《 生成AI時代のパラダイム 》 Adobe MAX 2024から見えたクリエティブ&デザインとは
2024年10月31日、アドビ東京オフィスにて第4回目のAdobe Firefly Meetupが開催されました。本イベントは、企業内のユーザーが抱える生成AIに関する取り組みや課題、ノウハウ、知見などをカジュアルに共有し意見交換するためのエンタープライズ企業向けのミートアップです。
今回のテーマは「生成AI時代のパラダイム : Adobe MAX 2024から見えたクリエティブ&デザインとは」。企業として生成AIを活用する方法を模索し実践している4社とともに、パネルディスカッションを通じてこれからのクリエイティブとデザイン、さらにクリエイターが持つべきマインドセットについて深く議論しました。
もくじ
- パネリスト紹介
- ディスカッションの背景と目的
- 主な議題と各社の考える生成AIとの向き合い方
- 結論と次のステップ
パネリスト紹介
パネリスト:
- 鍋嶋 靖弘 氏
- 楽天グループ株式会社 マーケティングディビジョン/クリエイティブデザイン戦略部 ジェネラルマネージャー
- オンライン・オフライン問わず、楽天らしいデザインを提供し、ブランド価値の向上と顧客体験の強化を担う横断組織でマネジメントを担当。
- 日下部 亜季 氏
- パナソニック株式会社 デザイン本部/コミュニケーションデザインセンター/CRチーム アートディレクター/デザイナー/イラストレーター
- パナソニック製品のコミュニケーションにおけるアートディレクションを担当。イラストレーターやアーティストとしても活動しており、自身の表現の探求と企業デザインの両立を目指している。
- 佐藤 寛人 氏
- 株式会社本田技術研究所 デザインセンター アドバンスデザイン室 FVCスタジオ デザイナー
- カーデザイン部門でのデザイナーとしてのキャリアを経て、現在は未来のビジョンやコンセプトデザインに取り組む。実体験調査で得た経験を活かし、生成AIを用いた研究・企画を推進している。
- 西村 拓也 氏
- 株式会社サイバーエージェント インターネット広告事業本部 AIクリエイティブ部門 AIプロダクトマネージャー / AIクリエイティブプランナー
- 生成AIを活用し広告効果の高い広告制作やデザインプロセスの効率化を担当。また、社内外で生成AIの最新動向を共有する活動も推進中。
モデレーター:
- 川村 将太 氏
- トヨタコネクティッド株式会社 AI統括部戦略室 Executive AI Director / Experience Designer
- AI統括部戦略室での経験を活かし、生成AIの全社推進と実践的な企画やクリエイティブ・プロセスでの生成AI利用促進を担当。
ディスカッションは川村氏の安定感のあるファシリテートによりテンポよく進行し、リラックスした雰囲気の中、オープンなメディアでは語られにくいリアルな体験談や具体的な事例も共有され、参加者間で活発な議論が行われました。
企業として生成AIを活用する方法を模索し実践しているクリエイターによる活発なディスカッション
ディスカッションの背景と目的
生成AIは、クリエイティブ業界に変革をもたらす技術として急速に注目を集めています。その最前線を示す場として開催されたAdobe MAX 2024では、Adobe Fireflyの統合がもたらす デザインプロセスの革新 や、生成AIが広げる クリエイティブの可能性 について具体例が紹介されました。
本ディスカッションでは、生成AIがクリエイターやデザイナーにどのような影響を与えるのか、新たに求められるスキルやマインドセットを深掘りしました。Adobe MAX 2024に参加して得た洞察を共有しつつ、パネリストそれぞれが直面している課題や成功事例を通じて、生成AIを活用した未来のクリエイティブのあり方を探る場となりました。
主な議題と各社の考える生成AIとの向き合い方
《 議題 1 》 Adobe MAX 2024の印象
株式会社本田技術研究所 佐藤氏:
「一番印象に残っていることは、アドビの各ツールに対してAdobe Fireflyで一本串を通した、というところでした。Fireflyがクリエイターが日常的に使用するツールに組み込まれたことで、実際の制作プロセスが劇的にかんたんになる可能性を実感しました。また、クリエイターにとっての安全性を謳っている点、扱いやすくコントローラブルな生成AIという点も印象に残っています。」
楽天グループ株式会社 鍋嶋氏:
「私が特に印象深かったのは、Adobe MAX自体のクリエイターやデザイナーコミュニティへのリスペクトです。各職種の具体的なニーズに合わせたツール設計や、現場のクリエイターがクリエイティビティを最大限発揮できる環境が各領域でしっかり作り込まれていて、それぞれのポジションで使いやすいツールになっているプロダクトのアプローチは、非常に共感できました。」
株式会社サイバーエージェント 西村氏:
