日本一詳しい Substance 3D の最新情報が入手できる Substance 3D Meetup 2024 vol.2 レポート
目次
- Adobe Substance 3D 最新アップデート情報
- NVIDIA Omniverse + OpenUSD で実現するデザインワークフロー
- 量産データから 3D コンテンツへ、Substance 3D を活用した橋渡し
Adobe Substance 3D ユーザー同士が交流できるリアルイベント Substance 3D Meetup の 2024 年第 2 回が 8 月 20 日に開催されました。今回のテーマは、「Substance 3D を活用した xR デザインワークフロー」です。会場にはゲスト企業のフィアロコーポレーションが用意した、3D コンテンツの VR 体験ができるコーナーが用意されていました。
自動車の 3D モデルを VR 体験できる展示
当日の講演は、登場順に、アドビ 3D アーティスト&ソリューションコンサルタント 福井 直人氏による Substance 3D 製品の最新情報、エヌビディア合同会社 エンタープライズ事業本部 シニア・ビジネスデベロップメント・マネージャー 中嶋 雅浩氏による Omniverse と USD の解説、最後に株式会社フィアロコーポレーション 原宿イノベーションセンター ジェネラルマネージャー 野末 健太郎氏および 3D 領域デザイナーの山本 智子氏と黄 雅琳氏の 3 名から Substance 3D Painter を利用した効率的な 3D 制作ワークフローの紹介がありました。
Adobe Substance 3D 最新アップデート情報
福井氏からは、5 つのトピックが紹介されました。一つ目は Substance 3D Sampler に Adobe Firefly 機能が搭載された件です。具体的には、Text to Texture、 Text to Pattern、Image to Texture の 3 つです。
Substance 3D の新機能を紹介するアドビ 3D アーティスト & ソリューションコンサルタント 福井 直人氏
Substance 3D Sampler の Firefly 機能
Text to Texture は、プロンプト入力するとマテリアルを生成する機能です。生成された素材をドラッグ&ドロップするだけで使える上に、タイリング可能なシームレスな状態で生成されるため、手元に素材がない時に便利な機能になるだろうと福井氏は説明しました。
Text to Pattern もプロンプトでマテリアルを生成する機能ですが、こちらは Illustrator で作成するようなパターンが生成されます。もちろんシームレスになっており、境目を気にすることなくご利用いただけるパターンです。
プロンプトからパターンを生成
Image to Texture はこれまでの 2 つと異なり、画像を入力に使用します。入力に使用された画像の画角に関わらず、1:1 の画像が生成されます。背景アセットの作成に使い勝手が良さそうだと福井氏は話していました。
画像からマテリアルを生成することもできる
Sampler については、Stylization フィルターの追加も紹介されました。フォトリアルな画像を、手書きのペイント風に変換できるフィルターです。
ハンドペイント風のスタイルになる
Substance 3D Connector
Substance 3D 製品同士であれば、データを簡単に共有できる機能が提供されています。これを、アドビ社以外の製品と実現しようというのが Substance 3D Connector です。現在はデータを送信する機能が利用可能で、対応している相手は、Unreal Engine、Unity、Maya、3ds Max、Blender です。
サードパーティーのツールとのデータ連携が容易になる
下の画像は Sampler から Unreal Engine に木の素材を書き出した例を示しています。Unreal Engine 側では、Substance 3D 側から書きだされたパラメータを調整することが可能です。そのため、Substance 3D に戻らなくても様々な調整を行えます。なお、この機能を利用するには Unreal Engine に Substance 3D プラグインが必要です。
Unreal Engine に読み込まれたマテリアル
続けて福井氏は Sampler から Blender に書きだす様子を動画で紹介しました。Blender を起動してから Sampler で書き出しをクリックすると、「Blender」とあるので、こちらをクリックします。Unreal Engine とは異なり、まだパラメータを使った調整はできないようです。
Substance 3D Designer の新しいノード
