日本一詳しい Substance 3D の最新情報が入手できる Substance 3D Meetup 2024 vol.1 レポート

目次

  • 柄を考える・つくる・のせる
  • リアルをデザインする:Substance 3D で実現するフィジカルクリエーション
  • Adobe Substance 3D 最新アップデート情報

Adobe Substance 3D ユーザー同士が交流できるリアルイベント Substance 3D Meetup が、5 月 23 日に開催されました。2024 年の 1 回目を飾る今回のテーマは、「Substance 3D でつなぐデジタルとフィジカル プロダクト制作ワークフロー」です。それを反映して、会場にはゲスト講師陣が 3D プリンターで出力した様々なサンプルが展示され、参加者の高い注目を集めていました。

様々な「柄」が 3D プリントされたサンプル

CMF デザインのフィジカルモックアップ

当日の講演は、アドビ 3D アーティスト & ソリューションコンサルタント 福井 直人氏による Substance 3D 製品の最新情報に始まり、SURFACESTUDIO by K’s Design Lab デザインエンジニアの櫻庭 美穂氏からの魅力的なプロダクト表面形状(柄)をデザインするアプローチのお話が続き、最後は株式会社日南 取締役 デザイン/エンジニアリング統括本部長 猿渡 義市氏とデザイン部 デジタルモデリングスタジオ デジタルモデラー 宮下 大輝氏による Substance 3D を活用したフィジカルモデル製作ワークフローの紹介で締めくくられました。

柄を考える・つくる・のせる

「デジタル技術で次のスタンダードをつくる」をテーマに企業の DX をサポートする K’s Design Lab は、昨年、デジタル技術を活用した製品表面のデザイン、トライアル、試作、データ管理を行う SURFACESTUDIO を立ち上げました。その SURFACESTUDIO でデザインエンジニアとして働く櫻庭氏のセッションでは、「柄(製品表面の凹凸デザイン)」について、着想を得て、ツールで作成し、製品形状にのせるまでの一連の流れがどのように行われているかが紹介されました。

SURFACESTUDIO by K’s Design Lab デザインエンジニアの櫻庭 美穂氏

着想を得てツールで作成

まず、柄を考える際は、3 つの構成要素に分解して考えているそうです。一つ目は、意匠的な要素で、製品の外観を決定し、ユーザーの興味を惹きつけたり、製品への愛着や満足度を高めたりする役割を持ちます。

柄の 3 つの構成要素の一つ目は意匠的な要素

二つ目は、触感的な要素です。製品の表面を、手や指で触る、なぞる、押すなどをしたときに適切な感触を与えると、製品の使用体験を向上させることができます。SURFACESTUDIO では、触感を表すいくつかの言葉を 2 軸の指標として捉え、それらを数値で計測しながら触感をコントロールしています。

触覚的な要素 2 軸の指標として捉え、それらを数値で計測しながらコントロール

三つ目は、機能的な要素で、製品表面に何らかの機能を発現させ、製品の性能や実用性の向上、ユーザーの安全性や快適性を確保する役割を持ちます。握りやすさ、撥水効果、反射低減などがその例です。

以上の要素を組み合わせて着想を得られたら、次は柄の作成です。櫻庭氏は、この段階の手法を、大きく 3 つに分類しました。具体的には、現物を利用する「Material Capture」、CAD や画像作成アプリを利用してモデリングを行う「Manual」、そしてアルゴリズムにより生成する「Procedural」です。

柄の作成手法を 3 つに分類

Material Capture は、実物のテクスチャや生感のある表面ディテールを再現する際に有効な手法です。3D スキャナーを用いることもあれば、Substance 3D Sampler を用いて写真からハイトマップを作成することもあります。櫻庭氏は、スキャンデータの歪み補正に、Sampler の Equalize フィルターを重宝しているそうです。

Equalize フィルターで写真から作成したデータを補正

Manual は、CAD やボクセルモデリングツールを使用して柄を作成する手法です。特に、CAD モデリングは、幾何学的な柄や曲面で構成された柄を作成するのに適しており、高精度のデータが作成できることが特徴です。Adobe IllustratorAdobe Photoshop などグラフィックデザインツールが使われることもあり、この場合は、画像から作成したハイトマップを元に、立体的な形状を作成します。こちらは、幾何学柄から有機的な柄まで幅広く作成できる手法です。

グラフィックデザインツールで作成した幾何学的な柄

最後の Procedural は、Substance 3D Designer などのプロシージャルな 3D デザインアプリを使用して、「柄を作成するためのツールを構築する」手法です。

