成できるようになったそうです。また、作成された 3D アセットは、グローバルで活用できるように Adobe Experience Manager で管理されています。

最後に永田氏は、セールスマンサンプルでは、大幅なコスト削減と工場の残業時間の大幅減少、来シーズンの新色を確認するプロトタイプでは、90%のデジタルサンプル化による環境負荷や工場の開発負荷の軽減が実現されたことを紹介しました。今後は e コマースにも 3D データを活用していきたいと考えているそうです。

コンテンツで描く。コミュニケーションのかたち – キヤノン株式会社

キヤノン株式会社 総合デザインセンター 主任 中村 春久氏、主幹 岡田 篤史氏、大野 祐章氏(左から順に)

次に登壇したのは、キヤノン株式会社の総合デザインセンターで CG コミュニケーションデザインを担当する 3 名のゲストです。主幹の岡田篤史氏によると、CG コミュニケーションの役割は、「コンテンツを通じて、商品と顧客、企業と社会のつながりをデザインし、エンゲージメントを高めて、キヤノンブランドのファンを増やす」ことです。岡田氏は、タッチポイントが多様化したことに対応するために、柔軟な 3D アセット制作フローの整備が必要であると述べ、Substance 3D の、フォトリアルでパラメータにより調整可能なマテリアルを利用することの利点を説明しました。

続けて、主任の中村春久氏、そして大野祐章氏から、それぞれ具体的な事例紹介がありました。大野氏から紹介されたのは、Sampler を使用した、カメラの 3DCG に使用するリアルなテクスチャの再現を検証した事例です。スタジオで撮影した 15 枚の画像から Sampler でテクスチャを合成し、ペイントワープで歪みを整え、使用する場所をクロップし、影を均すために Equalize を追加し、ノーマルマップの調整を行ったところ、本物のような質感を再現することができたそうです。一連の作業を振り返って、Sampler は誰でも高品質なテクスチャを作成できるツールだと大野氏は語りました。

中村氏からは、文化財の高精細な複製品を作成する「綴プロジェクト」が紹介されました。日本の文化財は湿気や乾燥に弱く、厳重に管理する必要がありますが、複製であれば、展示期間や環境は自由です。このプロジェクトの一環として行なわれた複製品へのプロジェクションマッピングのコンテンツ制作において、3Dモデルのテクスチャを作成するために Painter が使用されています。豊富なスマートマテリアルを使い、リアルタイムでプレビューしながら作業できたことが、とても効率的だったと中村氏は述べました。また今後、文化財がつくられた時代を反映した空間をバーチャルで再現する作業にも Substance 3D の活用が見込まれるそうです。

「白組の楽しくクオリティアップを目指す発想」- 株式会社白組

株式会社白組 Producer / Line Producer 畑中 亮氏、Senior Computer Graphics Artist 平野 将幸氏

最後のゲストは、株式会社白組 Producer / Line Producer 畑中亮氏と Senior Computer Graphics Artist 平野将幸氏のお二人です。まず最初に畑中氏から、白組の特長である、「多様な表現と多様なジャンル」「プロジェクト数の多さ」「常に良い映像を求める姿勢」「それを楽しむマインド」についての説明があり、続けて平野氏から、映像制作に Substance 3D を使う理由として、「制作スピード」「高いクオリティ」「作業データが非破壊である」「ACES に対応している」「Substance 3D Asetts の存在」が紹介されました。

平野氏は 2 つの事例も紹介しました。一つは、講座に使用したセミリアルキャラクター(本物の人物とはバランスや質感が少し違う、デフォルメされているキャラクター)です。同じ構造を使って修正や量産の体制が構築できて、工数の削減が可能であるため、Painter はキャラクター制作に欠かせない存在だと平野氏は語りました。もう一つは、2.5D というコンセプトで作成された映画クレヨンしんちゃんでの活用です。こちらは、データを軽くするために Painter から VRayEdgesTex を使用する際のワークフローを効率化するアイデアや、Substance 3D Designer でハイトマップをつくり ZBrush で形状を整えて Painter で質感を設定するという試みが紹介されました。

全ての講演終了後に開催された懇親会

講演終了後の懇親会で参加者同士の積極的な交流が行われ、スピーカーやアドビ社員への質問なども行われていました。3Dを既に扱っている方から、これから始めようとする方まで、Substanceを含めた3D市場の盛り上がりを感じる時間となりました。

懇親会の会場に集まった参加者の皆様

Substance 3Dのロゴのフラグが建てられた軽食