Substance 3D Designer のバージョン 14 からは新しいノードが 3 つ紹介されました。Quantize Color ノードは、画像の色数を減らしてパレットを抽出します。Color Palette ノードは、独自のカラーパレットを作成するツール郡で、特定の色を別の色に変更できます。Kuwahara filter は、写実的な画像にぼかしを適用して絵画的なエフェクトを生成します。
絵画的なエフェクトを加える新しい Kuwahara filter
福井氏はこれらのノードを使用して、Sampler から送られた紅葉のマテリアルの色数を 32 色から 5 色に減らし、黄色を緑色に変更し、ハンドペイント風に変更するまでの手順を詳細に紹介しました。
新しいノードの使い方をデモする福井氏
Substance 3D Modeler ベータ版
Substance 3D Modeler に関しては、ベータ版の新機能が紹介されました。「アウトライナーの追加」「類似アセットの検索」「ミラー対称軸の追加」です。これによってメッシュの整理やモデリング作業の効率化ができるようになったと、福井氏が作成したのは、春夏秋冬の 4 つのキャラクターです。
福井氏が Modeler の新機能を使用して作成したキャラクター
アウトライナーは、シーン内のオブジェクトを一か所で管理できる便利なパネルです。オブジェクトを選択したり、グループ分けしたり、名前を変えたり、あとは非表示にすることもできます。オブジェクトの管理がしやすくなって、バリエーションの作成が容易になったようです。
画面右側にアウトライナーが表示されている
類似アセットの検索は、その名の通り、選択されているオブジェクトに類似したアセットを探して一覧表示してくれる機能です。福井氏は、検索結果からドラッグ&ドロップするだけで新しいアセットと置き換えられる様子を紹介しました。
検索結果がパネル内に表示されている
ミラー対称軸の追加は、今まで X 軸でしかミラーリングできなかったのが、XYZ の任意の軸を選べるようになったというものです。アクションパネルでミラーリングを指定すると、軸を選択するトグルボタンが有効化されます。
アセット標準化のオートメーション
最後は、新しいオートメーション機能です。3D アセットは、制作したツールによって Y 軸や原点が異なることがあります。すると、シーンにアセットを読み込んでから、向きや位置を調整する手間が発生します。新たに利用可能になった SSCA は、自動的に USD に変換したり、Y 軸や原点を揃えてくれたり、メタデータを入力した後にサムネイルをつくったりする目的に利用できます。
Y 軸が異なる 2 つのオブジェクト
福井氏は、従来からバリエーション作成の自動化に使用されていた Substance 3D Automation Toolkit と組み合わせて、複数パーツのマテリアルをまとめて変更できることを紹介しました。複雑な構成のモデルからいくつもバリエーションをつくるときには、こうした機能が威力を発揮してくれそうです。
ロボットのような複雑な構成でも自動化によりバリエーション作成が容易になる
NVIDIA Omniverse + OpenUSD で実現するデザインワークフロー
続いてのセッションは、エヌビディア合同会社 エンタープライズ事業本部 シニア・ビジネスデベロップメント・マネージャー (RTX/Omniverse) 中嶋 雅浩氏による NVIDIA Omniverse と OpenUSD の紹介でした。 Omniverse の可能性が詳細に紹介されたセッションでしたが、この記事では Substance 3D ユーザーと関係の深い USD に関わるパートをご紹介します。
エヌビディア合同会社 エンタープライズ事業本部 シニア・ビジネスデベロップメント・マネージャー (RTX/Omniverse) 中嶋 雅浩氏
OpenUSD は Pixar Animation Studios が大規模制作における効率的な分業を実現するために開発したものです。ツール、データ、ワークフローにまたがる強力な相互運用性を提供し、同じシーン内の背景やキャラクターを、それぞれの担当者が非同期に編集できるプラットフォームです。 Omniverse も USD を採用することで、Substance 3D や Autodesk を含む様々なサードパーティーツールのデータを取りまとめています。
Omniverse は USD を使ってデータ管理している
2023 年には、3D コンテンツのオープンな標準規格を推進するべく Alliance for OpenUSD が結成されました。アドビもエヌビディアもそのメンバーに名を連ねています。現時点において、Substance 3D 製品はすべて USD フォーマットに対応しています(Sampler は書き出しのみ可能)。
OpenUSD は 3D コンテンツのオープンな標準規格を推進する
