Adobe Firefly を適切に活用するための著作権との付き合い方 第6回 生成 AI の業務利用は(どこまで)可能か?

今回は、生成 AI を業務利用する際の安全性を取り上げます。生成 AI を使用する行為自体は違法ではありませんし、殆どの AI 生成物は著作権侵害の対象にはなりません。それでも、業務で使うとなれば、リスク評価無しというわけにはいかないでしょう。この評価作業はクリエイターのワークフローに密接に関わるものであるため、本来は、業界として、実践を通じてベストプラクティスを探るべき種類の課題であると思われます。この記事では、そうした議論の開始点となれるような、生成 AI とデザインプロジェクトの関わり方のケース分けを試みます。

ケース 1. 個人利用が目的で他の人には共有しないケース

まずは、何か閃きを得たいなど、自分だけで利用するためにアセットを生成するケースです。AI に生成物を出力させるところまでは問題ないとして、注意すべきは、生成物を PC にダウンロードしたりオンラインライブラリにコピーしたりする段階です。とはいえ、類似する著作物の存在に気づいていたのに複製したということでもなければ、このケースで著作権侵害を問われる心配はまずないでしょう。

参考までに、類似しているかどうかの判断基準は、「表現上の本質的な特徴を直接体感できる」こととされています。作風やアイデアが似ていても、「類似」とはみなされません(第 3 回参照)。例えば、下の例は、「作風は似ているが表現としてはごく一般的」であり著作権侵害は認められないと判断されました。

作風は保護されない 出典: Adobe Blog Japan

次の画像の上の例も侵害していないと判断されました。本に顔があって手足が生えるという「アイデアは保護されない」ためです。一方、下の例は侵害していると判断されました。スイカやつるの配置、背景のグラデーションなど、「特徴的で具体的な表現が類似」しているためです。

アイデアは保護されない(上)、具体的な表現は保護される(下) 出典: Adobe Blog Japan

ケース 2. 閉じたグループ内で生成物を共有するケース

次は、生成物を内部資料として使用するケースです。ブレインストーミングの素材、ワイヤーフレーム等の中間成果物のプレースホルダ、コンペの提案で使うアセット、ディレクターやマーケターからデザイナーへ指示するための参考画像など、様々な場面が考えられます。このケースは、さらに以下のように細分化できそうです。

ここで少し寄り道することにして、生成物ではなく、著作物を使用する場面を考えてみます。

プロジェクトを通じて、競合分析やムードボード作成などを目的に、ネットから画像を収集して利用する行為は一般的に行われています。もし、そこに著作物が含まれていたとしたら、果たして著作権を侵害していることになるのでしょうか?

Behance のムードボード 出典: Behance Help Center

この件に関しては、企業が業務上著作物を利用する場合は、内部的な利用であっても私的利用には該当しない(つまり著作権侵害にあたる)という裁判例があります。ただし、「引用」の要件を満たす形であれば、著作権者の許諾を得ることなく著作物を掲載できると考えられています。以下がその要件です。

  1. 引用の必要性があること
  2. 引用部分とそれ以外が明瞭に区別されていること
  3. 本文が主、引用部分が従であること
  4. 引用部分にオリジナルからの改変が加えられていないこと
  5. 出典を明示すること

このような、著作物であっても利用が許される範囲において、AI 生成物の利用が問題になることはないと考えられます。実際には、著作物に類似した生成物が出力される可能性はかなり低いでしょうから、もっと自由に使えそうです。もし、しばらく保管するつもりの資料に収めるのであれは、念のために AI 生成物(がベース)であることを明示しておいた方が無難かもしれません。

ケース 3. AI 生成物(を一部に含む画像)を一般公開するケース

続けて、生成物を一般公開するケースです。これは、さらに次の 2 つに分けて整理します。

  1. AI 生成物を(ほぼ)そのまま公開する
  2. 生成 AI から取得した出力を作品の一部に使用する

現状、日本において、「ほぼそのまま公開」と「作品の一部に使用」を明確に分ける法的な基準は示されていません。ここでは、クリエイターが自分の作品と言えるかどうかで判断できるものと仮定しています。(ですので、本当は、中間的なケースを別途考慮したほうが良いのかもしれません)

ケース 3-1. AI 生成物を(ほぼ)そのまま公開するケース

一般的に生成 AI のリスクを語るときに想定されているのは、この AI 生成物を(ほぼ)そのまま公開するケースではないでしょうか。生成 AI のリスクが直接反映されるケースと考えられ、(Firefly ではありませんが)海外では実際に著作権侵害が争われている案件があります。

このケースのリスクは慎重に検討する必要がありそうです。そこで、商用利用を念頭に開発された Firefly の特長を改めて確認してみます。

Firefly は定期的にアセットをチェックして学習し直している Adobe Firefly で生成

人為的なミスや悪意を完全に排除することはできないでしょうし、著作権侵害チェックの完全な自動化もおそらく無理だろうと考えるなら、Firefly と同程度は可能でも、さらに上のレベルの安全性を持つ AI を開発することは現実的には難しそうです。試しに Firefly のリスクを「勝手に評価」してみると、仮に数千点程度のアセットに問題があると想定した場合、全体の約 10 万分の 1 に相当します。根拠の無い数字ではありますが、少なくとも、著作者の許可を全く得ないまま著作物を学習に使用している一般的な AI よりも、文字通り「桁違いに」リスクが低いことは間違いありません。クリエイターにとって Firefly は、著作権者への配慮という倫理的な側面も含めて、最も利用しやすい AI のひとつであると言えるでしょう。

生成 AI を使う上でリスクゼロはないことになりますから、それでは使えないという現場は少なからず存在すると思われます。これに対しては、AI 開発者とサービス提供者の最善の努力を前提に、国が保護する手段を提供する以外の方法はなさそうです。

ケース 3-2. 公開する作品の一部に生成 AI の出力を利用するケース

今回扱う最後のケースは、作品の一部に生成物を利用するケースです。一般論として、クリエイターが、自分のイメージしている表現を実現するための制作アシスタントとして AI を使用しているのであれば、著作権侵害の可能性は著しく低いと考えられます。「表現上の本質的な特徴」をクリエイターがコントロールする(できる)からです。

Adobe Illustrator の生成再配色

たとえば、以下は、クリエイターの意図に沿って行われている限り、著作権侵害の心配をする必要はまず無い行為だと思われます。

プロのクリエイターであれば AI 任せということは無いでしょうし、だとすれば、Photoshop や Illustrator の機能を経由して Firefly を利用するのは、おそらく最もリスクの低い生成 AI の使い方です。法制度の整備を待つ現在の状況ではありますが、明らかに使うメリットを感じられる利用方法があるのなら、この辺りから画像制作のワークフローに取り入れてみるのは良い考えかもしれません。

なお、Firefly には画像を参照して生成する機能がありますが、参照させる画像として他人の著作物を勝手に使用するのは NG です。著作権侵害を避けたければ、著作権フリー、あるいは適切な権利や許可を得たアセットのみを使いましょう。ちなみに、ライセンスを取得した Adobe Stock のアセット、および Firefly 生成画像は、Firefly に参照させることができます。ただし、アドビ以外の AI に学習させる行為は、Adobe Stock アセットも Firefly 生成画像も、利用規約により禁止されています。

次回は、生成 AI 利用者が持つ権利は?をお送りします!