Substance 3D とデジタルカタログで業務の効率化と高価値化を推進する大日本印刷株式会社 モビリティ事業部

大日本印刷株式会社 (DNP) モビリティ事業部の主な業務は、同事業部が掲げる「核心/革新に美」というデザインビジョンを、主に自動車の内外装に向けた製品として形にして、得意先企業に提供することです。主要な製品の一つは、自動車内装のサーフェスに彩りを与える加飾フィルムで、そこには同社が長年培ってきた印刷技術や知恵が惜しみなく投入されています。様々な素材の知識を持つデザイナーが、デザイントレンド分析からフィルムの印刷までトータルでディレクションすることにより、高い質感を持つフィルムが数多く生み出されてきました。

最近、同事業部は、得意先のために加飾フィルムのデジタルカタログを開発しました。その背景にあるのは、自動車製造プロセス全体の「工期短縮」および「コスト削減」という得意先のニーズと、コロナ禍で生じたコミュニケーションのデジタル化の必要性です。そして、Adobe Substance 3D の活用が、従来は困難だったデジタル環境におけるフィルム表面の意匠の再現を可能にしました。プレゼンテーション用にフィジカルサンプルを用意する場合、保有するデータを印刷するのに最大 1.5 カ月程度かかるそうですが、「Substance 3D でデジタルサンプル作成ならば、1~3 日でプレゼンテーション可能な状態にできます」と、同事業部モビリティイノベーティブデザインチーム リーダー 太田 浩永氏はサンプルをデジタル化することの利点を説明しました。

大日本印刷株式会社 モビリティ事業部 モビリティイノベーティブデザインチーム リーダー 太田 浩永氏

また、デザインにストーリー性が求められていることも、デジタル化が必要になった大きな理由であると太田氏は言います。「今の時代は、デザインを通じて何を語りたいかが重要になってきています。そうすると、フィルムをつくってそれを得意先にお見せして少し変えてという今までのようなやり方ではなく、より丁寧に得意先が表現したいことをお伺いしつつ一緒に意図をデザインに反映していくコラボレーションのスタイルでないと難しい。そうした協業を推進するために、デジタルデータを活用したプロトタイピングは欠かせないものになったと考えています」

デジタルカタログと Substance 3D を利用したディレクション

デジタルカタログは得意先向けのサービスとして展開されており、2024 年 6 月末時点で約 500 点の加飾フィルムのデザインデータが収録されています。今後も継続的にデザインデータは追加される予定です。フィルムのデザインは、PC およびスマートフォンのブラウザ内で、3D ビューにより様々な角度から確認できます。カテゴリー選択やキーワード検索により加飾フイルムを絞り込む機能も提供されています。

デジタルカタログの画面。気に入ったデザインを登録できる

ブラウザ上でモデルを動かしながら詳細なテクスチャ確認が可能

デジタルデータの作成は、フィジカルサンプルの制作から始まります。これは、どのようにフィルム表面で光が反射するのかなど、実物を見ないと確認できないためです。フィジカルサンプルで仕上がりを確認した後、それを見ながら Substance 3D PainterSubstance 3D Designer でデジタルデータとして再現し、Substance 3D Stager でレンダリングしたものがカタログに登録されます。こうしたワークフローのため、デジタルカタログに掲載されているデザインはすべて、画面上はもちろん、フィジカルサンプルでも確認できます。

加飾フィルムのフィジカルサンプル

カタログに掲載されているデータは、得意先要望に合わせて提供することも可能です。得意先が使用する 3D ソフトにデータを読み込めば、自動車のパーツに適用した時の外観をシミュレーションできるため、得意先へのプレゼンテーションツールとしても使えます。同チーム 中本 亮氏は、「この使い方の便利なところは、得意先からこういうレザーにしたい、こういうシボのパターンにしたいという話があれば、その場ですぐデータを修正できる点です。打ち合わせ中に要求に対応して提案できるのは、個人的に Substance 3D の非常にありがたい価値だと思っています」と語りました。

大日本印刷株式会社 モビリティ事業部 モビリティイノベーティブデザインチーム 中本 亮氏

ワークフローのデジタル化を支える Substance 3D

同事業部が Substance 3D の採用を決めたのは、ワークフローのデジタル化を推進しようとしていた 2020 年です。当時、日本では多くのデザインに関わる部署が、Substance 3D の使用を開始したり検討したりする動きをみせていたため、業界のデファクトスタンダードとなる可能性を感じたことが採用の主な理由でした。今では、デジタルカタログ、得意先への CG プレゼンテーション、サーフェス CMF (Color/Material/Finish)のデジタルプロトタイピングなど、同事業部にとって Substance 3D は欠かせないツールになっています。