「一言で言うと、まとめてきたなっていう感じです。これまでにも画像生成や動画生成のサービスは世の中にありましたが、よりクリーンな生成AIモデルを構築し、クリエイティブに携わるみんなに当てはまりやすくした、という印象です。今後、使うツールはより絞っていく段階になると思いますが、ツールはもっと集約されていくのかなと思いました。」
パナソニック株式会社 日下部氏:
「他のみなさんよりAIを追いかけていない立場から感じたことは、普段使っているアドビのツールにAIが統合されることで、生成AIに触れるハードルが一気に下がった印象を受けて、嬉しくなりました。」
《 議題 2 》 生成AIの台頭をきっかけとした実践と意識の変化
佐藤氏:
「最初に生成AIによるプログラミング体験をした時、その手軽さと成果物のクオリティに衝撃を受けました。例えば、ゲームのプロトタイプやビジュアライゼーションなど、これまで専門知識が必要とされていた領域でも、わずかなプロンプト入力で具体的なアウトプットが得られるのは、創造性をさらに掻き立てられました。自分が作りたいと思ったものを、AIに対してちゃんと『問い』を与えることでカタチにできる。とりあえず一回やってみよう、というマインドを持つ重要性に気づかせてくれました。それ以来、毎日のように生成AIの可能性を探索し、実験を重ねてきましたが、新しいアイディアをすばやくカタチにするスピード感が劇的に向上したことを実感しています。」
日下部氏:
「普段仕事におけるデザインでは、プロジェクトのゴールを目指してデザインしています。でも私は、自分が思ってもいなかったものを作りたい、という自分もいるんです。何も考えずに手を動かして花をドローイングする。その花が想像していたものと違っていても、なんかいいものができたら、めっちゃいいじゃんとなる。いま、AIで思ってもいないものができちゃった楽しみをみんなが実感している側面もあって、その感覚はすごく素敵だなと思っているんです。手を動かして考えることが新しいインスピレーションを私に与えてくれているのかなと思いました。」
鍋嶋氏:
「ちょうどAdobe MAXのキーノートでもUnleashing Creativity for Allという言葉が出てましたが、今まで自分が持ってなかった表現手法も含めてAIが紐解いてくれて、誰もがクリエイティブになれる時代が訪れそうだな、というところにすごく期待しています。」
川村氏:
「クリエイティブとの向き合い方が生成AIがあることによって加速したり、作ったものを言語化したり、意味を見出していく過程で学びが加速していきそうですね。」
《 議題 3 》 クリエイティブやデザインの価値伝達
西村氏:
「言うまでもありませんが仕事の観点で考えると、クライアントがどこに価値を感じているのかをちゃんと捉えるのが大事です。広告クリエイティブを作るときに、クライアントが価値を見出してくれるのは、商品やサービスに対して、良い顧客を集めてくれるクリエイティブに対して価値を感じています。AIが台頭してきたことによってクリエイターが置き換わってしまう、クリエイターの価値がなくなってしまうということではありません。広告制作に携わる弊社のクリエイターのミッションは、生成AIを使う、使わないに限らず、広告効果の出るデザインを作ることである、という思考にシフトしていく必要がありますね。」
鍋嶋氏:
「マネジメントの立場から生成AIを導入する際に私たちが注目した価値は、生産性の向上、そして創造性の拡張の2つです。楽天には70以上のサービスがあり、たくさんのクリエイターやディレクターが在籍しています。彼らのクリエイティビティをすべて開放するために、まずクリエイターの生産性を高めることにフォーカスし自動化、半自動化に取り組んでいます。その上で、新しいクリエイティブのアイディア創出プロセスにおいて、自分たちの発想を広げ、脳を拡張するために生成AIの価値と可能性を感じています。一方で、ブランディング、楽天らしさを守るためには、人間の介在が必須です。AIによる成果物と楽天らしさをどうブレンドして落とし込むのかに、いままさに取り組んでいるところです。」
日下部氏:
「いまのAIは予測でしかないので、唯一無二になれない点がブランディングとは相性が悪いと感じています。人がこれから努力するべきところは、予測していなかった世界観同士の融合、揺るがない歴史や自然物、カルチャーへの深い造詣があること、予想外のディレクションができることがクリエイティブやデザインの価値になってくるんじゃないのかなと思っています。」
《 議題 4 》 業界のパラダイムシフトと未来予測、そしてクリエイターやデザイナーの心得
西村氏:
「生成AIツールが一般化しつつある今、単なるツール使用スキルではなく、それをどう活用して独自性や新しい価値を生み出すかが求められる時代になっています。生成AIを活用することで中級レベルの成果物が比較的簡単にアウトプットできるようになりました。この転換期には、クリエイターとしての付加価値をどのように発揮するかが勝負です。生成AIを取り巻くツールや技術が統一・集約される未来を見据えると、クリエイターが自らのプラスアルファの専門性を活かして各社、各業態、各業種で競争力を維持する必要があると思います。」