魅力的な柄を Substance 3D Designer でつくるヒント

櫻庭氏のセッション後半では、魅力的な柄に対する分析と、Designer を使いこなすためのヒントが紹介されました。

櫻庭氏は、物をつくる方法を「手作業」と「ジェネラティブ」に分けました。手作業は、時間がかかったり経験が必要だったりしますが、情緒的で表情豊かな魅力的なデザインがつくれます。一方、ジェネラティブは、手早くつくれるものの、規則的で人工的すぎる場合があります。

手作業の良さをジェネラティブに取り入れる

ここで櫻庭氏は、手作業の良さをジェネラティブに取り入れるつくり方を提唱しました。Designer では、画像に変化を加えて次の画像を出力する工程を積み上げます。この途中の変化に不規則性を利用することで、柄を魅力的にしようという発想です。

そして、櫻庭氏は Designer で魅力的な柄をつくるためのヒントとして、以下の 8 つを紹介しました。櫻庭氏のデザイナーとしてのち密さが感じられる一覧です。

  1. 自然な揺らぎの付与
  2. シード値違いを重ね合わせる
  3. 振幅と周波数の異なる柄を重ねる
  4. 部分的なマスクをする
  5. パターンインプットにバリエーションを持たせる
  6. リニアな変化を歪ませる
  7. 分布に偏りを出す
  8. 表象を再現する

最初の「自然な揺らぎの付与」は、テクスチャをソースとして使い、ワープ系のノードで歪ませることにより、柄に不均一さを与える Tips です。次の「シード値違いを重ね合わせる」は、ランダムのシード値を変えた柄を重ね合わせることで、同じ柄のバリエーションを生み出す Tips です。単一のノードでランダムを使用したものよりも重ねた方が味気なさがなくなると櫻庭氏は語りました。

シード値違いを重ね合わせる

櫻庭氏はこのように一つひとつのヒントを、具体的な例を挙げつつ説明しました。八番目の「表象を再現する」は、現実に存在するものを柄にするときは、表現したい表象を抽出して再現するという、Tips というよりは櫻庭氏が意識していることです。これは、現実の再現には限界があるためで、例として紹介された木の年輪の画像では、乾燥による深いクラック形状をそのまま活かすことが無理だったため、老木ならではの荒々しさや渋さを再現しようと試みたそうです。

年輪の画像を参照して、老木ならではの荒々しさや渋さを再現

全ヒントの説明後は、Designer で木彫りをイメージした柄を実際に作成した際の手順を記録した動画が上映され、最後に、櫻庭氏の考える Designer のメリット/デメリットが紹介されました。ノードの組み合わせによっては予期せぬ結果が生成される。そうした予測不可能な偶然性の中で新たなデザインを生み出せるのが Designer の魅力であると、櫻庭氏はセッションをまとめました。

SURFACESTUDIO について解説する K’s Design Lab クリエイティブディレクター / デザイナー 加藤 健太郎

リアルをデザインする:Substance 3D で実現するフィジカルクリエーション

日南は、早い時期から AI や 3D プリンターを業務に取り入れて来た企業です。最後のセッションに登壇した猿渡氏は、昨年の夏には、AI と Substance 3D Painter と 3D プリンターを活用した CMF デザインワークフローをウェビナーで解説できるだけの経験と知識を既にお持ちでした。(このウェビナーの内容は別記事に詳細に紹介されていますので、是非ご覧ください)

AI は本当に言うことを聞かない

猿渡氏のプレゼンテーションでは、AI の利用に関する様々な知見が紹介されました。中でも興味深かった発言の一つは「ハッピー・アクシデント」という言葉です。プロンプトを入力すると完璧なものが出てくると思っている人が多いかもしれないが、実際には全然言うことを聞かないと猿渡氏は言います。AI に生成させる行為は実際にはガチャに近く、いろんな指示を試す中で、ちょっと光るものが出てくること(ハッピー・アクシデント)があり、それを見つけ出すことがデザイナーの仕事であるというわけです。

株式会社日南 取締役 デザイン/エンジニアリング統括本部長 猿渡 義市氏

また、AI が描いた絵をそのまま使うことはほとんどなく、見出したものの使い方を判断し、複数のアイデアを組み合わせて最終的なデザインに落とすという使い方をしているとのことでした。さらに、デフォルトのテクスチャでは納得がいかなければ手を加えていきます。AI があればアマチュアでも 80% は表現できるとしても、その先のレベルに行くにはやはりそれなりの経験とスキルが必要であり、それがプロのデザイナーの存在価値だと猿渡氏は語りました。