同事業部が従来からパターンや質感のデータ作成に使用している Adobe PhotoshopAdobe Illustrator との親和性の高さも期待通りでした。「特に Substance 3D Painter や Substance 3D Sampler のインターフェイスは Photoshop や Illustrator と似ているため、『なんとなくこうすればいけるかな?』が通用することがよくあります。アドビツールの使用歴が長い人ほど馴染みやすい、感覚的に使える UI になっているように思います」と太田氏は述べました。

Substance 3D を操作する太田氏

Substance 3D はワークフローの改善にも役立っています。「Illustrator でパターンのデータを作図しているとき、それがフィジカルサンプルになった時の光り方は、以前は経験から想像するしかありませんでした。Illustrator から Substance 3D にデータを渡せば光り方を確認できます。光を確認したらまた Illustrator に戻って調整してと、行ったり来たりすれば確信を持って作業できます」と中本氏は言います。最近では、Painter に Illustrator ファイルを直接読み込めるようになったことに、ワークフロー効率化の大きな可能性を感じたそうです。

CAD で作成したモデルに加飾フィルムのデータを貼り付けた Substance 3D Painter の画面を示す中本氏

ストーリーを伝えるサーフェスデザイン

中本氏は、デジタルカタログに関わる工程の中でも、フィジカルサンプルの版元となるデザイン作成の重要性と難しさを強調しました。「得意先から欲しいデザインを指定される場合は別ですが、こちらから将来的に流行りそうなものを予想してパターンをつくるのはかなり大変です。手を動かすと何となくパターンはつくれてしまうのですが、つくるだけなら AI でもできてしまいますし、その背後にある『何故このパターンなのか』を語るストーリーが存在しなければ、提案する価値がないと思っています。ストーリーを考えて、それをどのような形でパターンに落とし込んでいこうかと考えるのが一番時間のかかるところです」。その試行錯誤の段階でも Substance 3D は役立っているそうです。

モビリティ事業部が、『何故このパターンなのか』を議論するために定期的に発信しているのが FUTURE-SPECT です。これは、同チーム内のデザイナーが少し先の価値観を捉え、従来の当たり前を問うことにより見出された『未来のきざし』と位置づけられています。「不確定な要素を確定させるのは難しいことです。そこで、コンセプトからモノにダイレクトに行くのではなく、FUTURE-SPECT で示した『未来のきざし』を基に得意先と議論するところから始めて、一緒に何かをカタチにするというサイクルを回し、最終的なプロダクトに導いています」と太田氏は説明しました。

FUTURE-SPECT を紹介するスライド 提供: 大日本印刷株式会社 モビリティ事業部

FUTURE-SPECT から得たインスピレーションと、モノに対するユニークな観察眼を用いることにより、人が接するプロダクトの表面をデザインする行為を、同事業部では「サーフェスデザイン」と呼んでいます。モノの表面の単なるコピーと大きく異なるのは、サーフェスデザインでは、デザイナーの観察がユニークであればあるほど、観察対象のモノとは違うサーフェスが創造される点です。たとえば、木目の冬目のラインをグランドキャニオンの地層のような積層感にみたてて取り出し、ヘアライン質感を加えることで、もとの木目からは想像もつかないような全く新しいサーフェスを生み出すことも可能です。デザインの検討段階でSubstance3Dを使用することで、フィジカルサンプルを作成したときのイメージを共有しながら制作を進めることができます。下の画像内のサンプルは、全て同じ木目からつくり出されたものです。

同じ素材からデザインされたさまざまなバリエーションの一部 提供: 大日本印刷株式会社 モビリティ事業部

下の動画は「とりだす」をテーマに、本物の木目のスキャンデータから様々なパターンがつくり出される様子を紹介しています。サーフェスデザインの世界を体感するために、ぜひ全画面表示でご覧ください。

他にも、「くみかえる」をテーマに、モミジを全く異なる素材に見せられる質感表現の幅を紹介する動画、「そうぞうする」をテーマに、誰も見たことがない全く新しい「カーボン」の創造が試みられている動画が公開されています。これらの動画の制作には、Photoshop、Illustrator、Adobe After EffectsAdobe Animate、Substance 3D が用いられています。

Surface Design「くみかえる」 提供: 大日本印刷株式会社 モビリティ事業部

Surface Design「そうぞうする」  提供: 大日本印刷株式会社 モビリティ事業部