佐藤氏:
「生成AIによって、人間の持つ創造性やクリエイティブがより讃えられるようになると思っています。グローバルカンファレンスのSXSWでは『AI時代に人間はどんな役割を持つのか?』がテーマでしたし、カンヌライオンズでは人間の可能性を提示した作品がアワードを受賞していました。生成AIの進化に伴い、今後、人間とAIの協働が人間の可能性をますます拡張していくと感じています。」
鍋嶋氏:
「まず、アドビさんがコンソーシアムのような形でアウトプットにコンテンツ認証情報を付与して、どれがAIが作ったものなのか、どれが人間が作ったものなのか、一次情報に判子を押していくようなプロジェクトに力を入れて様々な業界団体や企業と連携してくれているところが、安心して仕事に生成AIを使っていけそうだと感じました。そしてAIによって業務効率化が実現することで、私たちが本来注力すべきクリエイティブに集中できるようになる。AIを活用することでトップクリエイターが新たな表現を生み出すことで、より豊かなクリエイティブが生まれると期待しています。」
※補足情報:アドビ、クリエイターのコンテンツ保護と認証を支援する webアプリケーション Adobe Content Authenticityを発表
日下部氏:
「今日の話ではデジタルの世界の話が中心でしたが、今後のフィジカルとの接続性、たとえばファッションや工芸などの領域とAIとの接続に興味があります。まだブルーオーシャンだと感じていて今後の展開が気になっています。」
まとめ
川村氏:
「生成AIは、私たちがこれまで考えていたクリエイティブの可能性を広げるとともに、新たな課題も提示しています。本日の議論を通じて得た示唆を、みなさんのプロジェクトやチームでぜひ活用していただき、生成AIの価値を最大限に引き出し、未来のクリエイティブに役立てていただければ幸いです。」
これからのクリエイティブとデザイン、さらにクリエイターが持つべきマインドセットについてリアルな課題感が共有された
結論と次のステップ
総括:
本パネルディスカッションでは、Adobe MAX 2024を通じて得られた洞察をもとに、生成AIがどのようにクリエイティブの未来を変えつつあるのかが議論されました。特に、生成AIは、業務の効率化を超えて、クリエイティブの幅を拡張し、人間の想像力を補完する存在として進化しています。本ディスカッションでは、生成AIを「ツール」ではなく「パートナー」として位置づける重要性が強調され、クリエイターの役割も進化している現状が共有されました。また、生成AIによってもたらされる新たな価値創造の可能性や、個々のクリエイターがこれからの時代において発揮すべき独自性についても具体的な展望が語られました。
重要なポイント:
- 生成AIによるクリエイティブの拡張
- 生成AIは、単なる作業の効率化ツールではなく、クリエイティブの幅を広げる役割を担っています。たとえば、佐藤氏は生成AIを活用することでプロトタイプ作成のスピードが向上し、より多くの方向性を検証できるようになったと語りました。また、鍋嶋氏が指摘したように、AIの活用は「創造性のための時間と空間」を生み出し、より自由なアイディアの追求を可能にしています。
- 生成AIの多様な活用事例
- パネリストたちの具体的な事例から、生成AIが広告制作からプロダクトデザインまで多岐にわたる分野で活用されていることが示されました。例えば、佐藤氏の取り組みでは、生成AIが未来志向のデザインプロセスを支える役割を果たしています。
- 生成AIを活用するための新しいスキルの必要性
- AIの進化とともに、クリエイターに求められるスキルセットも変化しています。西村氏が強調したように、生成AIツールの基本操作だけでなく、それを活かした独自のクリエイティブ戦略を構築することが、今後のクリエイターの価値を決定づける要因となります。
今後の展望:
- 生成AIがもたらすさらなる可能性
- 現在の活用領域(デザインや広告)にとどまらず、生成AIは新しい分野でクリエイティブの幅を広げると期待される。
- 具体例: ファッションや工芸などの物質性の高い分野への応用は、次のブルーオーシャンとして注目されている(日下部氏)。
- 人間と生成AIの共創関係の深化
- 生成AIは、クリエイターの能力を補完し、新たな価値を共に創り出すパートナーとして進化し続ける。
- 重要視点: 佐藤氏の「生成AIは人の可能性を広げる存在」という言葉が、未来のクリエイティブ業界の姿を示している。
- クリエイティブ業界の未来像
- 今後、生成AIの活用はさらに一般化し、ツールそのものが差別化要素にはならなくなると予測されます。そのため、クリエイターは独自性や専門性を発揮し、新しいクリエイティブの価値を生み出す存在として進化する必要があります。