バーチャルからリアルへのワークフロー

質の高い仕事は日南の業務として行われているため外部に公開が難しいとして、プレゼンテーション用にスマートカメラの作例がわざわざ用意されました。シンプルな形状の組み合わせで面白いモノをつくろうと考えられたテーマだそうで、モデルに Painter でテクスチャをつけて 3D プリントするという同社の最近のワークフローに従って制作されたものです。テクスチャの選定から、フィジカルモックアップが完成するまでにかかった期間は 7 日間です。

この日のプレゼンテーションのために用意されたデータ

このワークフローの詳細は、Painter を使いこなすヒントと共に、宮下氏から紹介されました。

株式会社日南 デザイン部 デジタルモデリングスタジオ デジタルモデラー 宮下 大輝氏

まず、CAD サーフェスからメッシュに変換します。3D プリントではメッシュ形状がダイレクトに反映されるため、(特に円弧は)細かめに分割します。また、UV 展開の際にサーフェスごとメッシュが分割されないように変換することが重要です。

続けて、UV を展開します。ここで注意することは、UV のアイランドのスケールを揃えることです。スケールが合っていないとテクスチャリングしたシボの大きさがバラバラになってしまいます。デモでは RIZOMUV が使われましたが、UV の展開が難しいと感じているのであれば、Painter の自動の UV 展開を使用する方法もあります。読み込みの設定で、自動ラップ解除をチェックすると、自動的に UV が展開されます。

次は、テクスチャリングとディスプレイスメントマップの適用です。今回は、白い革のテクスチャが本体とリングの一部のパーツに適用されました。そこにディスプレイスメントマップを使って、メッシュを凹凸に変形します。ディスプレイスメントとテセレーションにチェックを入れてスライダーを動かすと、シボがメッシュに適用されます。このように、立体的なパターンをテクスチャとして表現できるのは Printer の強みです。

変形後、シボを当てたメッシュと隣接したメッシュの間に穴が開くことがあります。これを解決するには、テクスチャの領域を指定したマスクにフィルターを追加して、マスクアウトラインを選択し、メッシュポジションをアウトサイドからインサイドに変更します。3D プリントをする際にはこのような処理が必要になるそうです。

すべてのパーツへの適用が完了したら、データを 3D プリンター用に書き出して、実際にプリントします。プリントが終わったら、サポート材を除去します。今回は光沢部分と非光沢部分があるため、非光沢部分をマスキングテープで保護してから研磨して光沢感を出しました。塗装と乾燥を 3 回繰り返して、モックアップは完成です。表面処理には 4 日を費やしました。

プリントが終わったらサポート材を除去する

非光沢部分をマスキングテープで保護してから研磨

出来上がったフィジカルモックアップ

シボが再現されている様子

Adobe Substance 3D 最新アップデート情報

今回いつもより短い持ち時間となった福井氏からは、Firefly を活用した 2 つの新機能が紹介されました。一つ目は、Sampler ベータ版に搭載された、テキストからタイルテクスチャを生成する機能です。生成(ベータ)パネルの生成タブを開き、入力フィールドにテキストで生成したいテクスチャを指定すると、4 つの生成された画像がヒストリータブの下に追加されます。パネル下部の管理ボタンから「格納フォルダを開く」を選択すると、個々の画像ファイルにアクセスできます。

ヒストリータブには生成されたテクスチャが並ぶ

また、Stylization という新しいエフェクトを使用すると、絵画のようなテイストのマテリアルを簡単に作成できることも紹介されました。プリセットを利用することで、違った雰囲気のペイントに変更することもできます。

現在生成できるのはテクスチャのみですが、近日中にパターンも生成できるようになる予定とのことです。

もう一つ紹介されたのは、Substance 3D Stager の「Generative Background」です。その名の通り、プロンプトで背景素材を作成できる機能で、先の Sampler の機能と同様に、生成タブで入力し、ヒストリータブで生成画像を管理するという仕様です。こちらもベータ扱いの機能ですが、最新版をインストールすれば利用できます。

生成タブで背景画像を生成できる

Stager の良い点は、背景画像のパースと光源を解析して、自動で環境光を生成してくれる点です。環境光の強さ等は調整可能であるため、いろいろなシーンを、わざわざ CG でつくる手間をかけることなく作成できます。

背景画像に合わせてパースやライティングが調整される

最後に、最新版の Sampler では Illustrator ファイルがネイティブサポートされたことも紹介されました。