Omniverse の特長は、大容量の 3D データをリアルタイムで処理できる能力だと中嶋氏は語りました。これにより、従来は不可能だったワークフローが可能になります。たとえば、リモートで働くデザイナーがミーティング中にフィードバックを受けて修正をしたとき、結果をその場で確認できます。また、リアルタイムレンダリングを用いた XR 体験によるデザインレビューを行うことができれば、効率的な確認作業が期待できそうです。
また、エヌビディアでは、フルフィデリティビジュアライゼーション、すなわち設計データをそのままポリゴンを減らすことなく可視化するというポリシーを持ち、数十 GB のデータを使用したシミュレーションでも、スマートフォンやタブレットで確認できる環境を提供しているそうです。
リアリティのある 3D 映像をリアルタイムで体験できる
中嶋氏は、事例として、自動車のコンセプトデザインレビューの新しいワークフロー、生成 AI と組み合わせたカスタムコマーシャルコンフィギュレーター、バーチャルの工場によるプランニングなどを紹介しました。
オブジェクトのレンダリングだけでなく影も再現されている
量産データから 3D コンテンツへ、Substance 3D を活用した橋渡し
最後のセッションは、株式会社フィアロコーポレーションによる、Painter をワークフロー改善に活用した事例紹介でした。株式会社フィアロコーポレーション 原宿イノベーションセンター UI/UX グループ ジェネラルマネージャー 野末 健太郎氏は、同社の主要な業務を、自動車メーカーのアイデアを様々な手法を用いて具現化することであり、コンセプトを可視化するビジュアライゼーションから、アイデアを立証するためのモックづくり、そして量産に向けてテストをするためのモノづくりまで行うと紹介しました。
株式会社フィアロコーポレーション 原宿イノベーションセンター UI/UX グループ ジェネラルマネージャー 野末 健太郎氏
3D データを日々の業務で扱うようになった状況の中で、直面している課題が 2 つあると話したのは 3D 領域デザイナー 黄 雅琳氏です。課題の 1 つは、扱うデータ量がかなり増加したこと、もう 1 つは、データを軽くしようとすると凸凹して見栄えが悪くなってしまうことです。
株式会フィアロコーポレーション/ 原宿イノベーションセンター UI/UX グループ 3D 領域デザイナー 黄 雅琳氏
データ容量と見た目のバランスをとるために黄氏が取り組んだのは、軽量化したデータにベイク処理を用いてテクスチャ情報を取り入れることです。これは、ゲーム業界ではよく使われているやり方です。
ベイクを行う前には、処理後の見た目に影響するいろんな設定を指定する必要があります。Blender を使ってベイクしていたときは、結果を頭の中で想像しながら設定していたために、試行錯誤に時間がかかっており、パーツの数が増えるほど大変になっていたと黄氏は言います。
Blender では、結果を見ては設定に戻ってを繰り返していた
そこで黄氏が着目したのが Substance 3D Painter でした。Painter では、ベイクの範囲が可視化されて直観的に作業できるようになり、黄氏は試行錯誤をかなり減らすことができたそうです。
Painter では、ベイクの結果を事前に直感的に把握できる
続けて、3D 領域デザイナー 山本 智子氏から、マテリアル作成における Painter 活用例が紹介されました。この場面で課題になっていたのは、Blender では作成の難しいタイリング用のシームレスなテクスチャや、ベイクに使用する特殊なマテリアルなどの制作が面倒だったことです。
株式会社フィアロコーポレーション/ 原宿イノベーションセンター UI/UX グループ 3D 領域デザイナー 山本 智子氏
従来は、Adobe Photoshop を使用して作成したテクスチャを Blender に読み込んで確認し、Photoshop に戻って微調整を行うという作業を繰り返すワークフローでした。ツールをまたいでクオリティを調整するのは直感的ではなく、作業しづらかったと山本氏は言います。
Photoshop と Blender を何回も行き来して調整を繰り返していた
そこで考えたのが、Painter を採用して、テクスチャ作成と 3D での確認を一つのツール内で行うことでした。これにより作業がシンプルになったと山本氏は語り、実際にホイールにマテリアルを適用する手順を記録した動画を紹介しました。
Painter 内でホイールにマスクを設定している
軽量化されたデータのコンテンツ事例も紹介されました。自動車の外装と内装を紹介するアニメーション動画、そして Meta Quest 3 でデザインを確認できる Unity で作成したコンテンツです。このコンテンツは、記事冒頭で紹介したように会場で体験できる環境も用意されていました。
今後の取り組みとしは、Sampler のスキャン編集を使って、実際のファブリックからフォトリアルなマテリアルを再現できるよう検討したいと考えているそうです。
ローポリゴンの軽いデータを活用した事例