生成AI時代のパラダイムシフト:クリエイティブとデザインの未来 | Adobe Firefly Meetup #4
2024年10月31日、アドビ東京オフィスにて第4回目のAdobe Firefly Meetupが開催されました。企業内のユーザーが抱える生成AIに関する問題や悩みなどをカジュアルに意見交換できるエンタープライズ向けのイベントです。Fireflyユーザーのための小規模なミートアップイベントとして企画され、生成AIへの取り組みや課題、ノウハウ、知見などを共有し、交流を深める場となっています。
今回は、Adobe Firefly最新アップデート情報、生成AI最新動向とFireflyベストプラクティス[ 2024年10月版 ]、そして、生成AIがもたらすクリエイティブの未来をテーマに、楽天グループ株式会社さま、パナソニック株式会社さま、株式会社本田技術研究所さま、株式会社サイバーエージェントさまから実践者の方々をお招きし、パネルディスカッション形式で議論していただきました。ファシリテーターはトヨタコネクティッド株式会社 川村将太 (しょーてぃー) 氏です。
イベント後半では株式会社サイバーエージェント インターネット広告事業本部 AIクリエイティブ部門のAIプロダクトマネージャー / AIクリエイティブプランナーである西村拓也氏による「生成AIで組織を強化するー自走するリスキリングと現場での利活用」を発表していただきました。
今回のAdobe Firefly Meetupは「生成AIがクリエイティブ業界に与えた影響」、そして「成長し続ける生成AI技術によって今後どのような変化をもたらすのか」について、じっくり考える良い機会になったのではないでしょうか。
もくじ
- 待望の動画生成AI「Adobe Firefly Video Model」登場
- AI機能と生成AI機能の違い
- 画像生成AIおよび動画生成AIの今後
- 生成画像の高品質化とハルシネーション対策
- 生成AI時代のパラダイム
- 社員がAIを実務に活かすためのリスキリング
- まとめ
待望の動画生成AI「Adobe Firefly Video Model」登場
誰でも生成AIを試せるようになった2022年の夏から2年4か月経ちましたが、技術進化のスピードは衰えることなく、今でも頻繁にアップデートが実行されています。生成AIについては一部で期待値の調整局面を迎えていますが、ビジネスの焦点が費用対効果を重視するユースケースへと移行していると考えてよいでしょう。
Adobe Fireflyも2023年3月にベータ版が公開されてから着実に進化しており、今月は待望の動画生成AIである「Adobe Firefly Video Model」も一部のユーザーに解放されています(2024年11月現在)。安全性・透明性を重視した動画生成AIモデルとしては初のリリースであり、積極的に商用利用したいと考えている企業にとっては朗報ではないでしょうか。
他社の動画生成AIとの違いとして、Creative Cloud製品との密接な連携が挙げられます。すでにPremiere Proのベータ版には生成拡張が実装されており、クリエイターの方々が使い慣れているアプリケーションから利用可能になっています。
既存のワークフローにスムーズに組み込むことができ、新たな技術の習得に時間を費やすことなく、生産性を向上できることが大きな利点だといえます。
Adobe Firefly Video Model Coming Soon | Adobe Video
AI機能と生成AI機能の違い
画像生成AIはさまざまな業界に浸透していますが、多くのユーザーは、AI機能と生成AI機能の違いを明確に理解していないため、両者を混同しています。従来のAI機能はより制限された範囲で動作しますが、生成AIは人間の介入なしにまったく新しいコンテンツを作り出します。
例えば、Photoshopの「コンテンツに応じた塗りつぶし」は既存のAI機能で予測可能性が比較的高く、技術進化も緩やかですが、「生成塗りつぶし」は変動的で予測困難です。指定した領域に意図しないイメージが生成されてしまうことがあり、実行してみないと何が出てくるか分かりません。さらに、基盤技術のイノベーションが速いため、蓄積したプロンプトなどのノウハウがリセットされてしまうことがあります。
従来のAI機能と生成AI機能の違い
さらに、膨大な計算資源を必要とする生成AI機能は、GPU使用料をユーザーも負担することになります。通常はクレジット制が採用されており、月単位でやり繰りしなければいけません。クレジットを使い切ると生成速度が低下したり、追加購入が必要になります。Adobe Fireflyの生成クレジットについては以下のユーザーガイドを参照してください。
生成クレジットに関するよくある質問
https://helpx.adobe.com/jp/firefly/using/generative-credits-faq.html
今後、既存のAI機能を代替する生成AI機能が増えていくと考えられます。つまり、AI機能と生成AI機能が混在し、UI(ユーザーインターフェイス)上では区別しにくい状態になる可能性があります。
AI機能と生成AI機能の違いを理解した上で、適切に使い分けられるスキルが重要になってくるでしょう。
画像生成AIおよび動画生成AIの今後
2022年夏以降に登場した画像生成AIサービス(Midjourney、DALL·E 2、Stable Diffusion等)は、2024年現在、大幅な進化を遂げています。生成された画像を比較すれば一目瞭然です。
特に人間の顔やポートレート、自然の描写、建築物や街並み、アートスタイルやイラスト風画像などは驚くほど表現力が向上しており、商業デザインでも活用され始めています。
今後は更なる表現力向上、4Kを超える高解像度生成、制御可能性の向上などが期待できます。Fireflyのスタイル参照・構成参照のような(解釈が曖昧なプロンプトに依存しない)補助機能によって、意図したイメージが反映されるようになり、ストックフォトサービスと併用可能なレベルに達することで、商業用の素材として私たちのクリエイティブに浸透していくでしょう。
2025年以降の画像生成AI
Fireflyのプロンプト入力に依存しない機能構成
生成画像の高品質化とハルシネーション対策
現在の生成画像の問題点は「解像度が低い」「ハルシネーションが発生する」など技術的な要因が大半です。解像度については、Creative Upscalerが普及しており、デザイン制作会社などでは必須のツールになっています。
Creative Upscalerは、単に高解像度化するだけでなく、画像全体を再生成し、新たなディテールやスタイルを加えて、より鮮明で詳細な画像にします(代表的なサービスはMagnific AI)。
ハルシネーションはあらゆる生成AIの難題となっています。画像生成では「細部の異常(手や指が不自然、歯の数が多い、関節がおかしい等)」や「テクスチャの不自然さ(肌が不自然に滑らか等)」「光と影の不一致」などが挙げられます。
正確性を求めるほど修正コストが高くなってしまいますが、ファンタジーなイラストレーションなど想像的なイメージはハルシネーションがプラスに働くことがあります。クリエイターの創造力を超えた新規性の高いイマジネーションを得られることがあるからです。
クリエイティブの現場では、ハルシネーションが発生しても影響しないプロトタイピングなどで活用することが多いようですが、クライアントワークで使う場合はPhotoshopの高度なテクニックでハルシネーションを修正したり、写真素材や3DCG画像などと組み合わせるハイブリッドな手法で対応しています。
現在のハルシネーション対策
いずれにしても、これらの問題は技術によって解決されていきますので、短期的な対応で済みます。柔軟に新しい技術を取り入れることができれば、それほど深刻な問題ではありません。
画像生成 → ハルシネーション修正 → 高解像度化
生成AI時代のパラダイム
パネルディスカッションでは「生成AI時代のパラダイム:Adobe MAX 2024から見えたクリエイティブ&デザインとは」というテーマで深い議論が交わされました。
クリエイティブ業界の未来や最新トレンドについて討論
登壇者は、楽天グループ株式会社 マーケティングディビジョン/クリエイティブデザイン戦略部 ジェネラルマネージャーの鍋嶋 靖弘 氏、パナソニック株式会社 デザイン本部/コミュニケーションデザインセンター/CRチーム アートディレクター/デザイナー/イラストレーターの日下部 亜季 氏、株式会社本田技術研究所 デザインセンター アドバンスデザイン室 FVCスタジオ デザイナーの佐藤 寛人 氏、株式会社サイバーエージェント インターネット広告事業本部 AIクリエイティブ部門 AIプロダクトマネージャー / AIクリエイティブプランナーの西村 拓也 氏の4名です。
ファシリテーターは、Adobe Firefly Meetupの常連であるトヨタコネクティッド株式会社 AI統括部戦略室 Executive AI Director / Experience Designerの川村 将太 (しょーてぃー) 氏。今回も絶妙なファシリテーションで進行していただきました。
パネラーの4名とファシリテーターの川村氏は、米国マイアミにて開催されたAdobe MAX 2024に参加されており、クリエイティブ業界の未来や最新トレンドについての深い洞察を得ていますので、とても示唆に富んだ討論となりました。
パネルディスカッションは終始、アットホームな雰囲気で進行し、参加者も楽しめたのではないでしょうか。
クリエイターやデザイナーの心得について意見を交わす
アドビは、生成AIがクリエイターの代替ではなく、人間の創造性を拡張するツールであることを強調していますので、敵対関係を煽ることなくポジティブな未来を想像することができます。
生成AI時代のパラダイムとは、端的に言えば「創造性の民主化」です。 プロセス効率化とスキルの再定義、倫理と著作権の再考など多くの問題提起も含みますが、「人間とAIの共創」の始まりだと捉えてよいでしょう。
社員がAIを実務に活かすためのリスキリング
ゲストセッションは、パネルディスカッションにも登壇いただいた株式会社サイバーエージェントの西村 拓也 氏。「生成AIで組織を強化する ー自走するリスキリングと現場での利活用」というテーマで、社内クリエイターの生成AIリスキリング責任者を担当されている西村氏の実践例をご紹介していただきました。
社内クリエイターの生成AIリスキリングを担当する西村氏
まず冒頭で、生成AIの利活用を推進する多くの企業が抱えている悩みとして「生成AIの重要性が浸透しない」「生成AIをあまり使ってくれない」「そもそも生成AIの活かし方がわからない」を挙げ、過去に社内で実施したオンデマンド形式のリスキリングの効果などについて提示されました。
多くの企業が抱えている悩み
一般的にオンデマンドが主体のeラーニングは完遂率が低く、全ての学習を完了できる人は少ないと言われています。「自分ごと」として捉えられるような強い動機がないと継続できないものです。
西村氏はこのような問題を考慮し、新たな生成AIリスキリング施策を実行しています。
社内クリエーターのリスキリングを楽しく推進していくチームを結成
社内の各部門から「AIリーダーズ」と呼ばれる生成AIに対して前向きな人材を選定してチームを結成。リスキリング対象を明確に定義した上で、参加率を上げるためのさまざまな施策を打ち出しています。
例えば、多くのオンデマンド動画は1人の講師が教授するスタイルが多いですが、西村氏のチームは「わかる人がわからない人に教える」スタイルを採用。
まるで将棋番組のような「解説者と聞き手による進行」により、視聴者にわかりやすく、かつ生成AI利活用の重要性を伝えられるよう工夫された構成となっています。
完遂率が低いオンデマンド学習を改善するための講義スタイル
意識すべきポイントとして、専門の知識獲得より「とにかく生成AIを使ってみる」という空気感を作っていくことが重要だと述べています。
これはとても大切な指針で、概論から入るより「使ってみたい」とか「使わないとまずい」といった行動に直結するようなアクティブな雰囲気を作ることが早期のモチベーションにつながります。そして、カジュアルに学び続ける習慣が身につくことで技術進化の速い生成AIに対応できるようになると思います。
社内での生成AI利活用事例としては、議事録作成やキャスティングが難しい(親子や双子などの)素材の生成、アイデアや事例のリバースエンジニアリングなどをご紹介いただきました。
生成拡張を活用したFireflyの活用例
生成AIを使いこなすには、継続的学習を奨励する文化を育てることが重要だと断言してよいでしょう。社内での効果的な活用事例を積極的に共有したり、優れた活用方法を実践している社員や部門を表彰し、モチベーションを高めることが必要です。
西村氏のプレゼンテーションで、技術導入だけでなく人と組織の側面にも配慮しなければいけないことに気付かされた方も多かったと思います。大変参考になるセッションでした。
まとめ
2024年3月14日からスタートしたAdobe Firefly Meetupも今回(第4回)で全てのスケジュールが完了しました。小規模なミートアップイベントでしたが、知見を共有するだけでなく、参加者の交流を深める場として十分機能したと思います。
今後も生成AIとの共存のあり方について、業界全体で議論と模索が続いていくと思いますが、生成AIはクリエイターの仕事を奪う脅威の技術ではなく、共に創作する「パートナー」として広まっていくと信じています。
最後に「温故知新」という言葉を送ります。故きを温ねて新しきを知るということわざです。
人間ならではの創造性とは何かを過去から学ぶ。
その上で生成AIを道具化できれば、自分の得意領域を極限まで引き上げることが可能なはずです。
これからも一緒も挑戦していきましょう。
Adobe Firefly Meetup #4のパネルディスカッションの様子